第147話:無限負荷の筋肉神殿(フィットネス・ジム)と、美食家たちの狂気のマッスルキャンプ
### 第147話:無限負荷の筋肉神殿と、美食家たちの狂気のマッスルキャンプ
『悠久の大迷宮』第72階層――『超巨大CQBフィールド(サバイバルゲーム)』。
第五の転生者ケンタの知識と【ミリタリーアイテム創造】スキルをフル活用し、一切の怪我も肉への物理ダメージもなく、純粋な遊び(ペイント弾での死合)として極上の豚肉と鶏肉を乱獲したトウヤたち。
アイテムボックスを数え切れないほどのブロック肉で満たした彼らは、拠点『星の箱庭』にて一晩の英気を養っていた。
翌朝。
「うめぇぇぇっ! 朝からミリメシ(戦闘糧食)風にアレンジした『神話級・豚バラ肉の極厚ポークビーンズ』と、分厚いベーコンエッグ……最高すぎる!!」
「トウヤ殿! この『カンヅメ』という鉄の箱に入った肉料理、焚き火で直に温めるだけでこれほどの美味になるとは! チキュウの軍隊は毎日こんなご馳走を食べているのですか!?」
「いや、チキュウの軍隊も流石に神話級の肉は食ってねえよ……」
ケンタとレオのタッグによって生み出された『究極のキャンプ飯(ミリタリー風)』で腹を限界まで満たしたトウヤたち『悠久の踏破者』は、大満足の笑顔で第73階層の大扉の前に立っていた。
「さーて! ケンタ、お前はどうする? 次の階層も来るか?」
トウヤが振り返って尋ねると、迷彩服姿のケンタは首を横に振った。
「いや、俺はここでレオさんと一緒に新しいキャンプギアの開発と、ミリメシの研究をしてます! サバゲー階層ならともかく、未知の階層に俺みたいな一般人がついて行ったら足手まといになるだけですから!」
「おう、分かった! 留守は頼んだぞ!」
ケンタを見送り、トウヤは気を引き締めて『天啓の美食羅針盤』を取り出した。
魔力を流し込むと……。
「…………真っ暗だ」
盤面には、黄金色の光もプラチナ色の光も、一切点灯しなかった。完全なる食材反応ゼロ。
しかし、環境ギミックを示す『青い矢印』だけが、盤面の中央で奇妙な動きを繰り返していた。
「なんだこの矢印の動き? まるで、同じ場所で『上下運動』をひたすら繰り返したり、一定の速度で『円を描いて回り続けたり』してるぞ?」
ジンが、羅針盤を覗き込んで首を傾げる。
「……なるほど。重力異常のような乱高下じゃない。極めて『規則正しく、反復するような動き』だ」
ガレスが顎を撫でる。「食材ゼロでこのギミック……。間違いなく【修練階層】だな。しかも、ただの悪路ではなく、何か特殊な行動を『繰り返さなければならない』環境のようだ」
「ヒャッハー! 望むところだぜ! サバゲーで楽した分、体をイジメ抜きたくてウズウズしてたんだ!」
ジンが双短剣を抜き放ち、戦闘狂の笑みを浮かべる。
「ええ! 次のプラチナ食材を最も美しい状態で解体するためにも、この修練階層で我々の『牙』をさらに研ぎ澄ませておきませんとね!」
エリスも、自身の身の丈ほどもある大剣を軽々と素振りしながら目を輝かせた。
「よし! お前らのモチベーションは最高だな! 何が来ても俺たちの『極上飯のための踏み台』にしてやるぞ!」
トウヤが力強く頷き、重厚な大扉を押し開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
扉が開いた瞬間、一行の耳に飛び込んできたのは、ズンチャッ、ズンチャッ、ズンチャッ! という、やたらとテンポの速い重低音のBGM(EDM)であった。
「ピィィッ!?(兄貴、すっごくうるさい音楽が鳴ってるよ! しかもお肉の匂い、全っ然しない!)」
クーが耳(?)を塞ぎながら上空から報告する。
第73階層――『無限負荷の筋肉神殿』。
そこは、見渡す限りの広大な室内空間であった。
壁という壁は全て『巨大な鏡』で覆われており、煌々と輝く蛍光灯の下には、黒と銀色で彩られた【謎の鉄の器具群】が、森のようにズラリと並んでいる。
ある場所には「鉄の円盤が両端についた棒」が置かれ、ある場所には「黒いベルトが無限に回り続ける台」が設置されている。
「な、なんだここは……? 拷問部屋か? それとも何かの工房か?」
ガレスが、目の前にある巨大な鉄の機械を見上げて警戒する。
トウヤは、その光景と、響き渡るアップテンポな音楽を聞いて、完全に天を仰いでいた。
(スポーツジム……!! フィットネスクラブじゃねえか!! なんで迷宮の底に24時間営業のジムがあるんだよ!!)
トウヤの【神眼の指揮】が、ジム内を徘徊するモンスターたちを解析する。
『マッスル・ゴーレム』――全身が超高密度の鉄とゴムで構成された、筋骨隆々のゴーレム。
『ダンベル・ミミック』――鉄の円盤に擬態し、持ち上げた者の腕をへし折ろうとする罠モンスター。
『エアロバイク・トレント』――自転車の形をした植物モンスター。
「(……やっぱりか。あいつら、完全に『鉄』と『ゴム』の塊だ。食える部位なんて一ミリもねえ!)」
「ト、トウヤ様! この並んでいる鉄の器具は一体……!? まさか、かつてのエイガカンのような座って耐える拷問器具なのですか!?」
エリスが、ベンチプレスの台を指差して青ざめる。
「いや、ある意味拷問だが……少し違う!!」
トウヤが、大真面目な顔で仲間たちを振り返った。
「お前ら、よく聞け! ここはチキュウの【フィットネス・ジム】と呼ばれる、自らの肉体を極限まで苛め抜き、破壊し、そして超回復させるための『筋肉の神殿』だ!!」
「き、筋肉の神殿……!?」
ジンが息を呑む。「自らの肉体を破壊するだと!? なぜチキュウの人間はそんな恐ろしいことを自ら進んで行うんだ!?」
「決まってるだろ!! 全ては【強靭な肉体】を手に入れるためだ!!」
トウヤが、力強く拳を握りしめる。
「俺たちはこれまで、魔法や歩法、そして様々なスキルを駆使して迷宮を攻略してきた! だが、究極の食材を『一ミリのブレもなく』解体するためには、何よりも土台となる【圧倒的な基礎筋力】が必要不可欠なんだよ!!」
トウヤの(半ばこじつけの)熱弁に、異世界最強の美食家たちの目の色が、スッと変わった。
「な、なるほど……! 極上肉の鮮度を保つ『無振動の剣撃』……それをいかなる体勢からでも放つためには、強靭な体幹と、ブレない筋肉が必要というわけですわね!!」
エリスが、雷に打たれたように大剣を握り直す。
「魔法の精度も、結局は術者の体力と呼吸の安定から生まれる……。この階層は、私たちの『器』そのものをデカくするための試練の場ですね!」
ルミナとマリアも、杖を握りしめて深く頷いた。
「そういうことだ!!」
トウヤが、ジム内に点在するマシンを指差した。
「この階層のギミックはシンプルだ! あの『鉄の器具』を使い、決められた回数、筋肉に負荷をかけ続けろ! 魔力による身体強化は一切禁止! 純粋な己の筋肉だけで鉄を上げ、そして襲い来る鉄の魔物たちを己の肉体(と無強化の武器)で粉砕するんだ!!」
「「「うおおおおおおッッ!!!! マッスルゥゥゥッ!!!!」」」
純度100%の食欲(=美味い肉を食うための自己研鑽)によって完全に狂気に火がついた一行は、雄叫びを上げて各マシンの元へと散開した。
***
「(うおおおおっ! なんだこのベルトは!! 走っても走っても前に進まねえぞ!!)」
ジンが、『ランニングマシン(トレッドミル)』の上で猛ダッシュをしながら絶叫する。
「(それは『有酸素運動』だ! 止まったら後ろに吹き飛ばされて罠に落ちるぞ! そのままの速度で、迫り来るマッスル・ゴーレムの攻撃を躱しながら走り続けろ!!)」
トウヤの指示を受け、ジンは猛烈なスピードでベルトの上を走り続けながら、迫るゴーレムの剛腕をスレスレで回避し、双短剣で関節のゴム部分を的確に破壊していく。
「(ふんぬぅぅぅぅッ!!)」
エリスは、『ベンチプレス』の台に仰向けになり、通常の何倍もの重力魔法がかけられた超絶重量のバーベルを、己の腕力と胸筋だけで必死に押し上げていた。
「(素晴らしい大胸筋の収縮ですわ! この負荷に耐え抜けば、私の大剣の振りはさらに速く、さらに正確になりますの!!)」
「(いいぞエリス! あと三回だ! 限界を超えろ!!)」
トウヤが補助に入りながら檄を飛ばす。バーベルに擬態していたダンベル・ミミックが噛みつこうとするが、エリスはそれを「邪魔ですわ!」とバーベルごと押し上げて天井に叩きつけた。
「(これが……チキュウの戦士たちの日常……! 恐るべき修練……!)」
ガレスは、巨大なタイヤを延々とひっくり返し続ける『タイヤフリップ』の修練を行いながら、滝のような汗を流し、大盾の取り回しに必要な全身の爆発力を鍛え上げていた。
ルミナとマリアすらも、魔力を使わずに『エアロバイク・トレント』に跨り、ペダルを猛烈な勢いで漕ぎ続けながら、正確に魔法の標的を撃ち抜く「心肺機能とエイムの同調訓練」を行っている。
クロとクーとリルも、専用のペット用(?)アスレチックでひたすら反復横跳びとダッシュを繰り返し、獣としての基礎スペックを限界まで引き上げていた。
「(フゥーッ……! フゥーッ……!)」
鏡張りの巨大な空間に、EDMの重低音と、極限まで肉体を追い込む者たちの荒い息遣い、そして鉄の塊がぶつかり合う轟音が鳴り響く。
彼らは、チキュウの『スポーツジム』という拷問施設(?)のルールに完全に順応し、食えないモンスターたちを「単なる筋トレの負荷」として利用しながら、自らの肉体をひたすらに破壊し、そして鍛え上げ続けていた。
***
そして、数日間に及ぶ地獄の『マッスルキャンプ』の末。
第73階層の全ての器具を踏破し、最奥の『プロテインの泉(ボス部屋のギミック)』に到達した彼らの体は、見違えるように研ぎ澄まされていた。
「……ハァ、ハァ……! トウヤ様……私、なんだか体が羽のように軽いですわ」
エリスが、汗だくになりながらも、大剣を片手で紙切れのようにヒュンッと振るう。その剣筋には、一切のブレも風切り音もなかった。
「おおっ! 俺もだ! 足腰のバネが段違いに強くなってる! これなら、どんな不規則な足場でも完璧な『無振動』を維持できるぜ!!」
ジンも、その場で軽く跳躍しただけで、天井に頭をぶつけそうになるほどのジャンプ力を見せた。
「ガッハッハ! これがチキュウの【筋トレ】の成果か! 基礎スペックが上がるだけで、ここまで世界が変わるとはな!」
ガレスが、鋼のように引き締まった肉体を叩いて豪快に笑う。
「よし! お前ら、完璧な仕上がり(パンプアップ)だ!!」
トウヤが、大満足の笑顔でサムズアップを決める。
「これで、どんな理不尽な環境ギミックが来ようとも、お前らの肉体が全てをねじ伏せ、極上肉を最も美味い状態で狩ることができるぞ!!」
パパパパパーンッ!!
階層の完全踏破と修練完了を讃えるファンファーレが鳴り響き、宝箱から出現したのは……。
「……【神話級・無限プロテイン・シェイカー】?」
トウヤが、その銀色のボトルを見て苦笑する。
「水を入れるだけで、超絶美味な極上フルーツ味の『筋肉回復薬』が無限に生成される魔導具だ! しかも、飲んだ瞬間に筋肉痛が完全に癒えるチート仕様!!」
「「「うおおおおおおッッ!!!!」」」
「さあ! 最高の修練を終えた筋肉に、最高の栄養を叩き込むぞ! 乾杯!!」
「「「筋肉に乾杯ッッ!!!!」」」
鏡張りのジムのど真ん中で、汗だくの異世界最強パーティーが、銀色のシェイカーを掲げてプロテインを一気飲みするシュールな光景。
「ぷっはぁぁぁっ! 美味い!! イチゴミルク味だ!!」
「筋肉の隅々にまで、極上の栄養が染み渡りますわぁぁっ!!」
食材反応ゼロのハズレ階層ですら、自らの肉体を極限まで鍛え上げる「至高のスパイス」へと変えてしまった『悠久の踏破者』たち。
究極の肉体という新たな武器を手に入れた彼らの、食欲と筋肉の狂宴は、次なる未知の深層へ向けて、さらなる高みへとパンプアップしていくのであった。




