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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第117話:ハズレ階層のストイック修練と、地上で回る超人スパイたち

### 第117話:ハズレ階層のストイック修練と、地上で回る超人スパイたち

『悠久の大迷宮』第60階層の大ボス――『ギャラクシー・ミート・タウロス(銀河の星砕き神牛)』を、戦闘開始からわずか0.05秒で瞬殺したトウヤたち『悠久の踏破者』。

その日の昼から夜にかけて行われた『ギャラクシー霜降り肉の極上すき焼き』の宴会は、彼らの五感とステータスを宇宙の果てまでぶっ飛ばすほどの凄まじい美味さであった。

そして翌朝。

新設備『全自動調理補助ゴーレム・極(通称:ゴレ太郎)』が完璧なみじん切りで作り上げた特製チャーハンで腹を満たした六人と三匹は、いよいよ後半戦のさらなる深淵、第61階層への扉の前に立っていた。

「いやー、60階層のボーナスは本当に美味かったし設備も最高だったな! さて、61階層からは未知の60階層台だ! 何が来るか……!」

トウヤが期待に胸を膨らませて『天啓の美食羅針盤』を取り出す。

「羅針盤さん、今日も極上のお肉をお願いしますわ!」

エリスが祈る中、トウヤが魔力を流し込んだ。

……チカッ、チカッ。

盤面には、ただ静かに次の階段を示す『青い矢印』だけが灯っていた。黄金の光も、プラチナの輝きも一切ない。

「…………はい、ハズレ階層」

トウヤが、すんっとした真顔で羅針盤をしまった。

「ちぇーっ。まあ、大ボスの後だし、そんな連続で極上食材は出ねえか」

ジンが肩をすくめる。

「お肉がないのは残念ですが、胃袋を休める期間も必要ですわね……」

エリスも少しだけガッカリしたように大剣の柄を撫でた。

だが、トウヤはすぐに表情を引き締め、仲間たちに向き直った。

「おい、テンション下げるなよ。確かに今回は『食えない魔物』ばかりのハズレ階層かもしれない。だが、ここは未知の60階層台の最初のエリアだ」

トウヤが、黒曜石の扉を指差す。

「50階層台の『サイレント縛り』や『摩擦ゼロ・超音速空間』を思い出せ。階層が深くなればなるほど、迷宮の環境ギミックと魔物の理不尽さは跳ね上がっていく。もし次にプラチナ級の極上肉が出た時、ぶっつけ本番でその理不尽な環境に対応できるか?」

「……確かに」

ガレスが腕を組む。「あの摩擦ゼロの時も、サイラスの機転がなきゃ危うくエンガワを逃すところだったからな」

「そうだ。だから俺たちは、今後も扉の前で羅針盤の確認はするが……【ハズレ階層こそ、理不尽な環境下での連携精度を極限まで高めるための最高の修練場】だと認識を改めるぞ!」

トウヤが、新たな修練プランを掲げた。

「ただ物理で無双するスピードランじゃない。ハズレの魔物相手でも、『もしこいつが極上肉だったら、どうやって傷をつけずに無振動で仕留めるか』を想定しながら戦う! どんな悪路だろうと、どんなデタラメな攻撃が来ようと、1ミリの肉汁も逃さないためのストイックな【完全捕獲シミュレーション】だ!」

「「「おおおおおッ!!」」」

トウヤの言葉に、メンバーの瞳に再び「美味い飯への執念」という名の熱い炎が灯った。

「了解です! お肉のための予行演習ですね!」

マリアも気合を入れて杖を握る。

「よし! 行くぞ!」

バンッ!! トウヤが第61階層の扉を押し開けた。

ギギギギ……。

扉の先に広がっていたのは、強烈な腐敗臭が漂う、薄暗い泥沼の世界であった。

第61階層――『重力泥濘の腐海とヘドロの触手』。

足を踏み入れた瞬間、通常の三倍近い重力がのしかかり、さらに足元の泥は底なし沼のように粘り気を持って彼らの足を絡め取ろうとする。徘徊しているのは、猛毒のガスを吐き出す『ポイズン・マッド・スライム』や、泥の中から無数に生える『腐食の触手』といった、どう調理しても絶対に食べたくないモンスターたちであった。

「うわぁ……テンション下がるぜ、この臭いと泥」

ジンが顔をしかめる。

「ワゥ……」クロも泥で肉球が汚れるのを嫌がって鼻先を前足で覆った。

「環境最悪! 食材ゼロ! だが、だからこそ修練にはもってこいだ!」

トウヤが【神斬りの業物】を抜く。

「いいか! あの泥スライムを『極上のプリン』だと、腐食の触手を『神話級のタラバ蟹の脚』だと脳内で変換しろ! 足場が泥で重力が3倍だろうが、絶対にプリン(スライム)の形を崩さず、蟹(触手)に傷をつけずに仕留めろ!!」

「「「了解イエッサーッッ!!!!」」」

ハズレ階層の腐海に、美食家たちの狂気的な気合が響き渡った。

「重力が重いなら、泥の反発力を利用しますわ! 【渾身撃・流転・無音抜き】!」

エリスが、重力負荷を利用して大剣を振るうのではなく「滑らせる」ように扱い、泥の中から飛び出してきた腐食の触手の【関節(に相当する部分)】だけを、一切の振動を与えずに切断する。

「プリンに傷はつけねえ! 【幻影歩法・泥這い】!」

ジンが、足元の泥の粘着力すらも歩法のグリップとして利用し、三倍重力の下でも神速を維持したまま、ポイズン・マッド・スライムの「魔力核(急所)」だけを双短剣でスポーン!と綺麗に抜き取る。

「プルルッ!」

リルが触手の体液や泥の飛沫を空中で全て浄化し、ルミナとマリアが「綺麗な状態」を保ったまま対象を氷結パッケージングする。

「……す、すげえ」

トウヤは後方で指示を出しながら、その見事すぎる連携に舌を巻いた。

本来ならイライラして爆炎で吹き飛ばしたくなるような不快な環境と魔物。しかし「もしこれが極上食材だったら」という想定を置いた瞬間、彼らの集中力は極限まで高まり、60階層台の理不尽な環境すらも「新たな歩法と連携のスパイス」として吸収していく。

(……このストイックさがあれば、この先のどんな未知の階層でも、絶対に最高の晩飯にありつけるな!)

トウヤは満足げに頷き、自身も泥沼の環境を利用した空間魔法の新たな展開方法の模索を始めた。

テンションこそ上がらないハズレ階層だが、彼らは初心を思い出すように真剣に、そして圧倒的な技術で61階層の探索を進めていくのであった。

***

【閑話:アルカディア王城・地下特級魔導訓練室】

トウヤたちが泥沼でストイックな「食材捕獲シミュレーション」を行っていた頃。

地上のアルカディア王城の地下では、世界規模で新設された『世界食糧保全・警備機構(超人スパイ・調味料探索部隊)』の幹部たちによる、阿鼻叫喚の地獄の修練が繰り広げられていた。

「ヒィィィッ! 止まらない! 隊長、止まりません!!」

「風が! 風圧で首がもげるぅぅぅッ!!」

王城の宮廷魔導師たちが総力を挙げて作り上げた【摩擦係数ゼロの鏡面氷床】と【超音速の暴風発生装置】が稼働する訓練室。

その中で、新部隊のトップであるファルコン(元・夜梟部隊長)をはじめとする十数名の小隊長たちが、頭に『水の入った木箱』を乗せ、ツルツルと滑りながら壁に激突し続けていた。

「甘いッ!!」

氷の部屋の中央。

サイラス率いる『深淵の配達部隊』のメンバーたちは、頭に保温ボックスを乗せたまま、微動だにせず直立不動の姿勢で「ギュルルルルルルッ!」と超高速スピン(絶対ジャイロ歩法)を維持し、涼しい顔で宙に浮いているように静止していた。

「貴様ら、それでも世界中の極上調味料を探し出すエリートか! トウヤ殿の神聖なるデリバリー・ルート(物理法則の崩壊した深層)では、その程度の風圧などそよ風に等しい! 摩擦がないなら自らを独楽コマとしろと教えたはずだ!」

サイラスが、スピンしながら怒鳴る。

「む、無理です隊長! 目が! 三半規管が爆発します!!」

ファルコン部隊長が、氷の上を転げ回りながら悲鳴を上げる。

「ならば三半規管を捨てろ! トウヤ殿の極上飯おこぼれを食いたくないのか!! 先日我々が持ち帰った『ギャラクシー霜降り肉のすき焼き』の切れ端……あれを貴様らの口にねじ込んでやろうか!!」

「「「――――ッッ!!!!」」」

『ギャラクシー霜降り肉』という、宇宙の真理すら書き換える究極のキラーワードを聞いた瞬間。

「や、やります!! やらせてください!!」

ファルコンと小隊長たちの顔つきが、完全に「飢えた獣」へと変貌した。

彼らは血走った目で立ち上がり、再び頭に木箱を乗せると、自らの三半規管の限界を強制的にシャットアウトし、気合と食欲だけで強引に体をスピンさせ始めた。

ギュルルルルルルッ……!!

「おおおおおっ! ま、回れました! 隊長、風の抵抗が消えましたぞ!!」

「ハハハハッ! 摩擦など幻! 俺は独楽だ! 調味料を探す最強の独楽だァァァッ!!」

十数名のエリートスパイたちが、ついに理不尽な物理法則を食欲の力でねじ伏せ、無表情で高速回転しながら氷の部屋を美しく滑走し始めた。

「……フッ、よくやった」

サイラスが回転を止め、満足そうに頷く。

「これで『摩擦ゼロ』と『暴風』への適応は完了だ。次はいよいよ、空間そのものが狂う【重力反転&幻影迷宮】での修練に移る! 貴様らがこの理不尽の全てに適応した時、地上のどんな軍隊も、どんな厳重な宝物庫(スパイスの隠し場所)も、貴様らの前にはただの『散歩道』となる!!」

「「「ウオォォォォォォッ!! 全てはトウヤ殿のおこぼれ飯のために!!」」」

訓練室の外。

分厚い魔導ガラス越しにその狂気の光景を見学していたヴィルヘルム国王とガルド宰相は、顔を引きつらせながらも歓喜に打ち震えていた。

「見よ、ガルド宰相……。我が同盟の精鋭たちが、頭に箱を乗せて超高速で回転している……」

「ええ、陛下。あれはもはや人間ではありません。重力と摩擦を克服した『歩く災害』です」

ヴィルヘルム国王が、ゴクリと唾を呑み込む。

「……恐ろしいことだ。この数千名規模の『回るスパイ部隊』が世界中に放たれれば、敵国の将軍の首など、暗闇から無音の高速スピンで近づいて一瞬で刈り取れる。戦争など、起きる前に全て終わってしまうではないか」

「まさに最強の抑止力。トウヤ殿の飯テロ(報酬)によるモチベーション・コントロールは、どんな洗脳魔法よりも強固で、確実な軍事力増強をもたらしますな」

彼らは完全に理解した。

大迷宮の底にいる英雄の胃袋を満たすためだけに創設されたこの【世界食糧保全・警備機構】は、間違いなく世界の歴史上、最もシュールで、最も無敵の軍隊であることを。

「よし! この部隊の正式な初任務は、東方大陸に眠るという『幻の黄金唐辛子』の回収だ! スパイたちを世界中へ射出デプロイせよ!!」

「ハッ! 直ちに手配いたします!!」

かくして。

トウヤたちが大迷宮の底で「もしこれが極上肉だったら」と泥にまみれてストイックな訓練を積んでいる間に。

地上では、トウヤの飯の切れ端を餌に物理法則を克服した『数千人の超高速スピンする暗殺者たち』が、調味料を求めて世界中へ解き放たれようとしていた。

大迷宮の踏破と、世界の裏側での狂騒。

二つの次元で極限まで高められた「食への執念」は、物語をさらなるスケールへと引き上げながら、絶対的な平和(と美味しいご飯)に向けて爆走していくのであった。


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