第190話:大迷宮の最深部と、降臨せし神の『デタラメな贈り物』
### 第190話:大迷宮の最深部と、降臨せし神の『デタラメな贈り物』
『悠久の大迷宮』第99階層――『神域・時空の果てと星屑の海』。
時間を強制的にループさせるという悪魔のようなギミックを、「お肉の熟成度を調整する便利機能」としてしゃぶり尽くしたトウヤたち『悠久の踏破者』の六人と三匹。
中ボスを越えた後も、彼らの足(と食欲)は止まることを知らなかった。
「(ジン! 時空の渦の奥に『プラチナ・クロノス・クラーケン(時空イカ)』だ! 足が一番太くなる【成体】のタイミングで動きを止めろ!)」
「(ヒャッハー、任せとけ! ジャストフレームで時空を切り裂くぜ!)」
トウヤの異常な嗅覚に導かれ、彼らは時空の迷路を真っ直ぐに突き進んだ。
そして、第99階層に足を踏み入れてからわずか数日。星屑の海の最奥にて、彼らはついに第100階層へと続く『真の最深部の大扉』の前へと到達していた。
だが、当然その前には、この狂った時空を統べる大ボスが鎮座している。
『ゴアァァァァァァァァァッッ!!!!』
時間を巻き戻す咆哮。空間を切り裂く翼。
全身が宇宙の星雲で構成された超巨大な時空竜――第99階層大ボス『アストラル・クロノス・エンペラー・ドラゴン』。
「(来たぞ! あいつの肉、部位によって『超熟成』と『究極の若肉』が混在してる奇跡の神話級食材だ!!)」
「(いただきますわ!!)」
絶望の象徴たる時空竜が、過去と未来から同時にブレスを放とうとした瞬間。
ルミナとマリアの極大結界が時空のブレを完全固定し、ガレスの超重力バッシュが竜の時間を物理的に停止させる。
そこへジンとエリスが神速で装甲を剥がし、トウヤの『無振動・時空竜解体』が急所を完璧に両断した。
ズバァァァァァァァッッ!!
時空竜は己の能力を何一つ発揮できぬまま、部位ごとに完璧な熟成度合いを保った『究極の時空竜ブロック肉』となってアイテムボックスへ収まった。
カッ――――!!!!
【第99階層大ボス討伐完了。マナー遵守・完全無振動連携ボーナス獲得】
宝箱からは『神話級・時空保存冷蔵庫(入れた食材の時間を完全に止め、無限に鮮度を保つ究極の冷蔵庫)』が出現した。
「よしっ! これで99階層も完全クリアだ!」
トウヤが宝箱のアイテムを回収し、目の前にそびえ立つ、虹色に輝く『最後の大扉』を見上げた。
「……いよいよじゃな、トウヤ」
ガレスが、大盾を静かに下ろして息を吐く。
「ああ。この扉の先が、第100階層……大迷宮の最深部だ」
全員の顔に、かつてないほどの高揚感が浮かぶ。
「(どんな極上食材が待っているのでしょう……お腹が鳴ってしまいますわ)」
エリスがヨダレを拭いながら、大剣を構え直した。
「よし、開けるぞ!!」
トウヤが両手をかけ、力強く押し開く。
ギギギギギギ……ッ!!
光に包まれた扉の先に広がっていたのは、これまでの過酷な環境とは打って変わった、神々しいほどに美しい【純白の大理石で出来た神殿】であった。
空には穏やかな陽光が降り注ぎ、心地よい風が吹き抜けている。
第100階層――『神域・創世の頂と究極の食卓』。
そして、その神殿の中央。
黄金の祭壇の上に、それは静かに眠っていた。
神々しい光を放ち、あらゆる属性、あらゆる次元の魔力を内包した、全長五十メートルを超える純白の神獣。
『…………ルルルォォォォォォォォッッ!!!!』
目を覚ました神獣が、世界そのものを震わせるような咆哮を上げる。
大迷宮の真の支配者にして、創造神の最高傑作。
第100階層ラスボス――『アストラル・オリジン・神バハムート』。
「(……ト、トウヤ! なんだあいつ! 立ってるだけでプレッシャーが次元違いだぞ!)」
ジンが、冷や汗を流しながら双短剣を構える。
だが、トウヤの【神眼】は、プレッシャーなど一切見ていなかった。
彼の瞳に映っていたのは、神獣の全身から放たれる『全宇宙の美味を凝縮した究極の旨味成分』の輝きであった。
「(……すげえ。すげえぞ、みんな)」
トウヤの声が、歓喜で震えている。
「(あいつの肉……赤身、霜降り、ヒレ、ハラミ、タン……全ての部位が、俺たちの知るあらゆる極上食材の頂点に立つ『究極の全部位シャトーブリアン』だ!! 一滴でも肉汁をこぼしたら、一生後悔するぞ!!)」
「「「究極の、全部位シャトーブリアンッッ!!?」」」
その言葉を聞いた瞬間。
悠久の踏破者たちの瞳から、ラスボスに対する恐怖や畏敬の念が完全に消え失せ、飢えた獣のような【絶対的食欲】の光が灯った。
「(肉汁一滴すら逃しませんわァァァァッ!!)」
「(俺たちのフルコースのメインディッシュだ!!)」
ラスボスが『創世のブレス』を放つより早く、世界最強の美食家たちの連携が爆発した。
ルミナとマリアが全魔力を込めた結界で神獣の動きをコンマ一秒だけ封じ、ガレスが自身の命を燃やすほどのシールドバッシュで神獣の防御結界を粉砕。
ジンとエリスが、神獣の強靭な鱗と皮を、芸術的な手捌きで一瞬にして剥ぎ取る。
「(これが、俺たちの辿り着いた答え(食欲)だァァァッ!!)」
トウヤの【拠点創造】の魔力と、全剣技を乗せた究極の一撃が、神獣の最も美しく柔らかい急所を無振動で両断した。
ズバァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!
絶対無敵を誇るはずのラスボスは、その神々しい姿を保ったまま、光の粒子すら出さずに【最高鮮度の神話級・オリジン極上ブロック肉】へと変換され、トウヤのアイテムボックスへと吸い込まれた。
カッ――――!!!!
【第100階層ラスボス討伐完了。マナー遵守・完全無振動連携ボーナス獲得】
壮大なファンファーレが鳴り響き、大理石の神殿が暖かな光に包まれる。
「や、やった……!!」
「倒したぞォォォッ!! 大迷宮、完全踏破だァァァァッ!!」
「最高のお肉ですわァァァッ!!」
歓喜に沸き、抱き合って喜ぶトウヤたち。
その時だった。
パチッ、パチッ、パチッ、パチッ……。
神殿の虚空から、軽やかな拍手の音が響き渡った。
「いやー、お見事! まさか私の最高傑作まで、お肉の鮮度を気にして瞬殺しちゃうなんてね! アッハッハッハ!!」
光が収まった祭壇の上に、一人の美しい中性的な青年が立っていた。
その手には、なぜか【キャラメルポップコーンの入った紙コップ】が握られており、口の周りには少し食べカスがついている。
「な、なんだお前!?」
トウヤたちが警戒して武器を構えようとするが、青年の放つ『圧倒的で、しかしひどく温かく穏やかな波動』の前に、自然と殺気が霧散していく。
「警戒しなくていいよ、悠久の踏破者たち。私はこの大迷宮を創り、管理している者……君たちの言葉で言うなら、【迷宮神】ってやつさ」
神は、ポップコーンをポリポリと齧りながらニコッと笑った。
「か、神様……!?」
ルミナやマリアが、慌ててその場に膝をつく。
「トウヤ君。君をチキュウからこの世界に転生させたのは、私なんだよ」
神は、トウヤの目の前までフワリと浮遊して降り立った。
「お前が……? なんで俺を? もっとチートな勇者とか喚べたはずだろ?」
トウヤが呆気にとられて尋ねる。
「うん。でもね、勇者なんて喚んだら、また人間同士で血みどろの戦争が起きるだけだからさ。私はもう、そういうのを見るのにウンザリしてたんだよ」
神は、穏やかながらも深い感慨を込めた瞳で、トウヤと仲間たちを見渡した。
「でも君は、戦いじゃなく『美味い飯』と『安全な拠点』で、絶望していた現地の英雄たち(この子たち)の心を救い、最強の絆を結んだ。そして……国同士の争いすらも、【出前】と【食欲】で完全に平和な同盟(絶対同盟)に変えてしまった」
神は、トウヤの肩をポンと叩いた。
「素晴らしいよ。私の創った世界を、こんなにも暖かくて、笑いに満ちた場所に変えてくれて。……トウヤ君、そして君の料理に胃袋を掴まれた最高の仲間たち。君たちのおかげで、この世界は救われたんだ」
「……いや、俺たちはただ、美味い飯を食ってキャンプしてただけなんだけどな」
トウヤが頭を掻きながら照れ笑いを浮かべる。
「その『ただ飯を食うこと』が、最強の平和への道だったのさ!」
神は満面の笑みで頷き、そして天に向かって両手を広げた。
「さあ! 迷宮を完全踏破し、世界に平和をもたらした君たちと、君たちの愛する『絶対同盟』の国々に、私からとびっきりの【ご褒美】をあげよう!!」
神の言葉と共に、神殿の空間に巨大な世界地図のホログラムが展開された。
「まず、絶対同盟に加盟し、君たちの活動に貢献した各国の領土に……なんと! 【10階層から100階層規模の、新たな迷宮】をそれぞれドカーンと創り出しちゃいます!!」
「「「…………は?」」」
「これで、アルカディア王国や地底魔国、ミズホの国の人たちも、わざわざ遠出せずに自国で美味しい魔物(素材)が獲り放題になるよ! もちろん、各国の貢献度に合わせて階層の深さは調整しておくからね!」
神がウインクを決める。
「ちょ、ちょっと待て!! いきなりそんな巨大なダンジョンを各国のど真ん中に作ったら、国中が大パニックになるだろうが!!」
トウヤが慌ててツッコミを入れる。
「大丈夫大丈夫! ちゃんと『安全地帯』と『エレベーター』は完備しておくから! あとね……」
神は、さらにニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、ホログラムの『アルカディア王国・迎賓館』の座標を指差した。
「君たちが迎賓館で楽しんでた、あの『魔改造スポッチャ(テーマパーク)』! あれ、王様たちだけが遊ぶのはもったいないから……【迷宮の第1階層のすぐ横に、誰でも遊べる巨大なテーマパークとして実体化】させておいたから!! これで国民全員でエンジョイできるね!!」
「なっ……!? お前、あの超重力テニスとか隕石の飛び交うアトラクションを、一般開放する気かァァァァッ!?」
ジンが悲鳴を上げる。
「うん! じゃあ、私はこれで失礼するよ! 最高の飯テロと大冒険を見せてくれて、本当にありがとう! 今日の『究極の全部位シャトーブリアン』の大宴会、神界からヨダレ垂らしながら見させてもらうからねー!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッッ!!!!!!
神が言い終わるか終わらないかのうちに。
大迷宮、いや、世界中の大地を揺るがすような、凄まじい地響きが発生した。
ホログラムの地図上で、各国の領土に「ポコッ、ポコッ」と新たな迷宮の入り口がタケノコのように生え、アルカディア王国の第1階層の横には、超巨大なネオン輝く『神話級・アミューズメントパーク』が文字通りドカンと出現したのが映し出される。
「ちょっ……! 神様ァァァッ!! 報・連・相って言葉を知らねえのかァァァッ!?」
トウヤが消えゆく神に向かって絶叫するが、神はすでにポップコーンの甘い香りだけを残して次元の彼方へ帰り去っていた。
「ト、トウヤ様!! これは大変ですわ!! 各国で急に迷宮やテーマパークが出現して、王様たちも国民も大パニックになっておりますわよ!!」
エリスが青ざめた顔で叫ぶ。
「ガッハッハ! こりゃあ、ラスボス討伐の余韻に浸っておる場合ではないな!」
ガレスが苦笑いしながら大盾を背負い直す。
「ああ、くそっ! やってくれたなあの神様!! 究極の肉を食う前に、世界中の混乱(クレーム対応)を収めなきゃなんねえじゃねえか!!」
トウヤは、アイテムボックスの中で光り輝く『究極の全部位シャトーブリアン』に後ろ髪を引かれつつも、慌てて転移結晶を取り出した。
「みんな! 感謝と喜びはそこそこにして、大急ぎで【迎賓館】に帰るぞ!! サイラスたち配達部隊にも緊急連絡して、各国の治安維持(という名の出前)に向かわせろ!!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
神のデタラメすぎる恩恵により、感動のエンディングは一瞬にしてドタバタ劇へと早変わり。
大迷宮を完全踏破した悠久の踏破者たちは、ラスボス肉の大宴会を夢見ながら、大混乱に陥った世界を救う(収拾をつける)ため、大急ぎで星繋ぎの迎賓館へと帰還していくのであった。




