第124話:【閑話】異世界オンラインの要望(スイーツ)と、全世界『転生者』探索ネットワークの始動
### 第124話:【閑話】異世界オンラインの要望と、全世界『転生者』探索ネットワークの始動
『悠久の大迷宮』第62階層――『水晶塩の結晶平原と芳醇なる香草の森』。
隠れボスである神話級の熟成ティラノサウルスを最高の鮮度で仕留め、大豊作のまま拠点に帰還したトウヤたち。
その日の夜、【星の箱庭】のリビングには、水晶塩のサイコロステーキを肴にエールを傾けるトウヤと、大画面の通信アーティファクト越しに嬉しそうにグラスを掲げる魔王ゼノン(前世:田中太一)の姿があった。
『いやぁ、兄弟! この前のすき焼きとカレーうどんは本当に、冗談抜きで俺の魔王人生……いや、二つの人生を合わせても最高の味だったよ! 思い出すだけで白飯が三杯は食えるね!』
通信越しに、ゼノンが熱弁を振るう。
その後ろでは、鬼将軍ゴウラや宰相セレスティといった四天王たちも、「あの黒い汁(すき焼き)の味……まさに宇宙の真理」「また食べたいです……」と遠い目をしていた。
「おう、喜んでもらえて何よりだ。今日の『熟成ティラノの水晶塩焼き』も最高だぞ。今度またサイラスに届けさせるからな」
トウヤが笑ってサイコロステーキを頬張る。
『うおおおっ、マジで!? ありがとう兄弟! お前は本当に神様仏様トウヤ様だ!』
ゼノンが画面越しに拝み倒した後、ふと、もじもじと照れくさそうに指を擦り合わせた。
『……ところでさ、兄弟。しょっぱいものやガッツリした肉を食うとさ、どうしてもアレが欲しくならないか?』
「ん? アレって?」
『甘いもの(スイーツ)だよ!! ショートケーキとか! あんこたっぷりのドヤラキとか! プリンとか!!』
ゼノンが、血走った目で画面に顔を近づけた。
『魔界の菓子って、なんかトカゲの卵を固めたようなパサパサのやつしかなくてさ……! 兄弟のところの【全自動調理ゴーレム】なら、地球のスイーツも作れるんじゃないか!?』
感謝の連絡から、欲望むき出しの要望への見事なシフトチェンジである。
「ガッハッハ! 確かに、肉ばかり食ってると甘いものが欲しくなるのは万国共通だな!」
トウヤはポンッと手を叩いた。
「任せとけ! ちょうど美味い卵と牛乳のストックもあるし、果物もある。最高のフルーツタルトと、どんぶりサイズの特大プリンを作って出前してやるよ!」
『うおおおおおん!! 一生ついていきます魔王辞めます!!』
『魔王様!? お気を確かに!!』
通信の向こうで大騒ぎになる魔王陣営を見ながら、トウヤはふと、ある疑問を口にした。
「……なぁ、ゼノン。俺たちみたいに、この世界に【地球からの転生者】って、他にもいると思うか?」
その言葉に、ゼノンがピタリと動きを止めた。
『転生者、か。……少なくとも、俺が数十年統治している魔王国(地底)には、俺以外にはいないはずだ。もしいたなら、絶対に「醤油が欲しい」とか言い出して俺のセンサーに引っかかってるはずだからな』
「違いない」
『ただ、人間界や、エルフ、獣人たちが住む他の大陸までは分からない。世界は広いし、俺たちみたいに「平和にスローライフしたい」って隠れて生きてる奴もいるかもしれないからな』
「だよな……。もし同じ境遇の奴がいたら、美味い日本の飯でも食わせてやりたいし、色々と情報交換もしたいんだけどな」
トウヤが腕を組んで思案していると、通信機の別回線から、ヴィルヘルム国王の顔がヒョコッと現れた。
『――ト、トウヤ殿。今の会話、お聞きしてもよろしいだろうか』
「ん? おう、陛下。聞いてたのか」
ヴィルヘルム国王は、滝のような冷や汗を流していた。
『テンセイシャ……とは、一体何なのですか? トウヤ殿や魔王殿が「同じ境遇」と仰っていましたが……』
トウヤは、隠すことでもないと思い、あっさりと説明した。
「ああ。実は俺たち、別の世界(地球)で死んで、この世界に生まれ変わってきた【転生者】ってやつなんだよ。だから、現代の便利な知識とか、この世界にはない料理(醤油とかカレーとか)のレシピを知ってるんだ」
『なっ……!?』
ヴィルヘルム国王の背後で、控えていたガルド宰相が椅子から転げ落ちる音がした。
『べ、別の世界からの魂……! だから、トウヤ殿も魔王殿も、我々の常識を遥かに凌駕するような規格外の力と叡智を持っておられるというのか!!』
「まあ、そうかもな。でさ、陛下。もし地上に俺たちみたいな『転生者』が他にもいたら、会ってみたいんだよ。……サイラスたちや、新しく作ったっていう『3000人の調味料探索部隊』に、ついでに探してもらうことってできないか?」
ヴィルヘルム国王は、目を見開いて硬直した。
(トウヤ殿や魔王殿のような、歴史を根底から覆すバケモ……神のような存在が、他にも野に放たれている可能性があるだと!?)
『も、もちろんであります!! 承知いたしました、直ちに!!』
ヴィルヘルム国王は、画面越しに全力で敬礼をした。
***
【翌日――アルカディア王城・太陽の円卓の間】
絶対同盟の首脳陣が集まる定例会。
今回は、通信魔道具を通じて、地底魔国の宰相セレスティも正式な同盟国として参加していた。
「――これより、アルカディア王国、神聖魔導帝国エルドリア、海洋通商連盟オロス、そして『地底魔国アガルタ』の四カ国による、永久不可侵の【絶対平和同盟】の締結をここに宣言する!!」
ヴィルヘルム国王の宣言に、会議室は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
数千年続いた人間と魔族の争いが、大迷宮の底から出前された『すき焼き』によって完全終結したという、歴史上最も胃袋に優しい偉業である。
「魔王様も、今後の同盟国との交流(お互いの食材の融通)を大変楽しみにしておられます」と、セレスティも優雅に微笑んだ。
だが、会議の熱気が収まると、ヴィルヘルム国王は極めて深刻な顔つきで立ち上がった。
「さて……同盟の諸君。本日はもう一つ、世界を揺るがす重大な発表がある」
ガルド宰相やゴールドマン議長が息を呑む。
「実は昨日、トウヤ殿と魔王殿との会話から判明したことだが……あの方々は、異世界から知識と魂を受け継いだ【転生者】と呼ばれる存在であったのだ!!」
「「「な、なんだとォォォッ!!?」」」
会議室に、激震が走った。
「転生者……! だからこそ、あのような未知の極上料理や、規格外の力を持っておられたのか!」
「魔王殿までもがそうであったとは……!!」
ヴィルヘルム国王は、力強くテーブルを叩いた。
「そして、トウヤ殿は『他にも同じような転生者がいるかもしれないから、探してほしい』と仰られたのだ!」
その言葉の意味を理解した瞬間。
各国の重鎮たちの目の色が変わった。
「(……トウヤ殿や魔王殿と同格のポテンシャルを持つ存在が、まだ世界に眠っているだと!?)」
ゴールドマン議長が、震える手で髭を撫でる。
「もし……もし我が国がそのような人材をいち早く見つけ出し、厚遇して仲間に引き入れることができれば……国家の繁栄は永遠に約束されたも同然ではないか!!」
「ああ! 農業改革、魔導技術の革新、そして何より『未知のレシピ』! 転生者とは、文字通り【歩く国家機密(宝物庫)】だ!!」
ガルド宰相も、興奮で顔を真っ赤にして立ち上がった。
ヴィルヘルム国王が宣言する。
「これより、絶対同盟の全権限をもって『転生者』の探索を開始する!! まずは歴史省の学者たちを総動員し、過去の歴史において『突然変異的に文明を進歩させた賢者』や『奇妙な料理を好んだ建国者』がいなかったかを洗い出せ!!」
「ハッ! 同時に、世界各国へ【布告】を出しましょう!」
ガルド宰相が提案する。
「『異世界の知識を持つ者、または未知なる概念や奇妙な料理(ショウユ、カ・レーなど)を求める者』を探していると! 見つけ出した者、あるいは名乗り出た者には、国家から莫大な報奨金と地位を与えると!!」
さらに、会議室の隅に控えていたサイラスとファルコン(世界食糧保全機構の部隊長)が、ビシッと前に出た。
「我々『超人スパイ部隊』3000名も、調味料探索と並行して、裏社会や辺境の村々に至るまで【転生者の噂】を徹底的に調査いたします!!」
「妙な言葉(日本語)を使う者、前衛的な発明をしている者がいれば、即座に保護してトウヤ殿の元へお連れします!」
「頼んだぞ! 決して他国(非同盟国)に転生者を奪われるな! もし他国が転生者を軍事利用しようものなら、トウヤ殿の機嫌を損ねる前に我々で制圧するのだ!!」
「「「ウオォォォォォォッ!! 全ては絶対同盟の繁栄と、トウヤ殿のご機嫌のために!!」」」
かくして。
トウヤの「他の転生者もいるのかな?」という何気ない一言と、「スイーツが食べたい」という魔王の欲望から始まった閑話は。
地上の王たちによる『転生者という名の超絶チート人材の争奪戦』へと発展し、歴史の洗い出しと世界規模の公開布告、そして3000人の暗殺者たちによる徹底調査という、とんでもない国家プロジェクトを始動させてしまったのである。
「いやー、今日の特大プリンも上手くできたな! ゼノンも喜ぶぞ!」
「ええ! 魔王様、お肉だけじゃなく甘いものも好きなんて可愛らしいですわね!」
迷宮の底で、のんきに特大プリンを冷やしている美食家たちの預かり知らぬところで。
世界はまた一つ、「極上飯と未知の叡智」を求めて狂乱の度合いを深めていくのであった。




