第139話:【閑話】第四の転生者と、ジャンクフードの申し子を導く神の泉(ドリンクバー)
### 第139話:【閑話】第四の転生者と、ジャンクフードの申し子を導く神の泉
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、絶海の和国ミズホを繋ぐ次元の交差点――『星繋ぎの迎賓館』。
本日は、通常の夕食会ではなく、アルカディア国王ヴィルヘルムからの要請による【緊急四者サミット(プラスアルファ)】が開催されていた。
円卓を囲む各国の首脳陣は、かつてないほどの緊張した面持ちで、円卓の端に立つファルコンたち『世界食糧保全機構(超人スパイ部隊)』の報告に耳を傾けていた。
「――以上が、永世中立国ヴァルデンにて発見した『新たなる事象』の全容であります」
ファルコンが、ビシッと完璧な敬礼を決める。
「トウヤ殿、カイト様、ゼノン魔王殿に続く、この世界における【第四の転生者】。……無事、我々の手で傷一つ(一滴もこぼさず)お連れいたしました!!」
その言葉と共に、ファルコンの背後に控えていたスパイたちがサッと左右に道を開けた。
そこに立っていたのは、ボロボロの旅装束に身を包んだ、いかにも平凡な村人のような青年――レオ(前世:鈴木涼)であった。
「「「おおおおおっ……!!」」」
ヴィルヘルム国王、ガルド宰相、ミズホの国主たちが、畏敬の念を込めてどよめく。
(このひ弱そうな見た目に反し、彼もまたトウヤ殿たちと同じく、恐るべきチキュウの叡智を秘めた賢者様だというのか……!)
しかし。
当のレオは、目の前に座る大国の王や、威圧感を放つ魔王のことなど、完全に視界に入っていなかった。
彼の視線は、円卓の奥……迎賓館の壁際に設置された、巨大なアーティファクト【神話級・無限ドリンクバー】に釘付けになっていたのだ。
「あ、あれ……あれは……!!」
レオは、震える足でフラフラとドリンクバーの前に歩み寄った。
そして、見慣れた『黒い液体のボタン』と『緑色の液体のボタン』を見つけるや否や、備え付けの特大グラスをひったくり、狂ったようにボタンを連打した。
ジョボボボボボボッ!!
「あ……あぁ……っ!!」
グラスになみなみと注がれたコーラとメロンソーダのミックス(前世のファミレスでよくやった魔合体)。
レオはそれを両手で持ち上げ、滝のように喉の奥へと流し込んだ。
「ぷっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
シュワシュワと弾ける強烈な炭酸と、暴力的なまでの砂糖の甘み。
異世界に転生して十数年。薄味のスープと硬いパンだけで生きてきたレオの細胞が、ジャンクな刺激に歓喜の産声を上げた。
「ううっ……うわぁぁぁぁん!! 炭酸だぁぁっ! 甘いよぉぉぉっ!! これだよこれ!!」
レオは、ドリンクバーの機械にすがりつき、顔をグシャグシャにして号泣し始めた。
「なっ……!?」
「賢者様が、謎の機械にすがりついて泣いておられるぞ!?」
「しっ! 控えよ! おそらくあれは、チキュウの神聖な儀式なのだ!」
異世界の大物たちがパニックになりかける中。
「……いい飲みっぷりだ」
「……ああ。あれが『渇き』を知る者の顔だな」
「……分かる。俺も最初にコーラ飲んだ時、あんな感じだったわ」
トウヤ、ゼノン、カイトの三人の転生者たちは、誰一人として止めることなく、まるで孫を見守る老人のような、底抜けに温かい慈愛の眼差しでレオを見つめていた。
彼らには痛いほど分かっていた。地球のジャンクフードを知る舌にとって、このファンタジー世界の食事情がいかに過酷な『拷問』であるかを。
「ファルコン、よくやった」
トウヤが、静かにエールを掲げる。
「あいつの魂は、限界ギリギリだったんだ。今はあの『神の泉』で、気の済むまで魂を潤させてやろう」
「ハッ! 恐悦至極に存じます!」
***
それから数十分後。
コーラを5杯、メロンソーダを3杯、さらにジンジャーエールまで飲み干し、盛大なゲップと共に完全に落ち着きを取り戻したレオが、申し訳なさそうに円卓の席に着いた。
「あ、あの……すみません。取り乱しました」
レオが、縮こまりながら頭を下げる。
「気にするな! 炭酸の禁断症状のキツさは、俺たちもよく分かってるからよ!」
トウヤがニカッと笑って、レオの前に『和牛CEOの特製メンチカツサンド』をドンッと置いた。
「俺がトウヤだ。こっちが魔王やってるゼノンのオッサン(田中太一)で、あっちがミズホでマヨネーズ作ってるカイト。……で、お前は?」
「す、鈴木涼です。こっちでの名前はレオって言います」
レオは、目の前の強烈なソースの匂いを放つカツサンドにヨダレを垂らしながら、自らの身の上を語り始めた。
「俺……皆さんと違って、チート能力とか魔法の才能とか、本当に何一つない一般人なんです。ただ、前世で『ファストフード店』のバイトリーダーを4年間やってて……どうしてもハンバーガーとかジャンクフードが食いたくて、商人の噂を聞いて飛び出してきただけで……」
「「「――――ッッ!!!!」」」
その言葉を聞いた瞬間。
トウヤ、ゼノン、カイトの三人が、ガタァッ! と椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「ば、バイトリーダーだと!?」
トウヤが血走った目で身を乗り出す。「お前、じゃあ『フライドポテト』の完璧な揚げ時間とか、ナゲットの衣の配合比率とか、ハンバーガーのソースのレシピとか……全部頭に入ってるのか!?」
「え? あ、はい。マニュアルは全部暗記してましたし、まかないで毎日作ってたんで……」
「「「神だァァァァァァァァッッ!!!!」」」
三人の転生者が、一斉にレオに向かって土下座の勢いで拝み倒した。
「俺、カレーとすき焼きは作れるけど、ハンバーガーのパティの黄金比率は分からなかったんだよ!!」
「うおおおおっ! トンカツの次はハンバーガーか!! ジャンクフード万歳!!」
「ポテト! ポテトフライ死ぬほど食いてぇぇぇっ!! カイト特製マヨネーズとケチャップをディップして食いてぇぇぇっ!!」
「ええええっ!? 魔王様とか大英雄が、俺なんかに頭下げないでくださいよ!?」
レオがパニックになる。
その光景を見ていたヴィルヘルム国王たちは、完全に戦慄していた。
(見よ……あの魔王殿と英雄殿が、ただの青年にひれ伏している……! 『ファスト・フード』……それは、世界を統べる神々すらも傅かせる、究極の錬金術の極意に違いない!!)
トウヤはガシッとレオの両肩を掴んだ。
「レオ! お前、俺たちの『専属料理補佐(ジャンクフード開発部長)』になれ!!」
「えっ!?」
「もちろん、お前には戦闘能力がないから、大迷宮の攻略には参加しなくていい! ただ、俺たちの拠点(星の箱庭)という絶対安全な場所で、ゴレ太郎(調理ゴーレム)と一緒に、地球のジャンクフードの再現と研究に没頭してくれ!! 材料は、俺たちが60階層台で狩ってきた『神話級の肉』を無限に使っていいから!」
「し、神話級の肉で、ハンバーガーを……!?」
レオの頭の中で、究極の霜降り肉を使ったパティと、カイトのマヨネーズを合わせた『異世界最強の照り焼きバーガー』のビジョンが閃いた。
「や、やります!! やらせてください!! 俺、一生ここでハンバーガー焼きます!!」
レオが、感涙にむせびながら深く頷いた。
「よし、決まりだ!!」
トウヤが振り返り、サイラスとファルコンを指差した。
「お前ら! レオを俺のいる大迷宮の深層(69階層付近の安全地帯)まで護衛して連れてこれるか!? もちろん、道中の『マンイン・デンシャ』や『コウツウ・ルール』のギミックから完全に守り抜いてだ!」
サイラスとファルコンが、バチィッ!! と鼓膜が破れそうなほどの音を立てて敬礼した。
「愚問であります、トウヤ殿!!」
サイラスが、誇り高きウー〇ー配達員の顔で叫ぶ。
「我らが誇る『深淵の配達部隊』は、スープを一滴もこぼさぬ隠密と護衛のスペシャリスト! レオ殿に指一本触れさせることなく、例え満員電車の超圧縮空間であろうとも、我々が【肉の壁(神輿)】となってレオ殿を安全地帯までお届けしてみせます!!」
「ハッ! 全ては『ハン・バーガー』なる極上飯の出前を、地上へ持ち帰るために!!」
「ガッハッハ! 頼もしいぜお前ら!」
トウヤが笑い飛ばし、レオの背中をバンバンと叩く。
「安心しろレオ! こいつらの配達(護衛)スキルは世界一だ! 迷宮の底のキャンプ地に着いたら、ありったけの極上肉で歓迎会をしてやるからな!」
「う、ううっ……! ありがとうございます、トウヤさん! ファルコンさんたちも!」
レオは、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、出されたカツサンドに勢いよくかぶりついた。
「うめぇぇぇっ! ソースが! 豚肉の脂が最高だぁぁぁっ!!」
かくして。
何のチート能力も持たない、ただジャンクフードを愛するだけの一般人レオは。
最強の暗殺者たちのVIP護衛によって大迷宮の底へと運ばれ、「異世界最高のファストフード店長」としてトウヤの陣営に迎え入れられることとなった。
四人の転生者が揃い、ついに【ファストフード】の概念が持ち込まれた絶対同盟。
トウヤたちの迷宮スローライフは、とどまることを知らないカロリーと食欲のインフレーションを引き起こし、異世界全土の胃袋をさらなる狂乱へと叩き落としていくのであった。




