第173話:黄金の平原に吹き荒れる暴食の嵐(ソロ・ハンティング)
### 第173話:黄金の平原に吹き荒れる暴食の嵐
『悠久の大迷宮』第92階層――『神域・黄金の豊穣平原』。
見渡す限りプラチナ食材しか存在しないという異常事態により、羅針盤がフラッシュを起こして機能不全に陥った。その解決策としてトウヤが提案した『単独乱獲作戦』は、神域の生態系にとって完全なる厄災の始まりであった。
「「「ウオォォォォォォォォッッ!!!!」」」
号令と共に、黄金の稲穂が揺れる大平原へと散開した六人と三匹。
彼らはもはや探索者ではなく、食欲という名の本能を解放した『極上食材の捕食者』と化していた。
***
**【幻影の双刃――ジン】**
「ヒャッハー!! どいつもこいつも極上の肉塊に見えやがるぜ!!」
風を切り裂き、黄金の草の上を滑るように疾走するのは、パーティー最速の斥候であるジン。
彼の眼前に群れをなしているのは、全身が黄金の羽根で覆われ、トサカがルビーのように輝く巨大な鶏の魔物。
『プラチナ・ゴールデン・コカトリス』。
その肉は、適度な弾力と、噛むほどに溢れ出す濃厚な鶏の旨味を秘めた「神話級の唐揚げ肉」である。
『クェェェェェェッ!!』
ジンに気づいた数十羽のコカトリスが、石化の魔眼を光らせながら一斉に襲い掛かってきた。通常の冒険者ならば一瞬で石の彫像と化す絶望の包囲網。
だが、ジンの動きはすでに『視認』という概念を超越していた。
「(遅えよ! 89階層の『光速の次元卓球』で鍛えた俺のステップに、そんな鈍い視線が追いつくかよ!!)」
シュバァァァッ!!
ジンの姿がブレて残像(幻影)を生み出し、石化の視線をことごとくすり抜ける。
コカトリスたちが混乱した直後、群れの中心から無数の銀閃が弾け飛んだ。
「(肉を硬くさせねえ! 急所だけをスパッと抜く!! 【幻影歩法・神速の唐揚げ捌き】!!)」
ジンの双短剣が、まるで舞い散る花びらのようにコカトリスたちの首裏(神経の束)だけを正確に切断していく。
一羽たりとも石化の呪いを暴走させることなく、群れは瞬く間に光の粒子となり、神話級の鶏もも肉となってジンのアイテムボックスへと吸い込まれていった。
「よし! 次はあっちの『神話級・鴨肉』の群れだ!!」
ジンは足を止めることなく、次なる獲物へと神速で跳躍した。
***
**【剛腕の戦乙女――エリス】**
ズドォォォォォォォンッッ!!!!!
平原の東部で、隕石が衝突したかのような凄まじい轟音と土煙が上がった。
『ブゴォォォォォォォッ!!』
土煙の中から吹き飛ばされてきたのは、体高十メートルはあろうかという、筋肉の塊のような巨大な牛の魔物。
『プラチナ・マッスル・ミノタウロス』。
「(素晴らしい弾力ですわ! ですが、私の大剣の重みには耐えられませんのよ!)」
エリスが、自身の身の丈ほどもある大剣を軽々と振り回し、狂喜の笑みを浮かべていた。
彼女の周囲には、すでに数十頭のミノタウロスが、一切の傷なく「完璧な気絶状態」で転がっている。
「(83階層の『超重力ジム』で鍛え上げたこの背筋と大胸筋! 今こそ解放する時!!)」
エリスは、突進してくるミノタウロスの極太の角を、なんと【素手】で真正面から受け止めた。
ギリィィィッ!! と、神域の大地が彼女の踏ん張りによってひび割れる。
「(ふんぬぅぅぅぅッ!!)」
エリスが腕力を爆発させると、数十トンはあるミノタウロスの巨体が、いとも容易く一本背負いのごとく宙を舞い、地面に叩きつけられた。
そして、気絶して脱力したミノタウロスの急所へ、大剣の腹を使った無振動の打撃を流し込む。
「(お肉を傷つけずに仕留める……これぞ乙女の嗜み! 【渾身撃・無振動の神牛解体】!!)」
ズバァァァッ!!
豪快極まりない膂力と、繊細すぎる解体技術の融合。エリスの周囲には、次々と最高級の神話級牛肉の山が築き上げられていった。
***
**【流転の鉄壁――ガレス】**
「ガッハッハ! 来い来い! まとめてワシの盾の錆(極上スープの出汁)にしてくれるわ!」
平原の西部では、ガレスが巨大な大盾を構え、魔物の群れのど真ん中に仁王立ちしていた。
彼を取り囲んでいるのは、甲羅がダイヤモンド並みの硬度を誇る『プラチナ・シールド・タートル』の群れ。
怒り狂った亀たちが、甲羅に手足を引っ込め、超高速の回転を伴って全方位からガレスへと突撃してくる。
ガガガガガガッ!!
だが、ガレスの大盾に衝突した亀たちは、まるでパチンコ玉のように弾き返され、次々と互いに激突して気絶していく。
「(89階層の『ブラックホール・ビリヤード』に比べれば、軌道が単純すぎるわ!)」
ガレスは、亀の回転突撃を完璧な角度で受け流し、シールドバッシュの反発力を利用して同士討ちを誘発させる。
そして、気絶して甲羅から首を出した瞬間を見逃さず、手にしたメイスで的確に急所を砕いた。
「(【流転の盾・甲羅割り抜き】!!)」
極上のスッポンスープの原料となる神話級の亀肉が、次々と光の粒子へと変わっていく。
***
**【極大魔法の狩人――ルミナ&マリア】**
「(マリア! あちらの上空、『アストラル・プラチナ・ワイバーン』の群れです!)」
「(任せてルミナちゃん! 焼き鳥の準備はバッチリだよ!)」
平原の南側では、後衛であるはずの魔術師二人が、もはや「対空砲火」の如き勢いで空の獲物を乱獲していた。
マリアが杖を掲げると、空中に無数の光の魔法陣が展開される。
「(【聖光の穿ち・極太マルチ・ロックオン】!!)」
ドパパパパパパッ!!
放たれた無数の光の矢が、上空を舞うワイバーンたちの翼の関節だけを正確に撃ち抜き、地上へと墜落させる。
そこへ、すかさずルミナが絶対零度の魔法を放った。
「(落ちた側から鮮度を閉じ込めます! 【絶対零度・完全真空パッケージング】!!)」
ピキィィィィンッ!!
地上に激突する寸前のワイバーンたちが、次々と氷の結晶に包まれ、無傷のまま神話級の極上鶏肉(?)としてアイテムボックスへと回収されていく。
魔法の威力を「破壊」ではなく「鮮度保持」と「ピンポイント解体」に全振りした、異端の魔導狩猟術であった。
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**【神獣たちの饗宴――クー、クロ、リル】**
『ピィィィィッ!!(あっちのお肉、僕のだからね!!)』
『ワゥワゥッ!!(クロが先に見つけたんだワン!!)』
『キュゥゥッ!!(リルも負けないもん!!)』
神獣の三匹もまた、己の野生の本能と神話級の身体能力を存分に発揮していた。
クーは空から急降下して獲物の急所を嘴で貫き、クロは雷光のようなスピードで平原を駆け抜けて獲物の首を刎ね、リルは影の中から音もなく忍び寄り、鋭い爪で仕留める。
彼らの狩りは、まさに大自然の掟(弱肉強食)を体現する、美しくも無慈悲な光景であった。
***
**【暴食の指揮者――トウヤ】**
そして、平原の中央。
トウヤは、一人静かに目を閉じ、平原全体に広がる『魔力の波動(食材の匂い)』を感じ取っていた。
「……いるな。この平原の中でも、群を抜いてデカい『極上の気配』が」
トウヤがカッ! と【神眼】を見開いた先。
黄金の草をかき分けて現れたのは、体長三十メートルを超える、山のような巨体を持つ魔獣。
『プラチナ・エンペラー・ベヒモス・ロード』。
この平原の主とも言える、規格外の神話級食材である。
『グルルォォォォォォォッ!!』
ロードが、トウヤに向けて全てを吹き飛ばすほどの咆哮(重力波)を放つ。
だが、トウヤは一歩も引かず、むしろ歓喜の笑みを深めて剣を抜いた。
「(80階層台のボスたちの全部乗せ(超次元リヴァイアサン)に比べりゃ、重力のブレも魔力の密度もスッカスカだぜ。……お前の肉、最高のステーキにしてやるよ!!)」
トウヤの姿がフッ……と消えた。
彼が習得した『無振動歩法』の極致。それは空間の摩擦すらもゼロにする、神速の移動。
次にトウヤが現れたのは、ベヒモス・ロードの巨大な眉間のど真ん中であった。
「(いただきます。【渾身撃・無振動の神獣一閃】!!)」
スプンッ……。
一切の音も、衝撃波も発生しなかった。
ただ、トウヤの剣がロードの急所(星のコア)を完璧に貫き通した事実だけが、そこに残された。
ズドドドドォォォォンッッ!!!!!
数秒の遅れを伴って、超巨大な魔獣の巨体が崩れ落ち、光の粒子となってアイテムボックスへと吸い込まれていく。
「ふぅ……。よし、特大の極上肉、一丁上がりだ!」
トウヤは、大量のプラチナ食材を収納して重みを増した(ような気がする)アイテムボックスを叩き、満足げに息を吐いた。
東西南北、そして上空。
平原の至る所で、美食家たちと神獣たちによる規格外のソロ・ハンティングが繰り広げられている。
彼らのアイテムボックスが神話級の肉でパンパンに満たされ、羅針盤の矢印が再び道を示すまで、この豊穣の平原に吹き荒れる『暴食の嵐』は止むことはないのだった。




