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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第155話:大台の扉前での絶望と、迷宮の忖度がもたらす『歌唱の館(カラオケ)』

### 第155話:大台の扉前での絶望と、迷宮の忖度がもたらす『歌唱のカラオケ

『悠久の大迷宮』第79階層――『熱狂の複合遊戯アリーナ(某スポ〇チャ)』。

卓球、ビリヤード、バッティングなど、数々のチキュウのスポーツを完璧なルール遵守で制覇し、隠しボスを瞬殺したトウヤたち。

圧倒的な身体能力と適応力で、70階層台の理不尽なアミューズメント施設をことごとく「極上飯の調達場」へと変えてきた彼らは、ついに大台となる第80階層の巨大な黒曜石の大扉の前に到達していた。

しかし。

いつもなら「さあ大ボスだ! 極上の肉だ!」と誰よりも目を輝かせるはずのトウヤが、今は大扉の前で頭を抱え、どん底のような暗いオーラを放っていた。

「……トウヤ? どうしたんだ、顔色が悪いぞ。腹でも痛いのか?」

ジンが心配そうに覗き込む。

「トウヤ様……まさか、ここまでの連戦で限界が……?」

エリスも不安げに大剣を下ろした。

「……みんな、すまない」

トウヤは、懺悔でもするかのように重々しく口を開いた。

「俺……今回の80階層で、完全に足を引っ張るかもしれない。最悪の場合、瞬殺ボーナスどころか、ペナルティで俺だけ死ぬ可能性が高い」

「「「なっ……!?」」」

仲間たちの間に、かつてないほどの緊張が走った。

「どういうことだトウヤ!? どんなチキュウの凶悪な罠が待っているというのだ!?」

ガレスが身構える。

「前回の79階層は【複合施設】だった。チキュウのその手の施設には、まだ俺たちが経験していない『ある恐ろしい設備』が併設されていることが多いんだ……」

トウヤが、青ざめた顔で続ける。

「その名も【個室型・歌唱遊戯施設(某カラオケ・ボックス)】」

「カ、カラオケ?」

「ああ。密室の中で、機械から流れる音楽と画面の文字に合わせて【歌を歌う】施設だ。……問題は、その機械が『音程』と『リズム』を厳密に採点するシステムを持っていることだ」

トウヤの声が震える。

「前にも言ったが、俺は前世から音楽の成績が2だ。リズム感も音程も絶望的に終わってる。……もし、80階層のギミックが『採点システムで100点を取れ』だったら。俺は絶対にクリアできないし、マナー違反の雷撃で黒焦げになって死ぬ!!」

それを聞いた仲間たちは、一瞬ぽかんとした後。

ふっ、と優しく微笑んだ。

「なんだ、そんなことか!」

ジンが、トウヤの背中をバンッと力強く叩く。

「いいかトウヤ! 俺たちの目的は『美味い飯を食うこと』であって、瞬殺ボーナスの増設キットを集めることじゃねえ! お前が死にそうなら、俺たちが全力でその歌の機械(?)を叩き壊して、ペナルティごと弾き返してやる!!」

「ええ! 瞬殺ボーナスが手に入らなくても、この80階層を乗り越えれば、またトウヤ様の美味しいご飯が食べられますわ! それ以上のボーナスなんて、この世にありませんの!!」

エリスが、満面の笑みで断言する。

「気に病む必要はない。お前は後ろで耳を塞いでいればいい。戦闘はワシらが全て引き受けよう!」

仲間たちの、損得勘定を一切抜きにした温かい励まし。

トウヤは、その無償の絆に胸を熱くし、涙ぐみながら頷いた。

「お前ら……! ありがとう。よし、もし歌のギミックが出たら、俺のことは置いて先に行ってくれ!! 行くぞ!!」

決死の覚悟で、トウヤが第80階層の大扉を押し開けた。

ギギギギギギ……ッ!!

(来る……! カラオケの重低音と、採点画面の理不尽な光が……!!)

トウヤは目をギュッと瞑り、雷撃に耐えるために全身に魔力を込めた。

――しかし。

『グルオォォォォォォォォォォッッ!!!!』

鼓膜を揺らすほどのすさまじい咆哮と共に、彼らを待ち受けていたのは。

巨大な要塞、サバゲーのバリケード、ジムの鉄球、そして遊園地のレールがカオスに融合した【超巨大決戦アリーナ】。

そして、その中央に鎮座する、全身にありとあらゆる武器と甲殻、そして極上の霜降りを纏った巨大な魔竜。

第80階層大ボス――『グランドフィナーレ・キメラ・リヴァイアサン(大遊戯の終焉魔竜)』であった。

「……あれ?」

トウヤが、恐る恐る目を開ける。

どこにもマイクはない。採点画面もない。そこにあるのは、純粋な『70階層台のギミックの総決算』たる巨大な敵とフィールドだけであった。

トウヤは、一瞬呆然とした後……【迷宮の意志】を完全に理解した。

(……そ、そうか!! 異世界には『機械に合わせて歌う』なんていう高度な娯楽文化は存在しない。そんなものをギミックにしたら、異世界人には到底クリア不可能だ。……だから迷宮のシステムは、俺の音痴への配慮(忖度)も含めて、80階層を【純粋な戦闘アクションの総決算】にしてくれたんだ!!)

「歌わなくていいんだァァァッ!!!!」

トウヤの目から、恐怖が完全に消え去り、代わりに爆発的な歓喜と食欲が湧き上がった。

「みんな!! カラオケはない!! あいつを倒せばクリアだ!! しかもあいつの肉、牛肉と豚肉と海鮮の全部乗せの【超絶プラチナ食材】だぞォォォッ!!」

「ヒャッハー!! 腕が鳴るぜ!!」

「トウヤ様が歌わなくて済むのなら、あんなトカゲ、一秒で解体してみせますわ!!」

恐怖から解放され、テンションが限界突破したトウヤと、彼を全力で守ろうと意気込む美食家たちの連携は、もはや神の領域であった。

飛来するペイント弾をジンが撃ち落とし、要塞の十字砲火をガレスが弾き返し、エリスの渾身撃が魔竜の装甲を粉砕する。

そして、トウヤが満面の笑みで放った【無振動の一閃】が、魔竜の急所を完璧に貫いた。

ズドォォォォォォォォォンッッ!!!!!

戦闘開始からわずか数分。

70階層台の全てを凝縮した最強の大ボスは、一行の狂気的な勢いの前に為す術なく解体され、光の柱と共にアイテムボックスへと収納された。

【第80階層クリア。マナー遵守ボーナス・瞬殺ボーナス獲得】

パパパパパーンッ!! 壮大なファンファーレと共に、巨大な宝箱が現れる。

その中に入っていたのは……。

『神話級・アミューズメント増設キット(歌唱遊戯・ダーツ・マッサージ等リラクゼーション複合版)』。

トウヤは、その模型を見て天を仰いだ。

(……迷宮の奴。クリア条件にはしなかったけど、ボーナスとしてちゃんと『カラオケ』を用意してくれてたんだな。……神設計すぎるだろ、このダンジョン)

「ガッハッハ! よし!! 最高の大台クリアだ!! 拠点に帰って、史上最大の打ち上げパーティーをやるぞ!!」

***

【同日夜――星繋ぎの迎賓館アストラル・ゲストハウス

大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。

今夜の迎賓館には、新たに追加された【カラオケルーム】や【ダーツエリア】、そして【リラクゼーションエリア】が増設され、もはや一つの巨大なリゾート施設として完全な姿を現していた。

「さあ! 80階層突破記念、超絶海陸パーティ・オードブルだ!!」

トウヤとレオ、ケンタの三人が、巨大なテーブルに次々と料理を並べていく。

大ボス『キメラ・リヴァイアサン』からドロップした究極の複合肉を使った、【神話級・霜降りステーキのタワー】、【極上カニとマグロの特大カルパッチョ】、そしてレオ特製の【山盛りフライド・オニオンとチーズ・ポテト】。無限ドリンクバーからは最高級のシャンパンとコーラが絶え間なく注がれる。

「「「乾杯カンパーイッッ!!!!」」」

「――――ッッ!! な、なんだこの肉は!! 牛肉の濃厚な旨味の奥から、海鮮の澄んだ出汁の香りが追いかけてくるぞ!!」

ヴィルヘルム国王が、ステーキを頬張りながら感涙にむせぶ。

「これほどの美味、もはや我々が知る『食』の概念を超越しておるわ!!」

そして、宴もたけなわとなった頃。

増設されたばかりの【パーティ用・特大カラオケルーム】から、すさまじい爆音が響き渡ってきた。

『我が行く道はァァァッ! 覇道なりィィィッ!!』

モニターに映し出される謎の映像(チキュウの風景)を背に、マイクを両手で握りしめたヴィルヘルム国王が、エコー全開でアルカディアの軍歌を大熱唱していた。

「おおおっ!! 陛下! 採点マシンのバーが光っておりますぞ!! 魂のビブラートです!!」

ガルド宰相が、タンバリンを狂ったように叩きながら合いの手を入れる。

「いやー、チキュウの『カラオケ』って最高だな兄弟!!」

魔王ゼノン(田中太一)が、ペンライトを振り回しながらトウヤに肩を組む。

「前世じゃヒトカラばっかりだったけど、異世界で魔王軍の幹部とアニソン歌う日が来るとは思わなかったぜ!!」

その横では、四天王のセレスティがマイクを持ち、ルミナス教国の賛美歌をアイドルさながらのステップ付きで歌い上げ、「98点」という驚異のスコアを叩き出して歓声を浴びていた。

さらに、フロアの隅に設置された【神話級・全自動マッサージチェア】では。

「……おおお……こ、これは……腰の……奥の奥まで……ほぐれるぅぅ……」

ミズホの賢者カイトが、マッサージチェアに深く沈み込み、あまりの気持ちよさに完全に昇天(白目)していた。

「(ファルコン殿! 聞こえますか!)」

「(ああサイラス! 貴様のオーダー、バッチリ通っているぞ!)」

なんと、サイラスとファルコンたち『配達部隊』は、カラオケのマイクを使わず、大音量の音楽にかき消されないように【腹の底から極大の通る声で出前の注文を伝える訓練】を行っていた。

(※マイクを使えというツッコミは、もはや誰もしなかった)。

「いやー、みんな楽しそうで何よりだ」

トウヤは、山盛りのポテトを齧りながら、ダーツボードの前に立つジンとエリスを眺めていた。

針の穴を通すような命中精度を持つ彼らにとって、ダーツなど百発百中でブル(中心)にしか刺さらないのだが、それでも「チキュウの遊び」というだけで彼らは大興奮であった。

「トウヤさんも歌わないんですか?」

ケンタがコーラを差し出しながら笑う。

「俺はいいよ。前世からのトラウマがあるし、美味い飯とみんなの笑顔(と狂気)を見てるだけで十分だ」

トウヤはジョッキを受け取り、ふかふかのソファに深く寄りかかった。

大迷宮の80階層という、人類未踏の死地。

しかしそこは今、チキュウのアミューズメントと極上飯、そして仲間たちの笑い声に包まれた、世界一幸せな『宴の空間』となっていた。

「さあて。70階層台の娯楽施設ゾーンも終わって、次からはいよいよ80階層台の深淵だ。……どんな未知のスパイスが待ってるか、楽しみになってきたぜ!」

カラオケの熱唱と、グラスの触れ合う音。

悠久の踏破者たちと絶対同盟のカロリーの祭典は、さらなる深層の美味を求めて、夜が明けるまで続くのであった。


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