第177話:美食の厳選と瑠璃色の主、そして遊びで限界突破する王様たち
### 第177話:美食の厳選と瑠璃色の主、そして遊びで限界突破する王様たち
『悠久の大迷宮』第93階層――『神域・瑠璃色の清流渓谷』。
「効率」という冒険者の業から脱却し、本来の『スロー踏破』の心を取り戻したトウヤたち悠久の踏破者は、瑠璃色の渓谷で【優雅な単独乱獲】を満喫していた。
「(おお……この『神話級・サファイア・アユ』、見事な苔の香りと脂の乗りだ。これだけ美しい個体なら、狩る価値があるな)」
トウヤは、清流を泳ぐ無数の魚影の中から「最も美味そうな一匹」だけを神眼で厳選し、水飛沫一つ上げない無振動の剣閃で丁寧に仕留めていく。
焦る必要はどこにもない。
エリスは滝壺で最も巨大なサーモンと優雅なステップで戯れながら仕留め、ジンは岩陰に潜む極上のカニを、甲羅の美しさを褒め称えながら丁寧に身を抜き取っていた。ガレスやルミナたちも同様に、美しい景色と極上食材との対話(選別)を心ゆくまで楽しんでいた。
そうして、厳選に厳選を重ねた優雅な狩りを続けること数日。
「ふぅ……。そろそろ、アイテムボックスの容量が【3分の2】くらいまで埋まってきたな」
トウヤが、瑠璃色の岩肌に腰を下ろし、冷たい清流の水を飲みながら呟いた。
厳選しているとはいえ、見渡す限り全てがプラチナ食材の神域である。少し気を抜けばすぐにインベントリが悲鳴を上げる状態だった。
トウヤが懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出すと――。
「おっ。ついに来たか」
盤面を埋め尽くしていたプラチナの乱反射が穏やかに収まり、中央の青い矢印が【渓谷の最上流】へと真っ直ぐに伸びていた。
彼らが厳選して狩り続けたことで、ついに生態系の魔力密度が下がり、羅針盤が正常にボスの位置を捕捉したのだ。
「――みんな! 矢印が出たぞ! 集合だ!!」
トウヤが超広範囲のテレパシーを飛ばすと、ほどなくして、極上の海鮮(川鮮)を抱えた仲間たちが笑顔で集結した。
「ヒャッハー! 待ってたぜトウヤ! ソロでの厳選も最高だが、やっぱりみんなで連携して狩る方が性に合ってるからな!」
「ええ! この数日間で溜まった『パーティーで戦いたい欲』、ボスに全力でぶつけさせていただきますわ!」
「よし、じゃあ93階層の『大ボス』の元へ向かうぞ! ここからはパーティーでのスロー踏破だ。道中の極上食材も、連携で美しく狩りながら進むぞ!」
「「「オォォォォォォォッッ!!!!」」」
彼らは再び6人と3匹の陣形を組み、渓谷の最上流へと歩みを進めた。
道中、群れで襲い来る『プラチナ・キング・クラブ』や『アストラル・スッポン』に対し、息の合った連携を見せる。
ガレスが盾で受け、ルミナとマリアが魔法で動きを封じ、ジンとエリスが急所を穿つ。ソロの時よりも圧倒的に早く、そして安全に。会話と笑い声を交えながらの戦闘は、彼らが世界最強のパーティーであることを再認識させる完璧なものであった。
そして、最上流の巨大な滝の裏側。
純白の大扉の前で、彼らを待ち受けていたのは――。
『ギシャァァァァァァァァッッ!!!!』
瑠璃色の滝壺から姿を現した、全長四十メートルを超える超巨大な甲殻類。
第93階層大ボス――『プラチナ・アストラル・ロブスター・エンペラー(神話級・瑠璃色の海鮮帝王蝦)』。
その身は透き通るようなサファイア色に輝き、両手の巨大なハサミは空間そのものを挟み切るほどの魔力を秘めている。
「(出たぞ!! 93階層の大ボスだ!! あいつの尻尾の肉、絶対に究極の甘みと弾力が詰まってる!! 殻を傷つけずに、中身だけを無振動で抜くぞ!!)」
トウヤの号令に、仲間たちの食欲(戦闘力)が限界突破する。
「(空間断裂のハサミなど、ワシの盾の流転でいなしてくれるわ!)」
ガレスが正面からハサミの斬撃を受け流し、巨大なエビの体勢を崩す。
「(関節の隙間、いただきましたわ!)」
「(ヒャッハー! 殻剥きの時間だぜ!!)」
エリスとジンが、左右から神速で肉薄し、装甲の繋ぎ目(関節)の神経だけをピンポイントで切断していく。
そして、完全に動きを封じられた帝王蝦の眉間へ、トウヤが【渾身撃・無振動の神蝦解体】を突き入れた。
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
空間を切り裂くはずの帝王は、己の殻に一切の傷をつけられることなく、痛みすら知らぬまま光の粒子となり、『神話級・帝王蝦の極太テール肉』となってアイテムボックスへ収納された。
カッ――――!!!!
【第93階層クリア。マナー遵守・完全無振動連携ボーナス獲得】
ファンファーレと共に現れた宝箱の中身は、『神話級・魔導スモーカー(極上食材の香りを極限まで引き出す自動燻製器)』であった。
「ガッハッハ! これでまた調理の幅が広がるな! さあ、この勢いで94階層へ降りるぞ!」
トウヤたちは、ホクホク顔で純白の大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉の先に広がっていたのは、空中に無数の巨大な島々が浮かぶ、天空の神域であった。
島々には、宝石のように輝く『神話級の果実』がたわわに実り、大地からはスパイスの芳醇な香りが漂っている。
第94階層――『神域・天空の甘露と香辛料の浮遊島』。
「おおおっ……! 今度はフルーツとスパイスの階層か! これまた肉や魚の味付けに最高の環境じゃねえか!」
トウヤが目を輝かせ、早速羅針盤を取り出して魔力を流し込む。
カッ――――!!!!
「「「……ですよねー!!」」」
案の定、羅針盤の盤面は、浮遊島全域から放たれる『超絶プラチナ食材の魔力』によって完全にフラッシュアウトし、矢印など1ミリも見えない状態になっていた。
「ハハハ……まあ、分かってたけどな。ここでもまた、ある程度狩って間引かないと矢印は出ないぞ」
トウヤが苦笑しながら、自身のアイテムボックスの容量を確認する。
「……だが、参ったな。93階層で厳選しつつも結構な量を狩ったせいで、さっきの『帝王蝦』を入れたら、全員のアイテムボックスがほぼ【満載】になっちまった」
「本当ですわ。もうリンゴ一つすら入りませんの……」
エリスが、悲しそうに空中の果実を見上げる。
「仕方ねえ。今日はここまでだ! 矢印の方向を探るためのソロ・ハンティングは、明日からにしよう。一旦【迎賓館】に戻って、このパンパンの海鮮たちを荷下ろしして、極上のエビパーティーだ!」
「「「オォォォォォォォッッ!!!!」」」
アイテムボックスの容量限界という物理的な理由により、トウヤたちは意気揚々と転移結晶を掲げ、迎賓館へと帰還することにした。
***
【閑話:迎賓館の日常(狂気)と、ツッコミを入れる転生者たち】
その頃。
大迷宮の底、『星繋ぎの迎賓館』に増設された【超次元スポ〇チャ・エリア】では、アルカディア国王ヴィルヘルムと、宰相ガルドによる「食後の腹ごなし(という名の遊び)」が行われていた。
「どりゃァァァァッ!! 余のサーブを受けよガルド!!」
「フハハハッ! 甘いですぞ陛下!! 【超重力・魔力スマッシュ】!!」
ドゴォォォォォォォンッッ!!!!!
二人が行っているのは、チキュウの『テニス』を模した魔導スポーツである。
しかし、彼らが打ち合っている球は【燃え盛る隕石】であり、コートは【50倍の超重力】が設定された空間であった。
ラケット(ミスリル製)が振られるたびに衝撃波が発生し、空間が歪む。
その異常すぎる光景を、コートの端でコーラとポップコーンを片手に眺めている二人の男がいた。
魔王ゼノン(田中太一)と、第五の転生者ケンタである。
「……なぁ、ケンタ」
「はい、ゼノンさん」
「王様とガルドのおっさんさ。ただ『テニス』で遊んでるだけなのに、スイングの速度が音速超えてねえか……?」
ゼノンが、引きつった笑いを浮かべながらツッコミを入れる。
「いやマジで。あの二人、トウヤの神話級バフ飯を毎日バカみたいに食って、この狂った魔改造施設で毎日遊んでるせいで、ステータスがバグり散らかしてんだよ。……ぶっちゃけ、ウチの魔王軍の四天王より、あのオッサン二人の方が単体戦闘力上だぞ」
「ですね……。俺の前世の記憶にある『軍隊』の概念が崩壊しますよ」
ケンタも、ポップコーンを口に放り込みながら遠い目をする。
「この間、迎賓館の警備に来ていた『アルカディア王国・近衛騎士団』のエリートたちが、王様たちの遊び(テニス)に混ざろうとして、サーブの風圧だけで吹き飛ばされて気絶してましたからね。……下手な騎士団より、飯食って遊んでる王様たちの方が何倍も強いって、どういう理屈ですか」
「『美味い飯食って遊べば強くなる』……トウヤの絶対法則だな」
ゼノンが呆れたようにため息をつく。
「シオンとかいう悪の転生者、ホントに同情するぜ。トウヤたちのパーティーどころか、裏で遊んでる王様たちにすらワンパンで粉砕されるレベルの戦力差だぞ、これ」
二人の転生者が、異世界のパワーバランスを完全に崩壊させている『絶対同盟の首脳陣』の姿に小声でツッコミを入れ続けていると――。
カァァァァッ!!
迎賓館の巨大な転移陣が眩い光を放ち、トウヤたち『悠久の踏破者』の六人と三匹が姿を現した。
「おう! みんな元気にしてたか! アイテムボックスが海鮮でパンパンになっちまったから、在庫処分(おすそ分け)に帰ってきたぜ!!」
トウヤが、満面の笑みで手を振る。
その声を聞いた瞬間。
テニスコートで音速のラリーを繰り広げていたヴィルヘルム国王とガルド宰相が、ピタリと動きを止め(※隕石の球はそのまま壁に激突して爆発した)、飢えた獣のような目で振り返った。
「ト、トウヤ殿ォォォッ!! 海鮮!! 今度は海鮮の神話級肉ですかな!?」
「おおおっ! 先日の黄金霜降り肉も最高でしたが、清流の神域の幸……たまりませんな!!」
つい数秒前まで、空間を切り裂くような死闘(遊び)を繰り広げていたとは思えないほどの、だらしない笑顔とヨダレ。
「(……ほら見ろケンタ。あの音速超えるバケモノ王様たちを、完全に『餌付け』して手懐けてるあの男が、やっぱり一番ヤバいんだよ)」
「(間違いないですね……。異世界最強のテイマーは、魔物じゃなくて国家元首を手懐けてますよ)」
ゼノンとケンタの的確すぎるツッコミ(ひそひそ話)をよそに、トウヤは巨大な『帝王蝦の極太テール肉』を取り出し、カイト特製の神話級マヨネーズをたっぷりと用意した。
「さあ! 今日は『神話級・アストラル・ロブスターの極上エビマヨ』と、『クリスタル・サーモンの瞬間燻製』の大宴会だ!! 明日からの94階層探索に向けて、ガッツリ食って英気を養うぞ!!」
「「「ウオォォォォォォォォッッ!!!!(いただきます!!)」」」
最強の探索者たちと、遊びで限界突破し続ける王たち。
彼らの底なしの胃袋と笑顔によって、迎賓館の夜は今日も狂気的なまでのカロリーと熱気に包まれていくのであった。




