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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第166話:神域の扉と異常なる美食家たち、そして忍び寄る『暴食』の影

### 第166話:神域の扉と異常なる美食家たち、そして忍び寄る『暴食』の影

『悠久の大迷宮』――第90階層『超次元リゾート・グランドアリーナ』を突破し、ついに人類未踏の絶対深淵たる【90階層台】へと足を踏み入れた『悠久の踏破者』の六人と三匹。

彼らが今歩いている90階層から91階層へと続く下り階段は、もはや「空間」そのものが狂っていた。

大気の代わりに、肺を焼き尽くすほどの高濃度の『致死性瘴気』が満ちており、空間の重圧はただ立っているだけで巨城に押し潰されるほどの負荷プレッシャーを放っている。通常のSランク冒険者であれば、この階段を一段降りた瞬間に肉体が灰と化し、精神が崩壊するであろう、完全なる【死の領域】である。

――しかし。

「いやー、昨日の超次元サーフ&ターフ(大トロ&シャトーブリアン)は最高だったけど、さすがに脂がキツかったな。三十路の胃袋にはちょっとヘビーだぜ」

「トウヤ様は少食ですわね。私など、あの次元玉ねぎと一緒にあと三キロは食べられましたのに!」

「ヒャッハー! 俺はどっちかっていうと、あっさりした『蕎麦』とか『うどん』みたいな麺類をズズッと啜りたい気分だぜ!」

彼らは、そんな致死の瘴気と重圧の中を、まるで近所のコンビニに出かけるような軽装とテンションで歩いていた。

凄まじい瘴気は、彼らの体から無意識に漏れ出す『圧倒的な魔力のオーラ(食後の熱気)』に触れた瞬間に浄化されて消滅し、巨城を背負うほどの重圧も、彼らの【超次元スポ〇チャ】で鍛え上げられた異常な筋肉の前には「ちょっと風が強いな」程度の抵抗にしかなっていない。

クー、クロ、リルの従魔三匹に至っては、満腹で眠いのか、トウヤやガレスの肩に乗って大あくびをしている始末であった。

「まあ、90階層台の極上食材も捨てがたいが、連戦続きで胃袋が『休肝日』を求めてるのも事実だ。今日の狩りはサクッと終わらせて、夜は拠点(星の箱庭)でアッサリ系の海鮮出汁のうどんでも作るか」

「おおっ! 海鮮うどん! それは良いですな!」

ガレスが、ヒゲを撫でながら満面の笑みを浮かべる。

神々すら足を踏み入れるのを躊躇う迷宮の最深部で、繰り広げられるのは「今日の晩飯、こってりかあっさりか」という究極の(?)議論。

人類の限界を超越した最強の探索者たちの中身は、どこまでいってもただの【飯のことしか考えていない美食家モンスター】であった。

そして、和やかな(狂気的な)雑談をしながら階段を下りきった一行は、第91階層の『黒曜石の大扉』の前に到着した。

だが、その扉はこれまでの階層のものとは明らかに異なっていた。

扉の表面には禍々しいレリーフはなく、ただ純白の光を放つ『神の門』のような荘厳さが漂っている。

「さーて。80階層台の『魔改造チキュウ環境』も終わったし、90階層台からはどうなるかな」

トウヤは、少し気を引き締めて『天啓の美食羅針盤』を懐から取り出した。

魔力を流し込むと――。

「「「――ッッ!?」」」

羅針盤を覗き込んだ瞬間、トウヤたちの顔色が変わった。

盤面がおかしいのだ。

これまでは、黄金色やプラチナ色の光の点で食材の位置が示され、青い矢印で環境ギミックが示されていた。

しかし今の羅針盤は、青い矢印が完全に消失し、盤面全体が【眩い虹色のプラチナの光】で埋め尽くされていたのである。

針は折れたように動かず、ただただ強烈な光だけが放たれている。

「トウヤ……これは、どういうことだ? 羅針盤が壊れたのか?」

ジンが、息を呑んで尋ねる。

「……いや、壊れてない。羅針盤は正常に『この先の階層の真実』を映し出してる」

トウヤは、震える手で羅針盤をしまい、大扉をギロリと睨みつけた。

「環境ギミックを示す矢印がないってことは……ここから先は『要塞』とか『無重力』みたいな【小細工ギミックすら存在しない】ってことだ」

「ギミックが存在しない……?」

「ああ。純粋な環境。純粋な魔力。そして……羅針盤の盤面を埋め尽くすほどの虹色の光。……つまり、91階層から先は、そこに生えている草も、流れている水も、徘徊している魔物も……【存在する全てのものがプラチナ級の極上食材(神話級)】という、文字通りの『神域』だってことだ」

「「「――――ッッ!!!!」」」

その言葉の意味を理解した瞬間、美食家たちの全身から、恐怖……ではなく、空前絶後の【食欲の覇気】が爆発した。

「全、全てがプラチナ食材……!! 天国! 天国ですわトウヤ様ァァァッ!!」

エリスが、大剣を握りしめてヨダレを滝のように流す。

「ヒャッハー!! ギミック無しの殴り合いなら俺たちの土俵だ!! 食い尽くしてやるぜ!!」

「ガッハッハ! 胃袋の休肝日など不要! 今日も極上の神肉で大宴会だ!!」

驚愕と緊張は、わずか一秒で狂気的なモチベーションへと変換された。

「よし!! 全ての食材を完璧な鮮度で狩り尽くすぞ!! 行くぞお前ら!!」

トウヤの雄叫びと共に、人類未踏の第91階層の大扉が、轟音を立てて押し開けられた。

***

【閑話:絶対同盟非加盟国の暗躍と、第六の転生者】

トウヤたちが神域へと足を踏み入れた頃。

地上の世界――アルカディア王国から遠く離れた西方に位置する、絶対同盟に加盟していない大国『聖ヴァリス神聖国』の地下深き大聖堂では、極秘の密談が行われていた。

円卓を囲んでいるのは、聖ヴァリス神聖国の教皇、バルロア帝国の崩壊から逃げ延びた残党の将軍、そして水面下で反絶対同盟を掲げる諸国の指導者たちである。

「……忌々しい。実に忌々しい」

教皇が、苛立ちに満ちた声で杖を床に突く。

「アルカディア国王ヴィルヘルムと、地底魔国、さらにはミズホまでが結託した『絶対同盟』。奴らの経済侵略は、もはや留まるところを知らん」

「左様……。我がバルロア帝国も、奴らの【極上飯のデリバリー】という狂気の兵糧攻めによって、兵士から農民まで全ての民が美味い飯に釣られて国を捨て、一滴の血も流さずに崩壊させられた……!」

残党の将軍が、屈辱に顔を歪めて血を吐くように言う。

「奴らの強さの根源は、武力でも魔法でもない。『食』だ。悠久の大迷宮から持ち出される神話級の極上食材と、それを一切の劣化なく世界中に届ける『配達部隊』……。人々の胃袋を掌握された今、我々が武力で宣戦布告しようとも、兵士たちは戦う前にアルカディアへと逃げ出すだろう」

絶望的な空気が円卓を支配する中。

「――クククッ。なんだよおっさん達、たかが『飯』でビビり散らかしてんのか?」

円卓の上座。最も高価な椅子に深く腰掛け、行儀悪く両足をテーブルに乗せている若い男が、嘲笑を漏らした。

黒髪に、傲慢な笑みを浮かべたその男の名は、シオン。

かつてバルロア帝国が召喚した「第五の転生者ケンタ」とは異なる、完全なる悪意を持ってこの世界に降り立った【第六の転生者】である。

「シオン殿……! しかし、奴らの『食』の支配力は異常なのだ。民衆を洗脳するに等しい……」

教皇が冷や汗を流しながら言うと、シオンは鼻で笑った。

「洗脳? そんなまどろっこしいモンじゃねえだろ。単純に『美味いから食ってる』だけだ。……なら、話は簡単じゃねえか。奴らの『飯』を、全部【食えないゴミ】に変えてやればいいんだよ」

シオンが指を鳴らすと、彼の周囲の空間がドス黒い瘴気に包まれ、円卓の上に置かれていた豪勢な果物やワインが、一瞬にしてドロドロの腐敗物に変わり果てた。

「ヒィィッ!?」

指導者たちが悲鳴を上げて後ずさる。

「俺のチートスキルは【暴食の毒魔王グラトニー・ヴェノム】。俺が触れたもの、俺が魔力を込めたものは、全て『致死の猛毒』と『最悪の腐敗』に侵される。……そして俺自身は、その毒に侵された魔物や人間を『味など関係なくただ喰らう』ことで、無限にステータスが向上する能力だ」

シオンは、凶悪な笑みを深めた。

「あいつら『絶対同盟』が、美味い飯で世界を平和にしようってんなら……俺は、世界の水源や、大迷宮の浅層の生態系に俺の『毒』をばら撒いてやる。奴らの極上食材を全て腐らせて、出前部隊とやらの配達経路を毒の沼に沈めてやるよ」

「おお……!! それならば、奴らの食による支配は崩壊する!!」

将軍が、希望の光を見出したように叫ぶ。

「ああ。あいつらが美味い飯を食えなくて絶望してる間に、俺はこの毒で強化した『腐敗のキメラ軍団』でアルカディアを火の海にしてやる。……飯テロだか何だか知らねえが、俺の『毒』と『暴食』の前にひれ伏させてやるよ」

絶対同盟の「美食」と完全に対極に位置する、第六の転生者による「腐敗と毒」の悪巧み。

彼らは、大迷宮から供給される食材ルートを破壊し、出前部隊を殲滅するための凶悪な作戦を練り始めた。

――だが、彼らはまだ知らない。

彼らが標的としているトウヤたち『悠久の踏破者』が、現在、致死の瘴気すら無意識に弾き飛ばすレベルのバケモノに進化していること。

そして、彼らが潰そうとしている『配達部隊』が、隕石を打ち返し、次元の海をサーフィンし、逆さまでローラースケートをしながら出前を運ぶ【物理法則を完全に無視した神の運び屋】に成長していることを。

「ククク……待ってろよ、アルカディア。世界は俺の毒に染まるんだ」

シオンの傲慢な笑い声が地下聖堂に響き渡る。

しかしその悪意は、いずれ「極上飯の平和」を愛する狂気的な美食家たちと、最強のウー〇ー配達員たちの前に、完全なるギャグのごとく粉砕される運命にあるのだった。


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