第142話:難攻不落の星型キルゾーンと、重装甲ガニの極上フルコース(各国の配達部隊修練を添えて)
### 第142話:難攻不落の星型キルゾーンと、重装甲ガニの極上フルコース(各国の配達部隊修練を添えて)
『悠久の大迷宮』第70階層――『沈黙の暗闇劇場(映画館)』。
絶対沈黙のルールを遵守し、極上のフライドチキン(プラチナ食材)とジャンクフードの神器『全自動圧力フライヤー』を手に入れたトウヤたち。
新メンバーであるレオ(ジャンクフード開発部長)の神業によって揚げられたチキンとポテトは、異世界の首脳陣たちを狂乱の渦に叩き込み、迎賓館の大宴会はかつてないほどの盛り上がりを見せていた。
そして、翌朝。
ゴレ太郎とレオが共同開発した『チキンフィレ・サンド(特製オーロラソース)』で朝食を済ませた一行は、いよいよ70階層台の初陣となる、第71階層の大扉の前に立っていた。
「さあて! 60階層台のチキュウ・ギミックはどれも強烈だったが、ここからはいよいよ70階層台だ! どんな理不尽が待ってるか楽しみだな!」
トウヤが、ワクワクとした顔で『天啓の美食羅針盤』を取り出した。
魔力を流し込むと、盤面には無数の『黄金色』の光が灯った。
「よし、食材の反応は上々だ! だが……」
トウヤは、環境ギミックを示す『青い矢印』の奇妙な動きに眉をひそめた。
矢印は、迷宮の奥へ向かって真っ直ぐ進むのではなく、「直角に曲がる」「行き止まりで引き返す」「星型のようにジグザグに動く」といった、まるで複雑な迷路を這い回るような異常な軌道を描いていたのである。
「なんだこの矢印? トランポリンみたいにバウンドしてるわけでもないし、高速回転もしてないが……やたらとカクカク動いてやがる」
ジンが盤面を覗き込んで首を傾げる。
「……とりあえず、重力異常や即死系のギミックではなさそうだ。だが、油断は禁物だぞ。隊列を組んで慎重に降り立つぞ!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
ガレスを先頭に、トウヤたちが重厚な扉を押し開けた。
――ゴオォォォォ……。
扉の先に広がっていたのは、見渡す限りの広大な荒野……ではなく、分厚い『石とレンガ』で造られた、巨大な壁と通路の入り組んだ無機質な空間であった。
空は薄暗く、環境そのものは「ただの巨大な石造りの廃墟」に見える。
「ピィィッ!(兄貴、すっごく立派な建物だけど、通路が狭くてクネクネしてるよ!)」
クーが上空へ飛び立とうとするが、天井付近には見えない魔力障壁が張られており、空からの偵察が封じられていた。
「飛行封じの結界か。となると、この入り組んだ通路を地道に進むしかないな」
トウヤが剣を抜き、一行は警戒しながら石造りの通路を歩き始めた。
しばらく進むと、開けた『四角い広場』に出た。
「おっ? 行き止まりか? いや、右側に次の扉があるぞ」
ジンが広場の中央に足を踏み入れた、その瞬間。
ガチャンッ!!
背後の通路から、分厚い鉄格子が落下し、退路が完全に絶たれた。
さらに。
『グオォォォォォッ!!』
広場を囲む三方向の城壁の上、無数に開いた『銃眼(小さな隙間)』から、一斉にモンスターたちが姿を現した。
「なっ!? 完全に包囲されただと!?」
ガレスが咄嗟に大盾を構える。
壁の上から一斉に放たれたのは、岩石の弾丸と強烈な魔法の矢。
それだけではない。広場の正面の巨大な扉が開き、全身を超重装甲に包んだ巨大な魔物たちが、地響きを立てて突撃してきたのである。
第71階層モンスター――『フォートレス・キングクラブ(要塞タラバガニ)』と、『キャッスル・ウォール・タートル(城壁スッポン)』。
「(防御力が高すぎる! 私の剣が弾かれますわ!)」
エリスが、タラバガニの脚に大剣を叩き込むが、分厚い甲殻にガキンッ! と甲高い音を立てて弾き返されてしまう。
壁の上からの十字砲火と、正面からの超重装甲の魔物の突進。
彼らはあっという間に「完璧なキルゾーン(殺戮地帯)」のど真ん中に釘付けにされてしまった。
「(ルミナ! マリア! 壁の上の狙撃手を氷結で黙らせろ!! ガレスは正面のタートルを抑えろ! ジンとエリスは関節の隙間を狙え!)」
トウヤの的確な指示と、これまでの階層で培ってきた異常な連携力により、なんとかその場の魔物たちを撃破することに成功した。
「……ハァ、ハァ……。なんだこの理不尽な陣形は……! まるで、最初から俺たちをここに誘い込んで蜂の巣にするための構造じゃないか!」
ジンが、双短剣を収めながら悪態をつく。
その時。
トウヤは、壁の銃眼、四角い広場の構造、そして羅針盤が示していた『星型のジグザグな矢印』の軌道を思い出し……ハッと目を見開いた。
「(……中の探索をして、ようやく分かったぞ。ここ、ただの石の迷路じゃない)」
トウヤは、ゾッとするような、そして感心するような顔で周囲の壁を見回した。
「お前ら! この階層の正体が分かったぞ!! ここは、俺たちの故郷(地球)の歴史において、数々の軍隊を絶望させてきた【難攻不落の要塞建築】の集大成だ!!」
「な、難攻不落の要塞……!?」
「ああ! 今俺たちがハメられたこの四角い広場は、日本の城郭にある『枡形』っていう、敵を四方から囲んで殲滅するためのトラップ構造だ! そして、このジグザグの通路と斜めの壁は、ヨーロッパの『星型要塞(ヴォーバン式)』! 死角を完全に無くし、どこからでも十字砲火を浴びせられる究極の防衛建築だ!」
「「「チキュウの、究極の防衛建築ゥゥゥッ!!」」」
異世界の住人である彼らにとって、「チキュウの知識」という言葉は、もはや「神の試練」と同義であった。
「……なるほど。モンスター自体は手強いが、絶対に倒せないレベルじゃない。問題は、この【建物(環境)そのものが、俺たちを殺しに来ている】ってことだ」
ガレスが、壁の構造を睨みつけながら唸る。
トウヤが大きく頷く。
「その通りだ! 敵は超重装甲の甲殻類と亀! それが、この難攻不落の要塞の地の利を活かして襲ってくる。……無理に力任せに突破しようとすれば、無駄に体力を削られる上に、獲物の『極上のカニ身』や『スッポンの肉』がズタズタに傷ついちまう!」
トウヤは、足元で氷結パッケージされた『要塞タラバガニ』をポンと叩いた。
「こいつらの肉は、神話級の極上シーフードだ! だが、装甲を傷つけずに中身を狩るには、今の俺たちの連携でもまだ少し『狭い場所での精度』が足りない」
「トウヤ様。では、どういたしますの?」
エリスが尋ねると、トウヤはニヤリと不敵に笑った。
「決まってるだろ! ここは最高の『修練場』だ!」
トウヤが剣を天に掲げる。
「これより俺たちは、この第71階層の【難攻不落の要塞】にしばらく留まる! 厄介な十字砲火を『絶対ジャイロ歩法』でいなし、極狭の通路で敵の装甲の『関節(1ミリの隙間)』だけを正確にブチ抜く【要塞突破・超精密近接戦闘】の修練を行うぞ!!」
「「「うおおおおおおッッ!!!!」」」
「この城のギミックを全て遊び尽くし、極上のタラバガニとスッポンを狩り尽くす! 数日間の【要塞お泊まりキャンプ(攻城戦)】の開幕だァァァッ!!」
かくして。
地球の軍事史に名を残す「絶対防衛の要塞」を舞台に、純度100%の食欲で駆動する美食家たちの、狂気的な「カニ漁(修練)」が幕を開けた。
***
【一方その頃――地上のアルカディア王国・特別修練場】
トウヤたちが深層で難攻不落の要塞と戯れていた頃。
地上の広大な修練場では、サイラス率いる『深淵の配達部隊』、ファルコン率いる『超人スパイ部隊』、魔王軍から派遣された『魔国暗部』、そしてミズホの国からはるばるやってきた『出前シノビ部隊見習い』たちが一堂に会し、世にも恐ろしい【合同デリバリー特訓】を行っていた。
「甘ァァァァァァァァッッ!!!!」
修練場に、ファルコンの怒号が響き渡る。
「貴様ら!! もしトウヤ殿から『特製スッポン鍋』の出前を頼まれた時、そのようなブレたステップでスープを一滴もこぼさずに運べると思っているのか!!」
「ヒィィィッ! も、申し訳ありませぬ!!」
シノビの精鋭たちが、頭の上に【なみなみと水の入った木箱】を乗せたまま、泣きながらフィールドを駆け回っていた。
彼らの周囲には、数百台の自動魔法砲台が設置され、四方八方から容赦なく火炎弾や氷結弾(威力は死なない程度に調整済み)が嵐のように放たれている。
「チキュウの『マンイン・デンシャ』や『スーパーの特売日』といった、あらゆる死地(?)を潜り抜けるための、全方位弾幕回避訓練」である。
「(魔王軍の誇りにかけて! スープは死守する!!)」
魔国の暗部たちは、足元を自ら凍らせ、摩擦ゼロの『絶対ジャイロ歩法』でコマのように超高速スピンしながら、飛び交う魔法弾の隙間をスルスルと滑り抜けていく。遠心力で箱の水面は完璧な水平を保っていた。
「(チィッ! 我々シノビも負けてはおれん! 忍法・無振動次元跳躍!!)」
ミズホのシノビたちは、【次元歩行の靴】の能力を極限まで引き出し、空中に魔力の足場を作って弾幕の上を飛び交う。しかし、着地の衝撃を逃しきれず、箱の水が「チャプッ」と微かに揺れた。
「水面が波立ったぞシノビ部隊!! 貴様ら、極上のマヨネーズが振動で分離したらどう腹を切るつもりだ!!」
サイラスが、鬼のような形相で激詰めする。
「今すぐ滝行に戻れ! トウヤ殿の神話級ハンバーガーを食う資格なし!!」
「「「ウオォォォォォォッ!! やり直します!! 俺たちは絶対に極上の出前を持ち帰るんだァァァッ!!」」」
大国のスパイ、魔族の暗殺者、和国の忍者。
本来なら血で血を洗う殺し合いをするはずの彼らが、ただ「トウヤの極上飯を完璧な状態で運ぶ(そしておこぼれを食う)」という共通の目的のためだけに、連帯し、互いをライバル視し、狂気的な情熱で汗と涙を流していた。
彼らもまた、トウヤたちに負けず劣らず、食欲によって限界を突破し続ける異常な集団へと変貌を遂げていたのである。
***
それから数日間。
第71階層の要塞内部には、連日のように激しい戦闘音と、そして「歓声」が響き渡っていた。
「(十字砲火、来ますわ!)」
「(任せろ! 【流転の盾・要塞返し】!)」
ガレスが、狭い通路で大盾を絶妙な角度で構え、壁から放たれる魔法と岩弾を「ビリヤード」のように弾き返し、逆に狙撃手たちを粉砕する。
「(装甲の隙間、見切りましたの!)」
エリスが、重剣の極限のコントロールにより、タラバガニの分厚い殻を一ミリも傷つけることなく、関節の隙間から「スポンッ!」と中身の極太の脚肉だけを無振動で抜き取る。
「(スッポンの首、いただきました! 【幻影歩法・要塞抜き】!)」
ジンが、壁を蹴って三角飛びを繰り返し、甲羅にこもる直前のスッポンの急所を神速で断ち切る。
彼らは、難攻不落の要塞の構造を完全に把握し、逆にそれを利用して「極上食材を傷つけずに解体する」という、異常な次元の戦闘技術(調理法)を確立しつつあった。
「よし! 今日も大漁だ!!」
トウヤが、アイテムボックスに山のように積まれた『要塞タラバガニの極太脚肉』と『城壁スッポンの神話級エンガワ』を見て、満面の笑みを浮かべる。
「さあ! 拠点(迎賓館)に戻って、レオとゴレ太郎に調理してもらうぞ! 今夜はカニしゃぶとスッポン鍋の大宴会だ!!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ次元の交差点。
今夜の円卓の中央には、レオの完璧な出汁の調整によって煮え滾る、巨大な『黄金のスッポン鍋』と、氷の上に美しく盛られた『タラバガニの極太脚肉(刺身)』が鎮座していた。
「「「いただきますッッ!!!!」」」
魔王ゼノンが、透き通ったカニの脚肉を熱々の出汁にサッとくぐらせ、ミズホ特製のポン酢をつけて口に放り込む。
『――――ッッ!! うめぇぇぇぇぇっ!! なんだこの暴力的な甘みと弾力は!! 口の中でカニの旨味が大爆発してやがる!!』
ゼノンが、あまりの美味さに涙を流しながら叫ぶ。
「陛下! この『スッポン』なる魔物のスープ、信じられないほど濃厚で深いコクがありますぞ! 一口飲んだだけで、全身の魔力が底なしに湧き上がってくるようです!!」
ガルド宰相が、鍋のスープを飲んで顔を真っ赤にして興奮する。
「うむ! このゼラチン質の肉も、ぷるぷるとしていて絶品だ! カイト殿のショウユが、見事にこの強烈な旨味をまとめ上げている!!」
ヴィルヘルム国王も、王の威厳を忘れてカニとスッポンに夢中になっていた。
「いやー、カニしゃぶ最高だな! レオ、出汁の加減が完璧だぜ!」
トウヤが、レオにコーラのグラスを掲げる。
「ありがとうございます! 俺、ジャンクフードだけじゃなくて、和食の仕込みも前世でちょっとだけやってたんで!」
レオが、嬉しそうにカニを頬張りながら答える。
「しかしトウヤ殿」
ミズホの国主が、カニの甲羅酒を嗜みながら尋ねた。
「本日の階層は、どのような場所だったのですか? これほどの極上食材、さぞや過酷な環境だったのでしょうな」
「ああ。今日はチキュウの歴史が生んだ【難攻不落の星型要塞】だったんだ」
トウヤが真顔で答えると、異世界陣営の動きがピタリと止まった。
「星型……要塞……!」
「ああ。死角を完全に無くし、侵入者を四方八方から蜂の巣にするために計算し尽くされた、チキュウの軍事建築の最高峰だ。……俺たちは今日、その絶望の迷路の中で、重装甲の敵と命がけの死闘(カニ漁)を繰り広げてきたんだ」
「「「おおおおおっ……!!」」」
ヴィルヘルム国王たちが、深い畏敬の念を込めてどよめく。
「そのようなチキュウの軍事技術の粋を集めた絶対防衛線を、自らの足で踏破し、あまつさえこれほどのカニを無傷で持ち帰られるとは……! トウヤ殿たちの武力、もはや神の領域ですな!!」
そして、背後で控えていたサイラスやファルコン、シノビたち『各国の配達部隊』は、トウヤの言葉を聞いて顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「(聞いたか……四方八方からの十字砲火だと。我々が地上の修練場でやっていた弾幕訓練は、まさにチキュウの星型要塞を想定したものだったのだ!)」
「(ああ! 我々のスープ防衛技術は、もはやチキュウの最高峰の軍事建築すらも超えたということだ!)」
「(トウヤ殿! 次の出前注文、いつでもお待ちしておりますぞ!!)」
(……まあ、実際はカニの殻を綺麗に剥くための練習場になってるんだけどな)
トウヤは、やたらと自信に満ち溢れている配達員たちの熱い視線に心の中でツッコミを入れつつ、笑みを浮かべてカニの脚にしゃぶりついた。
難攻不落の要塞という最強の軍事施設すらも、彼らにかかれば「極上シーフードの生け簀(修練場)」に過ぎない。
地球の知識と圧倒的な食欲を武器に、悠久の踏破者たちは、70階層台の過酷な道のりを、極上の美味さと共に爆進していくのであった。




