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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第175話:羅針盤の導きと、見失いかけた『スローライフ』の原点

### 第175話:羅針盤の導きと、見失いかけた『スローライフ』の原点

『悠久の大迷宮』第92階層――『神域・黄金の豊穣平原』。

アイテムボックスの容量が神話級の肉でパンパンになるという前代未聞の事態により、一度は『星繋ぎの迎賓館』へと帰還し、絶対同盟の面々に極上肉の山をおすそ分け(物理的な在庫処分)してきたトウヤたち。

身も心も、そしてインベントリの空き容量もスッキリとリフレッシュした一行は、すぐさま92階層へとトンボ返りし、再び狂気の【単独乱獲ソロ・ハンティング作戦】を再開していた。

それから、さらに数日が経過した頃。

黄金の稲穂が揺れる大平原には、もはや開始当初の「足の踏み場もないほどの魔物の大群」の面影はなかった。

文字通り、平原の生態系の【約半分】が、たった六人と三匹の食欲によって刈り取られていたのである。

「――よし! みんな、一旦集合してくれ!!」

平原の中央に設営したベースキャンプから、トウヤが『超広範囲・集合のテレパシー』を飛ばした。

数分後。

シュバァァァッ! ズシンッ! と、東西南北の平原の果てから、凄まじい砂埃と魔力の残滓を引き連れて、仲間たちが次々と帰還してきた。

「ヒャッハー! 呼ばれて飛び出てきたぜトウヤ! 今ちょうど、極上の霜降り肉を持った『プラチナ・マッスル・ミノタウロス』の群れを三十頭ほど仕留めたところだ!」

ジンが、双短剣についた脂を拭いながら軽快なステップで戻ってくる。

「ふぅ……。私も、あちらの湖畔に群生していた『神話級・黄金ガニ』を数百匹ほど甲羅剥きにしてまいりましたわ。さすがに腕がパンパンですの」

エリスが、心地よい疲労感を漂わせながら大剣を地面に突き立てる。

ガレスも、ルミナもマリアも、そして神獣の三匹も、みな一様に大量の汗を流し、やり遂げた(狩り尽くした)達成感に満ちた顔をしていた。

「みんな、お疲れさん。よく集まってくれたな」

トウヤは、泥と肉の脂にまみれた仲間たちを見渡し、ニヤリと笑って懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出した。

「羅針盤に、ついに変化があった。見てくれ」

トウヤが魔力を流し込むと、これまで盤面全体を埋め尽くしていた『目も眩むようなプラチナの閃光』が、スゥッと穏やかな光へと落ち着いていった。

魔物の総数が適度に間引かれたことで、羅針盤の処理能力バグがようやく正常に機能し始めたのだ。

そして、盤面の中央。

微かに震えていた青い矢印が、ピタリと【北西】の方向を指し示した。

「おおっ!!」

「矢印が……矢印が出ましたわ!!」

エリスとジンが、羅針盤を覗き込んで歓声を上げる。

「北西の奥に、ひときわ強烈なプラチナ反応がある。あそこに92階層の『大ボス』と、次の階層への扉があるはずだ」

トウヤが力強く頷く。

「ガッハッハ! ついに道が開けたか! いやはや、トウヤのソロ・ハンティング作戦は大正解であったな!」

ガレスが、ヒゲを撫でながら安堵の息を吐く。

「もしワシらが、最初から今までのように『パーティーの連携』で固まって、チマチマとこの平原の魔物を狩っていたとしたら……今頃まだ平原の入り口付近で足踏みし、ボスに辿り着くまでに【一ヶ月以上】は掛かっていたじゃろうて」

「ええ、本当に……。あまりの物量に絶望するところでしたわ。皆の個別の力と手数を信じたトウヤ様の判断、お見事ですの!」

仲間たちは、終わりの見えない乱獲作業から解放された安堵と、自分たちの異常な狩猟効率の高さに酔いしれ、笑顔で互いの健闘を讃え合った。

――だが。

仲間たちの歓喜の輪の中で、トウヤだけは羅針盤を静かに懐にしまい、ふと真顔になって天を仰いだ。

黄金の平原を吹き抜ける風が、彼の前髪を優しく揺らす。

「……なぁ、みんな」

トウヤの静かな、しかしどこか重みのある声に、仲間たちの笑顔がスッと引き締まった。

「トウヤ? どうしたんだ、急に真面目な顔をして。ボスが強敵すぎるのか?」

ジンが首を傾げる。

「いや、ボスが強いとかそういうことじゃないんだ。……俺たち、何か大事なことを忘れてないか?」

「大事なこと……?」

トウヤは、疲労困憊でありながらも次なる狩りへと急ごうとする仲間たちの顔を見渡し、ポツリと問いかけた。

「俺たちの旅の目的……【前人未踏の大迷宮・スロー攻略記】ってコンセプト、どこ行った?」

「「「…………あ」」」

その言葉が落ちた瞬間。

ジン、エリス、ガレス、ルミナ、マリア……全員の時間がピタリと止まった。

「俺たち、羅針盤のバグを直すためとはいえ……この数日間、完全に『効率重視の作業プレイ(RTA)』になってただろ」

トウヤが、苦笑しながら周囲に築き上げられた乱獲の跡(肉の山)を指差す。

「とにかく手数を増やして、時間を短縮して、アイテムボックスに肉を詰め込むだけの機械になってた。……そりゃ、一ヶ月かかるはずの行程を数日で終わらせたのは凄いことかもしれない。でも、それってただの『普通のガチ勢冒険者』と同じじゃないか?」

トウヤの指摘に、仲間たちはハッと息を呑んだ。

そうだ。彼らがこのパーティーを組み、トウヤについてきた最大の理由は「いち早く迷宮を踏破して名誉を得るため」ではない。

過酷な迷宮探索の中で、極上のキャンプを張り、温かい美味しいご飯を食べ、仲間と笑い合いながら【ゆっくりと、贅沢に迷宮を味わい尽くすため】だったはずだ。

「わ、私としたことが……!!」

エリスが、両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。

「早くトウヤ様にボスの矢印を見せてあげたい一心で……お肉の『霜降りの美しさ』を愛でることもせず、ただの処理作業としてミノタウロスを投げておりましたわ……! これでは美食家失格ですの!!」

「ヒャッハー……じゃねえよ俺……。効率よく首を落とすことしか考えてなくて、コカトリスの羽根の艶やかさを楽しむ心の余裕すらなかったぜ……」

ジンも、己の双短剣を見つめて深く反省する。

「ワシもじゃ。スッポンの出汁の香りを嗅ぐよりも、いかに早く甲羅を割るかという『タイムアタック』に囚われておった……」

ガレスが深くため息をつく。

彼らは、無自覚のうちに「迷宮の攻略速度」という、かつて自分たちが最も嫌悪していた『過酷な冒険者のジレンマ』に陥っていたのだ。

「気づいてくれてよかったよ」

トウヤは、そんな仲間たちの肩を優しく叩いた。

「90階層台の神域は、確かに素材が凄すぎて焦っちまう。羅針盤がぶっ壊れるほどの物量を見せられりゃ、早く片付けなきゃって思うのも無理はない。……でも、俺たちは絶対にブレちゃダメだ。迷宮がどれだけ急かしてこようが、俺たちは俺たちのペースで歩くんだ」

トウヤは、青い矢印が指し示す北西の空を指差した。

「羅針盤の矢印は出た。だが、急いでボスのところへ走る必要はどこにもない。ここからはソロ・ハンティングは中止だ。全員で固まって、周りの景色を楽しみながら、一歩一歩ゆっくり進むぞ」

「トウヤ様……」

「もし途中で最高に美味そうなプラチナ食材を見つけたら、ただ瞬殺するんじゃなく、どうやったら一番美味しく狩れるか全員でじっくり相談しよう。そして、腹が減ったらその場で最高のキャンプを張る。……それが、俺たち『悠久の踏破者』のやり方だろ?」

トウヤの言葉に、仲間たちの瞳に、本来の【余裕と食への探求心】が確かな輝きを持って戻ってきた。

「ええ!! そうですわね!! 私たちには、無限の時間が……そしてトウヤ様の極上飯がありますの!!」

エリスが、パーッと顔を輝かせて立ち上がる。

「ガッハッハ! 全く、三十路のオッサン(トウヤ)に諭されるとは情けないわい! よし、これより【超スロー・極上美食旅】の再開じゃ!!」

「おう! 走るの禁止! 景色を見ながらのんびりピクニックだぜ!!」

憑き物が落ちたように、本来の明るさを取り戻した一行。

彼らはテントを撤収すると、武器を構えるのではなく、まるでハイキングにでも行くかのようなリラックスした足取りで、北西へと歩き始めた。

***

――数時間後。

「おい、みんな見ろ。あそこの湖畔で水を飲んでる魔物……『クリスタル・プラチナ・ディア(神話級の鹿)』だ」

トウヤが、黄金の草むらからそっと顔を出し、小声で囁く。

「(まあ……。全身が水晶のように透き通っていて、なんて美しい鹿でしょう)」

エリスが、うっとりとしたため息をつく。

「(あいつの肉、絶対に臭みゼロで、赤身の旨味が凝縮されてるぜ。……トウヤ、どう狩る? 普通に首を落とすか?)」

ジンが、双短剣を抜きながら尋ねる。

「(いや、待て。あの鹿は警戒心が強そうだ。恐怖を与えると肉が硬くなる可能性がある。……ルミナ、マリア。お前たちの魔法で、あの湖の水面全体を【一瞬で幻惑の霧】で覆ってくれ。鹿が『美しい霧の中で眠りに落ちた』と錯覚するようにな)」

トウヤの緻密な指示が飛ぶ。

「(分かりましたわ。極上の夢を見せて差し上げます……【幻惑の聖霧】)」

「(冷たくて気持ちいい霧にするね……【微睡の冷気】)」

静かに、美しく展開された魔法の霧が、湖畔の鹿を優しく包み込む。

鹿は一切の警戒を解き、心地よい冷気の中でゆっくりと目を閉じ、深い眠りに落ちた。

「(今だ。エリス、ガレス。……一切の音を立てずに、無振動で仕留めるぞ)」

「(承知いたしましたわ)」「(任せておけ)」

彼らは神速のステップを使うこともなく、一歩一歩、大地の感触を確かめるように静かに近づき、そして……一切の苦痛を与えることなく、最高鮮度のまま鹿を光の粒子(極上の鹿肉ブロック)へと変換した。

「よし、完璧だ。最高の狩りだったぞ、みんな」

トウヤが、満足げに頷く。

「この鹿肉は、絶対に美味い。……よし、今日の移動はここまでだ! まだ日は高いが、この美しい湖畔で【極上のプラチナ・ローストベニソン(鹿肉のロースト)】を作って、優雅なティータイムと洒落込もうぜ!!」

「「「ウオォォォォォォォォッッ!!!!(大賛成ですわ!!)」」」

乱獲の嵐は去り、神域の平原に再び「至福のキャンプ」の匂いが漂い始める。

効率や速度などという無粋なものは捨て去り、ただ純粋に美味いものを求め、迷宮を味わい尽くす。

己たちの【スロー踏破】という原点に立ち返った悠久の踏破者たちは、黄金の風に吹かれながら、世界で一番贅沢な時間を過ごしつつ、大ボスへの道をゆっくりと、確かに歩んでいくのであった。


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