第158話:超重力の魔導筋肉神殿と、潰れない出前箱(ウー〇ーバッグ)
### 第158話:超重力の魔導筋肉神殿と、潰れない出前箱(ウー〇ーバッグ)
『悠久の大迷宮』第82階層――『ファンタジー魔導・無重力立体闘技場』。
チキュウのサバゲーフィールドが異世界ファンタジー風に「無重力の立体空間」へと魔改造された環境を、圧倒的な適応力と三次元機動で踏破したトウヤたち。極上の『無重力ドラゴンステーキ』を宙に浮かせながら食すという奇妙な宴会を満喫した彼らは、次なる第83階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて。81階層が要塞、82階層がサバゲーの魔改造版と来たら……順当に行けば、ここは73階層の『フィットネス・ジム』の魔改造版が来るはずだ」
トウヤが、少し顔を引きつらせながら大扉を見上げる。
「ええ! あの己の肉体を限界まで苛め抜く素晴らしい修練施設が、異世界風にどう進化しているのか、楽しみで仕方ありませんわ!」
エリスが、重剣を片手で軽々と弄びながら目を輝かせた。
「よし、まずは羅針盤で確認だ」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を取り出し、魔力を流し込む。
盤面の奥には、またしても強烈な黄金色の光と、微かに明滅するプラチナ反応(隠しボス)が点灯している。
だが、環境を示す『青い矢印』の動きを見た瞬間、一行は揃って首を傾げた。
「……なんだこの動き。73階層の時は『一定の上下反復』や『円運動』だったが……今回は矢印そのものが、あり得ないほどの【超高速で明滅と収縮】を繰り返しているぞ?」
ガレスが、盤面を覗き込んで唸る。
矢印は、まるで自らの質量を極限まで圧縮するかのように、小刻みに震えながら重苦しい光を放っていた。
「……分からん。チキュウのジムの模倣だとは思うが、異世界版の魔改造がどういう方向に振り切れてるのか全く読めねえ。だが、どんな理不尽が来ても、筋肉と食欲で叩き潰すだけだ!」
トウヤが気合を入れ、両手で大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉が開いた瞬間。
「「「――ッッ!?」」」
踏み出した彼らの全身に、目に見えない『凄まじい重圧』がのしかかった。
「お、重い……! なんだこの異常な重力は! 足が地面にへばりつくようだぞ!」
ジンが、膝をガクンと折って歯を食いしばる。
そこは、見渡す限りの荒涼とした大地……でありながら、空には巨大な『魔力の魔法陣(重力制御陣)』が幾重にも展開され、大地には神々しい光を放つ【超巨大な魔導鉄製のトレーニング器具】が、遺跡のようにズラリと並んでいた。
背景には燃え盛る火山と、吹き荒れる吹雪が混在し、究極の負荷をかけるためだけの過酷な環境が形成されている。
第83階層――『ファンタジー魔導・超重力筋肉神殿』。
「(……なるほどな。迷宮のシステムさんよ。ファンタジー世界の筋トレって言ったら、やっぱり【重力魔法】で負荷をかけるのが王道だもんな!!)」
トウヤは、あまりのコテコテな異世界アレンジに心の中で盛大にツッコミを入れた。
『ゴゴゴゴゴォォォッ!!』
地響きと共に、超重力環境下で鍛え上げられた魔物たちが姿を現した。
全身がミスリル並の硬度とゴムのような弾力を持つ『グラビティ・マッスル・ゴーレム』。そして、大地の重力そのものを操る巨大な牛の魔物『メテオ・ストライク・タウロス』。
「(みんな、ルールは73階層と同じだ! ここにある魔導器具を使って決められた回数をこなしつつ、敵の攻撃を己の筋肉だけで凌げ! 魔力による身体強化は禁止だが、この超重力下なら、一回動くだけで前回の数十倍の負荷がかかるぞ!!)」
「(ヒャッハー!! 望むところだぜ!!)」
ジンが、超重力で鉛のように重くなった体を気合で動かし、『魔導ランニングマシン(床から無数の溶岩の棘が飛び出してくる仕様)』の上を猛烈なスピードでダッシュし始める。迫り来るゴーレムの剛腕を、超重力下でのスレスレのステップで躱し、双短剣を叩き込む。
「(素晴らしい負荷ですわ!! これぞ真のパンプアップ!!)」
エリスは、通常の百倍近い重力がかかった『メテオ・ベンチプレス』の台に仰向けになり、突進してくるタウロス(体重数十トン)を、大剣の腹で真正面から受け止めた。
「(ふんぬぅぅぅぅッ!!)」
バキィィィィンッ!!
己の腕力と大胸筋の力だけで、巨大な牛の魔物をベンチプレスのバーベルごと空の彼方へ弾き飛ばす。
「(フッ、重力が何倍になろうと、ワシの盾の構えは崩れん!)」
ガレスは、降り注ぐ隕石(のような重力魔法弾)を『タイヤフリップ』の要領で次々と弾き返し、ルミナとマリアは超重力下での精密な魔力コントロール(心肺機能の極限状態での詠唱)をこなしながら、的確に魔物の関節を撃ち抜いていく。
極限の負荷と、それに比例して跳ね上がる圧倒的な身体能力の向上。
彼らは超重力という新たなスパイスを完璧に消化し、魔導マシンを次々と踏破していった。
そして、全マシンの制覇条件を満たした時。
大地が割れ、階層の中央から桁違いの重力を纏った巨大な魔獣が這い出してきた。
第83階層隠しボス――『超重力帝王・マッスル・ベヒモス(極限圧縮の神話級赤身肉)』。
「(来たぞ! プラチナ反応! あの異常な重力で圧縮された肉……絶対に極上の弾力と旨味が詰まってるはずだ!!)」
トウヤが叫ぶ。
「(一撃で仕留めますわ!! トウヤ様!!)」
「(ああ!!)」
トウヤ、エリス、ジンの三人が、超重力環境に完全に順応した【極限の無振動歩法】で、地を滑るようにベヒモスの懐へと潜り込む。
ベヒモスが重力波の咆哮を放とうとした瞬間。
「(【渾身撃・無振動グラビティ・ブレイク】!!)」
三位一体の斬撃が、ベヒモスの急所を一切の痛覚を与えることなく、完璧な刃筋で貫き通した。
ズバァァァァァァァァッッ!!!!!
ベヒモスは、その場に音もなく崩れ落ち、絶対零度パッケージングによってアイテムボックスへと収納された。
カッ――――!!!!
【全魔導施設制覇・隠しボス討伐完了。マナー遵守ボーナス獲得】
壮大なファンファーレと共に現れた宝箱の中身は。
『神話級・アミューズメント増設キット(超重力・ファンタジー魔導ジム版)』であった。
「ガッハッハ! 完璧な修練だったな! 重力がキツかった分、めちゃくちゃ腹が減ったぜ!」
「ええ! 早く拠点に帰って、この極上の赤身肉を堪能しましょう!」
トウヤたちは、大量の筋肉痛と達成感、そして極上肉を抱え、意気揚々と拠点へと帰還していった。
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館は、増設されたばかりの『超重力ジムエリア』の禍々しい光と、とてつもない肉の焼ける匂いに満たされていた。
「さあ! 83階層突破記念! 『マッスル・ベヒモスの極厚レアステーキ丼(ガーリック醤油ソース)』だ!!」
エプロン姿のトウヤとレオが、洗面器ほどもある巨大な丼を円卓にズラリと並べる。
丼の上には、超重力で鍛え抜かれた究極の赤身肉が、山のようにお高く積み上げられていた。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
「――――ッッ!! な、なんだこの肉の弾力は!!」
ヴィルヘルム国王が、ステーキを一枚口に放り込み、驚愕に目を見開く。
「噛みちぎるたびに、肉の繊維から濃密な旨味のジュースが溢れ出してくる! 霜降りの脂とは違う、純粋な『肉の力強さ』が脳を直撃するぞ!!」
「うめぇぇぇっ!! ガーリックと醤油のタレが染み込んだ白飯と一緒に掻き込むと、手が止まらねえ!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、丼を片手に獣のように肉と飯を貪り食う。
「トウヤさん! この『無限プロテイン・スムージー(イチゴバナナ味)』も最高ですよ! 筋トレの後の体に、甘さが染み渡ります!」
ケンタが、ジョッキサイズのシェイカーを呷りながら歓喜する。
そして、宴が盛り上がる中。
増設されたばかりの【超重力・ファンタジー魔導ジムエリア】では、異世界の大物たちが早くも狂気の特訓を開始していた。
「ふんぬぅぅぅッ!! 余の筋肉よ、10倍の重力に耐え抜いてみせよ!!」
ヴィルヘルム国王が、王冠を脱ぎ捨ててメテオ・ベンチプレスに挑んでいる。
「ガッハッハ! 王様、まだまだ甘いぜ! 俺は20倍だ!」
魔王ゼノンが、魔界の闘気を全開にして隣のマシンで汗を流す。
しかし、その中でも群を抜いて異様な光景を展開していたのが、サイラスとファルコン率いる『世界食糧保全機構(配達部隊)』の精鋭たちであった。
「(総員、重力制御陣の出力を最大(50倍)に設定しろ!!)」
サイラスが、血走った目で号令をかける。
「(我々は今日、この超重力下において、【背中のウー〇ーバッグの中の特製プリン】の形を1ミリも崩さずに歩行する訓練を行う!!)」
「「「な、なんだとォォォッ!?」」」
周りで特訓していた王たちが、その狂気的な内容に思わず動きを止める。
「(ファルコン殿! 50倍の重力下では、自らの体重を支えるだけでも骨が軋みます! しかもプリンのような繊細なスイーツを……!)」
「(だからこそだ!! 外部からの理不尽な重力(G)の変動を、自らの体幹と魔力による『逆重力クッション』で完全に相殺する!! これを極めれば、竜のブレスの衝撃波の中だろうが、ブラックホールの真横だろうが、我々は完璧なデザートを届けることができる!!)」
「(ウオォォォォォッ!! プリン死守!! 出前至上主義!!)」
ギシィィィィッ……!!
50倍の超重力空間。足元の魔導鉄の床がメリメリと凹む中、ミズホのシノビやアルカディアの暗殺者たちが、背中の保温バッグを微動だにさせず、信じられないほどのすり足でジワリ、ジワリと前進していく。
彼らの顔は苦痛に歪み、毛細血管が切れそうになっているが、その瞳は「極上飯の配達」という神聖な使命への熱狂に満ちていた。
「…………相変わらず、あいつらの進化のベクトルは次元が違うな」
トウヤは、特大のステーキ丼を掻き込みながら、超重力下でプリンを守るために命をかける暗殺者たちを眺めて笑った。
チキュウの知識と異世界ファンタジーの魔改造。
迷宮がもたらす理不尽な環境すらも、最強のスパイスとして喰らい尽くし、絶対同盟の面々は己の欲望(食欲)のためにさらなる高みへとパンプアップしていく。
笑顔と汗と、カロリーの暴力に満ちた迎賓館の夜は、次なる未知の深淵へ向けて、さらなる熱を帯びていくのであった。




