第157話:無重力(ゼログラビティ)の立体魔導闘技場と、宙を舞う出前部隊
### 第157話:無重力の立体魔導闘技場と、宙を舞う出前部隊
『悠久の大迷宮』第81階層――『ファンタジー魔導・星型要塞』。
チキュウの合理的な要塞建築と、異世界の禍々しいファンタジー要素が「魔改造」されて融合したカオスな階層。それを持ち前の超絶フィジカルとサバゲー戦術で難なく突破し、極上の『究極タラバガニ』と『神竜スッポン』を味わい尽くしたトウヤたち。
十分な休息とカロリー補給を終えた一行は、次なる未知の領域、第82階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて。81階層が71階層(要塞)の魔改造だったってことは、順当にいけば今回は72階層の魔改造……つまり『サバゲーフィールド』のファンタジー版が来るはずだ」
トウヤが、大扉を見上げながら推測を口にする。
「ええ! 前回は平地での撃ち合いでしたが、魔改造されるとなれば、どんなギミックが追加されるのか楽しみですわ!」
エリスが、重剣の柄を握りしめてワクワクとした笑みを浮かべる。
「よし、まずは羅針盤で確認してみよう」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を取り出し、魔力を流し込む。
盤面の奥には、81階層同様に強烈な黄金色の光と、微かに明滅するプラチナ反応(隠しボス)が見えた。
だが、環境を示す『青い矢印』の動きを見た瞬間、トウヤたちは首を傾げた。
「……なんだこれ? 矢印が、盤面から『空中に浮き上がって』立体的(3D)に絡み合ってるぞ?」
ガレスが目を細める。「うむ……ただの迷路や障害物ではないな。矢印が上下左右、空間そのものを無軌道に飛び交っているように見える。サバゲーの模倣にしては、動きが複雑すぎるぞ」
「……分からん。チキュウのサバゲーでも、こんな異常な動きをするフィールドは見たことがねえ。だが、迷宮の考える『魔改造』だ、何が来てもおかしくない。……行くぞ!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
トウヤが気合と共に大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉の先に広がっていたのは、星空のように輝く神秘的な『宇宙空間(のような暗闇)』であった。
そして、その広大な虚空には、大小様々な形の「岩の島」や「クリスタルの壁」が、重力を完全に無視してプカプカと無数に浮遊していた。
「な、なんだここは!? 足元が……浮いてるぞ!」
ジンが、最初の一歩を踏み出した瞬間、自分の体がふわりと宙に浮き上がるのを感じて声を上げる。
第82階層――『ファンタジー魔導・無重力立体闘技場』。
「(……なるほどな。迷宮のシステムさんよ、やりたいことは完全に理解したぜ)」
トウヤは、その光景を見て確信した。
(チキュウのサバゲーは平面での撃ち合いだが……「異世界ファンタジーなら、魔法で無重力にして三次元の空中戦にした方が絶対面白いだろ!」っていう、迷宮側の完全なドヤ顔アレンジだ!!)
『ピギィィィッ!!』
浮遊するクリスタルの裏側から、魔物たちが姿を現した。
全身が背景の星空に溶け込むようにカモフラージュされた『ステルス・ガーゴイル』や、鮮やかな極彩色の翼を持つ『マジック・ペイント・ワイバーン』。
彼らの口や手からは、実弾ではなく、当たると弾けて塗料になる『魔力ペイント弾』が放たれる準備がされていた。
「(みんな、ルールは72階層のサバゲーと同じだ! ペイント弾を当てて『ヒット(死亡判定)』を取れば、肉がノーダメージでドロップする! ただし今回は無重力だ! 浮遊岩を蹴って三次元で立ち回れ!)」
「(ヒャッハー! 最高にイカれたフィールドじゃねえか!!)」
ジンが、近くの浮遊岩を力強く蹴り飛ばす。
その反動で、ジンの体はロケットのように無重力空間を一直線にカッ飛び、ワイバーンの頭上を通り過ぎる瞬間に、手にしたペイント・サブマシンガンを乱射した。
パシャパシャパシャッ!!
ワイバーンにピンク色の塗料が命中し、光の粒子となって『神話級・極上地鶏の骨付き肉』が宙にぽっかりと浮かび上がった(ドロップした)。
「(素晴らしい機動力ですわ! ならば私は、あちらの群れを!)」
エリスが、巨大な大剣の【風圧】をスラスター(推進力)代わりに利用し、空中で見事な軌道変更を行いながら、ガーゴイルたちにペイント・ガトリングガンの弾幕を浴びせる。
「(フッ、無重力ならば盾の質量も関係ない!)」
ガレスは、大盾を構えたまま岩から岩へと跳弾のようにバウンドし、敵のペイント弾を完全に防ぎながらクリアリングを行っていく。
ルミナとマリアも、空中に魔法の足場(氷や光の板)を一瞬だけ生成し、そこから狙撃を行うという、異世界ならではの立体魔導狙撃術を披露した。
「(よし、このまま最深部の隠しボスまで突き進むぞ!!)」
トウヤたち異世界最強の美食家たちは、無重力という未知の環境すらも「最高に楽しいアトラクション(狩り場)」として完全に適応し、宙を舞いながら極上肉を乱獲していった。
そして、最深部の巨大な浮遊クリスタルの裏側。
隠しボスの出現条件である「フィールド内の全ギミック・ターゲットの連続射抜き」を達成した瞬間。
『グオォォォォォォォォッ!!』
星空の虚空から、虹色に輝く巨大な竜が顕現した。
第82階層隠しボス――『ゼログラビティ・ペイント・バハムート(無重力魔彩竜)』。
「(来たぞ! プラチナ反応だ! あいつの肉、絶対に美味い!!)」
「(トウヤ様! 私とジンで上下から射線を切りますわ!)」
「(任せろ!)」
ジンとエリスが、無重力空間をクロスするように交差し、バハムートの意識を上下に分散させる。
その隙を突き、トウヤが最大の浮遊岩を蹴って、光の矢のように正面から突貫した。
「(当たればいいんだろ……! 【渾身撃・無振動ペイント一閃】!!)」
トウヤの剣先から放たれた極限圧縮された魔力ペイント弾が、バハムートの眉間に寸分の狂いもなく命中した。
【ヒット判定――隠しボス討伐完了。マナー遵守ボーナス獲得】
バハムートの巨体が光に包まれ、後には巨大な『プラチナ級・無重力ドラゴンステーキ肉』がフワフワと宙に浮いた。
カッ――――!!!!
ファンファーレと共に現れた宝箱の中身は、当然のように。
『神話級・アミューズメント増設キット(無重力立体魔導サバゲー・バージョン)』であった。
「ガッハッハ! やっぱりか! 迷宮の奴、また俺たちの拠点に新しい遊び場をプレゼントしてくれやがった!」
トウヤは、空中に浮かぶ極上肉をアイテムボックスに回収しながら、呆れ半分、歓喜半分で笑い声を上げた。
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館の大宴会場は、トウヤたちが持ち帰った未知なるプラチナ食材の調理によって、かつてないほどの熱気に包まれていた。
「さあ! 82階層突破記念! 『ゼログラビティ・バハムートの極厚無重力ステーキ』だ!!」
トウヤが、巨大な鉄板に乗せたステーキを円卓の中央に運んでくる。
その肉は、なんと自らの力で【皿の数センチ上をフワフワと浮遊している】という、摩訶不思議な状態であった。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
ヴィルヘルム国王が、浮遊する肉片をフォークで素早く捕まえ、口に放り込む。
「――――ッッ!! な、なんだこの食感は!!?」
国王の瞳孔が極限まで見開かれた。
「肉を噛んだはずなのに、重さを全く感じない! まるで雲のように口の中でふんわりと溶け、その直後に、濃密なドラゴンの旨味と肉汁が爆発するように広がっていくぞ!!」
「こ、これは凄いですよ兄弟!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、コーラを片手に涙を流す。
「チキュウの綿飴みたいな軽さなのに、味は超ド級のステーキ! しかも、ガーリックとカイトのショウユが完璧に染み込んでやがる!! 胃袋に重さが来ないから、マジで無限に食えちまう!!」
「この『ステルス・ガーゴイル』の肉を使った、極厚サムギョプサルも絶品ですわ!」
四天王のセレスティが、サンチュに肉とマヨネーズを包んで無我夢中で頬張っている。
そして、宴もたけなわ。
増設されたばかりの『無重力サバゲーエリア』では、第五の転生者ケンタと、絶対同盟の面々が大興奮で宙を舞っていた。
「ヒャッハー! スペース・ウォーズ(宇宙戦争)だ!! チキュウのVRゲームでもこんなリアルな無重力体験はできねえぞ!!」
ケンタが、三次元に浮かぶバリケードを利用しながら、ペイント弾を乱射する。
「ガッハッハ! ケンタ殿、上からの死角がお留守ですぞ!!」
ガルド宰相が、魔法の反動を利用してロケットのように急降下し、見事な一撃を決める。
しかし、その狂乱の遊び場において、最も異様な執念を燃やしている集団がいた。
サイラスとファルコン率いる『世界食糧保全機構(配達部隊)』の精鋭たちである。
「(総員、姿勢制御を怠るな!! 無重力空間では、スープの表面張力だけが頼りだ!!)」
サイラスが、背中にウー〇ーバッグを背負いながら、空中でヨーヨーのようにクルクルと回転しつつ叫ぶ。
「(少しでも衝撃を与えれば、スープが球体となって空中に飛散してしまうぞ! 出前を浮遊させるな! 常に自らの魔力で【擬似重力】を箱の底に発生させ、料理を皿に定着させるのだ!!)」
「(ハッ! 忍法・絶対ジャイロ・無重力出前防衛!!)」
ミズホのシノビたちが、空から降り注ぐペイント弾をスラスター移動で躱しながら、背中の箱の中身(熱々のラーメン)をミリ単位の魔力コントロールで『完全な水平と重力』に保ち続けるという、物理法則を冒涜するような特訓を行っていた。
「(これさえマスターすれば……我々はついに、大気圏外へのお届け(デリバリー)すら可能になる!!)」
「(ウオォォォォォッ!! 宇宙最速の出前部隊!!)」
「…………相変わらず、あいつらの目的意識はバグり散らかしてんな」
トウヤは、宙を舞いながら特訓に励む暗殺者たちを遠目に見ながら、無重力ステーキをパクつき、コーラで流し込んだ。
迷宮の神設計(魔改造)がもたらした未知の環境すらも、極上の飯のスパイスにし、配達部隊の狂気的な進化を促す絶対同盟。
誰もが笑顔でカロリーを摂取し、消費する。この規格外の宴は、次なる深淵への英気を養いながら、夜更けまで和やかに、そしてカオスに続いていくのであった。




