第172話:神域の門番瞬殺と、豊穣の平原における『単独乱獲(ソロ・ハンティング)作戦』
### 第172話:神域の門番瞬殺と、豊穣の平原における『単独乱獲作戦』
『悠久の大迷宮』第91階層。
プラチナ食材だらけの神域に足を踏み入れ、「獲物が多すぎて羅針盤が機能不全を起こす」という贅沢すぎるバグに見舞われたトウヤたち。
彼らは迷子になった焦りなど微塵も見せず、「羅針盤の光が収まるまで周囲の食材を食い尽くせばいい」という暴論の元、半日以上にわたって神話級のプラチナBBQと乱獲を繰り広げていた。
そして、森の生態系(極上食材)を文字通り半分ほど刈り取った、その時。
「おっ! みんな、ちょっと待て!」
食後のハーブティーを飲んでいたトウヤが、懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出して声を上げた。
「羅針盤の光の乱反射が収まったぞ! プラチナ反応が適度に間引かれたおかげで、ようやく『次の階層への青い矢印』がクッキリと浮かび上がった!」
「おおっ! ついに大ボス(神域の門番)と、92階層への道が開けたか!」
ガレスが、ヒゲについた極上肉の脂を拭いながら立ち上がる。
「ヒャッハー! 散々食い散らかした後のメインディッシュのお出ましだな!」
ジンが双短剣をクルクルと回し、エリスも大剣を肩に担いで極上の笑みを浮かべた。
クー、クロ、リルの従魔三匹も、「まだ食べるの!」と言わんばかりに尻尾を振って立ち上がる。
矢印が示す方向へ、プラチナ色に輝く森を一直線に進むこと十数分。
鬱蒼としたエメラルドの木々が開けた先に、次の階層へと続く『純白の大扉』が姿を現した。
――しかし、その扉の前には、小山ほどもある超巨大な魔物が立ち塞がっていた。
全身に大理石のような美しい霜降りの模様を浮かび上がらせた、四つ足の巨大獣。その背中には、黒ダイヤのように輝く『神話級のトリュフ』が岩山のように群生している。
第91階層大ボス――『プラチナ・キング・トリュフ・ベヒモス』。
「(来たぞ! プラチナ反応のど真ん中、91階層の門番だ!!)」
トウヤの【神眼】が、その魔物の食材としての価値を瞬時に弾き出す。
「(あいつの肉、生きたまま最高のトリュフの香りを全身の脂肪に蓄えてやがる! ステーキにすれば、一切のソースを必要としない『究極の芳醇霜降り肉』だ!!)」
「(究極の芳醇霜降り肉……!!)」
美食家たちの瞳のハイライトが消え、絶対的な『食欲』だけが灯る。
『グォォォォォォォォォッ!!』
キング・トリュフ・ベヒモスが、神域を揺るがすほどの覇気を放ち、突進の構えを見せた。
もしこれが通常のSランク冒険者パーティーであれば、その重圧だけで心臓が止まり、絶望の中で蹂躙されていただろう。
――だが、彼らは80階層台の『超次元アミューズメント(狂気の魔改造ギミック)』を遊び尽くしてきたバケモノたちである。
無重力や50倍の超重力、次元の歪みや飛来する隕石すらない【純粋な平面での殴り合い】など、彼らにとっては「止まっている的」に等しかった。
「(ギミック無しの純粋な肉弾戦……最高に楽な狩りですわ!!)」
エリスが、神速の踏み込みでベヒモスの正面へと跳躍する。
「(【渾身撃・無振動のトリュフ削ぎ】!!)」
大剣の峰が、ベヒモスの背中に生える極上のトリュフを、傷一つつけずに綺麗に削ぎ落とす。
「(隙だらけだぜ!)」
ジンが、幻影歩法でベヒモスの死角に潜り込み、双短剣で腱を正確に切断して機動力を奪う。
「(ルミナ、マリア! 香りが飛ばないように周囲をパッケージしろ!)」
「(【絶対零度・芳醇封じ】!)」
「(【聖光の穿ち・真空結界】!)」
そして、四肢を崩されたベヒモスの眉間へ、トウヤが流星の如き一撃を放った。
「(肉の旨味は、一滴も逃さねえ!! 【渾身撃・無振動の神肉解体】!!)」
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
ギミック無しの純粋な暴力。それは文字通りの【瞬殺】であった。
キング・トリュフ・ベヒモスは、その芳醇な香りと圧倒的な肉質を完璧に保ったまま光の粒子となり、アイテムボックスへと収納された。
カッ――――!!!!
【第91階層クリア。マナー遵守(無振動解体)ボーナス獲得】
ファンファーレと共に現れた宝箱の中身は、神話級の肉を極限まで美味しく焼き上げるための『神話級・全自動魔導ロースター(極上BBQコンロ究極版)』であった。
「ガッハッハ! これでまた拠点での宴会が捗るな! さあ、この勢いで92階層に降りるぞ!」
「ええ! 次はどんな素晴らしいプラチナ食材が待っているのか、楽しみですわ!」
トウヤたちは、何の苦戦も疲労も(むしろ食いすぎてカロリー過多を)抱えたまま、純白の大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉の先に広がっていたのは、黄金色に輝く見渡す限りの大平原であった。
風が吹くたびに、黄金の稲穂のような草が波打ち、遠くには清らかな湖がエメラルドの輝きを放っている。
第92階層――『神域・黄金の豊穣平原』。
「おおおっ……! これまた、息を呑むほど美しい場所だな!」
ジンが、黄金の草を一本引き抜いて匂いを嗅ぐ。
「すげえ、草から焼きたてのパンみたいな香ばしい匂いがするぞ! ここも間違いなく、丸ごと全部が極上食材だ!!」
「よし、まずは羅針盤でボスの位置を確認して……」
トウヤが、再び『天啓の美食羅針盤』を取り出し、魔力を流し込んだ。
カッ――――!!!!
「「「うおっ!?」」」
次の瞬間、羅針盤の盤面が、91階層の時とは比較にならないほどの【超絶なプラチナの閃光】を放ち、トウヤたちの目を焼いた。
「ま、またかよ!! しかも前より光が強えぞ!!」
トウヤが目を擦りながら叫ぶ。
「見渡す限りの平原に、遮るものなくプラチナ食材(魔物)がひしめき合ってるせいで、羅針盤が完全に【物量オーバーのバグ】を起こしてやがる!! ボスの矢印なんて1ミリも見えねえ!!」
「な、ならばトウヤ様! また羅針盤の光が収まるまで、ここでキャンプをして食べ尽くしますか!?」
エリスが、期待に胸を膨らませてヨダレを拭う。
だが、トウヤは首を横に振った。
「いや、ダメだ。この平原の広さと食材の密度は、91階層の森の比じゃねえ。六人と三匹で集まってのんびりBBQしながら狩ってたら、光が収まるまでに一ヶ月はかかっちまう!」
「一ヶ月! それはいくら何でも満腹になりすぎてしまいますな……」
ガレスがヒゲを撫でて唸る。
「じゃあどうするんだトウヤ? 矢印が見えねえなら、どっちに進んでいいか分からねえぞ?」
ジンが首を傾げる。
トウヤは、ニヤリと不敵な(そして極めて強欲な)笑みを浮かべた。
「簡単だ。俺たちが集まって狩るから時間がかかるんだ。……なら、【手数を増やして】一気に間引けばいい」
「手数を増やす?」
「ああ。俺たち六人と、クー、クロ、リルの三匹。合わせて【9つの独立した戦力】だ」
トウヤは、広大な黄金の平原を指差した。
「みんな、今日からこの階層では『パーティーでの連携行動』を解除する! 1人、あるいは1匹につき、それぞれ別々のプラチナ食材をターゲットにして、平原中に散らばって【単独乱獲】を行うんだ!!」
「「「な、なんだってェェェッ!?」」」
トウヤの狂気的な提案に、仲間たちが驚愕の声を上げる。
迷宮の最深部、神々すら足を踏み入れるのを躊躇う90階層台の神域において、「効率よく狩るためにパーティーを解散して単独行動する」など、正気の沙汰ではない。
「おいおいトウヤ! いくらなんでも神域の魔物をソロで狩るなんて……」
「出来るだろ? お前らなら」
トウヤが、挑発するようにニヤリと笑う。
その一言で、美食家たちのプライドと食欲に火がついた。
「……フッ。当然ですわ。私一人でも、あそこの『プラチナ・ゴールデン・コカトリス』の群れなど、3分で最高の唐揚げ肉にしてみせますの」
エリスが大剣を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
「ヒャッハー! 言ったなトウヤ! 誰が一番多く神話級の肉を狩れるか、競争だぜ!!」
ジンが双短剣をシャキッと鳴らす。
「ガッハッハ! ワシの盾の前に、神域の魔物といえど一歩も通さんわ!!」
ガレスも大盾を地面に叩きつけて咆哮する。
『ピルルルルッ!!』『ワゥッ!!』『キュゥッ!!』
クー、クロ、リルの神獣三匹も、「僕たちも負けないよ!」とばかりに闘志を燃やして毛を逆立てた。
「よし! ならば作戦開始だ!!」
トウヤが、羅針盤を片手に高らかに宣言する。
「それぞれのアイテムボックスが神話級の肉でパンパンになるまで、平原の端から端まで食い尽くしてこい!! 羅針盤の矢印が復活した時点で、俺の『超広範囲・集合の号令』を飛ばす! それまでは……自由行動だ!!」
「「「ウオォォォォォォォォッッ!!!!」」」
その瞬間。
悠久の踏破者たちと神獣たちは、まるで解き放たれたイナゴの大群の如く、黄金の豊穣平原の四方八方へと爆発的なスピードで散開していった。
ズバァァァァッ!! ドゴォォォォンッ!!
平原のあちこちから、神域の魔物たちの悲鳴と、強烈な魔法の爆発音、そして「この肉うめぇぇぇっ!!」という美食家たちの歓喜の雄叫びが上がり始める。
神域の過酷な環境と強大なモンスターという【物量】に対し、自らの超絶な【手数と食欲】で対抗する狂気の『単独乱獲作戦』。
大迷宮の深淵すらも単なる「巨大なバイキング会場」に変えてしまう彼らの歩みは、92階層の生態系に前代未聞のパニック(食材の乱獲)を巻き起こしながら、さらなる絶頂へと向かっていくのであった。




