第116話:60階層・銀河級の霜降り神牛の0秒討伐と、世界規模の『調味料探索(スパイ)機構』の誕生
### 第116話:60階層・銀河級の霜降り神牛の0秒討伐と、世界規模の『調味料探索機構』の誕生
『悠久の大迷宮』第59階層を、ごく普通の「当たり階層」として順調に極上肉を乱獲しながら踏破したトウヤたち『悠久の踏破者』の六人と三匹。
彼らはいよいよ、大迷宮のさらなる大きな節目となる『第60階層の大ボス部屋』の扉の前に立っていた。
「……さて。50階層の大ボスが『双頭の災厄竜』だったが、60階層の大ボスとなれば、さらに規格外のバケモノが来るはずだぞ」
トウヤが、禍々しい装飾が施された黄金と黒曜石の大扉を見上げる。
「ええ。でも今の私たちなら、どんな環境だろうと、どんな理不尽な攻撃だろうと、お肉を傷つけずに仕留める自信がありますわ!」
エリスが『竜殺しの重剣』を構え、自信に満ちた笑みを浮かべる。
50階層台の「サイレント縛り」「狂乱の重力空間」「摩擦ゼロの氷上」という狂った修練を完璧にこなしてきた彼らの連携は、もはや神の領域に達している。
「ガッハッハ! その通りだ! 開幕と同時に極上肉へと調理してやるぜ!」
「ピィィッ!(兄貴、扉の向こうからすっごく重たいお肉の匂いがするよ!)」
トウヤが『天啓の美食羅針盤』を確認すると、盤面の中央には、太陽のように強烈な『プラチナ色』の輝きが灯っていた。
「よし! 超特大のプラチナ反応だ! 行くぞお前ら!!」
バンッ!!
トウヤが、重厚な大扉を力強く蹴り開けた。
第60階層の大ボス部屋――『星墜としの荒野と神々の闘技場』。
見渡す限りの荒野。その上空には、無数の隕石が浮かび、重苦しいプレッシャーが空間全体を押し潰すように満ちていた。
そして、闘技場の中央。
「ブモォォォォォォォォォォッッ!!!!」
天地を揺るがす咆哮と共に立ち上がったのは、体長五十メートルを超える超巨大な二足歩行の牛の魔人。全身の筋肉が宇宙の星雲のように輝き、圧倒的な重力魔法を操る神話級の大ボス――『ギャラクシー・ミート・タウロス(銀河の星砕き神牛)』であった。
「おいお前らァァァッ!! 超極上の大当たりだぞ!!」
トウヤの【神眼の指揮】が、大ボスの肉質を完璧に解析して絶叫した。
「あいつの筋肉、常に隕石の超重力負荷に耐え続けてるおかげで、サシ(脂)の入り方がもはや芸術品! 星雲のように輝く『銀河級の究極霜降り肉』だ! 熱を通せば一瞬でとろけて、宇宙規模の旨味が大爆発するぞ!!」
「「「銀河級の、霜降り肉ゥゥゥッ!!!」」」
「行くぞ! あいつが重力魔法を展開する前に、細胞に一切のストレスを与えず、0秒で仕留めろ!!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
神牛が大斧を振り上げ、超重力魔法を唱えようとした、まさにその0.1秒前。
美食家たちの【50階層台の地獄の修練の全成果】が、大ボスに向かって牙を剥いた。
「(クー! 予測!)」
「(ピィッ! ボスの右脚の筋肉が動く! 左に重心がズレるよ!)」
「(クロ! 影ごと重力を固定しろ!)」
「(ワゥォォンッ!)」
クーの完璧な予測と、クロの影縫いによる絶対拘束。
神牛の動きが、ほんの一瞬、文字通り「完全に停止」した。
「(摩擦ゼロの回転突撃だ! 【絶対ジャイロ歩法・双刃の極み】!)」
「(【渾身撃・オーバードライブ・無音の針抜き】!!)」
ジンとエリスが、自らを高速回転する『独楽』と化し、空気抵抗を完全にゼロにしてマッハの速度で神牛の懐へと滑り込む。
回転の勢いと遠心力を乗せたジンの双短剣が、神牛の全身の痛覚神経のみを寸分の狂いもなく切断し、同時にエリスの重剣が、脳天の装甲の隙間を『無音』で打ち抜いた。
「ブモ……ッ!?」
神牛は、自分が何をされたのかすら理解できないまま、痛みを一切感じることなく深い気絶状態へと叩き落とされた。
「(ルミナ、マリア! 空間ごとパッケージだ!)」
「((【絶対浄化・空間氷結】!!))」
トウヤの空間斬りが神牛の急所を断ち切るのと完全に同時、ルミナとマリアの魔法が、神牛の巨体を無音かつ瞬時に『純白の冷凍ブロック』へと変えた。
カッ――――!!!!
ズドォォォォォンッ!!!
開幕から、わずか『0.05秒』。
第60階層の大ボスは、魔法を一つも放つことなく、ただの「宇宙一美味い霜降り肉の塊」へと姿を変え、トウヤのアイテムボックスへと吸い込まれていった。
「……討伐完了!! 肉へのストレス、完全ゼロ!!」
トウヤが歓喜の声を上げる。
パパパパパーンッ!!
その瞬間、大ボス部屋の空間に、天からのファンファーレのような荘厳な音が響き渡った。
「ん? なんだこの音?」
見ると、大ボスの消滅した跡地に、いつもの宝箱ではなく、黄金と虹色に輝く『超特大の神話級宝箱』が出現していた。
「おおっ! これは……迷宮のシステムによる【高速討伐ボーナス】ですわ!」
迷宮の知識に明るいルミナが目を輝かせる。
「60階層という大節目を、規格外の速度と無傷で突破したことで、迷宮の意志が最高の報酬を用意したのに違いありません!」
「マジか! 開けてみようぜ!」
ジンが宝箱を開けると、中からは目を疑うような光り輝くアイテムの山が溢れ出した。
「すげえ! 俺たち六人の武器や防具の『専用・神話級強化パーツ』だ! これで装備がさらにバケモノじみた性能になるぞ!」
「あ、トウヤさん! クロちゃんたちのもありますよ!」
マリアが取り出したのは、クロの牙を強化し影の領域を広げる『影王の牙装飾』、クーの索敵範囲と解析力を倍増させる『神眼のゴーグル』、そしてリルの浄化能力を極限まで高める『聖なる浄化リボン』であった。
「ワゥッ!」「ピィィッ!」「プルルッ!」
三匹のテイムモンスターたちは、それぞれの専用装備を身につけ、誇らしげにポーズを取った。
「さらに設備系のアイテムもあるぞ! 【神の食卓】! 乗せた料理の鮮度と温度を永遠に最高の状態で保ち続ける神話級の家具だ! そして……【全自動調理補助ゴーレム・極】! 下ごしらえや野菜のカットを俺の指示通りに完璧にこなしてくれる最高のアシスタントだ!!」
トウヤが、料理人としてこれ以上ない設備に涙を流して喜ぶ。
「最高だ! 最高のボーナスだ!! これでさらに飯を作るペースが上がるぞ!!」
「ガッハッハ! 大ボスの瞬殺に、最高の装備と設備! こりゃあ今日はもう、早めに拠点に戻って大宴会を開くしかねえな!」
「ええ! 早くあの『銀河級の霜降り肉』が食べたいですわ!」
「よし! 60階層突破祝いだ! 今日は昼から、神の食卓を使って『ギャラクシー霜降り肉の極上・厚切りすき焼き』と『星砕きステーキ』のフルコース宴会だァァァッ!!」
「「「うおおおおおおおッッ!!!! 宴会だァァァッ!!」」」
大迷宮の60階層という地獄の節目は、彼らの異常な連携力の前では「ただのボーナスステージ」に過ぎなかった。
美食家たちは早々と大ボス部屋に【星の箱庭】を展開し、宇宙規模の旨味を誇る霜降り肉の暴力的な美味さに、身も心も溶かしていくのであった。
***
【閑話:アルカディア王城・大作戦会議室】
トウヤたちが銀河級の霜降り肉で宴会を始めている頃。
地上のアルカディア王城では、絶対同盟の首脳陣(ヴィルヘルム国王、ガルド宰相など)と、サイラス、そしてもう一人の人物を交えた極秘会議が行われていた。
「――以上が、新たに創設される【世界食糧保全・警備機構(通称:地上版ウー○ー)】の編成案であります」
サイラスの隣で報告書を読み上げているのは、アルカディア王国直属の特級隠密部隊『夜梟』の部隊長、ファルコンであった。
「うむ。ご苦労だった、ファルコンよ」
ヴィルヘルム国王が深く頷く。
ガルミアの愚行(デリバリー・ルート襲撃計画)を経て、絶対同盟の首脳陣は一つの真理に辿り着いていた。
それは、「トウヤ殿たちの食卓を脅かす可能性のある『地上のイザコザ(戦争や野心)』は、未然に全て摘み取らねばならない」ということ。
そして同時に、「世界中から未発見の『極上調味料』や『幻の珍味』をかき集め、英雄の胃袋を満たし続けること」こそが、世界の平和を維持する唯一の道であるということだ。
「この新たな部隊の規模は、同盟各国から選抜された【3000名】」
ガルド宰相が、会議室の地図を見渡して重々しく告げる。
「目的は二つ。一つは、世界中のあらゆる国家の動向を監視し、戦争や迷宮侵入の企てを事前に察知・粉砕すること。そしてもう一つは……世界の果てまで赴き、トウヤ殿に献上するための『未知のスパイス』を探索・調達することだ!」
戦争をなくし、平和を維持するための部隊が、「飯のタネ(調味料)を探すこと」と同列の任務として世界規模で設立されるという、歴史上最もシュールな軍隊の誕生であった。
「部隊長には、我が国の夜梟を束ねるファルコンを任命する! そして、この3000人をまとめる各小隊長には……」
ヴィルヘルムがサイラスに視線を向ける。
「ハッ。小隊長には、以前我々が行った『深淵のデリバリー適性テスト』において、惜しくも『水こぼし(無振動歩法の失敗)』で脱落したものの、凄まじい根性を見せた者たちを再招集し、任命いたしました」
サイラスが答えると、会議室の扉が開き、十数名の屈強な騎士や暗殺者たちが入室してきた。彼らは皆、かつてサイラスの地獄のテストで涙を飲んだ精鋭たちである。
「我々は! 今度こそ『極上のおこぼれ飯』にあずかるため、命を懸けて地上の治安維持と調味料探しに奔走する覚悟です!!」
小隊長の一人が、血走った目で叫んだ。
彼らのモチベーションは「世界平和」ではなく、完全に「トウヤの飯」へと向いていた。
「よし! ならばファルコン部隊長、そして小隊長たちよ」
サイラスが、厳しい教官の顔つきで彼らの前に立った。
「トウヤ殿たちへの配達(深層へのダイブ)は、引き続き我々『深淵の配達部隊』が行う。だが、我々が迷宮に潜っている間、地上の治安と調味料探索の全ては貴様らに託される。……そのためには、貴様ら幹部だけでも、最低限の【理不尽な物理法則への適応力】を身につけてもらわねばならん」
サイラスは、懐から一枚の『地獄の修練プラン』を取り出し、ファルコンたちに叩きつけた。
「これより、我々が配達の合間を縫って、貴様ら幹部を徹底的に鍛え上げる!」
サイラスがニヤリと笑う。
「まずは浅層での『完全無振動・水運びマラソン』! さらに、王城の魔導師に依頼して作った【摩擦ゼロの鏡面氷床ルーム】にて、頭に空箱を乗せて『絶対ジャイロ歩法(高速スピン)』の習得!! 重力反転魔法を用いた『三半規管破壊・適応訓練』だ!!」
「「「なっ……!?」」」
ファルコンと小隊長たちの顔が、一瞬にして青ざめた。
「そ、そんなデタラメな訓練、人間ができるわけが……!」
「我々は地上の部隊だぞ!? なぜ摩擦ゼロの氷上で独楽のように回らねばならないのだ!?」
「黙れ! トウヤ殿たちの足元にも及ばない我々でさえ習得したのだ、貴様らにできない道理はない!」
サイラスが一喝する。
「これを乗り越えれば、貴様らは地上のどんな軍隊にも無傷で勝利できる『最強の隠密』となる! そして何より……我々が持ち帰った『トウヤ殿の極上飯(逆デリバリー)』の【幹部分のおこぼれ】を与えてやろう!!」
「「「――――ッッ!!!!」」」
その瞬間。
ファルコンと小隊長たちの顔から、恐怖と絶望が完全に吹き飛び、純度100%の「狂気(食欲)」へと書き換わった。
「やります!! 摩擦がゼロだろうが重力がバグろうが、絶対に回ってみせます!!」
「全ては世界平和(おこぼれ飯)のためにィィィッ!! 隊長! すぐに訓練室へ!!」
「うむ! その意気だ!」
ヴィルヘルム国王とガルド宰相は、狂乱しながら訓練室へと向かう3000人の頂点(幹部たち)の後ろ姿を見送りながら、深く頷き合った。
「……素晴らしい。我らが同盟の戦力は、今日もまた、極上飯という最強の燃料によって無限に強化されていくのだな」
かくして。
迷宮の底でトウヤたちが「新しい設備、めっちゃ便利だなー!」と歓喜しながらすき焼きを頬張っている裏で。
地上では、狂気のデリバリー業者に鍛え上げられる『世界規模の超人スパイ(調味料探索)部隊』が本格的に始動し、世界の軍事バランスは「食欲」という名のもとに完全に統一されていくのであった。




