第146話:巨大CQBフィールドと、サバゲーマー(第五の転生者)の血騒ぐ初陣
### 第146話:巨大CQBフィールドと、サバゲーマー(第五の転生者)の血騒ぐ初陣
『悠久の大迷宮』第71階層――『星型要塞』。
難攻不落の軍事建築を「カニの殻を綺麗に剥くための練習場」として完全攻略したトウヤたちは、極上の『要塞タラバガニ』と『城壁スッポン』を山のように収穫し、数日間にわたる攻城戦(カニ漁)を終えた。
そして、十分な修練と休養をとった一行は、次なる第72階層への黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて! 71階層はチキュウの要塞だったが、次はどうだ?」
トウヤが期待を込めて『天啓の美食羅針盤』を取り出す。
魔力を流し込むと、盤面には無数の『黄金色』の光と、奥の方にいくつかの『プラチナ色』の反応が点灯した。
そして、環境ギミックを示す『青い矢印』は……前回のようなジグザグな動きや、満員電車のような異常な振動を見せることなく、ごくごく普通に、迷宮の奥へ向かって真っ直ぐに伸びていた。
「おっ! 矢印が普通だぞ!」
ジンが嬉しそうに声を上げる。
「本当ですわ! 重力異常を示す乱高下も、迷路を示すジグザグもありません! これは久々に、純粋な大自然が広がる【普通のボーナス階層】の予感がしますわね!」
エリスもパァッと表情を明るくする。
「よしよし! 60階層台の後半からずっとチキュウの理不尽ルール続きだったからな! ここらで一息、ファンタジーらしい普通の狩りを楽しもうぜ!」
トウヤもホッと胸を撫で下ろし、意気揚々と大扉に手をかけた。
ギギギギギギ……ッ!!
重厚な扉が開き、一行は喜び勇んで未知の階層へと足を踏み入れた。
――しかし。
「…………は?」
「…………えっと?」
扉の先に広がっていたのは、緑豊かな大平原でも、神秘的な地底湖でもなかった。
見渡す限りの広大な空間。その床は無機質な『コンクリート』で舗装されており、むき出しの鉄骨、ベニヤ板で作られた無数のバリケード、積み上げられた古タイヤやドラム缶、さらには廃車になった『車』が障害物として点在している。
天井からは水銀灯のような青白い光が降り注ぎ、空間全体がまるで巨大な「屋内倉庫」のような様相を呈していた。
「な、なんだここは……? また石の遺跡か? いや、壁が薄い木の板だぞ?」
ガレスが、ベニヤ板のバリケードをコンコンと叩きながら首を傾げる。
トウヤは、その光景を数秒間見つめた後。
「……おい。通信機で、拠点にいるケンタを呼べ。急いでだ」
と、乾いた声で指示を出した。
***
数分後。
『星の箱庭(拠点)』の転送陣から、迷彩服姿のケンタが駆けつけてきた。
「どうしたんですかトウヤさん!? なんかヤバい敵でも――」
ケンタは言葉を切り、目の前に広がる階層の風景を見た瞬間、完全に硬直した。
「……ケンタ。お前の専門分野だろ、これ」
トウヤがため息交じりに言う。
「……ま、マジかよ……!!」
ケンタの瞳孔がカッ! と見開き、全身が歓喜に震え始めた。
「これ、インドアの【サバイバルゲーム・フィールド(CQBエリア)】じゃねえか!! しかも地球の何倍もある超巨大サイズ!! 障害物の配置、射線の切り方、完璧に計算し尽くされた夢のフィールドだぞ!!」
「サバイバル・ゲーム? シーキュービー?」
異世界の住人たちが首を傾げる。
「(やっぱりか……)」
トウヤの【神眼の指揮】が、バリケードの奥に潜むモンスターの姿を捉え、その特性を解析し終えていた。
「お前ら、よく聞け! 今回もチキュウ・ギミックだ! あそこに潜んでる魔物……『タクティカル・オーク』や『ギリースーツ・ボア』を見てみろ!」
トウヤが指差した先には、迷彩柄のバンダナを巻き、謎のゴーグルを装着したオークや、草木に擬態した巨大な猪が、バリケードの陰からこちらの様子を伺っていた。
「(あいつらの肉は極上の豚肉だが……普通の剣や魔法で攻撃して【物理的なダメージ】を与えると、ルール違反のペナルティで『自爆(肉が消滅)』する仕様になってる!)」
「「「自爆だとォォォッ!?」」」
「じゃあどうやって狩るんですの!?」エリスが叫ぶ。
「サバゲーのルールだよ!!」
ケンタが、興奮冷めやらぬ声で前に出た。
「この階層は【ペイント弾(塗料)】を敵の体にぶつけて、『ヒット(死亡判定)』を取るシステムなんだ! 塗料が魔物に当たった瞬間、迷宮のシステムが『死亡』と判定して、肉を傷つけることなく極上食材に変換してくれるんだよ!!」
「なるほど!」トウヤが手を打つ。
「つまり、痛覚も傷も一切与えずに食材化できる、究極の【安全狩猟階層】ってわけか!」
その言葉を聞いた瞬間、ケンタがトウヤの足元に猛烈なスライディング土下座を決めた。
「トウヤさん!! お願いします!! 俺を……俺をこの階層の攻略に参加させてください!!」
「えっ? お前、戦闘経験ゼロの一般人だろ?」
「物理的な危険がない(ペイント弾での死合)なら、俺でも戦えます!! 俺の転生特典【ミリタリーアイテム創造】スキルで、全員分の『ペイント・ガン』と『ゴーグル』を用意しますから!! 頼む、この最高のフィールドで、俺にサバゲーをやらせてくれェェェッ!!」
前世で血の滲むようなサバゲー経験(遊び)を積んできたミリタリーオタクの魂の叫び。
トウヤは、熱意に満ちたケンタの目を見て、ニヤリと笑った。
「……いいだろう! 敵の武器もペイント弾なら、怪我の心配もないからな。よしケンタ! お前を臨時パーティーメンバーとして迎える! 武器の調達と、戦術指揮はお前に任せたぞ!!」
「うおおおおおおおッッ!! ありがとうございます!!」
***
数分後。
第72階層のスタート地点にて、異世界最強の美食家たちは、見慣れない「チキュウの装備」に身を包んでいた。
「おおっ! この『アサルト・ライフル』なる魔導具、軽くて持ちやすいぞ!」
ジンが、ケンタのスキルで創造された最新鋭のペイント・アサルトライフルを構え、サイト(照準器)を覗き込む。
「トリガー(引き手)を引けば、塗料の弾丸が連射される仕組みですわね! 私の渾身撃の魔力を込めれば、弾速も上げられそうですの!」
エリスが、重機関銃型のペイントガンを軽々と持ち上げて微笑む。
「いいかみんな! サバゲーは【被弾したら一発アウト(食材化失敗)】の緊張感あるスポーツだ!」
フル装備のケンタが、タクティカル・ベストを鳴らしながらハンドサインを出す。
「ジンさんは持ち前のスピードで『アタッカー』! 遊撃して敵の側面を突いてくれ! ガレスさんは大盾とハンドガンで『ポイントマン(前衛)』! エリスさんはその火力で『制圧射撃』だ! ルミナちゃんとマリアちゃんは後方からスナイパーライフルで狙撃をお願い!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
「よし! フラッグ戦(食材乱獲)、ゲームスタート!!」
ケンタの号令と共に、悠久の踏破者たちがCQBフィールドへと散開した。
ドドドドドッ!!
「(ブゴォォォォッ!!)」
開始早々、バリケードの奥からタクティカル・オークたちがペイント弾を乱射してくる。
「(敵襲! 制圧射撃行きますわ!!)」
エリスが、物陰からペイント・ガトリングガンを構え、圧倒的な魔力(腕力)で反動を完全に殺しながら、レーザービームのような正確さで塗料の弾幕を張る。
ババババババババッ!!
「(ブヒィィィッ!?)」
オークたちがたまらずバリケードの裏に引っ込んだ、その瞬間。
「(遅えよ! 上だ!!)」
「(!?)」
壁(ベニヤ板)を蹴って三角飛びで遥か上空のキャットウォーク(足場)に到達していたジンが、二丁拳銃の雨を降らせた。
『幻影歩法』による完全な無音移動。サバゲーにおける絶対的有利な「立体機動」を、ファンタジーの超身体能力でやってのけたのだ。
パシャァァァッ!!
オークの頭部に、鮮やかなピンク色の塗料が命中する。
その瞬間、迷宮のシステムが『ヒット(死亡)』と判定。
ポンッ! という軽快な音と共に、タクティカル・オークの体が光の粒子となって消え、後に『神話級・イベリコ豚の極上肩ロース』のブロック肉がポロッとドロップした。
「おおおっ! マジで肉になった!!」
トウヤが歓喜の声を上げる。
「すげえぞケンタのシステム! 肉に一切の物理ダメージが入ってない! 最高の鮮度だ!!」
「いける! これなら無双できますよ皆さん!!」
ケンタが、ハンドサインで前進を指示する。
そこからは、完全に『超人サバゲーマーたちによる蹂躙』であった。
ガレスの大盾はオークたちのペイント弾をことごとく弾き返し、その強固な防御の後ろから、トウヤとケンタが正確にツーマンセルでクリアリング(安全確認)を行っていく。
「(右のドラム缶裏、敵影二!)」
ケンタの指示に、トウヤが流れるような動きでライフルを構え、二発のペイント弾を正確にオークの眉間に撃ち込む。
ポンッ! ポンッ! と、極上の豚バラ肉が次々とドロップしていく。
「ヒャッハー! 銃ってのは便利だな! 遠くからでも安全に肉が狩れるぜ!」
ジンが、フィールドを縦横無尽に駆け回りながら、楽しそうにトリガーを引く。
「(ストップ! 前方にプラチナ反応です!)」
ルミナの【神眼】のサポートにより、最深部の巨大なトーチカ(要塞)に陣取る階層ボスを発見する。
第72階層大ボス――『フルメタル・ジャケット・コカトリス(重装甲防弾鶏)』。
ペイント弾を弾く特殊な防弾チョッキを着込んだ、巨大な極上鶏肉である。
「(防弾チョッキには塗料が乗らない! 顔面か、足元の隙間を狙うんだ!)」
ケンタが戦術を叫ぶ。
「(なら、一斉射撃でチョッキを吹き飛ばせばいいですわね!)」
エリスが、ニコッと笑って、ペイント弾の『弾頭』に自身の【渾身撃】の魔力を限界まで注ぎ込んだ。
「(チキュウの武器と、異世界の魔力の融合……! 行きますわ!!)」
ズドォォォォォォォォォンッッ!!!!!
ペイントガンから放たれた、規格外の魔力を帯びた巨大な塗料の塊(もはや大砲)が、コカトリスの防弾チョッキに直撃。
凄まじい衝撃(物理ダメージではなく、あくまで塗料の質量)によってチョッキが吹き飛び、丸裸になった鶏の顔面に、ケンタの放った一発のペイント弾が「ペチャッ」と命中した。
【ヒット判定――大ボス討伐完了】
カッ――――!!!!
大迷宮の空に向かって、純白の光の柱が打ち上がり、大ボスの体が『神話級のフライドチキン用・骨付きモモ肉』へと変換された。
「……ミッション・コンプリート!!」
ケンタが、ライフルを掲げてガッツポーズを決める。
「「「うおおおおおおッッ!!!! 大漁だァァァッ!!」」」
怪我人ゼロ。物理ダメージ・ゼロ。
ただ純粋に「サバゲー」という地球の遊びを全力で楽しみながら、トウヤたちはアイテムボックスが溢れ返るほどの極上肉(豚肉と鶏肉)を乱獲することに成功したのである。
「ケンタ、お前すげえな! タクティクス(戦術)の指示が的確すぎて、全然敵に撃たれなかったぞ!」
トウヤが、ケンタの肩をバンバンと叩く。
「へへっ……! いやぁ、皆さんの身体能力がバケモノすぎて、俺の指示以上の動きをしてくれたおかげですよ! サバゲー、最高に楽しかったです!!」
ケンタは、バルロア帝国での兵器開発の鬱憤を完全に晴らし、満面の笑みで答えた。
瞬殺ボーナスとして宝箱から出現したのは、ケンタのテンションをさらに爆上げさせる【神話級・全天候型タクティカル・テント(無限拡張式)】であった。
「これで野営の質がさらに跳ね上がりますよトウヤさん!」
完全なる遊び心と、チート級の戦術眼をもたらした第五の転生者。
彼らの非常識な迷宮キャンプは、新たな武器と戦術を取り入れ、ますます「楽しすぎる極上飯ツアー」へと進化していくのであった。




