第192話:【閑話】神の査定と世界狂騒曲、そして涙ぐましい土下座外交
第192話:【閑話】神の査定と世界狂騒曲、そして涙ぐましい土下座外交
『悠久の大迷宮』完全踏破という歴史的偉業と、創造神によるデタラメな世界改変から数日後。
世界は、かつてないほどの熱狂と混乱、そして極大の『飯に対するモチベーション』に包まれていた。
絶対同盟の盟主国であるアルカディア王国の首都には、神話級のネオンを放つ超巨大テーマパーク『迎賓館リゾート・魔改造アミューズメント』が出現。国民たちが連日「致死量の重力テニス」や「隕石避けゴーカート」で満面の笑みを浮かべながら、娯楽という名の限界突破特訓に明け暮れていた。
しかし、神の恩恵はそれだけではない。
絶対同盟に加盟し、トウヤたちの活動(主に食材の交易や出前の注文)に多大な貢献をした国々の領土には、突如として【専用の迷宮】がそびえ立ったのである。
【神聖魔導帝国エルドリア・帝都――第100階層規模迷宮『白銀の魔導廟』前】
「見よ!! これが我が神聖魔導帝国エルドリアに与えられし、神の恩恵であるッ!!」
エルドリア帝国の若き皇帝が、帝都の中心に生え出した巨大な純白の塔(迷宮の入り口)を見上げ、歓喜の咆哮を上げた。
かつて、このエルドリアはアルカディア王国の動向を探るべく、帝国最高峰の【諜報員】であるサイラスを偵察に放った。だが、潜入したはずのサイラスがトウヤの極上飯に胃袋を完全降伏させられ、ミイラ取りがミイラになる形で「ウー〇ー配達員」へと転職。その報告と持ち帰られた極上食材をきっかけに、皇帝自身もトウヤの料理の虜となり、今や絶対同盟の強固な一角を担う大国となっている。
彼らの「迷宮素材の流通」や「出前の超・大量注文」による貢献度は神に高く評価され、なんとアルカディア王国と同じ【全100階層規模の迷宮】が与えられていたのだ。
「(陛下! 内部には安全地帯も、階層を繋ぐエレベーターも完備されております! 出現する魔物たちからは『極上の霜降り肉』や『芳醇な香辛料』がドロップするとのこと!!)」
近衛兵長が、興奮冷めやらぬ様子で報告する。
「素晴らしい!! これで我が国の軍事力と食糧事情は、未来永劫安泰というわけだ!」
皇帝はマントを翻し、集まった数万の帝国軍兵士たちに向かって魔導杖を掲げた。
「聞け、我が誇り高き兵士たちよ! 貴様らの特別教官は、かつて我が国の最高諜報員として暗躍し、今や絶対同盟の要たる配達部隊幹部となったサイラスである!! 迎賓館から特別に招いた彼から、気配を絶つ隠密技術の究極系……【完全無振動・出前歩法】と【肉汁を逃さない解体術】を存分に学べ!!」
「(……総員、スープを一滴でもこぼした者は、帝国の恥と思え。全軍、極上食材の調達特訓を開始する)」
帝国の軍服の上に、漆黒のウー〇ーバッグを背負ったサイラスが冷徹に告げると、帝国軍は諜報部隊顔負けの「一糸乱れぬ無振動の足取り」で、神が与えた新たな迷宮へと雪崩れ込んでいった。
【アルカディア王国・第一階層横――『近衛・出前教導隊』の猛特訓】
一方、テーマパークで沸くアルカディア王国でも、王族直属の【暗殺者】から配達部隊幹部へと登り詰めたファルコンによる苛烈な特訓が行われていた。
「(甘いッ! 貴様ら、そんなドスドスとした歩き方で、トウヤ殿の作った極上のケーキを運べると思っているのか!!)」
ファルコンの怒号が、王国のエリート騎士たちに飛ぶ。
「(も、申し訳ありません、ファルコン殿!! 重心がまだ……!)」
「(言い訳は無用だ! 敵の命を絶つための暗殺歩法は、今や『料理の温度と形を完璧に保つための神業』へと昇華された! 我がアルカディア王国こそが絶対同盟の盟主! 我々の配達技術が他国に劣るなどあってはならない! 今すぐ頭に水の入ったコップを乗せて、重力テニスコートを100周してこい!!)」
「(イエッサー!! ケーキの形は絶対に崩しません!!)」
かつて暗殺者として闇に生きていたファルコンだが、今ではすっかり表舞台に立ち、アルカディア王国の「最強の運び屋部隊」を育成する英雄として、騎士たちから熱狂的な尊敬を集めていた。
【地底魔国・魔王城地下――第100階層規模迷宮『深淵の魔食窟』】
同じ頃。トウヤの牛丼(と現代マヨネーズ)の虜となった魔王ゼノン(田中太一)が統べる地底魔国でも、凄まじい歓喜の嵐が吹き荒れていた。
「ウオォォォォッ!! 魔王様バンザーイ!! トウヤ殿バンザーイ!!」
「まさか我らの領土の地下に、新たな無限の資源庫(100階層ダンジョン)が直結されるとは!!」
魔王軍の四天王たちが、地下にポッカリと開いた巨大な迷宮の門の前で、嬉し涙を流しながら抱き合っていた。
彼らもまた、トウヤたちのために独自の地下ルートを開拓し、希少な魔界のスパイスを流通させた貢献度が高く評価されたのである。
「これで……我らも、毎日極上の魔物肉を狩ってバーベキューができるのだな……!」
「ああ! 魔王様がアルカディアの軍門に下ってくださったおかげだ! 美味い飯の前に、種族の壁など無意味だったのだ!!」
魔族たちは武器を掲げ、「戦争よりも、まずは腹ごしらえだ!」という新しい魔国のスローガンを高らかに叫びながら、新たな迷宮へと意気揚々と潜っていった。
【エルフの隠れ里および、中小同盟国の反応】
一方で、絶対同盟に加盟しているものの、「距離が遠くて出前の注文回数が少なかった」あるいは「交易での貢献度がやや低かった」中小の国々。
彼らに与えられた迷宮は、神の厳格な(飯に関する)査定により、階層規模が【10階層〜50階層程度】に縮小されていた。
「……むぅ。我がエルフの森に現れた迷宮は、全30階層であったか」
エルフの長が、美しい森の中に生えたクリスタルの洞窟を見つめて顎を撫でる。
「(長よ。エルドリアや魔国には100階層の迷宮が与えられたと聞きます。我々は神に軽んじられているのでしょうか……?)」
側近のエルフが、少し悔しそうに尋ねる。
「いや、違う。神は公正じゃ。我がエルフ族は、森の恵みに頼るあまり、トウヤ殿の作る【現代料理の出前】を月に数回しか注文していなかった。対してエルドリア帝国などは、国庫を傾ける勢いで毎日出前を頼み、諜報員を配達員に鞍替えさせるほどの熱量を見せたのだ。……神が『飯への執着心(貢献度)』で階層を決定したのは明らかじゃ」
「な、なるほど……! 我々の食欲のアピールが足りなかったと!」
「その通りじゃ。とはいえ、30階層でもその恩恵は計り知れん。安全地帯もエレベーターも完備され、安全に実戦訓練を行えるのだからな。だが……次なるアップデート(?)があるならば、我々も負けてはおられん! おい、今すぐアルカディアへ魔法通信を繋げ! 今日からエルフの森の宴会は、全てトウヤ殿のケータリングを依頼する! 予算の上限は気にするな、出前をガンガン頼むのじゃ!!」
階層の縮小に不満を抱く国は一つもなく、むしろ「次回はもっと出前を頼んで貢献度を上げよう」という世界規模での『極上飯争奪戦』へと発展していった。
【アルカディア王国・王城前――中立国たちの涙ぐましい土下座外交】
そして。
世界中の同盟国が神の恩恵に沸き返る中、完全に取り残された者たちがいた。
かつて、絶対同盟の圧倒的な力を恐れつつも、「争いに巻き込まれたくない」と日和見を決め込んでいた【中立国】や【非加盟国】の王たちである。
「た、頼むゥゥゥッ!! ヴィルヘルム国王陛下にお取次ぎを!!」
「我が国の関税をゼロにします! 特産品も全て献上します! だから、どうか我が国の領土にも『出前ルート』を開通させてくだされェェェッ!!」
アルカディア王国の王城の正門前には、着飾った各国の王族や使者たちが長蛇の列を作り、文字通りの『土下座外交』を展開していた。
無理もない。
絶対同盟の国々には【専用の迷宮】が与えられ、安全に資源と食糧を無限に確保できるようになった。
一方で、かつて強国として名を馳せながらも、時代の変化を拒絶して自滅し、滅亡した【バルロワ帝国】のような「潰れた国」の末路を、彼らはよく知っていた。
今この同盟からハブられれば、彼らの国もバルロワ帝国と同じように、数年以内に経済格差と戦力差で自然消滅することが確定してしまったのである。
「(……ガルド宰相。どうやら世界中の非加盟国が、バルロワ帝国の二の舞を恐れて、全て我が国に白旗を揚げてきたようですな)」
王城のバルコニーからその光景を見下ろしていた近衛騎士長が、呆れたように呟く。
「(ふふっ。武力による威圧でも、恐怖政治でもなく……【神に認められた美味い飯】という大義名分が、世界の国境を完全に破壊してしまいましたな)」
ガルド宰相が、眼鏡の奥で鋭くも嬉しそうな光を瞬かせる。
「トウヤ殿は『ただ飯を食ってただけだ』と笑っておられましたが……彼と、悠久の踏破者たちが成し遂げたことは、真の世界統一ですぞ」
ガルド宰相は、満面の笑みでバルコニーから身を乗り出し、土下座を続ける各国の王たちに向かって声を張り上げた。
「皆様! 遠路はるばるアルカディアへようこそ!! 絶対同盟は、飯を愛する全ての者を歓迎いたします! まずは迎賓館へご案内しましょう! トウヤ殿が用意した『究極の神獣ローストビーフ』を一口食べれば、難しい条約など結ばずとも、自然と心は一つになりますぞ!!」
「「「ウオォォォォォォォォッッ!!!! アルカディア万歳!! トウヤ殿万歳!! 美味い飯万歳ィィィィッ!!!!」」」
悲壮感漂う外交の場は、一瞬にして『巨大な試食会への参加列』へと変わり、かつて対立していた国々の使者たちも、肩を組み合いながらヨダレを垂らして迎賓館へと向かっていった。
神が与えたデタラメな恩恵と、トウヤという一人の男の底なしの食欲。
それは、数百年続いた人間の愚かな争いを完全に終わらせ、世界を文字通り【一つの巨大な美食ファミリー】へと統合する、決定的な奇跡となったのである。




