第179話:迷宮を揺るがす神のアップデートと、世界を変える魔導昇降機(エレベーター)
### 第179話:迷宮を揺るがす神のアップデートと、世界を変える魔導昇降機
『悠久の大迷宮』第95階層――『神域・灼熱の太陽と焦熱の荒野』。
見上げれば、頭上のすぐそばで巨大な太陽が燃え盛り、足元は歩くそばから靴底が溶けそうなほどの熱を放つ過酷な神域。
だが、トウヤたち『悠久の踏破者』の六人と三匹にとって、この熱気すらも「極上肉を焼くための天然のオーブン」程度にしか認識されていなかった。
数日間にわたる厳選狩猟(間引き)を終え、羅針盤の矢印を復活させた彼らは、この階層の中間地点――すなわち『中ボス』の縄張りへと到達していた。
ズゴゴゴゴゴォォォォッ!!
荒野のマグマ溜まりから、超高熱のプロミネンス(紅炎)を纏った巨大な魔獣が這い出してきた。
全身が赤熱した宝石のような鱗で覆われた、六本足の巨大なトカゲ。
第95階層中ボス――『アストラル・プロミネンス・サラマンダー(神話級・灼熱の激辛極上肉)』。
「(来たぞ! 中ボスだ! あいつの肉、細胞自体が極上のスパイスの塊だ! ルミナ、マリア! 熱と辛味が飛ばないように、瞬間冷却を頼む!)」
「(お任せくださいませ! 炎の魔力ごと凍てつかせます!)」
「(絶対零度・極寒の棺!!)」
中ボスが灼熱のブレスを吐き出そうとした瞬間、魔術師二人の極大氷結魔法がサラマンダーの口元をマイナス数百度の冷気で覆い尽くし、ブレスを物理的に封殺した。
「(ガレス! 動きを止めろ!)」
「(フハハッ! この程度の熱気、サウナよりも温いわ! 【流転の盾・超重力バッシュ】!)」
ガレスが、大盾を構えたままマグマ溜まりを蹴って突進し、サラマンダーの巨体を横殴りに弾き飛ばす。
「(隙だらけだぜ! 【幻影歩法・神速の神経断ち】!)」
「(綺麗に三枚に下ろして差し上げますわ! 【渾身撃・無振動の甲殻剥がし】!)」
ジンが双短剣で四肢の自由を奪い、エリスが大剣の腹を滑らせて硬い鱗だけを綺麗に剥ぎ取る。
そして、無防備になったサラマンダーの急所(星のコア)へ、トウヤが流星の如き一撃を放った。
「(熱々の激辛ステーキ……いただきだ!! 【渾身撃・無振動の神獣解体】!!)」
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
完璧な連携。神話級のサラマンダーは、己の熱量を全て肉の中に閉じ込めたまま光の粒子となり、超巨大な『神話級・激辛スパイス肉のブロック』となってアイテムボックスへ収納された。
カッ――――!!!!
【第95階層中ボス討伐完了。マナー遵守・完全無振動連携ボーナス獲得】
いつものようにファンファーレが鳴り響き、豪華な宝箱が出現した。
「ガッハッハ! 今回も完璧だったな! さあ、中ボスのボーナスは何が……」
トウヤが宝箱に手を伸ばそうとした、その時だった。
ドドドドドドォォォォォォォォォッッ!!!!!!
「な、なんだッ! ?」
突如として、大迷宮全体を揺るがすような、凄まじい大地震が発生した。
灼熱の荒野が波打ち、遠くの火山が次々と噴火する。ただの地震ではない。空間そのものがギシギシと軋み、世界が作り変えられているかのような根源的な地鳴りである。
「ト、トウヤ様! 大地の魔力が……迷宮全体の構造が、異常な速度で書き換えられていますわ!!」
エリスが、大剣を杖代わりにして体勢を保ちながら叫ぶ。
「迷宮の構造が書き換えられてるだと!? まさか、この階層のギミックか! ?」
トウヤたちが武器を構え、四方八方を警戒し、最大限の迎撃態勢をとった、次の瞬間。
ピンポンパンポ〜ン♪(※チキュウのデパートのような気の抜けたチャイム音)
『【特報】大迷宮システム・アップデートのお知らせ』
虚空から、どこか楽しげな(神界の迷宮神の)声が、アナウンスとして階層全域に響き渡った。
『迷宮を愛し、極上の飯を楽しむ全ての探索者の皆様、お疲れ様です! この度、迷宮の利便性向上のため、第10階層ごとの安全地帯に、【魔導昇降機】を設置いたしました!』
『この昇降機は、【自身のパーティーが過去に踏破した階層まで】ならば、10階層単位で自由に、かつ一瞬で直通移動することが可能です! これからも、良き迷宮ライフ(と飯テロ)をお楽しみください!』
プツッ。
「「「………………は?」」」
地鳴りがピタリと収まった荒野のど真ん中で、トウヤたちは全員、ポカンと口を開けて硬直した。
「エ、エレベーター……? 迷宮に……踏破済みの階層まで行けるエレベーターができたって……?」
トウヤが、震える声で呟く。
「つまり、俺たちはすでに90階層台まで踏破してるから……地上の1階層から、この90階層のセーフエリアまで、階段を一切使わずに一瞬で来れるようになったってことか! ?」
「な、なんという……! 迷宮の常識が、根底から覆りましたぞ!!」
ガレスが、目玉が飛び出そうなほど驚愕する。
「こ、これは大変なことですわトウヤ様!! すぐに迎賓館に戻って、王様たちに報告しなければ!!」
「おう! ボス肉のBBQは後回しだ! 今すぐ緊急会議だ!!」
トウヤたちは、慌てて転移結晶を掲げ、星繋ぎの迎賓館へと緊急帰還した。
***
【星繋ぎの迎賓館――円卓会議室】
「――な、なんだとォォォォォォッッ!!!!?」
トウヤからの報告を聞いた瞬間、円卓を囲んでいたヴィルヘルム国王、ガルド宰相、魔王ゼノン、賢者カイト、第五の転生者ケンタの全員が、椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「トウヤ殿!! そ、それは真実か!? 迷宮に、踏破済みの階層を飛び越える『昇降機』が設置されたと!?」
ヴィルヘルム国王が、トウヤの両肩を掴んでガクガクと揺らす。
「あ、ああ。アナウンスでそう言ってた。……試しに、ジンとサイラスが10階層の入り口を確認しに行ったんだが……」
シュバッ!
会議室に、ジンとサイラスが神速で帰還した。
「(陛下! トウヤの言う通りです! 10階層、20階層、30階層……各節目の安全地帯に、ミスリルと神聖水晶で出来た超巨大な箱が設置されていました! 試しに乗ってみたら、俺たちが踏破済みの90階層まで、ものの数秒で到達しました!!)」
ジンの報告に、円卓会議室が数秒間、完全に静まり返った。
そして。
「「「ウオォォォォォォォォォォォッッ!!!!」」」
鼓膜が破れんばかりの、絶叫と歓喜の嵐が爆発した。
「革命だ!! これは世界を根底から変える大革命ですぞ陛下!!」
ガルド宰相が、興奮で眼鏡を吹っ飛ばしながら叫ぶ。
「これまでの迷宮探索は、『潜れば潜るほど、地上へ帰るための物資と時間が莫大にかかる』というのが常識でした! だが、エレベーターがあれば……! 中層や深層で採れたレア素材を、その日のうちに地上へ持ち帰れる!! アルカディアの経済は、過去類を見ないほどの超・爆発的繁栄を遂げますぞ!!」
「うむ!! 補給線の概念すら消え去るということだ! 冒険者たちの生存率も飛躍的に向上する!!」
ヴィルヘルム国王が、天を仰いで男泣きしている。
「おいおいおい……マジかよ」
魔王ゼノン(田中太一)が、頭を抱えながら笑い出す。
「迷宮の常識が完全にぶっ壊れたぜ。これ、俺たち魔王軍の地下資源と組み合わせたら、文字通り『無限の富』が生み出せるぞ。……トウヤ、お前らがいっぱい飯食って迷宮を楽しんでただけで、ついに世界のシステム(神様)まで手なずけちまったんじゃないか?」
「俺は何もしてねえよ! ただ中ボスを瞬殺した直後に、急にアップデートが入ったんだよ!」
トウヤは両手を振って弁解するが、その顔も満面の笑みだった。
「でも、これで俺たちも、地上に調味料の買い出しに行ったり、迷宮の途中で気軽に迎賓館に戻ったりするのが、めちゃくちゃ楽になるな! 究極のスローライフ・ダンジョンだぜ!」
「トウヤさん、それだけじゃありませんよ!」
ケンタが、ミリタリーヘルメットを小脇に抱えながら、目をキラキラさせて身を乗り出した。
「『踏破済みの階層まで行ける』というエレベーターの仕様……これを使えば、絶対同盟の『兵士』や『騎士』たちを、超効率的に鍛え上げることができます!」
「ほう? どういうことだケンタ?」
ヴィルヘルム国王が興味深そうに耳を傾ける。
「簡単な話です。例えば、新人の兵士たちをエレベーターに乗せて、まずは【第10階層の安全地帯】まで一気に降ろします。そしてそこを拠点にして、11階層、12階層へと『鍛えながら下の階層へ降りる』訓練を行うんです。もし危なくなったら、すぐに10階層の安全地帯に引き返せばいい」
ケンタが熱弁を振るう。
「そして実力がついたら、次はエレベーターで一気に【第20階層】へ飛び、そこから21階層へ下りていく……。この『段階的に下の階層へ降りてレベリングする』手法を使えば、道中の無駄な消耗を完全に省き、世界最強の軍隊を短期間で育成できます!!」
「おおっ! 確かに! 帰りの体力を気にせず、限界まで下の階層で鍛えられるというわけか!」
ヴィルヘルム国王がポンと手を打つ。
「でもケンタ。下層の入り口なんて、普通の兵士からしたら致死領域だぞ? 引率する護衛(教官)はどうするんだ?」
トウヤが疑問を口にすると、円卓の視線が、部屋の隅で直立不動の姿勢を保っている男たち……サイラスとファルコン率いる『世界食糧保全機構(配達部隊)』へと一斉に集まった。
「(……私たちが、どうかしましたか?)」
サイラスが、背中の特製ウー〇ーバッグを背負い直して首を傾げる。
「いるじゃねえか、迷宮を無傷で駆け抜ける世界最強の教官(護衛)が!」
ゼノンが、腹を抱えて爆笑する。
「サイラス! お前ら配達部隊がエレベーターの『引率者』になれ! お前らが同行すれば、お前らの『踏破済み階層』の権限で、兵士たちを安全に下層へ連れて行ける。お前らなら、90階層の神域の魔物でも2秒で解体できるんだから、訓練中の新人の護衛なんて欠伸しながらでもできるだろ!」
「(なっ……! わ、我々はただの出前持ちであって、軍の教官などという大層な任務は……!!)」
ファルコンが顔を真っ赤にして遠慮する。
「なら、こういう任務だと思え」
トウヤが、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべてサイラスの肩を叩いた。
「『新人兵士たちを助手として引き連れ、段階的に下の階層へ降りながら安全な迷宮キャンプのやり方と、魔物を美味しく解体する技術を教え込む。そして……下層で採れた最高鮮度の食材を、エレベーターを使って地上へ最速で出前する任務』だ。……できるか?」
その言葉を聞いた瞬間。
サイラスとファルコン、そして配達部隊の暗殺者たちの瞳からハイライトが消え、絶対的な『出前至上主義』のスイッチが入った。
「(……なるほど。兵士たちは『出前を運ぶための助手(下働き)』であり、段階的な訓練とは『極上の食材を安全かつ効率的に調達・搬送するためのプロセス』。……完璧なロジックです)」
サイラスが、ビシィッ! と鼓膜が破れるほどの敬礼を放つ。
「(お任せください!! 絶対同盟の全兵士を、一滴のスープもこぼさずに魔物を捌き、下層から最速で地上へ食材をピストン輸送できる『一流の配達員』に育て上げてみせます!!)」
「「「ウオォォォォォォッ!! 段階降下デリバリー教導隊、結成!!」」」
暗殺者たち(最強の運び屋)が、狂気的なモチベーションで訓練教官を引き受ける。
これにより、絶対同盟の軍事力は、エレベーターという超絶インフラと相まって、もはや他国の追随を(次元レベルで)許さない神々の軍団へと進化することが確定した。
「ガッハッハ!! 全てが完璧に回り始めたな!!」
ヴィルヘルム国王が、玉座(椅子)から立ち上がり、高らかに杯を掲げた。
「神のアップデートによる階層直通インフラと、段階的に下層へ降りる最強の教導隊の誕生! そして何より、トウヤ殿たちの95階層中ボス討伐を祝して! 今宵は、サラマンダーの激辛ステーキで祝杯だァァァッ!!」
「「「乾杯ッッ!!!!」」」
迷宮の常識を破壊し、世界を真の意味で「絶対同盟の庭」へと変えてしまった神のファンサービス。
トウヤたち悠久の踏破者は、次なる未踏の階層への期待と、限界突破していく美味い飯(と兵士たちの育成)に胸を躍らせながら、迎賓館の夜を凄まじいカロリーと共に楽しむのであった。




