第153話:豪腕唸る白熱の転球遊戯(ボウリング)と、流れるような増設の儀式
### 第153話:豪腕唸る白熱の転球遊戯と、流れるような増設の儀式
『悠久の大迷宮』第77階層――『神秘の巨大水槽(水族館)』。
ガラスを叩かない、騒がないという鑑賞マナーを完璧に守り抜き、隠しボスである『アビス・プラチナ・ホエール』を一本釣りで仕留めたトウヤたち。迎賓館に水族館を増設し、極上のクジラ刺身と青い光で異世界の大物たちを癒やした彼らは、次なる未知の領域、第78階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さて、いよいよ78階層だ」
トウヤが扉を見上げながら、仲間たちに向かって真剣な顔で告げる。
「ここまで来ると、環境は完全に『チキュウのアミューズメント施設』だ。そして、迷宮側も俺たちが増設キットを欲しがっているのを分かっていて、あからさまに『ルール付きの遊び場』を提供してきている」
「ええ。ユーエンチに、スイゾクカン。どれもこれも素晴らしい施設ですわ!」
エリスが目を輝かせる。
「だが、遊び場だからこそ『ルール違反=即死ペナルティ』の罠が必ず仕掛けられている」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を懐にしまった。
「今回は、外で羅針盤を見るのはやめよう。扉を開けた瞬間にギミックが発動するかもしれない。中に入ったら、まずは一歩も動かず、俺が『施設』を確認するまで待機だ。羅針盤の隠しボスの反応も、中で確認する」
「了解だ。これまでの経験からして、チキュウの遊技場には独自の『マナー』があるからな」
ガレスが頷き、ジンやルミナたちも気を引き締める。
「よし、行くぞ!!」
トウヤが重厚な大扉を両手で押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉が開いた瞬間、一行の耳に飛び込んできたのは……。
コォォォォォォ……ガシャァァァァァァンッ!!
「……なんだこの、硬い球が転がって、何かが弾け飛ぶような音は?」
ジンが目を丸くする。
そこは、ワックスがけされてピカピカに光り輝く『長い木の板の道』が、見渡す限り何十本も並んでいる巨大な屋内施設であった。
レーンの手前には、赤や青、マーブル模様に彩られた『3つの穴が空いた重そうな球体』がゴロゴロと並んでおり、数十メートル先のレーンの奥には、白い瓶のような形をした魔物たちが10匹、逆三角形の陣形で整列して待ち構えていた。
第78階層――『白熱の転球アリーナ(ボウリング場)』。
「(……やっぱりな。ボウリング場かよ!!)」
トウヤは心の中で激しくツッコミを入れつつ、静かに羅針盤を取り出した。
「(みんな、聞け。ここは『ボウリング』というチキュウのスポーツ施設だ。ルールは極めてシンプル。あのレーンに直接立ち入ることは禁止! 手前にある『球』を転がして、奥にいる10匹の魔物を倒すんだ! 殴りに行ったらペナルティだぞ!)」
トウヤが小声でルールを伝達する。
「(球を転がして倒す……。なるほど、投擲のコントロールとパワーの修練ですわね!)」
エリスが、自身の足元にあった15ポンド(約6.8kg)の重い球を、ヒョイッと片手で持ち上げる。
「(この球の穴に指を入れて、この黒い線を越えずに転がせばいいのですね?)」
「(そうだ! さすがエリス、飲み込みが早い!)」
トウヤは羅針盤の盤面に魔力を流し込んだ。
黄金色の光が各レーンの奥で輝いているが、最奥部、レーンの機械の裏側に、微かに『プラチナ色』が明滅しているのを確認した。
「(隠しボスがいるぞ。……おそらく出現条件は、チキュウのボウリングの定石からして【ターキー(3連続で10本のピンを全て倒すこと)】だ!)」
「(3連続の全滅ですね。了解しました!)」
ジンが、赤いボールを手に取り、不敵な笑みを浮かべる。
ここからの彼らの動きは、もはや「作業」の領域であった。
数々の修練階層を越え、極限のフィジカルとコントロールを手に入れた異世界最強の美食家たちにとって、ボウリングのストライクなど造作もないことであった。
「(まずは俺からだ! 【幻影歩法・神速の投擲】!!)」
ジンが滑るようなステップでアプローチを駆け抜け、ボールを放つ。
ギュルルルルルッ!!
ボールはレーンの上を弾丸のようなスピードで滑り、完璧なカーブを描いて真ん中のピン(魔物)に直撃。
ガシャァァァァァァンッ!!(1連続・ストライク)
「(素晴らしいですわ! 次は私が行きますの! 【渾身撃・剛腕の転球】!!)」
エリスが大剣を振るうのと同じ完璧なフォームでボールを放り投げる。
ズドォォォォォォンッ!!
レーンが割れんばかりの轟音と共に、ボールは一切曲がることなく一直線にピンを粉砕した。
ガシャァァァァァァンッ!!(2連続・ダブル)
「(フッ、最後はワシが決めてやろう! 【流転の盾・反発の軌道】!!)」
ガレスが、盾の技術を応用した完璧な手首のスナップでボールを転がす。
ガシャァァァァァァンッ!!(3連続・ターキー!!)
ピロリロリンッ!!
3連続ストライクを達成した瞬間、レーンの頭上にある巨大なモニターに『TURKEY!!』の派手な文字が踊り、レーンの奥の機械がガコンッと音を立てて開いた。
『クェェェェェェェッ!!』
奥から姿を現したのは、黄金に輝く巨大な七面鳥。
第78階層隠しボス――『パーフェクト・ストライク・ターキー(神話級七面鳥の極上肉)』であった。
「(出たぞ!! 狙え!!)」
「(【絶対零度・ピンポイント氷結】!)」
「(【聖光の穿ち】!)」
ルミナとマリアが、即座に魔法を放ち、七面鳥の動きを完全に封じ込める。
そこへトウヤが、ファウルラインを越えることなく、剣から凄まじい斬撃の波動を飛ばした。
「(【無振動・ストライク一閃】!!)」
ズバァァァァッ!!
巨大なターキーは、一歩も動くことなく完璧な鮮度で絶命し、アイテムボックスへと収納された。
扉を開けてから、わずか数分の出来事。迷宮のギミックを完全に理解し、隠しボスを出現させて瞬殺するという、もはや淀みの一切ない【流れるようなボーナス回収作業】であった。
カッ――――!!!!
ファンファーレと共に現れた宝箱の中には、燦然と輝く『神話級・アミューズメント増設キット(白熱のボウリング場)』。
「ガッハッハ! よし! 今日も無事に増設キット、ゲットだぜ!!」
「ええ! この球を転がす遊戯、とても爽快で楽しかったですわ! 早く迎賓館で遊びたいですの!」
トウヤたちは、大量の『ピン・ポーク(極上豚肉)』とターキー肉を抱え、意気揚々と拠点へと帰還していった。
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館には、新たに増設された『ボウリング場エリア』から、凄まじい歓声とピンの弾ける音が鳴り響いていた。
「どりゃァァァァッ!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、魔力を込めた剛腕でボールをぶん投げる。
ガシャァァァァァンッ!!
「おおおっ!! 魔王殿、見事なストライクですぞ!!」
「ガッハッハ! ヴィルヘルム王、アンタもなかなかやるじゃねえか! 次はカイトの番だぞ!」
ボウリングという、誰でも直感的に楽しめるスポーツは、異世界の首脳陣たちの心を鷲掴みにしていた。
ヴィルヘルム国王やガルド宰相は、己の指に合わせた「マイボール(特注の魔導具)」を嬉々として作り、王の威厳も忘れてハイタッチを交わしている。
ミズホのカイトは、シノビの技術を応用した「分身魔球」を投げようとしてガターに落ち、頭を抱えていた。
「いやー、チキュウの娯楽ってのは本当に奥が深いですな! 単なる腕力だけでなく、緻密なコントロールと精神力が問われる!」
ガルド宰相が、スコア表(自動計算モニター)を眺めながら感心しきりである。
「皆さーん! ご飯の準備ができましたよー!」
そんな白熱のレーンの後ろに、エプロン姿のレオとケンタが、巨大なワゴンを押してやってきた。
本日のメインディッシュは、隠しボスであるターキーの極上肉を使った【神話級・ターキーの照り焼きロースト】と、ピン・ポークを使った【極厚スペアリブのハニーマスタード焼き】、そしてケンタの提案で作られた【アメリカンサイズの巨大フライドポテトとオニオンリング盛り合わせ】であった。
「ボウリングの後は、やっぱりジャンクな肉とコーラですよね!」
レオが、ボウリング場のテーブルに次々と極上飯を並べていく。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
「――――ッッ!! この七面鳥の肉、信じられないほどジューシーで柔らかいぞ!!」
ヴィルヘルム国王が、ターキーの脚肉にかぶりつき、甘辛い照り焼きソースの味に歓喜の声を上げる。
「皮はパリッと、中は肉汁が溢れ出す……! カイト殿のショウユと、甘いハチミツの組み合わせが、疲れた体に染み渡りますな!」
「いやー、ボウリングしながら食うポテトって、なんでこんなに美味いんだろうな!」
トウヤも、無限ドリンクバーから注いだメロンソーダを片手に、ポテトをパクつきながら笑う。
その時。
トウヤの視界の端で、ボウリング場のレーンの上を、黒い影が『あり得ない動き』で滑っていくのが見えた。
「(……ん?)」
「(右のレーンから球が来ます!! 跳躍して躱しつつ、スープの水平を維持せよ!!)」
「(ハッ! 忍法・無振動レーン滑り!!)」
なんと、サイラスとファルコン率いる『配達部隊』の面々が。
自分たちに向かって転がってくる「ボウリングの球(重さ約7キロ)」を、背中にウー〇ーバッグを背負ったまま、サーフィンのように跳び乗り、回転する球の上で完璧なバランスを取りながらレーンを滑走しているではないか。
「(見事だミズホのシノビよ!! これで、巨大な岩石が転がってくるようなトラップの中でも、一切の振動を与えずにデリバリーが可能となる!!)」
「(ウオォォォォォッ!! 出前至上主義!!)」
「…………」
トウヤは、手にしたポテトをポロッと落とし、静かに目を逸らした。
(もはや俺には、あいつらが何と戦っているのか分からない……)
ボウリングの球を「回避訓練用の岩石トラップ」として活用し、出前の技術を異次元のレベルへと昇華させていく最強の暗殺者たち。
スポーツに熱狂する王たち、サバゲーの戦術を極める配達部隊、そしてジャンクフードを貪り食う転生者たち。
次々と増設されていくチキュウの娯楽施設により、迎賓館はもはや「世界で最も狂気的で楽しいアミューズメント・パーク」と化していた。
「よし! 肉も食ったし、次は俺の番だ! エリス、勝負だぜ!」
「望むところですわトウヤ様! 今度こそターキー(3連続)を出してみせますの!」
迷宮の意図すらも先読みし、流れるように極上食材と遊び場を手に入れていく『悠久の踏破者』たち。
彼らの笑顔とカロリーに満ちた規格外のキャンプは、80階層の大台へと向けて、ストライクの如き勢いで爆走していくのであった。




