第191話:神の恩恵と遅れてきた大歓喜、そして世界を分かつ『絶望の報せ』
### 第191話:神の恩恵と遅れてきた大歓喜、そして世界を分かつ『絶望の報せ』
大迷宮の最深部で「神のデタラメなご褒美」が発動した直後。
アルカディア王国の地下深く、『星繋ぎの迎賓館』の円卓会議室では、かつてないほどのパニックと大混乱が巻き起こっていた。
「な、何事だッ!? 王都全域が揺れておるぞ!!」
ヴィルヘルム国王が、玉座から立ち上がり、窓の外――本来なら迷宮の壁面しか見えないはずの景色――を指差して絶叫した。
「へ、陛下!! 緊急の魔法通信が絶対同盟の各国から殺到しております!!」
ガルド宰相が、山積みの書類と明滅する魔力水晶を抱えながら悲鳴を上げる。
「地底魔国の領土内に、突如として『未知の巨大迷宮への入り口』が出現したとのこと! さらにはミズホの国、エルフの隠れ里など、我が同盟に加盟している全ての国の中心地に、同じく謎のダンジョンが生え出してきたそうです!!」
「マジかよ……。俺の国(地底魔国)にダンジョンができたってのか?」
魔王ゼノン(田中太一)が、頭を抱えながら円卓に突っ伏している。
「それだけじゃねえ。……おいケンタ、窓の外を見てみろよ。アルカディアの第1階層のすぐ横に……信じられないもんができてるぞ」
「……はい。前世の記憶にある『〇ー〇ー〇リゾート』とか『〇ポッチャ』を、魔力で100倍くらい巨大化させたような狂気のテーマパークが、ネオンを光らせながら実体化してますね」
第五の転生者ケンタが、遠い目をしながらミリタリーヘルメットを被り直した。
突如として世界中の地形を書き換えた、神レベルの超常現象。
各国からの問い合わせと、窓の外から聞こえてくる陽気なアトラクションの音楽(※隕石が飛び交う音)に、国王たちの思考回路は完全にショートしかけていた。
そこへ。
カァァァァッ!!
迎賓館の転移陣が眩い光を放ち、トウヤたち『悠久の踏破者』の六人と三匹が、汗一つかいていない涼しい顔で帰還した。
「おう! みんな無事か! ちょっと神様がやらかしちまって、外が騒がしいことになってるみたいだが!」
トウヤが、軽く手を上げながら円卓会議室へと入ってくる。
「トウヤ殿ォォォッ!!」
ヴィルヘルム国王が、涙目でトウヤにすがりついた。
「た、助けてくれ! 我が国も、同盟国も、わけのわからん迷宮や施設が突如生えてきて大パニックなんじゃ! これは一体、いかなる天変地異か!?」
「あー……落ち着いて聞いてくれ陛下」
トウヤは、ため息をつきながら、先ほど第100階層の『創世の神殿』で起きた出来事を、包み隠さず全て説明した。
自分たちが大ボスの肉の鮮度を優先して瞬殺したこと。そこにポップコーンを持った『迷宮神』が降臨したこと。そして、この狂った世界改変が、神から絶対同盟への「平和をもたらしたご褒美」であること。
「――とまあ、そういうわけだ。各国にできた迷宮は、出前や交易で同盟に貢献してくれた度合いに応じて、10階層から100階層の規模で調整されてるらしい。もちろん安全地帯もエレベーターも完備だ」
トウヤが肩をすくめる。
「で、アルカディアの横にできたあのド派手な遊園地は、陛下たちが迎賓館で遊んでた『魔改造アトラクション』を、一般開放用に実体化させたものだそうだ」
トウヤの説明が終わると、円卓会議室は水を打ったように静まり返った。
ヴィルヘルム国王、ガルド宰相、ゼノン、ケンタ。全員がポカンと口を開け、瞬きすら忘れて硬直している。
数秒の沈黙の後。
「……か、神の……ご褒美……だと?」
ヴィルヘルム国王が、震える声で呟いた。
「我々『絶対同盟』が、争いをやめて美味い飯を囲み、手を取り合ったことが……天にまします創造神に認められ、この奇跡のインフラ(迷宮と遊園地)を与えられたというのか……!!」
「そ、そうですぞ陛下ァァァッ!!」
ガルド宰相が、眼鏡を涙で曇らせながら天を仰いだ。
「わざわざ遠征せずとも、自国で安全に魔物素材を調達できる【専用の迷宮】!! そして、国民全員が限界突破の特訓(遊び)を行える【神のテーマパーク】!! これは……絶対同盟の各国の繁栄が、未来永劫約束されたも同義ですぞォォォッ!!」
「「「ウオォォォォォォォォォォッッ!!!! 神よ、感謝いたします!!」」」
パニックは一瞬にして、極大の歓喜と宗教的な熱狂へと変わった。
争いを避け、ただ美味しいものを食べ、配達部隊の出前を笑顔で受け入れてきただけ。たったそれだけのことで、絶対同盟は「神に祝福された陣営」として、永遠の富を約束されたのである。
「ガッハッハ! 国王たちも喜んでおるようで何よりじゃ! 神のプレゼントも粋なことをするわい!」
ガレスが豪快に笑う。
「ふふっ、これで各国の兵士さんたちも、自国の迷宮で『お肉の運び方(デリバリー特訓)』がやりやすくなりますわね!」
エリスも、相変わらずトウヤの食欲に完全に染まりきった価値観で微笑んでいる。
円卓会議室が、神への感謝と絶対同盟の黄金期の到来に沸き返る中。
魔王ゼノン(田中太一)だけが、一人だけ顔を青ざめさせ、プルプルと震えながらトウヤを指差した。
「お、おい……ちょっと待て。お前ら……みんな、大事なことを忘れてないか?」
「ん? なんだゼノン。俺、何か言い忘れてたか?」
トウヤが首を傾げる。
ゼノンは、喉をヒクつかせながら、信じられないものを見るような目でトウヤたち六人を見回した。
「……トウヤ。お前さっき、『第100階層の創世の神殿で、ラスボスを瞬殺した直後に神様が出てきた』って言ったよな?」
「ああ、言ったぞ。あいつの肉、マジで全宇宙の旨味が詰まった究極のシャトーブリアンでさ……」
「肉の味は今はどうでもいいんだよォォォォォッ!!!!」
ゼノンが、円卓をバンッ! と叩いて立ち上がった。
「第100階層のラスボスを倒したってことは……お前ら、『悠久の大迷宮』を【完全踏破】したってことじゃねえかァァァァッ!!!!! 数百年間、誰も成し遂げられなかった世界の真理に、お前らが辿り着いたんだぞ!?」
そのゼノンの絶叫に。
歓喜に沸いていたヴィルヘルム国王も、ガルド宰相も、ケンタも。
そして当の本人であるトウヤたちですらも、「あっ」という顔をして動きを止めた。
「「「………………あ」」」
そうである。
彼らは「ラスボスの肉の鮮度」と「神のやらかしたトラブル対応」に気を取られすぎて、冒険者としての究極の目標である【迷宮完全踏破】という歴史的偉業を達成したことに、今この瞬間まで誰一人として気がついていなかったのだ。
「……そ、そういえばそうじゃったな。ワシら、100階層のボスを倒して帰ってきたんじゃった」
ガレスが、ポカンとした顔で自身の髭を引っ張る。
「……お肉が凄すぎて、踏破した実感が完全に吹き飛んでおりましたわ」
エリスが赤面して頬を押さえる。
「いやいやいや!! おかしいだろお前ら!! 世界最大の偉業を『肉のついで』みたいに忘れるな!!」
ゼノンが涙目でツッコミを入れる。
だが、その事実を完全に理解した瞬間。
ヴィルヘルム国王の目から、滝のような涙が溢れ出した。
「ト、トウヤ殿ォォォォォォッ!! ガレス! エリス! ジン! ルミナ! マリアァァァッ!!」
国王は、玉座を蹴り倒し、悠久の踏破者たちのもとへ駆け寄り、全員をまとめて抱きしめんばかりの勢いで号泣した。
「おめでとう……!! 本当に、本当におめでとう!! 貴殿らは……我がアルカディアの、いや、人類の誇りだ!! 前人未到の深淵を極め、神すらも笑顔にした、世界最強の英雄たちだァァァッ!!」
「「「バンザーイ!! バンザーイ!! 悠久の踏破者に、栄光あれェェェッ!!」」」
ガルド宰相やケンタ、迎賓館のメイドたちまでもが、涙を流しながら一斉に万歳三唱を叫び始めた。
「わっ、わっ!? ちょ、苦しいって陛下!」
もみくちゃにされながらも、トウヤたち六人と三匹の顔には、遅れてやってきた「踏破の達成感」と、仲間たちへの深い愛情が入り混じった、最高の笑顔が咲き誇っていた。
「ガッハッハ!! やったぞ!! ワシらはついに、迷宮の底まで辿り着いたんじゃ!!」
「ヒャッハー!! これで名実ともに、世界一の冒険者(美食家)パーティーだな!!」
「トウヤ様のおかげですわ! トウヤ様が私たちを拾ってくださったから……この奇跡があるんですのよ!!」
チキュウから喚び出された一人の料理好きの青年と、彼に救われた現地の英雄たち。
彼らの泥臭くも美味しすぎるスロー攻略は、ここに歴史的な大団円を迎えたのである。
***
【閑話:世界に響く絶望と歓喜の魔法通信】
その直後。
アルカディア王国の魔法通信局から、全世界へ向けて【大迷宮の完全踏破】および【神の恩恵の真実】を伝える一斉通信が放たれた。
『――通達! 通達! 我が絶対同盟の誇る最強パーティー【悠久の踏破者】が、ついに大迷宮の第100階層を完全踏破いたしました!!』
『さらに、各地に出現した新たな迷宮とテーマパークは、創造神より【絶対同盟の平和と美食への貢献】に対する祝福として与えられたものであると判明!!』
この報せは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
地底魔国では、魔王ゼノンの留守を預かる四天王たちが、自国に生え出した巨大迷宮を見上げながら狂喜乱舞した。
「(魔王様が同盟に加わってくださったおかげで、神の祝福まで得られるとは!! これで我々も、出前のスープをこぼさずに運ぶ訓練が捗るぞ!!)」
ミズホの国では、長たちが手を取り合い、神の与えた恩恵に涙して感謝の祈りを捧げていた。
エルフの隠れ里や、同盟に加盟している全ての国々で、三日三晩続くお祭り騒ぎが勃発した。
――しかし。
その通信を傍受していた【中立国】や【非加盟国】(かつて出前ルートの脅威から逃れ、様子見を決め込んでいた国々)の反応は、真逆であった。
「……お、終わった。我々は、完全に終わった……!!」
某中立国の王が、王城のバルコニーで崩れ落ち、頭を抱えて絶望の声を上げていた。
絶対同盟は、ただでさえ「無傷で深層の魔物を解体するバケモノ配達部隊」と「チート級のバフ飯」によって、軍事バランスを崩壊させていた。
それに加えて今回、彼らは【神に選ばれし陣営】という絶対的な大義名分を手に入れ、さらには【自国に無限の資源を産出する専用ダンジョン】まで獲得してしまったのである。
もはや、軍事力、経済力、そして宗教的な権威に至るまで、絶対同盟に逆らうことは「神に喧嘩を売る(そして極上の飯を拒絶する)」と同義になってしまったのだ。
「(すぐに使者を送れェェェッ!! 何が何でも、我が国も絶対同盟に加盟させてもらうのだ!! 出前の注文でも、皿洗いでも何でもする!! 神の加護(と美味い飯)の輪から外れれば、我が国は歴史から消滅するぞォォォッ!!)」
世界中の非加盟国が、プライドを全てかなぐり捨て、我先にとアルカディア王国への【白旗(出前の定期購入契約書)】を掲げて全力疾走を始めた。
トウヤと神の起こした奇跡は、いよいよ世界から「争い」という概念を完全に消し去り、完全なる一つの『美食ファミリー』へと統合していく決定打となったのである。
***
再び、アルカディア王国の星繋ぎの迎賓館。
世界中が歓喜と絶望のるつぼと化していることなど露知らず。
トウヤは、円卓会議室の中央に、神殿から持ち帰ったばかりの『神話級・オリジン極上ブロック肉(究極の全部位シャトーブリアン)』をドカンと鎮座させた。
「よし!! 外のゴタゴタは宰相のおっさんたちに任せた! 俺たちのやることはただ一つだ!!」
トウヤが、神話級のまな板と包丁を構え、満面の笑みで宣言する。
「大迷宮完全踏破と、世界平和を祝して! 究極のフルコースで、最高の大宴会(打ち上げ)を始めるぞォォォォッ!!」
「「「ウオォォォォォォォォォォォォッッ!!!! いただきますッッ!!!!」」」
神すらも特等席からヨダレを垂らして見守る、異世界最高の祝宴。
数々の理不尽を食い破り、ついに世界の頂点に立った『悠久の踏破者』たちの笑い声は、平和になった夜空の向こうまで、いつまでも響き渡り続けるのであった。




