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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第128話:【閑話】開かずの間の密会と、極上マヨネーズを巡る救出作戦(未遂)

### 第128話:【閑話】開かずの間の密会と、極上マヨネーズを巡る救出作戦(未遂)

海洋通商連盟オロスの遥か東、絶海の孤島に隠された独自の文化を持つ街『和国ミズホ』。

その中心にそびえ立つ五層の天守閣は、今夜、かつてないほどの厳戒態勢に包まれていた。

「曲者だ! 大陸からの間者が街に潜り込んでいる! 御館様と『賢者様』をお守りしろ!!」

シノビの頭領の号令の下、天守閣の周囲には何重もの魔力結界が張られ、百名を超える凄腕のシノビたちが屋根裏、床下、廊下の暗がりに潜んでいた。廊下は少しでも体重をかければ鳥の鳴き声のような音が鳴る『鶯張り(うぐいすばり)』の仕掛けが施され、羽虫一匹通さぬ鉄壁の防衛網が敷かれている。

……しかし。彼らは相手が悪すぎた。

「(……シノビが三十二名。魔力センサーが十五箇所。鶯張りの床か。……クラシックで良い防衛陣だが、隙だらけだな)」

天守閣の最上階、天井裏のさらに『空間の裏側』。

ファルコン率いる数名の超人スパイたちは、重力を完全に無視し、天井の板に逆さまに張り付きながら音もなく這い進んでいた。

彼らはサイラスの地獄の修練により、【次元歩行の靴】の魔力を「無振動」でコントロールする術を極めている。鶯張りの床を踏むことすらせず、シノビが瞬きをするコンマ数秒の間に死角から死角へと『スライド』するように移動していく。

「(隊長。一番奥の『開かずの社(奥の院)』に到達しました。結界の波長を同期し、透過します)」

「(ああ。スープを一滴もこぼさぬ心境で、空間を抜けろ)」

ファルコンたちは、張られた結界を物理的に破壊するのではなく、自身の魔力波紋を完全にゼロにして「すり抜ける」という神業をやってのけ、ついに目的の部屋へと侵入を果たした。

***

天守閣・奥の院。

最高級の畳が敷かれ、美しい水墨画の襖に囲まれたその密室では。

「あー、マジでコーラ飲みてぇ……。ポテチ食いてぇ……」

豪華な座布団の上に寝転がり、筆で紙に「手動式かき氷機」の設計図を書き殴りながら、現代日本の若者言葉でボヤいている一人の青年がいた。

彼こそが、数年前に突如としてこのミズホの街に現れた新たなる転生者、カイト(海斗)であった。

カイトのチート能力は『絶対味覚』と『地球の料理の完全再現(材料変換)』。戦闘力は皆無だが、その知識をミズホの国主に披露したところ、「三百年前の賢者様の再来だ!」と崇め奉られ、VIP待遇でこの天守閣に匿われることとなったのだ。

生活は快適だが、軟禁状態に近い退屈な日々に、カイトは完全に飽き飽きしていた。

「そろそろ新しいマヨネーズのストック作らないと……って、うわあっ!?」

カイトが寝返りを打った瞬間。

部屋の四隅の蝋燭の火が、フッと一斉に揺らいだ。

そして、カイトの目の前、畳の上に……いつの間にか、黒ずくめのファルコンが、一切の音も立てずに『正座』していたのである。

「ヒィッ!? シ、シノビ!? いや、暗殺者!?」

カイトがパニックを起こして後ずさろうとした、その時。

ファルコンは、両手をついて深々と、それはもう見事な土下座に近いお辞儀をした。

「お初にお目にかかります、新たなる『賢者様』。……お命を狙う者ではありません。どうか、ご安心を」

「えっ? あ、暗殺じゃないの……?」

カイトが目をパチクリとさせると、ファルコンは顔を上げ、極めて真剣な(そして少し食欲の混じった)眼差しで告げた。

「我々は、大迷宮の底におられる【トウヤ殿】の命を受け、同郷の者(転生者)を探して世界中を駆け巡っている『世界食糧保全機構』の者です」

「……トウヤ? 転生者? ……えっ!? ま、待って! トウヤって、もしかして俺と同じ、日本からの!?」

カイトの顔色が一気に変わった。

「左様でございます」

ファルコンが深く頷く。「トウヤ殿は現在、大迷宮の深層にて極上のキャンプ(スローライフ)を満喫しておられます。トウヤ殿はご自身の知識で『ショウユ』や『カ・レー』などを作っておられますが……この街から漂う『マヨ・ネーズ』や『ショウユ』の香りから、間違いなく同郷の者がいると確信し、我々を派遣されたのです」

「マジかよ!! 日本人が他にもいたのか!!」

カイトは歓喜のあまり、ファルコンの手をガシッと握りしめた。

「すげえ! しかも醤油やカレーを自作してるって!? なんだその神みたいな奴は!!」

ファルコンは、カイトの無邪気な反応を見て、ふと周囲の豪華だが閉鎖的な部屋を見回した。

そして、少しだけ声を潜める。

「……カイト殿。一つ、確認させてください」

「ん? なに?」

「貴方様は、このミズホの国主によって、無理やりここに軟禁され、異世界の知識レシピを搾取されているのではありませんか?」

ファルコンの瞳の奥に、暗殺者としての冷たい殺気が一瞬だけ宿った。

「トウヤ殿は、『もし同郷の者が虐げられ、不当に扱われているのなら、いかなる手段を用いてでも救出しろ』と仰っておられます。……もし貴方様が『助けてほしい』と一言仰れば。今夜中に、我が部隊3000名をもってこのミズホの防衛網を完全に粉砕し、天守閣ごと貴方様を大迷宮の底へお連れいたしますが」

「ひぃぃぃぃぃぃッッ!!?」

カイトは顔面を蒼白にして、全力で首を横に振った。

「ち、ちがうちがうちがう!! 勘違いしないで!!」

カイトは慌てて弁明した。

「国主のおっさんはめっちゃ良い人なんだよ! ただ、俺が戦闘力ゼロでヒョロガリだから、『賢者様にもしものことがあってはならない!』って過保護になってるだけで! ご飯も美味いし、お風呂も最高だし、待遇には全く不満はないんだよ!! だから絶対、絶対に街を破壊しないで!!」

カイトは必死だった。目の前の男が「マヨネーズのレシピを救出する」という大義名分のもと、本当に国を一つ滅ぼしかねない異常なオーラを放っていたからだ。

ファルコンはカイトの言葉を聞き、スッと殺気を収めて微笑んだ。

「……そうでしたか。それは重畳ちょうじょうです。我々も、トウヤ殿から『武力による強奪はするな、平和的な交流と調味料の交換を目的とせよ』と固く命じられておりますので。血が流れずに済んで何よりです」

(いや、今完全に血を流す気満々だったじゃん……!)と、カイトは心の中で激しくツッコミを入れた。

「では、危険がないと分かりましたので、本題に入ります」

ファルコンが姿勢を正す。

「トウヤ殿は、貴方様との【お互いの調味料や料理情報の交換・交流】を強く望んでおられます。トウヤ殿の持つ『極上の魔物肉』や『現代調味料』と、貴方様が作られた『マヨ・ネーズ』や、このミズホの街の『オフロ文化』などを共有し、友好的な関係を築きたいと」

「やる!! 絶対やる!!」

カイトが身を乗り出した。

「俺、魔物の肉とか怖くて食ったことないけど、地球の人が美味く調理した肉なら死ぬほど食いたい! こっちのマヨネーズもコロッケも、全部レシピ教えるから!! なんならオンライン通話とかできないの!?」

「オンライン……通信魔道具での遠隔会談ですね。もちろん可能です。先日も、トウヤ殿は地底の魔王殿(同じく転生者)と通信で会談し、意気投合しておられました」

「魔王も日本人なの!!? この世界、どうなってんだよ!!」

カイトの脳の処理が追いつかない。

「フフッ。詳細は、直接トウヤ殿とお話しされるのがよろしいでしょう」

ファルコンが立ち上がる。

「本日は、まず貴方様の安全と意思の確認のみとさせていただきます。このまま我々が貴方様を連れ出せば、ミズホの国主がパニックを起こし、無用な国際問題(情報戦)に発展してしまいますので」

「あ、そっか。外のシノビの人たち、今めっちゃピリピリしてるしね」

「ええ。ですので我々は今夜は一度、完璧に気配を消して撤退いたします」

ファルコンが、忍び装束の襟を正した。

「そして明日……日が昇りましたら、我々『絶対同盟』の正式な特使として、堂々とミズホの正門から訪問いたします。そこで国主に対し、正式な【友好関係の構築と同盟】、およびトウヤ殿との通信会談を申し入れます」

「分かった! 俺からも、国主のおっさんに『絶対悪い人たちじゃないから!』って口添えしとくよ!」

「感謝いたします、新たなる賢者カイト殿。……トウヤ殿も、貴方様特製の『マヨ・ネーズ』を心待ちにしておられるでしょう」

ファルコンが、最後にもう一度深く一礼をした。

その直後。

フッ……と蝋燭の火が揺らいだかと思うと、ファルコンの姿は、陽炎のように音もなく空間から消失していた。

「……すげえ。これが異世界のガチのスパイか」

カイトは、誰もいなくなった畳の部屋で、一人ごくりと唾を呑み込んだ。

(トウヤさん、か。迷宮の底でキャンプしてる日本人……。早く話してみたい! そして、迷宮の極上肉を使ったハンバーガーとか作ってみたい!!)

退屈だったカイトの異世界引きこもりライフに、突如として舞い込んだ「極上飯」と「同郷の仲間」の知らせ。

一方、外を警戒し続けていたミズホのシノビたちは、天守閣の最深部でまさか【マヨネーズと極上肉のトレード交渉】が完了し、世界を揺るがす同盟の根回しが終わっていたことなど、露ほども気づいていないのであった。

明日の朝、堂々と正面からやってくる特使ファルコンの姿を見て、彼らがどれほど腰を抜かすことになるのか……それはまた、別のお話である。


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