第130話:【閑話】世界を繋ぐ奇跡の白き調味料(マヨネーズ)と、絶対同盟の完成
### 第130話:【閑話】世界を繋ぐ奇跡の白き調味料と、絶対同盟の完成
数日後。
大迷宮の底、地上の王城、地底魔国、そして絶海の和国ミズホ。
世界を四つに分かつ隔絶された場所が、大型通信アーティファクトの『四分割画面』によって完全にリンクしていた。
本日は、サイラス率いる『深淵の配達部隊』と、ファルコン率いる『世界食糧保全機構(超人スパイ部隊)』が総力を挙げた【世界規模・超絶物々交換デリバリー】が完了した日である。
各陣営のテーブルには、それぞれの特産品と、トウヤが調理した極上飯が湯気を立てて並んでいた。
『さあ! 全陣営に飯が行き渡ったな!』
大迷宮の底、第64階層の【星の箱庭】から、トウヤが満面の笑みでエール(麦酒)のジョッキを掲げた。
『それでは、我々絶対同盟の新たなる友と、奇跡の出会いに!』
ヴィルヘルム国王が、王城のテラスからワイングラスを掲げる。
『カンパーイッ!!』
魔王ゼノン(田中太一)と、和国の新たな賢者カイトが、画面越しにジョッキと湯呑みを突き出した。
「「「乾杯ッッ!!!!」」」
四つの世界で同時に祝杯が上がり、歴史的な大宴会が幕を開けた。
***
【トウヤ・ゼノン・地上の王たちの陣営】
トウヤたちのテーブルの主役は、カイトから届けられた未知の白い万能調味料――『マヨネーズ』であった。
トウヤはそれを用い、第64階層で仕留めた『神嶺野牛の神話級赤身肉』を薄切りにして炭火で炙り、特製醤油とマヨネーズをたっぷりと絡めた【極上炙りマヨ牛丼】を作り上げていた。
さらに、第63階層の弾力ターキーを使った【神話級・特大チキン南蛮(自家製タルタルソースがけ)】も鎮座している。
『う……うおおおおおおおおっ!!』
画面の左上、地底魔国のアガルタから、魔王ゼノンの野獣のような咆哮が響いた。
『これだ!! これだよ兄弟、後輩!! このジャンクで暴力的な酸味とコク! 赤身肉の旨味と醤油の香ばしさを、マヨネーズの油分が神の領域でまとめ上げている!! うめぇぇぇっ! 白飯が無限に消えていくぞォォォッ!!』
魔王ゼノンは、顔をマヨネーズだらけにしながら、涙と鼻水を撒き散らして丼を掻き込んでいた。
その隣で、鬼将軍ゴウラと宰相セレスティも白目を剥いて震えている。
『ま、魔王様! この「マヨ・ネーズ」という白い液体、恐ろしすぎます! 口に入れた瞬間、卵の濃厚なコクと酢の酸味が爆発し、肉の味を何十倍にも引き上げております!』
『チキン南蛮……なんという悪魔の料理……! ターキーの弾力ある肉汁に、甘酢とマヨネーズ(タルタル)が絡み合い、もはや脳が美味さに耐えきれませんわぁぁっ!』
マヨネーズの洗礼は、魔王軍四天王の魔族としてのプライドを粉々に打ち砕いていた。
そしてそれは、地上の王たちも例外ではない。
『おおお……! ヴィルヘルム陛下! このマヨ・ネーズなる調味料、我々が長年探し求めていた「肉の旨味を底上げする」究極の錬金術ですぞ!!』
ガルド宰相が、チキン南蛮を齧りながら滂沱の涙を流す。
『うむ……! ミズホの国には、これほど恐ろしい秘宝が眠っていたというのか! これに比べれば、我が国の宮廷料理などただの塩茹で草に等しい!』
彼らの後ろでは、配達任務を終えたサイラスたちも「おこぼれ」の炙りマヨ牛丼を無言で掻き込み、「マヨネーズ……神……」と念仏のように呟いていた。
「ガッハッハ! こりゃあヤバいな! 濃厚なのに酢の酸味でサッパリしてるから、いくらでも肉が食えるぜ!」
「エリス、口の周りに白いのがついてるぞ」
「ふぇっ!? はずかしいですわ! でも、美味しくて止まりませんの!」
迷宮の底でも、ガレスやエリスたちが未知の調味料の虜となり、凄まじい勢いで山盛りの肉料理を平らげていた。
***
【カイト・ミズホの国陣営】
一方、画面の下側。
ミズホの街の天守閣では、ファルコンの部隊によってトウヤから届けられた『神話級食材の極上キャンプ飯』が、カイトたちの前に並べられていた。
「い、いただきます……」
カイトが、震える手で『神嶺野牛の極上赤身ステーキ(ミズホの醤油とワサビ添え)』を口に運んだ。
「――――ッッ!!?」
カイトの目が、こぼれ落ちそうなくらいに見開かれた。
「な、なんだこれ!? 噛んだ瞬間に、大自然の香りと信じられないくらい濃厚な肉汁が溢れ出してきた! しかも、俺が作った醤油の香りが、肉の美味さを完璧に引き立ててる! 俺、日本でもこんな美味い肉食ったことないぞ!?」
カイトは、異世界の神話級食材とトウヤの圧倒的な調理スキルの前に、感動でボロボロと涙を流し始めた。
「美味い……! 俺、引きこもってマヨネーズ作ってて本当によかった! 生きててよかったぁぁぁっ!!」
カイトの隣では、ミズホの国主とシノビの頭領が、『極上すき焼き』と『特製カレーライス』を口にして、文字通り腰を抜かしていた。
『お、御館様! この「カ・レー」という茶色い煮込み料理……! 口の中であらゆる香辛料が爆発し、なのに奥底に我々のショウユとダシの旨味が潜んでおります! 一口食べれば、体が熱くなり、力が底なしに湧いてくるようです!!』
頭領が、スプーンを持つ手を震わせながら絶叫する。
『うおおお……! 賢者様が我々のために作ってくださったショウユが、大陸の英雄殿の魔法(調理)によって、これほどの至高の美味に昇華されるとは……! 我々は三百年間、この美味さを知らずに生きてきたというのか!』
国主も、すき焼きの肉を口にして天を仰ぎ、大粒の涙を流した。
『最高だろ、カイト!』
画面越しに、トウヤが笑いかける。
『お前が作ったマヨネーズと醤油のおかげで、俺たちの迷宮キャンプも一段とレベルアップしたぜ! これからもガンガン美味い食材(肉)を送ってやるから、そっちも調味料を頼むな!』
『トウヤさん! ゼノンさん! 俺、もっと頑張る! 次はケチャップとか、ソースの開発にも着手するから!!』
カイトが、カレーを頬張りながら力強く宣言した。
「ケチャップ!」「ソース!」
その単語を聞いた瞬間、トウヤと魔王ゼノンの顔が同時にカッ!と輝いた。
『うおおおっ!! それができたらオムライスとトンカツが食えるじゃねえか!! 頼むぞ後輩!! 全力で支援するからな!!』
『なんか知らんが、トン・カツとは強そうな響きだ! 我々魔王軍も、総力を挙げて素材をミズホの国に輸出するぞォォォッ!!』
三人の転生者たちが、日本語で「オムライス」「トンカツ」「ポテチも作りたい」とローカルかつ欲望全開の話題で爆上がりしている様子を、異世界の住人たちは全く理解できなかったが。
『……ふふっ。言葉の意味は分かりませんが、皆様、本当に幸せそうなお顔ですわ』
エリスが、微笑ましく画面を見つめる。
『ええ。トウヤ殿も、同郷の友ができて本当に嬉しそうです』
ヴィルヘルム国王も、ワインを傾けながら目を細めた。
魔王も、大国の王も、暗殺者も、引きこもりの青年も。
すべての者が、ただ「美味しいご飯」を笑顔で分かち合っている。
これこそが、トウヤの放つ飯テロがもたらした、究極の平和の形であった。
***
食後の歓談が落ち着き、皆が温かいお茶(ミズホから提供された最高級の緑茶)をすすり始めた頃。
ミズホの国主が、居住まいを正し、画面越しのヴィルヘルム国王、魔王ゼノン、そしてトウヤに向けて、深く、深く頭を下げた。
『……ヴィルヘルム王。魔王ゼノン殿。そして、英雄トウヤ殿』
国主の真摯な声に、各陣営の空気がスッと引き締まった。
『我々ミズホの国は、三百年の間、他国との交わりを絶ち、独自の文化を隠して生きてまいりました。……それは、我々の文化が外界の欲望に晒され、武力によって踏みにじられることを恐れたからです』
国主は、隣で幸せそうにお茶を飲んでいるカイトを優しく見つめた。
『しかし……皆様は違った。トウヤ殿から派遣されたファルコン殿たちは、我々を力で脅すことは一切せず、ただ「美味いものを共に分かち合いたい」という、どこまでも純粋な心で手を差し伸べてくださった』
画面の端で控えていたファルコンが、無言で深く一礼する。
『そして今日、我々はこの至高の料理を通じて、皆様が心から平和と食を愛する、真の友であると確信いたしました!』
国主が、力強く顔を上げた。
『我が和国ミズホは、三百年の鎖国を解き……これより正式に、皆様の【絶対同盟】へ参加させていただくことを、ここに宣言いたします!!』
「「「おおおおおおおッッ!!!!」」」
四つの画面から、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
『素晴らしい! 歓迎するぞ、ミズホの国主殿! 我ら絶対同盟は、貴国の文化と調味料を全力でお守りしよう!』
ヴィルヘルム国王が立ち上がって拍手する。
『うむ! 我が魔王国からも、カイト君の調味料開発に必要な物資は惜しみなく提供することを約束する!』
魔王ゼノンも、威厳(とトンカツへの執念)を込めて宣言した。
『やったな、カイト! 御館様!』
トウヤが、画面越しにサムズアップを決める。
『これでお前らの街の防衛は、地上のウー〇ー部隊と魔王軍が完璧に保証してくれる! これからはコソコソ隠れず、堂々と美味いものを作って、世界中で飯のトレードをしようぜ!!』
『うん!! ありがとう、トウヤさん! ゼノンさん! 俺、異世界に来て今が一番楽しいよ!!』
カイトが、涙ぐみながら満面の笑みで答えた。
かくして。
大迷宮の底から始まったトウヤの「快適な迷宮キャンプ」は、魔王をも平定し、ついに東の絶海の孤島(もう一つの地球の痕跡)をも巻き込んで、世界を一つに繋ぐ【超巨大・美食同盟】を完成させたのである。
「さてと! 同郷の仲間もできたし、マヨネーズも手に入った! 俺たちも負けずに、迷宮の踏破を進めねえとな!」
トウヤが、仲間たちを振り返ってニカッと笑う。
「ええ! トウヤ様のお料理がさらに美味しくなるなら、どこまでもお供いたしますわ!」
「ガッハッハ! 次は陸海空の海と空だな! ガンガン極上食材を狩りまくるぞ!」
未知なる調味料という最強の武器を手に入れ、世界中からのエール(と食欲)を背に受けた『悠久の踏破者』たち。
彼らの非常識で最高に美味しい大迷宮の攻略は、さらなる高み(深層)へと向かって、絶好調で突き進んでいくのであった。




