第143話:【閑話】反・絶対同盟の密室会議と、軍事国家に舞い降りた『第五の使徒』
### 第143話:【閑話】反・絶対同盟の密室会議と、軍事国家に舞い降りた『第五の使徒』
アルカディア王国、帝国、地底魔国アガルタ、絶海の和国ミズホ、そして海洋通商連盟オロス。
大迷宮の底にいる一人の英雄と、彼が作る『極上飯』を中心として結成された【絶対同盟】は、今や世界の力と富の過半数を握る超巨大な枠組みへと変貌を遂げていた。
しかし、世界にはまだ、この同盟に参加していない(あるいは乗り遅れた)国々が存在する。
大陸の西方に位置する中立の自由都市。
その地下深くにある重厚な円卓の会議室にて、世界のパワーバランスの激変に焦りを募らせる『同盟不参加国』の首脳たちによる、極秘の緊急サミットが開かれていた。
「――もはや、状況は一刻の猶予もない! アルカディアを中心とする『絶対同盟』の発展速度は、我々の常識を完全に破壊している!!」
西方最大の経済力を持つ『商業連国ゼノビア』の代表が、滝のような汗を流しながら円卓を叩いた。
「我が国の密偵からの報告によれば、アルカディアや魔王国の暗部たちは、今や重力を完全に無視し、宙に魔力の足場を作って空を飛んでいるというのだ! しかも、頭の上に『水の入った木箱』を乗せたまま、一滴の水をこぼすこともなく、竜騎士すら凌駕する速度で国と迷宮を往復していると!!」
「な、なんだその狂った訓練は……!?」
神聖ルミナス教国の枢機卿が、顔面を蒼白にして十字を切る。
「暗殺や諜報のスペシャリストたちが、なぜ荷物(出前)を運ぶような真似をしているのだ!? しかも、人間と敵対していたはずの魔族の暗部までが、アルカディアの騎士と肩を組んで空を飛んでいるというではないか! これは悪魔の呪いだ!」
「呪いではない! 【テンセイシャ】の叡智だ!!」
ゼノビアの代表が声を荒らげる。
「大迷宮の深層にいる英雄トウヤ、魔王ゼノン、和国ミズホの賢者カイト、そして永世中立国から突如として姿を消した青年レオ……! 彼ら『異世界からの転生者』がもたらした知識が、世界を激変させているのだ!」
ゼノビアの代表は、一枚の羊皮紙を取り出した。
「特に、和国ミズホで開発された『マヨ・ネーズ』や『ショウユ』なる秘薬、そしてレオという青年がもたらした『ジャンク・フード』という概念……! これらは今や、国家予算レベルの価値で取引され、同盟国に莫大な富と兵士の士気向上をもたらしている! このままでは、経済も軍事も、全て絶対同盟に呑み込まれるぞ!」
会議室に、絶望的な沈黙が落ちた。
経済で圧倒され、かつ「空を飛ぶ無振動の暗殺部隊(ウー◯ー配達員)」という世界最強の機動力を突きつけられているのだ。戦争になれば、自分たちの首など数日で全て物理的に刈り取られるだろう。
「……ならば、どうする。我々も今から頭を下げて、アルカディアの靴を舐め、『マヨ・ネーズ』の恩恵に預かるか?」
軍事帝国バルロアの皇帝――武闘派にして冷酷なる覇王とうたわれる男が、低い声で唸った。
「そ、それが現実的かと……。ゼノビアとしては、すぐにでも同盟の末席に加えていただきたく……」
ゼノビアの代表が弱腰で答える。
「否! 断じて否だ!!」教国の枢機卿が立ち上がる。「魔王(悪魔)を容認する同盟に加わるなど、神への最大の冒涜! 我々は独自の枠組み(対抗同盟)を結成し、徹底抗戦すべきだ!!」
「抗戦と言っても、武力の差は歴然だぞ!」
喧々諤々の議論が交わされ、会議が完全に紛糾しかけた、その時。
「――静まれ」
軍事帝国バルロアの皇帝が、重々しい声で一喝した。
その凄まじい覇気に、ゼノビア代表も枢機卿も思わず口をつぐむ。
「アルカディアの強さの秘密が、【チキュウ】と呼ばれる異世界からの知識にあることは明白だ」
皇帝は、ニヤリと……極めて邪悪で自信に満ちた笑みを浮かべた。
「ならば、話は簡単だ。我々もまた、その【チキュウの叡智】を手に入れればよいのだ」
「……どういう意味ですかな、バルロア皇帝」
枢機卿が眉をひそめる。
「テンセイシャは、世界に四人しか確認されていない。しかも全員が、すでに絶対同盟の庇護下(あるいは迎賓館)にいるのですよ?」
「ふはははっ! 果たしてそうかな?」
皇帝は立ち上がり、円卓の中央に一つの『奇妙な金属の筒』をドンッと置いた。
それは、魔法世界には存在しない精巧な機械構造……地球の『アサルト・ライフル(のレプリカ)』のような形をしていた。
「な、なんだその鉄の棒は……?」
皇帝は、勝利を確信したような狂気的な眼差しで語り始めた。
「数日前。我が国の辺境にある『禁忌の古代遺跡』にて、突如として次元の歪みが発生し……空から、一人の奇妙な服(迷彩服)を着た若者が落ちてきたのだ」
「なっ……! まさか!!」
「そう! 彼こそが、我が国に舞い降りた【第五のテンセイシャ】だ!!」
皇帝の絶叫に、会議室が揺れた。
「彼は自らの前世を『ミリタリー・オタク(サバイバルゲーマー)』と名乗った。そして、彼の脳内には、魔法をも凌駕するチキュウの究極兵器……『ジュウ』『センシャ』『バクダン』なる、恐るべき殺戮兵器の知識が詰まっているのだ!!」
「ち、チキュウの究極兵器だとォォォッ!?」
ゼノビアの代表が腰を抜かす。
これまでの転生者がもたらした知識が「マヨネーズ」や「ハンバーガー」といった(異世界人からすれば恐るべき錬金術の)食文化だったのに対し、バルロアに現れた五人目の転生者は、正真正銘の『軍事知識』を持っていたのである。
「すでに我が国の魔導技術局は、彼の知識を元に、魔力を弾丸に変えて連射する『魔導アサルト・ライフル』の試作に成功しつつある!」
皇帝が、高らかに宣言する。
「これほどの軍事技術があれば、アルカディアの空飛ぶ暗部どもだろうが、地底の魔王軍だろうが、恐るるに足らん!! 我々は【神聖軍事連盟】を結成し、チキュウの武力をもって絶対同盟を打ち破るのだ!!」
「「「おおおおおおおッッ!!!!」」」
軍事帝国バルロアの皇帝がもたらした「圧倒的な武力の希望」に、教国もゼノビアも完全に熱狂し、彼らは打倒・絶対同盟を掲げる新たな軍事同盟の結成にサインをした。
――しかし。
彼らは、根本的なところで「致命的な勘違い」をしていた。
***
【同日――軍事帝国バルロア・地下兵器開発局にて】
「あー……違う違う! だから、このライフルのストック部分はもっと軽くしないと取り回しが悪いって! サバゲーじゃ重量バランスが命なんだから!」
堅牢な地下施設の中で、カーキ色の迷彩服を着た青年――第五の転生者である『ケンタ(前世:健太)』が、バルロアの魔導技師たちに熱心にダメ出しをしていた。
彼は、前世で「サバイバルゲーム」と「ミリメシ(軍隊食)」をこよなく愛する、ただの平和なミリタリーオタクであった。
本物の戦争などしたこともなく、彼が作らせている『魔導ライフル』も、弾丸(魔力弾)に殺傷能力を持たせる気など毛頭なく、「当たったらペイントが弾けて判定が出る」という安全なサバゲー仕様にするつもりだったのである。
「よしよし、BB弾(ペイント弾)の射出機構はこれで良しっと。……あー、それにしても腹減ったな」
ケンタが、図面から顔を上げて大きく伸びをする。
「おい、兵士のおっさん! 飯まだ!? 俺、異世界に来てから硬いパンと塩漬け肉しか食ってないんだけど! せめて『レーション(戦闘糧食)』っぽく、温かいシチューとか、缶詰のスパムとか用意してくれない!?」
「はっ! ただいま用意させます、軍神の御使い様!!」
兵士が直立不動で敬礼し、慌てて走っていく。
(……なんかここ、俺のことめちゃくちゃ崇めてくるけど、飯がマズいんだよなぁ。転生特典の『ミリタリーアイテム創造』スキルでガスバーナーとかメスティンは出せるけど、肝心の食材がクソすぎる)
ケンタは、自前のメスティン(飯盒)を磨きながら深いため息を吐いた。
(サバゲーの後のキャンプ飯、BBQで焼く極上のステーキと、冷えたビール……! あれが食えなきゃ、いくら兵器作っても人生楽しくねえよ……。どこかに、美味い飯作ってる日本人とかいないかなぁ)
軍事国家の中枢で「打倒・絶対同盟の切り札」として祀り上げられている第五の転生者。
だが彼の魂の根底にあるのもまた、他の四人と同じ「美味い飯(ミリメシとBBQ)への強烈な渇望」であった。
兵器とサバゲーを愛する青年が、トウヤの作り出す「神話級のキャンプ飯」の匂いを嗅ぎつけた時。
果たして彼が軍事国家を裏切り、秒速でトウヤの陣営(胃袋)へと寝返るまでに何日かかるのか。
世界のパワーバランスを懸けた(食欲の)情報戦は、水面下で静かに、そしてシュールに進行していくのであった。




