第152話:静寂の巨大水槽(水族館)と、王たちの優雅なる海底ディナー
### 第152話:静寂の巨大水槽(水族館)と、王たちの優雅なる海底ディナー
『悠久の大迷宮』第76階層――『夢と狂気の遊戯園Ver.2(テーマパーク)』。
迷宮側からの「増設キットいるだろ?」というあからさまな催促に応え、パレードの隠しボスをマナー良く瞬殺したトウヤたちは、迎賓館に某夢の国のテーマパークを完全増設することに成功した。
絶対同盟の面々が日夜絶叫マシンやパレードに狂喜乱舞する中、『悠久の踏破者』の六人と三匹は、さらなる極上食材を求めて第77階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて。遊園地の次はなんだ? 羅針盤さん、ご機嫌はどうだ?」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を取り出し、魔力を流し込む。
盤面には、無数の『黄金色』の光がゆったりと点灯した。
環境ギミックを示す『青い矢印』は、特に荒ぶることもなく、迷宮の奥へ向かって穏やかな波線を描いている。
「おや? 矢印の動きはとても緩やかですわね。重力異常や複雑な迷路といった感じではなさそうですの」
エリスが盤面を覗き込んで首を傾げる。
「ああ、モンスターの反応も一定の場所に留まっているみたいだな。……だが、油断は禁物だぞ」
トウヤは、少し険しい顔で大扉を見上げた。
「70階層台の後半は、完全に【チキュウの施設】が具現化してる。しかも前回、迷宮のシステムが『迎賓館の増設キット』を意図的にチラつかせてきた。今回も間違いなく、俺の故郷にあった何らかの施設で、かつ『増設ボーナス』が隠されているはずだ」
「なるほど。チキュウの施設で、穏やかな環境……全く想像がつかんが、何が来ても極上のスパイスにしてやるだけだ!」
ガレスが豪快に笑い、大盾を構える。
「よし、行くぞ!」
トウヤが重厚な大扉を両手で押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉の先に広がっていたのは、薄暗く、ひんやりとした静寂の空間であった。
「ピィィッ……(兄貴、お水がいっぱいあるよ……)」
クーが、不思議そうに宙を舞う。
通路の壁一面、いや、天井までをも覆い尽くすほどの【巨大な分厚いガラス】。
そのガラスの向こう側には、どこまでも深く青い『水中の世界』が広がっており、神秘的な光に照らされた無数の魔物(魚影)たちが、ゆったりと泳ぎ回っていた。
第77階層――『神秘の巨大水槽(アクアリウム・水族館)』。
「な、なんだここは……!? まるで、海の底を歩いているようだぞ!」
ジンが、頭上を覆う巨大なガラスのトンネル(アクアチューブ)を見上げて息を呑む。
「トウヤ様! ガラスの向こうに『マーメイド・サーモン』や『深海大トロ・マグロ』が泳いでいますわ! まるで極上の海鮮市場ですの!」
エリスが、ガラスの向こうの黄金食材たちを見てヨダレを垂らす。
トウヤは、その幻想的な光景を見て、深く頷いた。
「スイゾクカン……! やはりチキュウの施設か。だが、ここは修練場や拷問施設じゃない。海や川の生き物たちを鑑賞し、癒やしを得るための究極のリラクゼーション施設だ」
「鑑賞施設……! では、あのエイガカンのように、ただ静かに見ていなければならないのですか!?」
マリアが少し身構える。
「いや、歩き回るのは自由だ。だが、ここにも絶対に守らなければならない【鑑賞のマナー】がある!」
トウヤが、ガラスの壁を指差した。
「掟その一! 『ガラスを絶対に叩かないこと』! 魚たちが驚くからな。もしガラスを割るような物理攻撃をすれば、数万トンの超水圧が雪崩れ込んできて即死するぞ!」
「掟その二! 『フラッシュ撮影(強い発光魔法)の禁止』! これも魚のストレスになる!」
「そして掟その三! 『順路を守り、他のお客さん(ゴーレム)の迷惑にならないよう静かに鑑賞すること』だ!」
「「「なるほど!!」」」
美食家たちは、すでに「チキュウのルール=絶対の法則」として完全に脳に刻み込んでいるため、誰一人として疑問を挟まずに静かに頷いた。
「(それで、トウヤ。獲物はどうやって狩るんだ? ガラス越しじゃ手出しができないぞ)」
ガレスが小声で尋ねる。
「(羅針盤を見てみろ。この階層の最奥……最も巨大な『メイン水槽』のバックヤード(上部)に、微かにプラチナ反応が光ってる)」
トウヤの言葉に、全員が羅針盤を覗き込む。
「(この水族館の隠しボスだ。今回は、順路をマナー良く進み、メイン水槽の上から【一本釣り】でプラチナ食材を無音で釣り上げる! 行くぞ!)」
一行は、武器を鳴らさず、静かな足取りで水族館の順路を進んでいった。
幻想的なクラゲの水槽(極上の中華食材)や、巨大なカニの展示を「美味しそうですわね……」と熱い眼差しで鑑賞(品定め)しながら、最奥の巨大な空間へと辿り着く。
そこは、ジンベエザメすらも泳げるほどの、見渡す限りの超巨大水槽であった。
「(よし、あそこだ。水槽の上部にあるキャットウォーク(バックヤード)に移動するぞ)」
トウヤたちは、幻影歩法を使って誰にも気づかれずに水槽の上の足場へと侵入した。
眼下に広がる巨大な青い水面。
その底から、悠然と浮上してくる巨大な影があった。
第77階層・隠しボス――『アビス・プラチナ・ホエール(極上深海クジラ)』。
その肉は、全身がとろけるような大トロと、神話級のベーコンを兼ね備えた、海鮮系の頂点に君臨する魔物である。
「(ジン、エリス! クジラが息継ぎのために水面から顔を出す瞬間を狙え! 一切の水飛沫も、音も立てずに仕留めるんだ!)」
「(任せろ!)」
ザバァッ……。
クジラが、水面に巨大な鼻面を出した、その瞬間。
「(【幻影歩法・無音の銛打ち】!!)」
「(【渾身撃・深海の一刀】!!)」
ジンの双短剣とエリスの大剣が、水面を1ミリも揺らすことなく、クジラの急所を正確に貫き、絶命させた。
間髪入れず、ルミナとマリアの『絶対零度パッケージング』が発動し、巨大なクジラは完璧な鮮度のままアイテムボックスへと吸い込まれた。
カッ――――!!!!
【隠しボス討伐完了。マナー遵守ボーナス獲得】
ファンファーレと共に現れた宝箱の中には、予想通り。
『神話級・アミューズメント増設キット(神秘の巨大水族館)』が輝いていた。
「ガッハッハ! 完璧な一本釣りだ! 早速、迎賓館に戻って大宴会と洒落込むぞ!!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の迎賓館は、いつもとは全く異なる雰囲気に包まれていた。
「おおおおおっ……!! なんという、美しく神秘的な空間なのだ……!!」
ヴィルヘルム国王が、シャンパングラスを片手に、感嘆の溜息を漏らす。
増設された『水族館エリア』。
円卓が置かれた大宴会場の壁一面が、巨大な【アクアリウム(ガラス張りの水槽)】となっており、薄暗い照明の中、青く透き通った水の世界で色鮮やかな魚たち(※全て極上食材)が優雅に泳ぎ回っているのだ。
水槽の底には美しい珊瑚礁が広がり、時折、巨大なエイやサメが悠然と横切っていく。
「陛下! これは本当に素晴らしい! これまでの『ユーエンチ』や『サバゲー』といった狂乱の施設とは一線を画す、究極の癒やし空間ですぞ!」
ガルド宰相も、日々の激務の疲れが浄化されていくのを感じながら、ゆったりと水槽を眺めている。
「チキュウには、このような静かで美しい施設もあるのですね……。魔王軍の幹部たちも、この青い光を見ていると不思議と心が穏やかになるようです」
四天王のセレスティが、うっとりとした表情で呟く。
「いやー、チキュウのスイゾクカンってのは、デートスポットの定番だからな! 美味い飯を食いながら魚を見るってのは、最高の贅沢なんだぜ!」
トウヤが、巨大なトレイを運んできた。
本日のメインディッシュは、隠しボスである『アビス・プラチナ・ホエール』を使った【神話級・クジラの大トロ刺身盛り合わせ】と、レオが手掛けた【極厚クジラベーコンの炙り焼き】であった。
「さあ! 泳ぐ魚たちに乾杯しながら、極上の海鮮を味わってくれ!」
「「「いただきますッッ!!!!」」」
「――――ッッ!! う、美味い!!」
魔王ゼノン(田中太一)が、クジラの大トロにミズホの醤油をたっぷりとつけて口に放り込み、あまりの美味さに涙を流した。
「口の中で、濃厚な脂が雪のように溶けていく……! なんだこの上品な甘みは! 泳いでる魚を見ながら刺身を食う背徳感がたまらねえ!!」
「トウヤさん! この炙りベーコンも最高ですよ! 香ばしい匂いと、噛み締めるたびに溢れる肉汁が、無限ドリンクバーのビールに合いすぎます!!」
ケンタが、ミリタリー仕様のジョッキを片手に歓喜する。
「うむ! この青い空間で食すからこそ、海鮮の美味さがさらに引き立つのだ! まさに、視覚と味覚の完璧なマリアージュ!!」
ヴィルヘルム国王が、王の威厳を忘れてクジラの刺身を貪り食う。
背後に控えていたサイラスとファルコンたち『配達部隊』も、水槽の青い光に照らされながら、静かに感動の涙を流していた。
「(ファルコン殿……この水槽の中で魚たちが泳ぐ『完璧な無重力遊泳』の動き……あれこそが、我々が目指すべき出前の究極形ではないでしょうか?)」
「(ああ! 水流に逆らわず、自らを水と一体化させる……! 明日からは、あのマーメイド・サーモンの動きを模倣した『流体回避訓練』を開始するぞ!!)」
(……お前らは本当に休むことを知らねえな)と、トウヤは心の中で呆れつつ、カイトの作った特製マヨネーズをベーコンにつけて頬張った。
激しい戦闘や狂気のアミューズメントもいいが、たまにはこうして、静かで美しい空間で極上飯を堪能するのも悪くない。
煌めく水槽の光と、美味すぎる海鮮料理。
迎賓館に誕生した新たなる『癒やしと背徳の空間』で、絶対同盟の面々は夜更けまで優雅なひとときを過ごし、次なる深層への英気をたっぷりと養うのであった。




