第168話:【閑話】毒を喰らう悪意と、極上飯でバグった英雄(配達員)たち
### 第168話:【閑話】毒を喰らう悪意と、極上飯でバグった英雄(配達員)たち
大迷宮の底、第90階層と91階層の狭間――『星繋ぎの迎賓館』。
トウヤたち『悠久の踏破者』が、第91階層の神域で「プラチナ食材が多すぎて迷子になる」という贅沢すぎる悩みを抱え、大BBQ大会を開いていた頃。
迎賓館の円卓会議室では、絶対同盟の首脳陣による、極めて深刻な(?)緊急防衛会議が開かれていた。
「――以上が、我が『世界食糧保全機構(配達部隊)』の諜報網が捉えた、非加盟国……聖ヴァリス神聖国およびバルロア残党軍の動向です」
円卓の前に片膝をつき、ファルコンが重々しい声で報告を終えた。
円卓を囲むのは、アルカディア国王ヴィルヘルム、宰相ガルド、魔王ゼノン(田中太一)、そしてミズホの賢者カイト。さらには第五の転生者ケンタの姿もあった。
「……なるほど。バルロア帝国が崩壊する直前に召喚していた『第六の転生者』が、聖ヴァリスに取り入っていたというわけか」
ヴィルヘルム国王が、腕を組んで眉をひそめる。
「はい。その男の名はシオン。厄介なことに、これまでの転生者(ゼノン殿やケンタ殿)とは異なり、トウヤ殿の『極上飯』に対する執着が一切ない、完全な悪意の塊とのこと」
ファルコンが、諜報で得たシオンの能力を明かす。
「奴のチートスキルは【暴食の毒魔王】。触れた食材や水源を全て『致死の猛毒』と『腐敗』に変え、自らはその毒を喰らうことで無限に強くなるという、我が絶対同盟の理念(美食)に真っ向から反する外道です。奴らはこの毒を用いて、大迷宮の浅層の生態系と、我々の『出前ルート』を壊滅させる算段のようです」
その言葉を聞いた瞬間、円卓の空気が凍りついた。
「なんだと……? トウヤ殿の飯を食おうとしないばかりか……食材を、腐らせるじゃと?」
ヴィルヘルム国王の額に、ピキィィッ! と青筋が浮かぶ。
「許せん……! 万死に値する!! トウヤ殿の飯の価値も分からん味覚音痴の分際で、我々の至福のディナータイム(補給線)を脅かそうなどと!!」
「陛下、落ち着いてください。ですが確かに、水源や食材を腐敗させる『毒のチート』は、国家の存亡に関わる脅威です。奴らが毒のキメラ軍団を率いて攻めてくれば、通常の軍隊では……」
ガルド宰相が眼鏡を押し上げながら懸念を口にした、その時。
「――いや、ガルドのおっさん。そこに関しては全く心配いらねえよ」
魔王ゼノン(田中太一)が、無限ドリンクバーのコーラを啜りながら、鼻で笑った。
「ゼノン殿? 心配いらないとは、どういうことですかな?」
「あんたら、自分の今のステータス(強さ)を分かって言ってんのか?」
ゼノンは呆れたように肩をすくめ、円卓の面々を指差した。
「ヴィルヘルムの王様、あんた昨日、83階層の『超重力ジム』で【50倍の重力】の中でベンチプレス上げてただろ? ガルドのおっさんも、89階層の『超次元スポ〇チャ』で【飛んでくる隕石】を卓球のラケットで打ち返してたよな?」
「うむ。食後の腹ごなしには丁度良い運動であったな」
「ええ。魔力コントロールの良き鍛錬ですぞ」
「……その時点で、普通の軍隊の常識から完全に外れてんだよ!!」
ゼノンが机をバンッと叩く。
「いいか!? 今の絶対同盟の首脳陣と、そこで護衛やってる兵士たちはな! 毎日トウヤの【神話級のバフ飯】を腹一杯食って、迎賓館の【チキュウ魔改造アミューズメント】で狂ったように遊んでるせいで、そこら辺のSランク冒険者なんかワンパンで粉砕できるレベルのバケモノに進化してんだよ! 聖ヴァリスのキメラ軍団? あんなもん、王様が玉乗りしながらボウリングの球投げれば一瞬で更地だわ!!」
ゼノンの的確すぎるツッコミに、円卓の面々は「あ、言われてみれば確かに」という顔を見合わせた。
極上飯の摂取と、理不尽な魔改造施設での遊び。それが彼らに、異世界の常識を破壊するほどの絶大な戦闘力をもたらしていたのである。
「確かに、軍隊同士の激突ならば、我々に敗北の二文字はあり得ませんな」
カイトが苦笑しながら頷く。
「しかし、問題はやはり第六の転生者シオンの【致死の猛毒】です。直接的な戦闘力は我々が上回っていても、目に見えない毒や腐敗の瘴気をばら撒かれれば、出前部隊に被害が出るのでは……」
「――それに関しても、ご安心いただきたい」
カイトの懸念を遮るように、部屋の隅で直立不動の姿勢を保っていたサイラスが一歩前に出た。
「サイラス? 対策があるのか?」
「対策というより……我々『配達部隊』の肉体構造に関する、一つの事実の報告です」
サイラスは、真剣な(そして少し血走った)目で語り始めた。
「実は昨日、私はトウヤ殿からの要請で、第91階層の扉の先まで『追加の無限コーラとマヨネーズ』の出前に赴きました。……そこで知ったのですが、90階層台の神域には、通常の人間ならば一呼吸で肉体が崩壊するレベルの【超高濃度の致死性瘴気】が充満しておりました」
「なっ……!? そ、そんな危険な場所に配達に行ったのか!?」
ケンタが驚愕して立ち上がる。
「ええ。ですが……私を含め、同行した配達部隊のメンバーは、その致死の瘴気の中を歩いても【一切のダメージを受けませんでした】」
「「「…………は?」」」
円卓の面々が、揃ってポカンと口を開けた。
「我々は日々、トウヤ殿の神話級食材の余り(まかない)を食し、次元が歪む空間や、50倍の超重力下で『スープを1ミリもこぼさない特訓』を繰り返してきました。その結果……我々の肉体と魔力回路は、いかなる外部からの環境変化(毒、瘴気、重力、次元の歪み)に対しても、自動で【完全な無効化バリア(配達品保護領域)】を展開する仕様へと変異してしまったようなのです」
サイラスは、誇らしげに胸を張った。
「つまり! 第六の転生者が放つ『致死の毒』や『腐敗の瘴気』など、第91階層の神域の瘴気に比べれば、そよ風にも劣る児戯!! 奴がどれだけ毒をばら撒こうが、我々『絶対同盟・配達部隊』の出前を止めることは不可能です!! もちろん、最前線にいるトウヤ殿たちには、微塵も効かないでしょう!!」
会議室に、沈黙が落ちた。
「(……あのさ)」
ゼノンが、ケンタにだけ聞こえる小声で耳打ちする。
「(サイラスの奴ら、もう自分たちだけで第六の転生者ボコボコにできるんじゃねえの? 毒無効で、次元を越えて動けるんだぞ?)」
「(……言わないであげてください。あの人たちのアイデンティティは、あくまで『ウー〇ーイーツ(神の運び屋)』なんです。暗殺者としての本能は、出前を守るためだけに機能してるんですよ)」
ケンタの言う通りであった。
サイラスもファルコンも、自分たちが「世界最強の集団」になっている自覚は全くない。彼らの思考の全ては「いかに完璧な状態で料理を届けるか」に特化しており、シオンを「世界の脅威」ではなく「配達ルートを汚すちょっと厄介な害虫」程度にしか認識していなかった。
「素晴らしいぞサイラス!! 毒が効かぬのであれば、恐れるものは何もない!」
ヴィルヘルム国王が、大声で笑い飛ばす。
「よし、方針は決まった! 我々絶対同盟の軍(と配達部隊)は、聖ヴァリスのキメラ軍団を国境と大迷宮の浅層で完全に足止めする! 水源にはカイト殿の浄化結界を張り巡らせ、奴らの出足を徹底的に遅らせるのだ!」
「では、大元の第六の転生者シオンの討伐は……?」
ガルドが尋ねると、ヴィルヘルム国王はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「奴の相手は、トウヤ殿たち『悠久の踏破者』に任せようではないか。……現在、彼らは90階層台の神域で、プラチナ食材を狩り尽くす大宴会の真っ最中だと聞く。彼らが第100階層を踏破し、迷宮を完全制覇した暁には……」
国王の言葉に、ゼノンも凶悪な笑みを同調させた。
「大迷宮の食材を食い尽くして『地上で美味い飯が食いてえ!』ってなってる美食家たちの前に、『地上の飯を全部腐らせようとしてるムカつく奴』を放り投げてやるってわけだな。……ヒヒッ、えげつねえ。シオンの奴、トウヤたちに文字通り【解体】されるぞ」
「うむ! 我々(とサイラスたち)が出張って倒してしまってもよいのだが、それではトウヤ殿の『食材への執念』を晴らす舞台がなくなってしまうからな。後ほど、出前のついでにこの件をトウヤ殿に報告し、100階層クリア後の【極上のデザート(討伐対象)】として用意しておこう!」
かくして、絶対同盟の首脳陣による防衛会議は、あまりにも余裕すぎる(そしてシオンにとって絶望的すぎる)形で幕を閉じた。
自らの毒を絶対の力と信じ、悪巧みを進める第六の転生者シオン。
だが彼は知らない。自分が喧嘩を売った相手が、50倍の重力下でプリンを守り抜き、91階層の致死の瘴気の中で笑顔でBBQをしている「食欲の化身たち」であることを。
極上飯と魔改造アミューズメントによって、物理法則すら超越した絶対同盟。
彼らの盤石すぎる防衛網に見守られながら、トウヤたちの前人未踏のプラチナ・ラッシュは、さらに加速していくのであった。




