第144話:【閑話】筒抜けの軍事同盟と、第五の転生者を運ぶ『超絶デリバリー』
### 第144話:【閑話】筒抜けの軍事同盟と、第五の転生者を運ぶ『超絶デリバリー』
「――というわけで、ゼノビア、ルミナス教国、そしてバルロアの三ヵ国は、地下密室にて打倒・絶対同盟を掲げる『神聖軍事連盟』の結成に署名いたしました」
アルカディア王城、ヴィルヘルム国王の執務室。
世界中に3000人の部下を放つ『世界食糧保全機構(超人スパイ部隊)』のトップであるファルコンは、持参した羊皮紙をテーブルに置き、淡々と報告を終えた。
「……なるほど。完全に筒抜けであるな」
ヴィルヘルム国王が、呆れたようにため息を吐く。
「彼らなりに極秘裏に動いたつもりだろうが、貴殿ら『スープを一滴もこぼさぬ隠密術』を極めた者たちの前では、児戯に等しいというわけか」
「はい。会議室の天井裏には我が部下が三名、テーブルの裏に二名張り付いておりました。議事録のコピーもすでにこちらにございます」
ファルコンが、完璧なドヤ顔(無表情)で頷く。
「ご苦労であった、ファルコンよ」
ガルド宰相が、手元の議事録に目を落とし、そして眉をひそめた。
「しかし……問題は、この軍事帝国バルロアに現れたという【第五のテンセイシャ】の存在ですな。なんでも、チキュウの『ジュウ』や『バクダン』なる究極兵器の知識を持っているとか」
その言葉に、執務室の空気がわずかに引き締まった。
地球の軍事知識。これまでの「マヨネーズ」や「ジャンクフード」といった食文化のチートとは異なり、純粋な殺戮の叡智である。それが冷酷なバルロア皇帝の手に渡れば、世界に血の雨が降るかもしれない。
だが、ヴィルヘルム国王の決断は早かった。
「……チキュウの兵器がどれほど恐ろしくとも、我々が恐れるべきはそこではない。彼もまた、トウヤ殿たちと同じ『異世界の迷い人』であるということだ」
国王は、傍らに控えていたサイラスとファルコンに向き直った。
「サイラス、ファルコン。貴殿らの精鋭部隊をもって、直ちに軍事帝国バルロアへ潜入せよ! そして、その【第五の転生者】に直接接触し、意思を確認するのだ」
「ハッ! 意思の確認、でありますか?」
「うむ。もし彼がバルロアに無理やり軟禁され、兵器開発を強要されているのであれば……直ちに【保護】し、我が国へ連れ帰れ。だが、もし彼自身がバルロアでの待遇に満足し、我々と敵対する意思を持っているのなら、無理に連れ去ることはせず静観せよ」
国王の瞳に、王としての鋭い光が宿る。
「ただし、その場合は『神話級の極上飯にありつく機会を永遠に失う』という事実だけは、きっちりと伝えて(釘を刺して)おくのだぞ」
「「了解ッッ!!!!」」
サイラスとファルコンが、バチィッ!! と完璧な敬礼を決める。
「我々『深淵の配達部隊』と『超人スパイ部隊』の誇りにかけて! 第五の転生者殿の元へ、最速で【選択肢】をお届けしてまいります!」
***
【同日夜――軍事帝国バルロア・地下兵器開発局】
「……マズい。絶望的にマズい」
分厚い鉄扉と数十人の近衛兵に守られた地下の特別室にて。
迷彩服を着た第五の転生者・ケンタ(前世:健太)は、木のお皿に乗せられた『塩茹での謎肉』と『石のように硬い黒パン』を齧りながら、ボロボロと涙をこぼしていた。
ケンタは前世で、サバゲーの後に仲間たちと囲む「BBQ」や、野外で缶詰を温めて食べる「ミリメシ」をこよなく愛する青年であった。
バルロア皇帝は「軍神の御使い」として彼を厚遇しているつもりなのだが、いかんせんこの国の食文化は「栄養が摂れれば味などどうでもいい」というゴリゴリの軍国主義スタイルなのである。
「こんなん、地球のドッグフードの方がまだ美味いぞ……。あーあ、どこかに美味い飯作れる日本人の転生者とかいねーかなぁ。せめて熱々のステーキと、冷えたビールが……」
ケンタが、自前のメスティン(飯盒)を抱きしめて現実逃避をしていた、その時。
「――その願い、我々が叶えましょう」
「えっ?」
ケンタが顔を上げた瞬間。
部屋の四隅の松明の火がフッと揺らぎ、彼の目の前の空間が『蜃気楼』のように歪んだ。
そして、音もなく現れたのは、黒装束に身を包んだサイラスとファルコンをはじめとする、数名の暗殺者(精鋭配達員)たちであった。
「ヒィィッ!? ア、暗殺者!? なんで近衛兵がいるのに中に入れるの!?」
ケンタがパニックになって後ずさる。
外の近衛兵たちは、誰一人として異常に気づいていない。バルロアの最高警備網など、彼らの『無振動・絶対隠密』の前では自動ドア以下の存在であった。
「ご安心を、第五の転生者殿。我々は暗殺者ではなく……トウヤ殿の命を受けた『配達員』です」
サイラスが、恭しく片膝をついた。
「トウヤ……? 配達員……?」
「左様でございます」ファルコンが続く。「我々は『絶対同盟』の使い。現在、大迷宮の深層にて、貴方と同じチキュウからの転生者である【トウヤ殿】、そして魔王ゼノン殿、ミズホのカイト様、ジャンクフードの申し子レオ殿が、日々極上のキャンプ飯を作っておられます」
「に、日本人!! しかも四人もいるの!? ていうか魔王まで!?」
ケンタの脳の処理が追いつかない。
「本日は、貴方様の意思を確認にまいりました。……バルロアに残り、彼らと共に軍事同盟として我々と敵対するか。それとも、我々の【保護】を受け、トウヤ殿たちの待つ陣営へと合流するか」
「そ、それは……」
ケンタが言いよどむ。彼としては兵器を作れる環境は悪くなかったからだ。
だが、サイラスはすかさず、懐から『一枚の羊皮紙(メニュー表)』を取り出した。
「もし我々を選ぶのであれば。今日のトウヤ殿の陣営の夕食は……第71階層で狩った『神話級・要塞タラバガニのカニしゃぶ』と『黄金スッポン鍋』。そしてレオ殿が開発した【特大フライドチキン】と【究極のハンバーガーセット(無限コーラ付き)】となります」
「――――ッッ!!!!」
ケンタの心臓が、早鐘のように激しく鳴り始めた。
「フ、フライドチキン……? ハンバーガー……!? しかもコーラまであるの!!?」
「はい」ファルコンが真顔で頷く。「さらに、和国ミズホのカイト様が開発した『マヨ・ネーズ』や『ショウユ』も完備。トウヤ殿は【極上の霜降り肉を使ったBBQ】も頻繁に開催しておられます。もちろん、冷えキンに冷えた『エール(ビール)』もございますぞ」
ケンタは、自分の手元にある「塩茹での謎肉」と「硬いパン」を見た。
そして、サイラスたちが語る「神話級のBBQとハンバーガー」のビジョンを想像した。
答えなど、コンマ一秒で決まっていた。
「連れてってッッ!!!!」
ケンタは、自らのメスティンを放り投げ、サイラスの足元に猛烈なスライディング土下座を決めた。
「軍事同盟とか兵器開発とかどうでもいい!! 俺は美味い肉が食いたい!! ハンバーガーとコーラで胃袋を満たしたいんだよォォォッ!! 頼む、今すぐ俺をその『絶対同盟』ってところにデリバリーしてくれェェェッ!!」
魂の底からの、ジャンクフードとBBQへの渇望。
サイラスとファルコンは、顔を見合わせて「やはりな」と深く頷き合った。転生者という生き物は、例外なく【トウヤの飯のメニュー】を聞かされた瞬間、全ての忠誠や野望を秒で投げ捨てるのである。
「承知いたしました、ケンタ殿。……総員、第五の転生者殿を【特上のお持ち帰り(VIP護衛)】として梱包せよ!!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
***
「えっ? ちょ、ちょっと待って! なんか担がれてる!?」
「ご安心ください! 【特製・無振動VIP神輿】です!」
「揺れゼロ、温度管理完璧! スープの一滴、いや、お客様の髪の毛一本すら振動させずに王都へお届けいたします!!」
ケンタは、あっという間に数十人の暗部によって持ち上げられた魔法の神輿の上に正座させられていた。
「(おいおいおい! サバゲーの隠密行動とかそういう次元じゃねえぞこれ!!)」
ケンタが戦慄する中、ファルコンが小さく指を鳴らす。
「絶対ジャイロ歩法・空間透過! 行くぞ!!」
フッ――――!!
次の瞬間、近衛兵たちが守る鉄扉すら開けることなく、彼らは壁を【透過】し、音もなくバルロアの地下施設から消失した。
数分後、見回りに来た近衛兵が誰もいない部屋を見て「……軍神の御使い様が、消えたァァァァッ!?」と絶叫し、バルロア帝国が大パニックに陥ることになるのだが……それはまた別の話である。
***
【数時間後――アルカディア王国・星繋ぎの迎賓館】
「ひぃぃぃ……ま、マジで酔い一つない……どんな超機動力だよ……」
ケンタが、王城を経由して案内された次元の交差点『迎賓館』の床にへたり込む。
「おおっ! 無事に着いたみたいだな!」
迎賓館の奥から、エプロン姿のトウヤと、ゼノン、カイト、レオの転生者組が満面の笑みで出迎えた。
「お前が五人目のケンタだな! よく来た! ファルコンたちから『サバゲーとミリメシが好き』って聞いてたから、今日は特別メニューだぜ!」
トウヤが、巨大な鉄板(BBQグリル)の上で、分厚い『神話級・要塞タラバガニの殻焼き』と『和牛CEOの極厚ステーキ』を豪快に焼き上げる。ジュワァァァァッ! と立ち昇る醤油とニンニクの香りが、ケンタの脳髄を直接ぶん殴った。
「う、うわぁぁぁぁっ!! に、肉だぁぁっ!!」
「ほら、無限ドリンクバーのコーラだ。好きなだけ飲みな!」
レオが、氷がたっぷり入った特大グラスを差し出す。
ケンタは、震える手でステーキを口に放り込み、コーラで一気に流し込んだ。
「――――ッッ!! う、うめぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」
ケンタの目から、滝のような涙が溢れ出した。
「肉が……肉が溶ける! カニの旨味がヤバい! コーラの炭酸が最高すぎるゥゥゥッ!!」
「ガッハッハ! 食え食え! これからお前も、俺たちのキャンプ仲間(飯友)だからな!」
トウヤが、次々と焼きたての肉を皿に盛っていく。
その狂喜乱舞する光景を、円卓の端で見つめていたヴィルヘルム国王とガルド宰相は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「……見事な手際であったな、サイラス、ファルコン」
「ハッ! メニューをお伝えした瞬間、バルロアへの未練など塵一つ残さず、自ら神輿に乗られました」
「チキュウの軍事兵器の知識を持つ男すらも、たった数分で陥落させるとは……」
ガルド宰相が、手帳に新たな教訓を書き込む。
「やはり、この世界において最強の武力とは、剣でも魔法でもなく……【トウヤ殿の極上飯】なのだと、痛感せざるを得ませんな」
かくして。
反絶対同盟が切り札として祭り上げようとしていた「第五の転生者」は、兵器を一つも完成させることなく、トウヤの飯テロ(デリバリー)によってあっさりと引き抜かれた。
「なぁトウヤさん! 俺、サバゲーの知識活かして、キャンプの設営とか火起こしとか全力で手伝うから! 明日も肉食わせてくれ!!」
「おう! 任せとけ!」
五人の転生者がついに集結し、ますます結束(と食欲)を固める絶対同盟。
彼らの前には、もはやいかなる国家の軍事力も、迷宮の理不尽なギミックも、単なる「極上飯のスパイス」に過ぎないのであった。




