第164話:超次元の複合魔導アリーナと、流星を打ち返す出前配達員
###第164話:超次元の複合魔導アリーナと、流星を打ち返す出前配達員
『悠久の大迷宮』第88階層――『ファンタジー魔導・星砕きの転球闘技場』。
宇宙スケールのレーンで数トンのマグマ球をぶん投げ、巨大ゴーレムを粉砕する究極の魔導ボウリングを制覇したトウヤたち。
迎賓館で『ビッグバン・ターキー』の丸焼きを喰らい、玉乗りしながら出前特訓をする暗殺者たちを横目に英気を養った彼らは、いよいよ80階層台の最後尾に迫る、第89階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて! 80階層台の魔改造シリーズも、次で最後のアトラクションだ!」
トウヤが、大扉を見上げてニヤリと笑う。
「81階層が要塞、82階層がサバゲー、83階層がジム、84階層がダンス、86階層が遊園地、87階層が水族館、88階層がボウリング。……となれば、この89階層は順当にいって【79階層の魔改造版】が来るはずだ!」
「79階層……卓球やビリヤード、バッティングなど、様々な遊戯が一つになった『複合スポーツ施設』ですわね!」
エリスが、自身の剛腕をさすりながら目を輝かせる。
「チキュウのあの施設でも十分に白熱したが、それが異世界の魔法で魔改造されるとなれば……一体どんな規格外のスポーツになるのか、血が騒ぐぜ!」
ジンも、双短剣をシャキッと鳴らして闘志を燃やしている。
「よし、羅針盤で確認だ」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を取り出す。
盤面の奥には、これまで以上に強烈な黄金色の光と、プラチナ反応が輝いている。そして環境ギミックを示す『青い矢印』は……盤面の中で【光速で跳ね返り、次元の穴を出入りし、時に爆発する】という、完全に法則性を失ったカオスな動きを繰り返していた。
「(……なるほど。チキュウの『某スポ〇チャ』が、完全に超次元のスポーツ空間にバグってやがるな)」
トウヤは羅針盤をしまい、仲間たちを振り返る。
「みんな! どんなにスケールが狂っていようと、各スポーツの『ルール』と『道具を壊さない』というマナーは絶対だ! 全ての施設で最高スコア(ハイスコア)を叩き出して、隠しボスを引きずり出すぞ!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
全員が気合を入れたのを確認し、トウヤは重厚な大扉を両手で押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉が開いた瞬間、彼らの目に飛び込んできたのは、星空のような暗闇の中に、無数の【巨大な魔力結界のドーム】がシャボン玉のように浮遊している光景であった。
それぞれのドームの中では、チキュウのスポーツをベースにした「何か」が、凄まじい轟音と閃光を伴って行われている。
第89階層――『ファンタジー魔導・超次元複合スポーツ空間(アストラル・スポ〇チャ)』。
「お、おい! あそこのバッティングセンターみたいなドーム……飛んでくる球が『隕石』だぞ!?」
ガレスが、目をひん剥いて指差す。
「(やっぱりな! スケールが完全にインフレしてやがる! よし、片っ端から制覇していくぞ!)」
トウヤの号令と共に、一行は最も近いドームへと飛び込んだ。
**【超次元・魔導バッティングエリア】**
「(行きますわよ!!)」
バッターボックスに立ったエリスが、ミスリル製の極太バットを構える。
マシンの穴から射出されたのは、時速数百キロで飛来する燃え盛る【極大火球】。
「(【渾身撃・流星打ち返し】!!)」
カァァァァァァンッッ!!
エリスのバットがメテオを完璧なミートで弾き返し、的である『空中の魔法陣』を次々と粉砕していく。
**【ブラックホール・ビリヤードエリア】**
「(よし、ワシの番だな)」
ガレスが、巨大なキュー(槍のような魔導具)を構える。
台の上に乗っているのは、属性を帯びた『極小の惑星(のような球)』。そしてポケットは、全てを吸い込む【ブラックホール】である。
「(【流転の盾・超重力ブレイクショット】!!)」
ガレスが放った一撃が、白き矮星の球を弾き、連鎖的な衝突を起こして全ての惑星球をブラックホールへと完璧に沈めた。
**【光速の次元卓球エリア】**
「(遅えぜ! 【幻影歩法・次元スマッシュ】!!)」
ジンとトウヤが、空間が歪むコートの中でラリーを繰り広げる。
打つたびに球が【ワープ】し、不規則な軌道で背後や頭上から迫る魔導ピンポン。だが、神眼と超絶反射神経を持つ二人の前では、それすらも極上のエンターテインメントであった。
チィィィィンッ!! 凄まじい衝撃波と共に、最高スコアがシステムに刻まれる。
ピロリロリンッ!!
全施設での圧倒的なハイスコアを達成した瞬間。
空間の中央に位置する『超次元ローラースケート・リンク(メビウスの輪の形をしている)』の中央が割れ、極彩色のオーラを放つ超巨大な魔獣が這い出してきた。
第89階層隠しボス――『アストラル・グランドスラム・ベヒモス(超次元完全制覇の神話級肉)』。
全スポーツの魔力を取り込み、全ての部位が「シャトーブリアン」という規格外の牛型魔獣である。
「(出たぞ!! 隠しボスだ!! リンクの上はルール無用! 一撃で仕留めるぞ!!)」
トウヤの号令が飛ぶ。
「(【絶対零度・メビウス氷結】!)」
ルミナとマリアが、無限に続くリンクの軌道を一瞬で凍り付かせ、ベヒモスの巨体の自由を奪う。
そこへ、トウヤ、ジン、エリスの三人が、ローラースケートの如く氷の上を滑走しながら肉薄した。
「(【渾身撃・無振動グランドスラム一閃】!!)」
三位一体の斬撃が、超次元の魔力を纏ったベヒモスの急所を、一ミリのブレもなく完璧に貫き通した。
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
ベヒモスは、その圧倒的な旨味を細胞に閉じ込めたまま光の粒子となり、超巨大な『神話級・グランドスラム・シャトーブリアンの塊』となってアイテムボックスへと収納された。
カッ――――!!!!
【全施設制覇・隠しボス討伐完了。マナー遵守ボーナス獲得】
壮大なファンファーレと共に現れた宝箱の中身は。
『神話級・アミューズメント増設キット(超次元複合魔導スポーツ・バージョン)』であった。
「ガッハッハ! 今回も完璧なスコアだったな! さあ、帰ってこの究極の牛肉を食い尽くすぞ!!」
トウヤたちは、大量の達成感と極上肉を抱え、意気揚々と拠点へと帰還していった。
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館は、増設されたばかりの『超次元スポ〇チャ』の眩い光と、とてつもない肉の焼ける匂いに満たされていた。
「さあ! 89階層突破記念! 『グランドスラム・ベヒモスの極厚シャトーブリアン・カツサンド』と、『無限チーズと肉汁の特大ナチョス・ギャラクシー』だ!!」
トウヤとレオが、テーブルの上に山のようなカツサンドを積み上げる。
サクサクに揚がった黄金色の衣の中に、信じられないほど分厚い、桜色の極上レア肉が鎮座している。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
ヴィルヘルム国王が、巨大なカツサンドを両手で掴み、豪快に齧りつく。
「――――ッッ!! むおおおおおっ!! な、なんだこの肉の柔らかさは!!」
国王が、あまりの衝撃に目をひん剥く。
「衣のサクッとした食感の直後、肉が抵抗なくフワァッと千切れ、中から星の海のような圧倒的な肉汁と甘みが溢れ出してくるぞ!! カイト殿の特製ソースとマヨネーズが、極上の牛肉のポテンシャルを次元の彼方まで引き上げておる!!」
「うめぇぇぇぇっ!! このナチョスもヤバい!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、チーズの海に溺れたチップスを掻き込みながら絶叫する。
「スポーツで汗を流した後のジャンクフード! これぞまさに『チキュウの放課後』の最強進化系だ!! ビールが! ビールがブラックホールみたいに胃袋に吸い込まれていくぞ!!」
「トウヤさん! このカツサンド、俺の前世の記憶にあるどんな高級店より美味いです! サバゲーの後のミリメシとして、最高傑作ですよ!」
ケンタが、ミリタリー服のままカツサンドを頬張り、感動の涙を流している。
そして、宴もたけなわ。
増設された【超次元複合魔導スポーツエリア】では、異世界の大物たちが新たなる規格外のスポーツに我先にと挑んでいた。
「ふはははっ! 余のバッティングを見よ!!」
ヴィルヘルム国王が、飛来するメテオを王剣でホームランの的に向かって弾き返し、ガルド宰相が「素晴らしいミートですぞ陛下!」と拍手喝采を送っている。
「右ポケットにブラックホール! 角度計算は完璧ですわ!」
四天王のセレスティが、魔法物理学を駆使して超次元ビリヤードを次々とブレイクしている。
しかし、その狂乱の遊び場において、やはり最も「イカれた進化」を遂げている集団がいた。
サイラスとファルコン率いる『世界食糧保全機構(配達部隊)』の精鋭たちである。
「(総員、メビウスの輪に突入しろ!!)」
サイラスが、背中に特製のウー〇ーバッグ(中身は極上の多段重ねプリン・ア・ラ・モード)を背負い、部下たちに号令をかける。
なんと彼らは、上下左右が逆転し続ける『超次元ローラースケートリンク』の上を滑走しながら、同時に【飛来する隕石(バッティングセンターの球)】を躱し、【ワープする魔導卓球の球】を回避するという、全施設のギミックを複合させた『地獄の障害物デリバリー特訓』を行っていた。
「(天地が逆転しようとも! 隕石が迫ろうとも! 魔力による『絶対ジャイロ制御』でプリンのカラメルを1ミリもこぼすな!!)」
ファルコンが、天地逆さまの状態でリンクを滑りながら、飛来するメテオを紙一重で躱して叫ぶ。
「(ハッ! 忍法・超次元ジャイロ・アストラル出前滑走!!)」
シュバァァァァッ!!
空間が歪むリンクの上を、一切の振動なく、完璧な水平を保ったまま疾走する暗殺者たち。その動きはもはや、スポーツの領域を完全に逸脱した『神の運び屋』の舞であった。
「(素晴らしいぞ皆の者!! これで、たとえ魔王軍の総攻撃の最中だろうと、我々は完璧な形のプリン・ア・ラ・モードをお届けできる!!)」
「(ウオォォォォォッ!! 超次元を駆け抜ける出前至上主義!!)」
「…………あいつら、ついに隕石を避けながら逆さまでローラースケートし始めたぞ」
トウヤは、カツサンドを頬張りながら、物理法則を冒涜するレベルでプリンを守り抜く暗殺者たちを遠い目で見つめた。
チキュウの複合施設が超次元の魔導スポーツへと進化し、それを当然のように娯楽と狂気の出前特訓として消費していく絶対同盟の面々。
カロリーと笑い声、そして隕石の砕ける音に満ちた迎賓館の夜は、いよいよ90階層台という真の深淵へ向けて、底抜けの熱狂と共に更けていくのであった。




