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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第167話:神域のプラチナ・ラッシュと、贅沢すぎる『迷子』のジレンマ

### 第167話:神域のプラチナ・ラッシュと、贅沢すぎる『迷子』のジレンマ

『悠久の大迷宮』第91階層。

80階層台の「チキュウ環境・魔改造ゾーン」という、物理法則と三半規管を破壊するような理不尽ギミックの連続を抜け、トウヤたち『悠久の踏破者』はついに【神域】と呼ばれる90階層台へと足を踏み入れた。

ギギギギギギ……ッ!!

重厚な純白の大扉が開いた先。

そこに広がっていたのは、致死の瘴気が渦巻く階段の禍々しさとは完全に無縁の、息を呑むほどに美しく、清浄な『大自然』であった。

見渡す限りの広大な森。しかし、木々の葉はエメラルドのように透き通り、幹は白金プラチナの輝きを放っている。足元に生い茂る草花からは、嗅ぐだけで寿命が延びそうなほどの芳醇な甘い香りが漂い、遠くを流れる小川の水は、まるで極上の純米大吟醸のようにキラキラと輝いていた。

「な、なんだここは……! チキュウの遊技場みたいな騒がしさが一切ない。ただひたすらに、純粋で美しい大自然だぞ!」

ジンが、エメラルドの葉から滴る朝露(?)を舐め、目を丸くする。

「甘っ!? なんだこの水、極上のハチミツを溶かした天然水みたいだぞ!」

「ジン、驚くのはまだ早いぞ。……羅針盤が示した通りだ。ここは、目に入る全てのものが【プラチナ級の極上食材】で構成された、正真正銘の神域だ」

トウヤが、ゴクリと喉を鳴らして森の奥を見据える。

『ブゴォォォォォォォォッ!!』

森の奥から、エメラルドの木々をなぎ倒して現れたのは、巨大な猪の魔物。

しかし、その体毛はシルクのように白く輝き、牙は純度の高い水晶でできていた。

「(来たぞ! 『プラチナ・シルキー・ボア』! あの猪、全身の脂の融点が人間の体温と同じで、口に入れた瞬間に溶ける究極の豚肉だ!!)」

トウヤの【神眼】が、瞬時に食材の価値を解析する。

「究極の豚肉……!! いただきますわァァァッ!!」

エリスが、ヨダレを拭うことも忘れて大剣を構え、神速で跳躍した。

「【渾身撃・無振動の神豚解体】!!」

ズバァァァァッ!!

ギミック無しの純粋な平面戦闘。それはすなわち、80階層台の超次元特訓で鍛え上げられた美食家たちにとって、「全く手加減なしで全力を出せる」ボーナスステージを意味していた。

エリスの一撃が、水晶の牙の間を完璧にすり抜け、プラチナ・シルキー・ボアを一切の痛覚なく絶命させる。

ドサッ……と倒れた巨大な猪は、一瞬にして光の粒子となり、アイテムボックスが悲鳴を上げるほどの【神話級・極上豚バラブロック】へと変換された。

「ヒャッハー!! こっちには『アヴァロン・アップル・ベア』の群れだぜ!!」

ジンが、双短剣を振るって残像を生み出しながら、エメラルドのリンゴを主食とする巨大熊を次々と解体していく。

「ガッハッハ! この熊の肉、切った側からフルーティーなリンゴの香りと、熟成された赤身の匂いが噴き出してきおるわ!!」

ガレスが大盾で熊の突進を受け止め、カウンターで的確に急所を突く。

ルミナとマリアも、森の奥から飛来する『クリスタル・プラチナ・フェザント(神話級の雉)』を、極大魔法で周囲の木々(※極上スパイスになる葉っぱ)ごと氷結・パッケージングしていく。

「す、すげえ……!! なんだこの階層!! どこを見ても、何を狩っても、全部が大当たり(プラチナ食材)じゃねえか!!」

トウヤは、歓喜の雄叫びを上げながら、自らも剣を振るって次々と神話級の魔物を狩り尽くしていった。

***

――数時間後。

「ふぅ……。いやー、大漁大漁! アイテムボックスの空き容量が、一気に神話級の肉で埋まっちまったぜ!」

トウヤが、大木(※幹からメープルシロップが出る)の根本に腰を下ろし、ホクホク顔で汗を拭う。

「ええ! 本当に素晴らしい階層ですわ! 罠もなければ、雷撃も落ちてこない! ただ純粋に、美味しいお肉たちが向こうから走ってきてくれる天国ですの!」

エリスも、満面の笑みで大剣の手入れをしている。

「よし。じゃあ、そろそろこの階層の『大ボス』か、次の『92階層への階段』を探しに行くとするか」

トウヤは立ち上がり、懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出した。

「これだけ狩ったんだ。ボスの位置や出口の方向くらい、羅針盤を見れば一発で……」

魔力を流し込んだトウヤは、ピタリと動きを止めた。

「……ん? トウヤ、どうした? 針はどっちを指してる?」

ガレスが覗き込む。

トウヤの手の中にある羅針盤。

その盤面は――【一切の隙間なく、全てがプラチナ色の光で塗り潰されていた】。

「……見えねえ」

「は?」

「羅針盤の盤面が、全部プラチナ色に光り輝いてて……針がどこを指してるのか、ボスがどこにいるのか、光の乱反射で全く見えねえんだよ!!」

トウヤの叫びに、仲間たちがギョッとして羅針盤を覗き込む。

確かに、羅針盤は「全方位が超絶プラチナ食材です!」と狂ったように光を放ち続けており、まるで直視できないフラッシュライトのようになっていた。

「ま、マジかよ……! 獲物が多すぎて、逆に探知機が機能不全を起こしてやがる!」

ジンが頭を抱える。

「ピィィッ……(兄貴、僕の鼻でも無理だよぉ……)」

上空から偵察に戻ってきたクーが、目を回しながらトウヤの頭に着地した。

「ピィィ……(森のあっちからも、こっちからも、全部『今までで一番美味しいお肉の匂い』がするの! どっちに一番強いボスがいるのか、全然分からないよぉ……)」

クーの『美味いものを嗅ぎ分ける神獣の嗅覚』すらも、この91階層の【全方位プラチナ・ラッシュ】の前には完全にキャパオーバーを起こしていた。

「な、ならば私が『神眼』で魔力反応の強い場所を探しましょうか?」

ルミナが目を細めて森を見渡すが、すぐに首を横に振った。

「ダメです……。生えている木や草すらも神話級の魔力を放っているので、森全体が巨大な魔力の塊に見えてしまって……遠くの出口やボスの反応がマスキングされています」

「おいおいおい……」

トウヤは、思わず乾いた笑いを漏らした。

「つまり俺たち……【周り全部が美味すぎる極上食材のせいで、出口が分からない迷子】になってるってことか!?」

「なんという贅沢な迷子だ……」

ガレスが、ヒゲを引っ張りながら呆れたように天を仰いだ。

「じゃ、じゃあジン! お前、ちょっと足を使って、この森の外周を走って出口を探してきてくれないか?」

トウヤが、パーティー最速の斥候スカウトであるジンに頼み込む。

「おう! 任せとけ! 匂いや魔力で分からねえなら、俺の足で直接見てくりゃいいだけだからな!」

ジンは、自信満々にブレイクダンスのようなステップを踏むと、神速で森の奥へと姿を消した。

――30分後。

「トウヤァァァァッ!! 見てくれこれ!!」

森の奥から戻ってきたジンは、出口の報告……ではなく。

両手に、自身の体の数倍はある巨大な『ゴッド・和牛・ミノタウロス(神話級の極上霜降り牛肉)』のブロックを抱えて、満面の笑みで帰還した。

「ジン! お前、出口は!?」

「いや、まっすぐ走ってたんだけどよ! 途中で信じられないくらいサシ(脂)の入った美味そうな牛が歩いてたから、思わず狩っちまったんだよ! 見ろよこの霜降り! 芸術だぜ!!」

「アホかァァァッ!! お前まで食欲に負けて(探知機としてバグって)どうするんだよ!!」

斥候すらも、途中で遭遇するプラチナ食材の誘惑に勝てず、寄り道して狩りをしてしまう始末。

「だ、ダメですわトウヤ様……! 私も、あっちの方から『神話級の伊勢海老』のような魔力の気配を感じますの! 出口を探す前に、あれだけは絶対に狩っておきませんと!!」

エリスが、ソワソワしながら大剣を構え直す。

「もう完全に、全員の目的が『踏破』じゃなくて『収穫祭』にすり替わってやがる……!!」

トウヤは、ピカピカと光り続ける羅針盤と、山のように積み上がった極上肉の山を見比べ……そして、フッと毒気を抜かれたように笑い出した。

「ガッハッハ! まあ、いいか!」

「トウヤ?」

「無理に出口を探そうとするから迷うんだ! 羅針盤が『全部プラチナ食材』だって光ってんなら……羅針盤の光が晴れるまで、この階層のプラチナ食材を【全部食い尽くせばいい】だけだろ!!」

トウヤのトンデモない理論(暴論)に、美食家たちの目がカッ! と見開かれた。

「な、なるほど!! 森の食材を半分以上狩り尽くせば、羅針盤の光も落ち着いて、ボスの位置や出口の方向が分かるようになりますわね!!」

「ヒャッハー! 天才かよトウヤ! 要は『腹に入り切るまで狩り続けろ』ってことだな!!」

本来ならば、迷宮の最深部で道に迷うことなど、探索者にとって最大の絶望である。

だが、彼らにとっては違った。

【食材が多すぎて出口が見つからない】というジレンマは、彼らにとって『心置きなくプラチナ食材を狩り尽くすための、最高の言い訳』へと変換されたのである。

「よし! なら今日は、ここで野営キャンプだ!!」

トウヤが、アイテムボックスから【神話級・全天候型タクティカル・テント】を取り出し、一瞬で極上の拠点を設営する。

「今狩ってきた『プラチナ・シルキー・ボア』と『アヴァロン・アップル・ベア』を使って、史上最強の【神域のプラチナBBQ】をやるぞ!! 食って、狩って、光が消えるまで宴会だ!!」

「「「ウオォォォォォォォォッッ!!!!」」」

大迷宮の91階層。

神々すら恐れおののく絶対深淵の森のど真ん中で。

悠久の踏破者たちは、迷子になった焦りなど微塵も感じることなく、世界一贅沢なバーベキューの火を囲み、極上の肉と酒で盛大な宴を始めるのであった。

「あー、美味い! この豚肉、マジで口の中で溶けるぞ!」

「このリンゴ熊の肉も、甘みがあって最高ですわ!」

羅針盤が導く先が見えないのなら、自らの食欲で道を切り開く。

彼らの規格外の歩み(暴食)は、神域の生態系すらもハゲ山に変える勢いで、まだまだ果てしなく続いていく。


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