第160話:銀河の魔導複合要塞と、ランダム重力下の極限デリバ
### 第160話:銀河の魔導複合要塞と、ランダム重力下の極限デリバリー
『悠久の大迷宮』第84階層――『ファンタジー魔導・星詠み立体舞踏盤』。
空中に浮遊する魔法陣を、エリスとジンに両脇を抱えられて強引に踏み抜くという荒業で、トウヤはリズムゲームのトラウマを(半ば気絶しながら)克服した。極上の『メテオ・クラーケン』を釣り上げ、迎賓館の狂乱の宴を楽しんだ一行は、いよいよ80階層台の折り返し、第85階層の黒曜石の大扉の前に到達していた。
「さーて……ついに85階層、中ボスの部屋だ」
トウヤが、げっそりとした顔で大扉を見上げる。
「81階層からの『異世界魔改造・チキュウ施設シリーズ』。……ここまでの法則から言って、この中ボス部屋は間違いなく【全部乗せ】が来るぞ」
「要塞、サバゲー、超重力ジム、そして空中ダンス……それらが全て融合した魔改造空間ですわね!」
エリスが、ゴクリと喉を鳴らす。
「つまり、50倍の超重力と無重力が入り混じる立体要塞の中で、全方位からの魔力ペイント弾を躱しながら、空中の魔法陣をリズムに合わせて踏まないとペナルティが来るってことか……?」
ガレスが、己の推測に冷や汗を流した。
「ああ、まさにその通りだろうな」
トウヤは『天啓の美食羅針盤』を取り出す。盤面の中央には、これまでで最大級の『プラチナ色』が輝き、環境ギミックの青い矢印は、もはや解読不可能なほど複雑に絡み合い、膨張と収縮を繰り返しながら発光していた。
「だが、心配するな! どんなカオスな環境が来ようとも、俺たちの目的は一つ! 『あの中にいる極上の複合肉(中ボス)を、一番美味い状態で狩る』ことだ!!」
トウヤの力強い宣言に、仲間たちの瞳に闘志(と食欲)の炎が宿る。
「「「了解ッッ!!!!」」」
バンッ!!
トウヤが気合と共に大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉の先に広がっていたのは、文字通り『宇宙の混沌』であった。
視界の半分は燃え盛るマグマと50倍の超重力領域。もう半分は星々が煌めく無重力空間。その境界線上には、禍々しい紫色の魔力回路が走る『星型要塞』が浮遊し、空間の至る所にリズムゲームの『発光する魔法陣』が飛び交っている。
第85階層――『ファンタジー魔導・銀河複合要塞アリーナ(カオス・コンプレックス)』。
「(……やりすぎだろ迷宮のシステム!! 設定盛りすぎで処理落ちしそうになってんぞ!!)」
トウヤは心の中で絶叫した。
『ギャオォォォォォォォォォォッッ!!!!』
空間の歪みから、星雲のような魔力を纏った超巨大な魔獣が顕現した。
第85階層中ボス――『アストラル・キメラ・グランドエンペラー(星詠みの超重力無重力要塞魔竜)』。
タラバガニの魔力装甲を持ち、背中にはバハムートの翼、四肢はベヒモスの超圧縮筋肉、そして触手のように伸びるクラーケンの尾。これまでの80階層台のボスたちの特徴を全て兼ね備えた、究極のキメラである。
「(来たぞ! プラチナ反応のど真ん中だ! ジン、エリス! 今回も俺を運んでくれ!)」
「(任せろ! 無重力と超重力の切り替えに気をつけろよ!)」
「(行きますわよトウヤ様! ワン、ツー、スリー!!)」
ズン・チャッ! ズン・チャッ!
鳴り響く魔導オーケストラの爆音に合わせ、ジンとエリスがトウヤを引っ掴んで跳躍する。
「(右! 無重力エリア!)」
ジンが要塞の壁を蹴り、無重力空間を滑空しながらペイント弾の雨を躱す。
「(次、下! 超重力エリアですわ!)」
エリスが、一気に50倍の重力場へと急降下し、魔力陣を正確なリズムで踏み抜く。
「(うぎゃぁぁぁぁっ!! 重い! 軽い! 酔うゥゥゥッ!!)」
無重力と超重力が秒単位で切り替わる地獄のジェットコースター状態の中、トウヤは三半規管の限界と戦いながら、キメラ魔竜の急所を見定めた。
「(ガレス! ルミナ、マリア! 援護を!)」
「(【流転の盾・重力反発】!)」
「(【絶対零度・星雲氷結】!)」
「(【聖光の穿ち・極太レーザー】!)」
仲間たちの完璧なサポートにより、魔竜の魔力装甲が一時的に麻痺し、急所である眉間の『星のコア』が露わになる。
「(今だッ!! 音楽のフィニッシュに合わせろ!!)」
ジンとエリスが、超重力の底から無重力の頂点へとトウヤを全力でぶん投げる。
「(肉は……俺が食うゥゥゥッ!! 【渾身撃・無振動ギャラクシー・ブレイク】!!)」
トウヤの剣が、宇宙の混沌を切り裂く一筋の流星となり、魔竜のコアを一切の振動なく貫き通した。
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
キメラ魔竜は、その巨大な質量を保ったまま光の粒子に包まれ、最高鮮度の『神話級・銀河複合プラチナミート』となってアイテムボックスへと吸い込まれた。
カッ――――!!!!
【第85階層クリア。フルコンボ・瞬殺・マナー遵守ボーナス獲得】
けたたましいファンファーレと共に現れた宝箱の中身は。
『神話級・アミューズメント増設キット(銀河複合魔導リゾート・究極版)』であった。
「……ぜぇ、ぜぇ……。やった……! これでついに、魔改造ゾーンもクリアだ……!」
トウヤは、床(超重力エリア)に大の字になって安堵の息を吐いた。
「ガッハッハ! 最高の総決算だったぜ! さあ、帰って宴だ!!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館は、増設された『銀河複合魔導リゾート』のカオスな光と、想像を絶する極上飯の匂いに満たされていた。
「さあ! 85階層中ボス突破記念! 『銀河プラチナミートの究極全部乗せメガ盛り丼』だ!!」
トウヤとレオが、洗面器サイズの巨大な丼を円卓にズラリと並べる。
丼の上には、霜降りステーキ、カニ身の天ぷら、イカのバター焼き、そして極厚の豚角煮が、エベレストのようにうず高く盛られ、その上からカイト特製の『黄金マヨ・ショウユだれ』がナイアガラの滝のようにかけられていた。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
「――――ッッ!! な、なんだこの味の銀河系は!!」
ヴィルヘルム国王が、ステーキとカニを同時に掻き込み、雷に打たれたように硬直する。
「それぞれの肉が全く喧嘩しておらん! 噛むほどに、牛の重厚な旨味、カニの芳醇な甘み、イカの磯の香りが、口の中で宇宙のビッグバンの如く弾け飛ぶぞ!!」
「うめぇぇぇぇっ!! このタレがヤバい!! 米が! 米が無限に消えていくゥゥゥッ!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、涙を流しながら丼に顔を突っ込む勢いで掻き込んでいる。
「トウヤさん! このメガ盛り丼、まさにチキュウの『男の夢』の結晶ですよ! 筋トレの後にこれ食ったら、一撃で筋肉が超回復します!!」
ケンタが、ミリタリー仕様の特大スプーンで丼を掘り進めながら歓喜する。
そして、宴もたけなわ。
増設された【銀河複合魔導リゾートエリア】では、異世界の大物たちが早速、新たなるカオス空間での遊び(特訓)に熱狂していた。
「ふはははっ! 重力が変わろうとも、余のスマッシュはブレん!!」
ヴィルヘルム国王が、無重力空間に浮遊する卓球台で、ガルド宰相と超次元のラリーを繰り広げている。
「右! 上! 次は超重力エリアに落下しながらの詠唱ですわよ!!」
四天王のセレスティが、音楽に合わせて空中の魔法陣を踏みながら、魔力制御の限界に挑んでいる。
しかし、その狂乱のエリアにおいて、ひときわ異様なオーラを放つ集団がいた。
サイラスとファルコン率いる『世界食糧保全機構(配達部隊)』の精鋭たちである。
「(総員、聞け!! この『無重力と超重力がランダムに切り替わる空間』……これこそが、大自然の猛威を想定した究極の出前シミュレーターだ!!)」
サイラスが、背中に特製ウー〇ーバッグ(中身は繊細なショートケーキ)を背負い、血走った目で号令をかける。
「(無重力でケーキが浮き上がりそうになった瞬間、魔力で擬似重力をかけろ! そして次の瞬間、50倍の超重力に切り替わったら、自らの体幹で衝撃を吸収し、ケーキの生クリームの形を1ミリも崩すな!!)」
「(ハッ! 忍法・絶対ジャイロ・銀河デリバリー!!)」
ギシィィィッ……! フワッ……!
重力が秒単位で乱高下する地獄の環境下。
ミズホのシノビとアルカディアの暗殺者たちは、顔の毛細血管をブチブチと切らし、時には空中でスピンしながらも、背中の出前箱の中身を「宇宙の真理」のように完璧な水平に保ち続けていた。
「(素晴らしいぞ皆の者!! これさえマスターすれば、次元の狭間だろうが、魔王のブラックホール魔法の中だろうが、我々は完璧なスイーツをお届けできる!!)」
「(ウオォォォォォッ!! 銀河最速の出前至上主義!!)」
「…………あいつら、もうすぐ物理法則の神に喧嘩売るレベルに達するんじゃないか?」
トウヤは、重力の波を完璧に相殺しながらステップを踏む暗殺者たちを遠い目で見つめ、メガ盛り丼を掻き込んだ。
迷宮のヤケクソ気味な魔改造ギミックすらも、最強の娯楽と出前特訓の場として使い倒す絶対同盟。
カロリーと笑顔、そして狂気的な出前術の探求に満ちた迎賓館の夜は、いよいよ迫る90階層台の深淵へ向けて、銀河の星々よりも熱く輝き続けるのであった。




