第140話:【閑話】無振動のVIP神輿と、異世界を狂わせる究極のハンバーガーセッ
### 第140話:【閑話】無振動のVIP神輿と、異世界を狂わせる究極のハンバーガーセット
アルカディア王国・大迷宮入り口。
四人目の転生者であり、「ジャンクフードの申し子」である青年レオ(前世:鈴木涼)は、己の目を疑うような光景のど真ん中にいた。
「レオ殿! 揺れはございませんか!?」
「温度管理、完璧です! 衝撃吸収結界、最大出力で展開中!!」
「え、えっと……すごく快適です。……っていうか、俺の扱い、なんかおかしくないですか!?」
レオは現在、ファルコン率いる『世界食糧保全機構』とサイラス率いる『深淵の配達部隊』の精鋭数十名によって担がれた、【特製・無振動VIP神輿(結界付き)】の上に正座させられていた。
本来は極上のスープやケーキを運ぶための超絶隠密技術を、彼らは全開にして「レオという人間のデリバリー」に応用しているのである。
「ご安心ください! トウヤ殿の大切な『料理補佐(ジャンクフード開発部長)』である貴方様に、指一本、いや、髪の毛一本の振動すら与えはしません!!」
サイラスが、ビシッと真顔で叫ぶ。
「総員、絶対ジャイロ歩法・展開! 第一階層から第六十階層までは、空間跳躍で一気に飛びます!!」
ファルコンの号令と共に、暗部たちが一斉に超高速スピンを始め、レオを乗せた神輿が「フワッ」と重力を無視して宙に浮き上がった。
「ヒィィィッ!? ま、回ってる! 暗殺者の人たちが回ってるぅぅぅッ!?」
レオの悲鳴を置き去りに、神輿は凄まじいスピードで大迷宮を下降していく。
彼らは道中の階層ギミックを、もはや呼吸をするかのように突破していった。
第66階層『停止と進行の鋼鉄廃都』。
「赤だッ! 止まれ!!」の合図で、神輿を担いだ数十人が空中でピタァッ!! と一ミリのブレもなく静止する。
第67階層『豊穣の無限商業施設』では、主婦ゴーレムの群れを「お客様、お通しください!」と丁寧かつ暴力的なステップで躱し、セルフレジを「ピッ」と通過。
極めつけは、第68階層『超圧縮の鋼鉄蛇(満員電車)』である。
「肉の壁を作れ!! レオ殿に満員電車の圧力を一ミリも伝えるなァァァッ!!」
精鋭スパイたちが、レオの神輿の周囲をガッチリと円陣で囲み、自らの肉体と魔力障壁で通勤ラッシュの尋常ならざる圧力を完全にシャットアウトしたのである。
(な、なんだこの人たち……! 前世のSP(要人警護)とか目じゃないレベルだぞ……! この世界の暗殺者って、みんなこんなに「配達」に命かけてるの!?)
レオは、恐怖と畏敬の念で震えながら、ただひたすらに「ハンバーガー……美味いハンバーガーを食うんだ……」と念仏のように唱え続けていた。
***
そして、数時間の超絶デリバリーの末。
第69階層付近の安全地帯に展開された、トウヤの拠点【星の箱庭】。
「おっ! 着いたかレオ! お疲れさん!」
トウヤが、ふかふかのソファから立ち上がって満面の笑みで出迎えた。
「ト、トウヤさん……! 俺、生きて着きました……!」
レオが、神輿からフラフラと降りてへたり込む。
「ガッハッハ! よく来たな! 昨日の迎賓館ではゆっくり話せなかったが、ここが俺たちの拠点だ。さあ、遠慮せずに使ってくれ!」
トウヤが、広々としたシステムキッチンの前に立つ【全自動調理ゴーレム・ゴレ太郎】を指差す。
「こいつが俺の右腕のゴレ太郎だ。お前の指示通りに完璧な温度管理と調理補助をしてくれる。……で、材料はこれだ」
ドンッ!! と、キッチン台の上に置かれたのは。
第64階層で狩った『ヘヴンリー・ピーク・バイソンの神話級赤身肉』と、第68階層で狩った『和牛CEO・ミノタウロスの究極霜降り肉』。
さらに、以前の階層でストックしておいた『黄金の男爵芋(極上ポテト)』と、カイトから届いたばかりの『特製マヨネーズとケチャップ』、そしてパン専用の最高級小麦粉であった。
「……ッッ!!!!」
それを見た瞬間。レオの目の色が、怯えた青年から【歴戦のファストフード店長(ジャンクの申し子)】のそれへと一変した。
「……すげえ。こんな極上の肉、地球じゃ億を積んでも買えないぞ。……トウヤさん、本当に俺がこれを使っていいんですか?」
「ああ。全部お前に任せる。俺たちの胃袋を、チキュウのジャンクフードでガツンと殴ってくれ!」
「……了解しました!!」
レオは、ゴレ太郎に向かって真新しいエプロンを締め直しながら、流れるような指示を出し始めた。
「ゴレ太郎さん! まずはポテトだ! 黄金の男爵芋を1センチ角の拍子木切りにして、冷水でデンプンを洗い流してくれ! 揚げる油は、和牛CEOの牛脂と植物油を7対3でブレンド! 温度は160度で三分、その後190度で二度揚げだ!!」
「ピピポッ!(了解シマシタ、店長!)」
「次はパティだ! バイソンの赤身と和牛の霜降りを、6対4の黄金比率で粗挽きにしてくれ! つなぎは一切不要! 塩と黒胡椒だけで肉の旨味を極限まで引き出す! 焼きは鉄板で、表面をカリッと、中は肉汁が溢れるミディアムレアだ!!」
レオの手捌きは、トウヤすらも舌を巻くほどの無駄のなさであった。
マニュアルを極め、数万個のハンバーガーを焼き続けてきた「職人」の動き。
ふんわりと焼き上がった特製バンズの断面を鉄板で軽くトーストし、その上にカイトの特製マヨネーズとケチャップを合わせた『オーロラソース』をたっぷりと塗る。
レタス、輪切りのトマト、そして極上のチーズを乗せ、最後にジュワァァァァッ! と肉汁を弾かせながら焼き上がった『神話級・合い挽きパティ』をドンッと挟み込む。
「よし……完成だッ!!」
レオが、額の汗を拭いながらガッツポーズを決めた。
キッチンには、悪魔的なまでに食欲をそそる牛脂の香りと、揚げたてポテトの香ばしい匂いが充満していた。
「最高だぜレオ!! 早速、迎賓館に持っていくぞ!!」
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ、次元を超えた大宴会場。
今夜は、トウヤ側の扉(深層)から、エプロン姿のレオがトウヤたちと共に円卓へ姿を現した。
「おおっ、レオ殿! 無事に深層へ到着されたようだな!」
ヴィルヘルム国王が、立ち上がって労いの声をかける。
「昨晩はゆっくり話せなかったが、今日はさっそく貴殿の腕前を披露してくださるというのか! 我々一同、心待ちにしておったぞ!」
「あ、はい……! よろしくお願いします!」
レオが照れくさそうに頭を下げる中、トウヤが円卓の中央に巨大な銀のトレイをドンッと置いた。
「皆! 待たせたな! これが、我が陣営のジャンクフード開発部長・レオが作り上げた、地球の魂の結晶……【神話級・特製ハンバーガーセット(特大フライドポテト付き)】だァァァッ!!」
パカッ! と銀のフタが開けられた瞬間。
「「「おおおおおおおッッ!!!!」」」
円卓の全員が、その圧倒的なビジュアルと暴力的な香りに息を呑んだ。
肉汁が滴る分厚いパティ、とろけるチーズ、色鮮やかな野菜が、ふかふかのバンズに挟まれた『ハンバーガー』。そして、その横には黄金色に輝く『フライドポテト』が山のように盛られ、傍らには無限ドリンクバーから注がれた氷たっぷりの『コーラ』が添えられている。
『兄弟! カイト! レオ!』
魔王ゼノン(田中太一)が、通信機越しのオフ会ではなく、直接その場にいる感動で泣き叫んだ。
『これだよ……俺が数十年、夢にまで見た最強のセットだぁぁぁッ!!』
「さあ、食い方を教えるぞ!」
トウヤが、ハンバーガーを両手で鷲掴みにした。
「ナイフとフォークなんて野暮なもんは捨てるんだ! こうやって両手で持って、少し押し潰して……大きな口を開けて、肉とパンと野菜をいっぺんに噛みちぎるんだ!!」
「「「いただきますッッ!!!!」」」
全員がトウヤに倣い、ハンバーガーに豪快にかぶりついた。
その瞬間。
「――――ッッ!!??」
ヴィルヘルム国王の瞳孔が、極限まで開いた。
「な、なんだこれは……!! 噛んだ瞬間に、赤身の強烈な旨味と霜降りの甘い脂が口の中で爆発したぞ!! それを、カイト殿の酸味の効いたソースと、柔らかなパンが見事に受け止めている!!」
国王は、王の威厳など完全に投げ捨て、両手と口の周りをソースまみれにしながら、狂ったようにバーガーを貪り食い始めた。
「こ、この『フライド・ポテト』なる細長い芋!!」
ガルド宰相が、ポテトを数本まとめて口に放り込む。
「外はカリカリ、中はホクホク! 絶妙な塩気と牛脂の香りが、後を引いて止まりませぬ! 芋が……芋がご馳走に化けている!!」
「魔王様! この黒い炭酸水と一緒に流し込むと、胃袋の脂がリセットされて、無限に食べられてしまいますわぁぁっ!」
四天王のセレスティも、完全にジャンクフードの魔力に脳を破壊されていた。
「うめぇぇぇっ! 俺のマヨネーズとケチャップが、これ以上ないってくらい輝いてるよレオ君!!」
カイトが、ポテトにソースをディップしながら歓喜の涙を流す。
「ふふっ……よかった」
レオは、自分が作ったハンバーガーを無我夢中で頬張る異世界の大物たちを見て、心底嬉しそうに笑った。
そして自らも、一口ハンバーガーを齧り、コーラで流し込む。
(美味い……! 前世のどのチェーン店より、圧倒的に美味い!! トウヤさんの集めた神話級の食材と、俺の知識が合わさった、文句なしの最高傑作だ!!)
「ガッハッハ! レオ、お前最高だぜ!!」
トウヤが、コーラのグラスをレオにぶつける。
「お前の知識があれば、フライドチキンも、ピザも、牛丼も、全部完璧に再現できる! 俺たちの迷宮キャンプは、今日からさらにチート級の飯テロ空間になるぞ!!」
「はいっ!! 任せてください、トウヤさん! 俺、次はこの『無限ドリンクバー』の炭酸水を使って、特製のメロンソーダ・フロートを作ります!」
「おおおっ! いいねぇ!!」
異世界の王たち、最強の暗殺者たち、そして四人の転生者が、肩を組んでジャンクフードを貪り食う。
永世中立国でひっそりと生きていた青年の魂は、大迷宮の底でトウヤという最高の理解者を得て、完全に解放された。
「ファスト・フード……! この提供の早さと、悪魔的な美味さ……! これぞまさしく、絶対同盟の新たな国教に相応しい!!」
ヴィルヘルム国王が、口の周りにケチャップをつけたまま高らかに宣言する。
新たなる料理補佐の加入により、カロリーと背徳感のリミッターが完全に外れた『悠久の踏破者』たち。
彼らの非常識極まりない大迷宮攻略は、無限のジャンクフードと食欲をエネルギーにして、60階層台の最深部へとノンストップで突き進んでいくのであった。




