第137話:夢と狂気の遊園地(テーマパーク)と、待ち時間という名の苦
### 第137話:夢と狂気の遊園地と、待ち時間という名の苦行
『悠久の大迷宮』第68階層――『超圧縮の鋼鉄蛇(通勤ラッシュの満員電車)』。
地球のサラリーマンが毎日味わう「質量と圧力の暴力」を身をもって体験し、その最後尾でふんぞり返っていたプラチナ食材『和牛CEOミノタウロス』を仕留めたトウヤたち。
さらに瞬殺ボーナスとして手に入れた『神話級・無限ドリンクバー』によって、夜の迎賓館での大宴会はかつてないほどの盛り上がりを見せていた。
そして翌朝。
ゴレ太郎特製の『和牛CEOの厚切りローストビーフ・サンドイッチ』と、メロンソーダで活力を満たした『悠久の踏破者』の六人と三匹は、いよいよ60階層台の最後尾に迫る、第69階層の黒曜石の大扉の前に立っていた。
「さーて。満員電車の次はなんだ? もう何が来ても驚かないぜ」
ジンが、肩をグルグルと回しながら苦笑する。
「ええ。コウツウ・ルールに、スーパーマーケット、そしてマンイン・デンシャ。トウヤ様の故郷チキュウの過酷な試練には、すっかり慣れましたわ!」
エリスも自信満々に大剣の柄を叩いた。
「ああ、頼もしいぜ。だが、油断は禁物だ」
トウヤが気を引き締め、『天啓の美食羅針盤』を取り出して魔力を流し込む。
……カッ――――!!!!
羅針盤の盤面が、まるで太陽が爆発したかのように、目も眩むほどの強烈な『プラチナ色』の光で埋め尽くされた。
黄金色の光など一つもない。盤面の全てが、最上級の隠れボス級食材を示すプラチナ反応だけで構成されているのだ。
「「「なっ……!?」」」
「プ、プラチナ反応が……数十、いや、百以上ありますわ!?」
マリアが信じられないというように目を擦る。
「だが、矢印の動きがおかしいぞ」
ガレスの言う通り、環境ギミックを示す青い矢印は、盤面の中で「グルグルと円を描いて回る」「猛スピードで乱高下する」「ゆっくりと観覧車のように回転する」など、複数の異なる動きを同時に繰り返していた。
「……なるほどな」
トウヤが、ゴクリと唾を呑み込んで羅針盤をしまった。
「60階層台の後半は、完全に【地球の概念】が具現化している。おそらく次も、俺の故郷に存在した『何らかの施設』のルールが適用されるはずだ」
トウヤが剣を抜く。
「これだけ大量のプラチナ食材が密集しているってことは、間違いなく『超絶ボーナス階層』だ! だが、未知の地球ルールのペナルティを踏めば即死しかねない! 扉を開けたら、まずは絶対に動かず、俺の指示を待て!!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
トウヤが、重厚な扉を両手で押し開ける。
ギギギギギ……ッ!!
その瞬間、彼らの耳に飛び込んできたのは、ファンファーレのような底抜けに明るいブラスバンドの音楽(BGM)と、ポップコーンの甘い香りであった。
「ピィィッ!?(兄貴、すっごくキラキラしてるよ!!)」
クーが上空で歓声を上げる。
第69階層――『夢と狂気の遊戯園』。
そこは、迷宮の天井を覆い尽くすほどの花火が打ち上がる、巨大な『テーマパーク』であった。
中央には美しいシンデレラ城のような巨城がそびえ、その周囲には、猛スピードで宙をうねる『巨大なレール(ジェットコースター)』や、ゆっくりと空を回る『巨大な車輪(観覧車)』、そして音楽に合わせて回る『木馬』といった施設が立ち並んでいる。
「な、なんだここは……! 今までの鋼鉄の廃墟とは違う、まるでお伽話の国じゃないか!」
ジンが目を丸くする。
トウヤは、その光景を見て、またしても盛大に頭を抱えていた。
(遊園地……!! マジかよ、スーパー、満員電車の次はテーマパークかよ!!)
トウヤの神眼が、園内のアトラクションを次々と解析していく。
猛スピードでレールを駆け抜けるコースター型の巨大竜『スクリーム・コースター・ドラゴン(極上テール肉)』。
メリーゴーランドの木馬に偽装した『カルーセル・ユニコーン(神話級霜降り馬肉)』。
そして、園内を練り歩く巨大な着ぐるみの『マスコット・ベア(極上ハチミツ肉)』。
その全てが、羅針盤に反応していた【プラチナ食材】であった。
「お前ら! 聞いてくれ! ここはチキュウの『ユーエンチ』という、究極の娯楽施設だ!!」
トウヤが、興奮と警戒の入り混じった声で叫ぶ。
「娯楽施設? マンイン・デンシャのような拷問器具ではないのですか?」
「いや、これは楽しい場所だ! だが、だからこそ【絶対に守らなければならない掟】がある!」
トウヤが、目の前のアトラクションの入り口に伸びている『迷路のように仕切られた柵』と、そこに並んでいる無数のゴーレムたちを指差した。
「掟その一! アトラクション(プラチナ食材)に挑む時は、必ず【最後尾から列に並んで順番を待て】! 割り込み(横入り)をした瞬間、夢の国の防衛システムから即死級のレーザーが飛んでくるぞ!」
「「「列に並んで待つ……!」」」
「掟その二! アトラクションに乗っている間(戦闘中)は、絶対に【安全バーから手を離すな】! ルールを破って立ち上がったりすれば、強制退場(死)だ!」
「掟その三! 園内を歩いている『マスコットキャラクター』には、絶対に中身がいるとか言うな(攻撃するな)! あいつらは観賞用だ!」
地球のテーマパークの常識を、大真面目なデスゲームのルールとして叩き込むトウヤ。
「な、なるほど……! つまり、あのレールを走る極上の竜を狩るためには、まずあのゴーレムたちの列の後ろに並び、数時間(?)待たなければならないのですね!?」
エリスが、ゴクリと唾を呑み込む。
「そういうことだ! プラチナ食材は山ほどいるが、いちいち列に並んでアトラクションのルールに従わなきゃならない! 一日じゃ到底狩り尽くせないぜ!」
トウヤがニヤリと笑う。
「これは、数日間にわたる【夢の国お泊まりキャンプ(全アトラクション制覇)】になるぞ!!」
「「「うおおおおおおッッ!!!!」」」
美食家たちのテンションが最高潮に達した。
「まずはあの竜の列に並ぶぞ! 最後尾を探せ!」
トウヤたちは、武器をしまって大人しくゴーレムたちの列の最後尾につき、「まだかなー」「お肉楽しみですわね」と、数十分の待ち時間という『苦行(修練)』に耐え始めた。
そして、いざ自分たちの順番が来ると。
「(安全バーよし!! 出発!!)」
猛烈なスピードとG(重力)で振り回されるジェットコースターの座席に固定されたまま。
「(うおおおっ、速ぇぇぇッ!! だが、満員電車の圧力に比べりゃどうってことねえ!!)」
ジンが、座席から一歩も動かずに『絶対ジャイロ歩法』の体幹でGを完全に殺し、並走してくるコースター・ドラゴンの首の隙間に、座ったまま双短剣を投擲して急所を貫く。
「(次は私が!!)」
エリスが、急降下の無重力(フワッとする瞬間)を利用して大剣を振り抜き、ドラゴンの極上テール肉を痛覚ゼロで切断する。
カッ――――!!!!
アトラクションの終了と同時に、純白の光の柱が上がり、プラチナ食材がアイテムボックスへと収められる。
「ヒャッハー! 最高だぜユーエンチ!! 次はあの回る車輪(観覧車)の列に並ぶぞ!!」
「ポップコーン・シュリンプ・スライムも買い(狩り)に行きましょう!」
かくして、第69階層のテーマパークは、ルールを完璧に守る(そして並ぶ)超絶マナーの良い美食家たちによって、アトラクションというアトラクションを次々と制覇(食材化)されていくのであった。
***
【同日夜――星繋ぎの迎賓館】
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、ミズホの国を繋ぐ、次元を超えた大宴会場。
今夜のメニューは、トウヤたちがテーマパークで狩ってきた『スクリーム・コースター・ドラゴンの極上テールシチュー』と、『カルーセル・ユニコーンの神話級・桜肉(馬肉)カルパッチョ』である。
「うむ! このテール肉、信じられないほど柔らかく煮込まれている! そして、この馬肉のカルパッチョ……! 噛めば噛むほど、上品な脂の甘みが溢れ出してきますぞ!」
ヴィルヘルム国王が、ミズホの醤油とカイト特製マヨネーズを合わせたソースで馬肉を堪能し、歓喜の涙を流す。
「いやー、今日の階層はマジで時間がかかったぜ。でも、すっげえ楽しかった!」
トウヤが、メロンソーダで乾杯しながら笑う。
「トウヤ殿。本日はどのような過酷なチキュウの試練があったのですか?」
ガルド宰相が、手帳とペンを構えて身を乗り出す。彼らにとって、トウヤの語る『地球の環境ギミック』は、もはや神話の防衛機構についての貴重な講義であった。
「今日はな。チキュウの『ユーエンチ(テーマパーク)』っていう、夢と魔法の国だったんだ」
その言葉を聞いた瞬間。
魔王ゼノン(田中太一)とカイトが、またしてもガタッと立ち上がった。
「ゆ、遊園地だと!? マジかよ兄弟! ジェットコースターあったか!? お化け屋敷は!?」
「チュロス! チュロス落ちてませんでした!? 俺、某夢の国のチュロス死ぬほど食いたい!!」
興奮する転生者二人を横目に、トウヤは大真面目な顔で異世界陣営に説明を始めた。
「ユーエンチとはな。一見するとキラキラした夢の国なんだが……その実態は、極限の【忍耐】と【恐怖】を味わうための巨大な修練施設だ」
「に、忍耐と恐怖……!」
ミズホのシノビの頭領が息を呑む。
「まず、アトラクションと呼ばれる拷問器具(絶叫マシン)に乗るためには、何百人というゴーレムの列の後ろに並び、ひたすら【数時間、無言で立ち尽くす】という苦行を強いられる。……もし一歩でも列を乱したり、割り込んだりすれば、即座に夢の国の防衛システムから社会的な抹殺(即死)が下る」
「な、なんという精神修行……! 獲物を目の前にして、数時間も己の欲望を抑え込み、ただ立ち尽くすというのか!」
ゴウラが震え上がる。「魔王軍の狂戦士どもには絶対に不可能な苦行だ……!」
「そして、いざ拷問器具に乗れば。体を安全バーという拘束具で完全に固定されたまま、猛烈なスピードで空中に放り出され、真っ逆さまに落下させられる。……逃げることは許されない。ただ、自らの三半規管が破壊される恐怖に耐え続けるしかないんだ」
「「「ヒィィィィィィィッッ!!!!」」」
ヴィルヘルム国王、ガルド宰相、ミズホの国主たちが、顔面を蒼白にして震え上がった。
「そ、そのような恐ろしい拷問施設が、チキュウでは『娯楽』と呼ばれているというのか……!」
「チキュウの人間は、自ら進んで恐怖と重力の拷問を受けに行き、その後に甘いポップコーンを貪る……!? 完全に狂っている……!!」
異世界の大物たちは、完全に「テーマパーク=地球の狂戦士たちが己の限界を試すための巨大な拷問施設」だと勘違いし、恐怖のあまりガクガクと震えていた。
「(……まあ、絶叫マシンってそういうもんだし、並ぶのは確かに苦行だから、間違ってはないか)」
トウヤは心の中で苦笑しつつ、ゼノンとカイトに目配せをした。
「でもまぁ、ルールさえ守れば極上の肉が無限に手に入る最高の狩り場だ! 明日もまた、別の拷問器具に並んで、プラチナ食材を乱獲してくるからな!」
「おおお……! トウヤ殿たちのその勇気と忍耐力に、心からの敬意を!」
「我々配達部隊も、出前の際には必ず【最後尾から列に並ぶ】ことを徹底いたします!!」
サイラスとファルコンが、涙を流しながら叫んだ。
かくして。
危険度は(ルールさえ守れば)ゼロの楽しい遊園地階層であったにも関わらず、転生者たちの語り口によって、異世界人たちの間では【ユーエンチ=地球の狂戦士が集う恐怖の拷問施設】という恐るべき認識が完全に定着してしまった。
「さーて! 明日はお化け屋敷のプラチナゴーストを狩りに行くぞ!」
「ええ! 列に並ぶのは退屈ですけれど、お肉のためなら何時間でも耐えてみせますわ!」
強烈な勘違いと圧倒的な美味さに包まれた迎賓館の夜。
トウヤたちの夢の国お泊まりキャンプ(食材乱獲ツアー)は、アイテムボックスがパンパンに弾け飛ぶまで、数日間にわたって続くのであった。




