第156話:魔改造された星型要塞と、迷走する迷宮の『異世界ファンタジー増設パック』
### 第156話:魔改造された星型要塞と、迷走する迷宮の『異世界ファンタジー増設パック』
『悠久の大迷宮』第80階層――『大遊戯の終焉魔竜』。
トウヤの致命的な弱点である「歌唱」のギミックを見事に忖度(回避)してくれた迷宮の神設計により、純粋な武力と連携の総決算で大ボスを瞬殺した『悠久の踏破者』の六人と三匹。
激戦を越え、迎賓館での史上最大の宴会とカラオケ大会(トウヤは不参加)を満喫した一行は、いよいよ未踏の深淵、第81階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて! 80階層の大台も越えたし、70階層台の『チキュウ環境ゾーン』はこれでおしまいだろうな!」
トウヤが、ホッと肩の荷を下ろしたように大きく伸びをする。
「チキュウの理不尽なアミューズメント施設には冷や汗をかかされたが、ここからはまた、ファンタジーらしい純粋な大自然や遺跡の階層に戻るはずだ!」
「ええ! 私も、そろそろ普通の大草原や地底湖で、純粋な魔物狩りを楽しみたい気分ですわ!」
エリスも同意して微笑む。
「よし、まずは羅針盤で環境と食材の確認だ」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を取り出し、魔力を流し込んだ。
盤面には、奥深くに強烈な『黄金色』と、いくつかの『プラチナ色』が点灯した。食材の質は80階層台に入り、さらに跳ね上がっているようだ。
しかし、問題は環境ギミックを示す『青い矢印』であった。
「……ん? この矢印の動き……」
ジンが眉をひそめる。
矢印は、盤面の中で「ジグザグ」と直角に曲がりながら進む軌道を描いている。それは間違いなく、第71階層で経験した【星型要塞】の動きであった。
だが、今回はそれだけではない。ジグザグに動きながら、時折「空中に浮かび上がる」ような三次元的な立体軌道を描いているのだ。
「トウヤ……これ、71階層の要塞に似てるが、もっと立体的で複雑だぞ?」
ガレスが訝しげに羅針盤を覗き込む。
トウヤの顔に、再び嫌な予感がよぎった。
「(おいおい……まさか迷宮の奴、チキュウの施設をまだ引きずってやがるのか……?)」
トウヤは覚悟を決め、大扉を力強く押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉の先に広がっていたのは、確かに『星型要塞』であった。
……だが、その外観は、トウヤの知る地球の無機質なレンガ造りの要塞とは似て非なるものへと【魔改造】されていた。
漆黒の魔石で築かれた城壁、無駄にトゲトゲしい禍々しい装飾、壁の表面を流れる紫色の魔力回路。そして、要塞の一部は重力を無視して空中に浮遊し、魔法のバリアで連結されている。
第81階層――『ファンタジー魔導・星型要塞(異世界アレンジVer.)』。
「な、なんだここは!? 71階層の要塞の形をしているが……やたらと禍々しくてカッコいいぞ!」
ジンが目を輝かせる。
トウヤは、その光景を見て盛大に天を仰いだ。
(完全に迷宮が『チキュウの要塞の構造(死角のない十字砲火)』の合理性に感化されつつも、「ウチのファンタジー要素を混ぜた方が絶対カッコいいし強いだろ!」ってドヤ顔でアレンジしてきやがった!!)
『グオォォォォォォッ!!』
浮遊する城壁の上から、凄まじい魔力を纏ったモンスターたちが姿を現した。
「(来たぞ! 敵も魔改造されてやがる!!)」
トウヤの【神眼】が解析を行う。
現れたのは、第71階層のタラバガニとスッポンの上位互換。
全身を漆黒の魔力装甲で覆った『魔導城塞・エンペラークラブ(究極タラバガニ)』と、空を飛ぶ『浮遊城壁・バハムートタートル(神竜スッポン)』であった。
「(装甲の硬度も魔力も段違いだ! だが、中身は神話級をさらに超える『究極の極上肉』だぞ!!)」
「(望むところですわ!! 70階層台の【マッスル・ジム】で鍛えた筋力と、【サバゲー】で培った戦術……今こそ見せてやりますの!!)」
エリスが、自身の身の丈ほどもある大剣を構え、凶悪な笑みを浮かべた。
戦闘が開始される。
魔改造された要塞からの全方位魔力砲火。だが、サバゲーの【パイ切り(カッティング・パイ)】と制圧射撃の概念を完全に修得した彼らにとって、死角からの攻撃などすでに対策済みであった。
「(ガレス、右上の浮遊砲台を弾き返せ! ジン、左の死角からフランク(側面攻撃)だ!)」
トウヤの的確なタクティカル指示。
「(承知!! 【流転の盾・魔導反射】!)」
「(ヒャッハー! 【幻影歩法・空中制圧】!!)」
ガレスが大盾で魔力弾をビリヤードのように反射して防衛網に穴を開け、ジンが空を蹴ってバハムートタートルの頭上を取り、双短剣で急所の隙間を神速で貫く。
そして、正面から突撃してくるエンペラークラブの漆黒の装甲に対し、エリスがジムで鍛え上げた大胸筋と背筋を爆発させた。
「(装甲を壊さず、中身だけを抜く……! 【渾身撃・超絶無振動の蟹身抜き】!!)」
スッ……!!
エリスの大剣が、分厚い魔力装甲の関節の「1ミリの隙間」を音もなく通過し、中身の極太の蟹肉だけを綺麗に切断して抜き取った。
ズバァァァァッ!!
装甲に一切の傷をつけることなく、中身だけを狩り尽くす究極の解体術。
魔改造された凶悪な要塞とモンスターたちも、極限まで仕上がった美食家たちの前では、単なる「ちょっと豪華な生け簀」に過ぎなかった。
カッ――――!!!!
大ボスの討伐を知らせる純白の光の柱が打ち上がる。
ファンファーレと共に現れた宝箱の中に入っていたのは……。
『神話級・アミューズメント増設キット(異世界ファンタジー魔改造・拡張パック)』であった。
それを見たトウヤは、思わず苦笑した。
(やっぱりか……! 迷宮の奴、俺たちが増設キットを喜んでるのを見て、「こういうファンタジー風のデザインも好きだろ?」って追加で押し付けてきやがった! 完全に迷走してるぞ!)
「ガッハッハ! トウヤ、また迎賓館の遊び場が豪華になるな!」
「ええ! 早く帰って、この究極のカニとスッポンを食べながら、新しい施設を見に行きましょう!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館は、トウヤたちが持ち帰った『究極のタラバガニ』と『神竜スッポン』の黄金スープの香りに包まれていた。
「……う、美味すぎる!!」
魔王ゼノンが、漆黒の甲羅から取り出された透き通るような蟹身を頬張り、絶叫する。
「前の要塞ガニも最高だったが、こっちは旨味の次元が違う! 噛んだ瞬間に、魔力の波動みたいな甘味が脳を直接揺さぶってくるぞ!!」
「このバハムートタートルのスープも異常ですぞ! 一口飲んだだけで、寿命が百年は延びたような生命力が湧き上がってきます!」
ガルド宰相が、黄金色のスープを飲み干して顔を真っ赤にしている。
「さあ! 腹ごしらえが済んだら、新しく増設されたエリアを見てみようぜ!」
トウヤの案内に従い、絶対同盟の面々が迎賓館の奥へと進むと。
そこには、既存のチキュウの施設が【異世界ファンタジー風に魔改造】された、カオス極まる空間が広がっていた。
「おおっ!? サバゲーのCQBフィールドが、禍々しい魔王城みたいなデザインになってるぞ!?」
ミリオタのケンタが、漆黒のレンガと紫色のネオンで彩られたフィールドを見て目を輝かせる。
「しかも、バリケードが自動で動いたり、ランダムで魔法の霧が発生したりするギミックが追加されてる! これ、チキュウじゃ絶対にできない究極のサバゲーフィールドだ!!」
「こっちのフィットネス・ジムもすごいことになってますわよ!」
四天王のセレスティが指差す先には、ダンベルが『封印された魔剣』の形をしていたり、ランニングマシンが『炎の海の上に架かる極細の橋』の映像を投影するVR仕様になっていたりした。
「ガッハッハ! 魔王城でサバゲー! 炎の海で筋トレ! こいつは燃えるぜ!!」
ヴィルヘルム国王と魔王ゼノンが、少年のように目を輝かせて新しい施設へと駆け出していく。
その横では、サイラスとファルコン率いる『配達部隊』の面々が、魔王城風CQBフィールドの前に整列していた。
「(ファルコン殿……動くバリケードと魔法の霧。これこそ、魔境を突破するための究極のデリバリーシミュレーターですな!)」
「(ああ! 霧の中で視界を奪われても、決してスープの水平を崩さない……! 総員、暗視ゴーグル(魔導具)を装備し、出前突入訓練を開始する!!)」
「(ウオォォォォォッ!! 出前至上主義!!)」
(……お前らはブレないなぁ)
トウヤは、魔改造されたアミューズメント施設で全力で遊ぶ(あるいは狂気の特訓をする)異世界の大物たちを眺めながら、思わずふき出した。
チキュウの知識を模倣し、さらに独自のファンタジー要素をトッピングしてくる迷宮の「迷走」とも言えるサービス精神。
だが、その結果として出来上がったこの空間は、世界中の誰よりも彼らを笑顔にしていた。
「トウヤさん! 俺、この魔王城フィールドの防衛戦術、一晩かけて構築しますよ!」
ケンタが、自前のペイントライフルを構えて嬉しそうに笑う。
「おう、頼んだぞ! 運動の後は、極太の蟹脚で特大のバター焼きを作ってやるからな!」
迷宮の理不尽すらも最高のエンターテインメントに変え、カロリーと笑顔を無限に生み出し続ける絶対同盟。
和やかで狂気的な宴の熱気は、80階層台という未知の深淵すらも、極上のスパイスとして呑み込んでいくのであった。




