第149話:総決算の複合アスレチック要塞と、迎賓館に誕生した『夢の遊技場』
### 第149話:総決算の複合アスレチック要塞と、迎賓館に誕生した『夢の遊技場』
『悠久の大迷宮』第74階層――『狂乱のネオン舞踏盤』。
「……ゼェ、ゼェ……。もう、二度と……踊りたくねえ……」
「トウヤ様、しっかりしてくださいませ! ほら、右足から踏み出しますのよ!」
「ヒャッハー! トウヤ、前世の成績2は伊達じゃねえな! 完全にタコ踊りだったぜ!」
全身黒焦げになり、口から一筋の煙を吐き出しているトウヤは、エリスとジンに両脇を抱えられ、床をズルズルと引きずられながら、なんとか第75階層の大扉の前へと到達していた。
リズム感ゼロのトウヤにとって、音楽に合わせてステップを踏み続ける第74階層は、まさに筆舌に尽くしがたい地獄の拷問であった。だが、仲間たちの完璧なサポート(と物理的な引きずり)によって、どうにかペナルティの雷撃を耐え抜き、クリアを果たしたのである。
「さて、いよいよ75階層。70階層台の折り返しであり、中ボス部屋だ」
ガレスが、トウヤの顔にポーションをかけながら告げる。
「ぷはっ! ……サンキュー、ガレス。よし、羅針盤を確認するぞ」
トウヤは気合で立ち上がり、震える手で『天啓の美食羅針盤』を取り出した。
魔力を流し込むと、盤面の中央にドスンッと特大の『プラチナ色』が点灯する。
「おっ、中ボスの極上食材反応はバッチリだ! だが……この矢印の動きはなんだ!?」
トウヤたちが息を呑む。
環境ギミックを示す『青い矢印』は、盤面の中で暴走していた。
ジグザグに動く星型(71階層の要塞)、不規則に跳ね回る軌道(72階層のサバゲー)、一定の上下反復(73階層のジム)、そして……ピカピカと四方向に明滅するネオン発光(74階層のダンス)。
それら全てが、一つの盤面の上でカオスに混ざり合っていたのだ。
「……なるほど。完全に理解した」
トウヤの顔から、スッと血の気が引いた。
「70階層台の前半で経験してきた【チキュウのギミック】が、全て複合された『総決算の階層』だ。十字砲火の要塞の中で、サバゲーのペイント弾とマッスル・ゴーレムの攻撃を躱しながら、リズムに合わせてステップを踏まないといけないんだ……!!」
「「「なんだってェェェッ!?」」」
ジンが顔を引きつらせる。「おいおい、いくらなんでも全部乗せはイカれてるだろ!?」
「だ、ダメだ……俺はまた、あの陽気な音楽に合わせてタコ踊りをして、雷に焼かれるんだ……! もう帰る! キャンプに戻ってケンタとミリメシ食う!」
トウヤが、リズムゲームのトラウマを呼び起こして逃げ出そうとする。
ガシッ!!
「逃がしませんわ、トウヤ様!!」
エリスが、トウヤの背中をガッチリと抱き止めた。
「トウヤ! お前がチキュウの知識を教えてくれたから、俺たちはここまで強くなれたんだぞ!」
ジンが、トウヤの肩を力強く叩く。
「要塞の突破法も! ペイント弾の戦術も! 筋肉の鍛え方も! 全部お前が教えてくれたじゃないか!!」
「ジンさんの言う通りです! リズムに乗るのが苦手なら、私たちがトウヤさんの手と足を引っ張って(物理)完璧なステップを刻ませてみせます!!」
マリアとルミナも、杖を握りしめて強く頷いた。
「お前ら……!」
仲間たちの熱い絆(と、絶対に逃さないという物理的拘束)に、トウヤの瞳に再び闘志の炎が灯った。
「……分かった! 行くぞ! チキュウの理不尽アスレチックなんて、俺たちの『食欲』で完全に踏み潰してやる!!」
バンッ!!
気合と共に、第75階層の重厚な扉が押し開けられた。
――ズン・チャッ! ズン・チャッ!
鳴り響くEDMの爆音。四方八方から放たれるペイント弾。巨大な鏡張りの星型要塞。
そこに待ち受けていた中ボスは――『タクティカル・マッスル・ダンシング・クラブ(迷彩柄の筋肉質ダンサー蟹)』であった。
「(来たぞ! あいつの甲羅の下には、神話級の極上カニ味噌が詰まってるはずだ!!)」
トウヤが叫ぶ。
「(行きますわよトウヤ様! ワン、ツー、スリー!!)」
エリスとジンが、トウヤの両脇をガッチリと固め、三人四脚の要領で猛烈なステップを踏み始める。
「(うおおおっ! 右! 左! スクワット! 射線クリア!!)」
トウヤは、仲間たちの完璧なリード(強制牽引)により、見事なブレイクダンスでペイント弾を躱し、ジムで鍛え上げた大腿四頭筋のパワーで要塞の壁を蹴り上がり、サバゲーのツーマンセル戦術でカニの死角へと回り込んだ。
「(今だッ!! クライマックスのポーズを決めろ!!)」
「(【渾身撃・無振動マッスル・ステップ】!!)」
「(【幻影歩法・タクティカル・ダンス抜き】!!)」
ドバァァァァァァァァッッ!!!!!
トウヤとジンとエリスの三位一体の連携が、中ボスの分厚い甲羅の隙間を完璧なリズムで貫き、中身の極上カニ味噌を一切の傷もなくえぐり出した。
カッ――――!!!!
大迷宮の空へ、討伐完了を知らせる純白の光の柱が打ち上がる。
「……ハァ、ハァ……! や、やったぜ……!」
トウヤが、カニの甲羅の上で大の字に倒れ込んだ。トラウマを乗り越えた(仲間に運ばれただけだが)男の顔には、清々しい達成感が満ちていた。
パパパパパーンッ!!
70階層台前半の総決算を完璧なマナーとリズムで瞬殺した偉業を讃え、ファンファーレが鳴り響く。
そして、現れた宝箱の中に入っていたのは、巨大な建築模型のようなアーティファクトであった。
「なんだこれ? 【神話級・アミューズメント・コンプレックス増設キット(安全マージン付き)】……?」
トウヤが説明文を読み上げる。
「『任意の拠点に、70〜74階層の環境(要塞、サバゲー、ジム、リズムゲーム)を安全に利用できる遊技施設を増設する』……だと!?」
「なっ……! つまり、あのチキュウの修練施設が、ペナルティの雷撃や即死罠なしで自由に遊べるようになるってことですか!?」
ジンが目を輝かせる。
「ガッハッハ! そいつはすげえ! 拠点に帰るのが楽しみになったぜ!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ、次元を超えた大宴会場。
今夜のメインディッシュは、トウヤたちが狩ってきた中ボス『タクティカル・マッスル蟹』の極上カニ味噌を使った、【神話級・カニ味噌濃厚グラタン】と【極太カニ脚のガーリックバター焼き】であった。
「うむ! このカニ味噌なるペースト、信じられないほど濃厚で、磯の香りと強烈な旨味が脳を直撃するぞ! パンに塗っても絶品だ!!」
ヴィルヘルム国王が、熱々のグラタンを頬張りながら歓喜の声を上げる。
「トウヤ殿!」
サイラスとファルコンが、テーブルの脇に直立不動で立ち、目をギラギラと輝かせていた。
「本日の第75階層の突破、誠におめでとうございます! して、今日のチキュウのギミックはどのような恐ろしいものであったのですか!?」
「ああ。今日は70階層台のギミックの全部乗せだったんだが……」
トウヤは、カニのガーリックバター焼きを齧りながら、テーブルの中央に『神話級・増設キット』の模型をドンッと置いた。
「実は、瞬殺ボーナスでとんでもないものを手に入れたんだ。この迎賓館に、俺たちが経験してきた『サバゲー』や『フィットネス・ジム』、さらには『リズムゲーム』の施設を、安全な状態で増設できるアイテムだ」
「「「な、なんだとォォォッ!!?」」」
その言葉に、ヴィルヘルム国王、ガルド宰相、魔王ゼノン、そして各国の暗部たち全員がガタッと立ち上がった。
「トウヤ殿! そ、それはつまり……我々も、チキュウの戦士たちが愛用する『マッスル・ジム』や『CQBフィールド』を体験できるということですか!?」
ガルド宰相が、興奮で眼鏡を曇らせながら身を乗り出す。
「ああ。ペナルティの雷撃も罠もない、純粋な『遊び(スポーツ)』として安全に楽しめる設定になってる。もちろん、皆に自由に使ってもらって構わないぞ」
トウヤが笑って許可を出すと。
「おおおおおっ……!! 神よ!!」
サイラスとファルコンが、感涙にむせびながら抱き合った。
「聞いたか! これで大迷宮まで危険な合宿に行かずとも、この迎賓館で『スープを一滴もこぼさないためのサバゲー完全回避訓練』がやり放題だぞ!!」
「ええ! ジムのランニングマシンで、どんぶりを揺らさずに走る特訓も、24時間可能になりました!!」
(……相変わらず使い方がバグってるな)と、トウヤは心の中で苦笑した。
「私、あの『リズム・ゲーム』というものをやってみたいですわ!」
四天王のセレスティが、目を輝かせる。
「トウヤ様が雷に打たれるほどの複雑なステップ……魔術の詠唱のリズムを鍛えるには最適の修行になりそうですわ!」
「俺は絶対ジムだね! 最近、トウヤ君の飯が美味すぎて魔王軍全体が少し太り気味だったんだ! 全軍で筋トレしてパンプアップするぞ!」
ゼノンが、ガッツポーズを決める。
そして、誰よりも歓喜に震えていたのが――第五の転生者であるミリオタのケンタであった。
「ト、トウヤさん……! 俺、そのCQBフィールド(サバゲー施設)、自由に使っていいんですよね!?」
ケンタは、自らのスキルで創造した『フルカスタム・ペイントライフル』を抱きしめ、血走った目でトウヤに詰め寄った。
「もちろんペイント弾も無限に出します! 俺、今日から空き時間は全部あの施設に引きこもって、シノビや暗部の人たち相手にサバゲーの神髄を叩き込みますから!!」
「おう、好きにしろ! 運動の後の極上飯とコーラは最高だからな!」
「うおおおおおっ!! 異世界転生、最高ォォォォッ!!!!」
かくして。
『星繋ぎの迎賓館』には、地球の技術を完全再現した「巨大サバゲーフィールド」「24時間営業フィットネスジム」「アーケード・ゲームセンター」が爆誕した。
各国の首脳陣や最強の暗殺者たちが、日夜サバゲーに熱狂し、筋トレで汗を流し、ダンスゲームでステップを刻むという、異世界にあるまじき超カオスな娯楽空間の完成である。
「よし! カニも食ったし、みんなでジム行って汗流すか!!」
「おう!!」
極上飯でカロリーを摂取し、地球のアミューズメント施設でカロリーを消費する。
カロリーの永久機関を手に入れた『悠久の踏破者』たちと絶対同盟の面々は、新たなる娯楽の沼にどっぷりと浸かりながら、大迷宮のさらなる深淵へと笑い声を響かせていくのであった。




