第159話:立体魔導の星詠み舞踏盤と、空を駆けるダンスホール
### 第159話:立体魔導の星詠み舞踏盤と、空を駆けるダンスホール
『悠久の大迷宮』第83階層――『ファンタジー魔導・超重力筋肉神殿』。
50倍近い超重力という異世界ならではの凶悪な魔改造負荷を、限界を超えた筋肉と食欲でねじ伏せ、極上の『マッスル・ベヒモスの赤身肉』を堪能したトウヤたち。
カロリーを力に変え、休むことなく歩みを進める彼らは、次なる第84階層の黒曜石の大扉の前に到達していた。
だが、大扉を前にしたトウヤの顔色は、超重力階層の時よりも遥かに青ざめ、どん底のような絶望のオーラを放っていた。
「……終わった。俺の異世界スローライフ、ここで終わるかもしれない……」
トウヤが、扉に手をついて崩れ落ちる。
「トウヤ、どうしたんだ? まだ羅針盤も見ていないだろう?」
ガレスが心配そうに声をかけると、トウヤは幽鬼のように振り返った。
「法則性だよ、ガレス……。81階層が要塞、82階層がサバゲー、83階層がジムの魔改造だった。……なら、84階層は順当にいけば、【74階層の魔改造版】が来るに決まってるだろ」
「「「あ……」」」
仲間たちは、74階層での出来事を思い出し、一斉に納得(同情)の表情を浮かべた。
第74階層――『狂乱のネオン舞踏盤』。
音楽の成績が2でリズム感ゼロのトウヤが、ステップを踏み外し続け、ペナルティの雷撃で全身黒焦げのタコ踊りをさせられた、彼にとっての迷宮最大のトラウマ階層である。
「ただでさえ地獄だったリズムゲームが、異世界ファンタジー風に魔改造されるんだぞ……? 絶対に空とか飛ぶじゃん……三次元でステップとか踏まされるじゃん……俺、今度こそ灰になっちまう……」
「ト、トウヤ様! 大丈夫ですわ! どんなステップが来ようとも、私とジンでトウヤ様の両脇を抱えて、完璧なタイミングで空を舞ってみせますの!」
エリスが、胸を張って頼もしく宣言する。
「そうだぜトウヤ! お前はただ、俺たちに身を任せていればいい! 雷撃なんか一本も当てさせねえからな!」
ジンもニッと笑って親指を立てた。
「お前ら……! 頼む、俺を荷物(ウー〇ーバッグ)だと思って運んでくれ!」
仲間たちの熱い励まし(物理的拘束の提案)に、トウヤは涙ぐみながら頷き、決死の覚悟で大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉が開いた瞬間。
ズォォォォォォ……ジャァァァァァァンッ!!
鳴り響いたのは、荘厳なパイプオルガンとフルオーケストラ、そして強烈なEDM(重低音)が融合した、神々しくも激しい音楽であった。
そこは、見渡す限りの広大な虚空。
だが、暗闇の中には無数の『光り輝く魔法陣』が、階段状に、あるいは螺旋を描くように、空中に浮かび上がっては消え、幾何学的なステップの道を作り出していた。
第84階層――『ファンタジー魔導・星詠み立体舞踏盤』。
「(……ほら見ろ!! やっぱり空中に足場が浮かぶ立体リズムゲームになってるじゃねえか!!)」
トウヤは、魔改造の斜め上の方向性に心の中で絶叫した。
「(素晴らしい! 音楽に合わせて、三次元に展開される魔法陣を正確に踏み抜いていくのですね! まるで空を駆ける舞踏会ですわ!)」
エリスが、目をキラキラと輝かせる。
『ピロリロリンッ!!』
開始の合図と共に、アップテンポな魔導オーケストラが加速し、彼らの足元から空中へ向かって、踏むべき魔法陣が次々と明滅を始めた。
間違った場所を踏めば、虚空から容赦ない魔力雷撃が降り注ぐペナルティだ。
「(行くぞトウヤ! 俺たちに掴まれ!!)」
「(ワン、ツー、スリー、ジャンプですわ!!)」
ジンとエリスがトウヤの両腕をガッチリと掴み、猛烈な勢いで空中の魔法陣へと跳躍した。
「(うぎゃぁぁぁぁっ!? 足! 足がもつれる!!)」
「(大丈夫だ! お前の足の代わりに俺たちがステップを踏む! トウヤは空中で足をバタバタさせてるだけでいい!!)」
ジンが、ブレイクダンスの空中スピンを応用し、トウヤを振り回しながら【右・上・左】と完璧なテンポで魔法陣を踏み抜いていく。
『PERFECT!!』という光の文字が空中に弾ける。
「(次はロングトーン(長押し)の滑空ですわよ!!)」
エリスが、大剣をサーフボードのように構え、光の軌跡の上をトウヤを引きずりながら猛スピードで滑っていく。
ガレスは、降り注ぐノーツ(光の矢)を大盾のシールドバッシュで正確なリズムで弾き返し、打楽器のようにビートを刻む。ルミナとマリアは、杖を振って遠くの魔法陣を魔法で撃ち抜き(タップし)、次々とコンボを繋げていった。
異世界最強の身体能力と、圧倒的なリズム感。彼らにとって、この立体舞踏盤は「超高難度の空中戦シミュレーター」であり、最高のエンターテインメントであった。
――両脇を抱えられ、白目を剥いて空を振り回されているトウヤを除いて。
そして、数百コンボ(フルコンボ)を達成し、最上段の巨大な魔法陣に到達した瞬間。
『キュィィィィィィンッ!!』
星空の彼方から、眩いネオンの光を放つ巨大な魔物が降臨した。
第84階層隠しボス――『ダンシング・メテオ・クラーケン(極上アストラル烏賊)』。
十本の触手で空中の魔法陣を同時にタップする、リズムゲームの帝王である。
「(出たぞ!! 隠しボスだ!! トウヤ様、フィニッシュを!!)」
「(おうっ……! 目が回るけど、肉のためなら……!)」
トウヤは、ジンとエリスに投げ飛ばされるようにして空を舞い、クラーケンの眉間へと一直線にカッ飛んでいく。
「(【渾身撃・無振動アストラル・ブレイク】!!)」
音楽のクライマックスのシンバルが鳴り響くのと完全に同時に、トウヤの剣がクラーケンの急所を完璧なリズム(まぐれ)で貫いた。
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
極上のイカは、一切の痛みを感じることなく光の粒子となり、神話級の分厚いイカ身となってアイテムボックスへと収納された。
カッ――――!!!!
【フルコンボ達成・隠しボス討伐完了。マナー遵守ボーナス獲得】
ファンファーレと共に現れた宝箱の中身は。
『神話級・アミューズメント増設キット(立体魔導・星詠み舞踏盤Ver.)』であった。
「……ぜぇ、ぜぇ……。やった、やったぞ……! 雷撃、一発も食らわなかった……!」
トウヤは、床に大の字になって安堵の涙を流した。
「ガッハッハ! 完璧なダンスだったぜトウヤ! さあ、帰ってイカ焼きパーティーだ!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館は、増設されたばかりの『立体魔導リズムゲーム・エリア』から放たれる眩い光と、屋台のイカ焼きの凶悪な匂いに満たされていた。
「さあ! 84階層突破記念! 『メテオ・クラーケンの極厚バター醤油焼き』と『イカ墨の濃厚神話級パスタ』だ!!」
トウヤとレオが、大量のイカ料理を円卓に並べる。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
「――――ッッ!! う、うめぇぇぇっ!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、分厚いイカ焼きに齧りつき、目を見開く。
「なんだこの柔らかさは!? イカ特有の弾力はあるのに、歯を立てた瞬間にサクッと噛み切れる! そして噛むほどに溢れ出す、バター醤油とアストラル(?)の旨味!! ビールが止まんねえええッ!!」
「この『イカ墨パスタ』も絶品ですぞ! 磯の香りと濃厚なコクが、モチモチの麺に絡みついて……お歯黒になっても構わん美味さだ!」
ヴィルヘルム国王が、口の周りを真っ黒にしながらフォークを休めない。
そして、宴の傍ら。
増設された【立体魔導・星詠み舞踏盤エリア】では、異世界の大物たちが新たな娯楽(極限特訓)に熱狂していた。
「右! 上! 斜め前ですわ!!」
四天王のセレスティをはじめとする魔術師たちが、空中に現れる魔法陣をステップで踏み抜きながら、同時に大魔術の詠唱を行っている。
「(空を舞いながらの多重詠唱……! これぞ究極の魔力制御訓練! 楽しい上に実力が跳ね上がりますわ!!)」
「ふはははっ! 余のステップについてこれるか!!」
ヴィルヘルム国王とガルド宰相が、王族の威厳をかなぐり捨てて、EDMに合わせて空中で激しいブレイクダンス(の真似事)を披露し、コンボを重ねている。
しかし、その中でも最も狂気的な執念を見せていたのは、やはりサイラスとファルコン率いる『世界食糧保全機構(配達部隊)』の面々であった。
「(総員、魔法陣の出現パターンを記憶せよ!! これはただのゲームではない! ランダムに発生する【空中の足場】を即座に認識し、飛び移る訓練だ!!)」
サイラスが、背中にウー〇ーバッグ(中身は波々と注がれたイカ墨スープ)を背負いながら、空中の魔法陣から魔法陣へと、凄まじいスピードで跳躍を繰り返す。
「(たとえ足場が空中に散らばっていようとも! 音楽のテンポに合わせて完璧な重心移動を行えば、スープは一滴も揺れない!!)」
「(ハッ! 忍法・絶対ジャイロ・アストラル・ステップ!!)」
配達部隊の精鋭たちは、音楽に合わせて華麗なダンスを踊りながら、背中の出前箱を微動だにさせないという、もはや芸術の域に達した「無振動ダンシング・デリバリー」を確立しつつあった。
「(素晴らしいぞ皆の者!! これで、足場が崩壊していく魔境の城であろうとも、華麗に舞いながら完璧な出前を完了できる!!)」
「(ウオォォォォォッ!! ダンシング出前至上主義!!)」
「…………あいつら、もう迷宮のモンスターよりヤバい動きしてんな」
トウヤは、空中で踊り狂いながらスープを守る暗殺者たちを遠い目で見つめ、イカ焼きを齧った。
自身はトラウマで白目を剥く階層であっても、仲間たちはそれを遊び(あるいは出前の特訓)として心から楽しんでいる。
異世界ファンタジーの魔改造すらも笑顔とカロリーで呑み込み、絶対同盟の宴は、さらなる深淵に向けてステップを刻み続けていくのであった。




