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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第109話:【閑話】絶対同盟の最強抑止力と、見えざる狂威に踊る愚者たち

### 第109話:【閑話】絶対同盟の最強抑止力と、見えざる狂威に踊る愚者たち

アルカディア王城、王立大闘技場。

普段は騎士たちの御前試合が行われるこの広大な空間に、本日は『絶対同盟』に加盟する各国の首脳陣――ヴィルヘルム国王、帝国のガルド宰相、オロス連盟のゴールドマン議長らが顔を揃えていた。

彼らの視線の先、闘技場の中央には、深淵の大迷宮から一時帰還を果たしたサイラス率いる『深淵の配達部隊(第一〜第三小隊の総勢三十名)』が、微動だにせず整列している。

「……さて、サイラスよ」

貴賓席から、ヴィルヘルムが興奮を抑えきれない声で呼びかけた。

英雄トウヤ殿たちからの直々の合同強化合宿……その成果、とくと見せてもらおうか!」

「ハッ! ご覧に入れます」

サイラスが一礼すると、合図とともに闘技場の周囲に待機していた『百名の宮廷魔導師』たちが一斉に杖を構えた。

「第一段階、開始アクション!」

サイラスの号令の瞬間。

百名の魔導師たちから、炎、氷、雷、風といったあらゆる極大魔法が、一切の容赦なく闘技場の中央サイラスたちへ向かって放たれた。それはまさに、軍隊の一つや二つが瞬時に蒸発するほどの無差別な飽和攻撃である。

「おおおっ!? やりすぎではないか!?」

ゴールドマン議長が悲鳴を上げる。

しかし、次の瞬間。

ドゴォォォォォォォォンッッ!!!

闘技場の中央で魔法が凄まじい爆発を起こした土煙の中。サイラスたち三十名は、すでに【そこにいなかった】。

「なっ……消え、た……!?」

「上ですぞ!!」

ガルド宰相が、手すりから身を乗り出して上空を指差した。

そこには、重力を完全に無視し、『次元歩行の靴』で空中に見えない足場を作りながら、魔法の爆炎の「わずかな隙間(安全地帯)」を縫うようにして、逆さまの体勢で浮遊する三十名の配達員たちの姿があった。

「(……空間の歪み、魔力波紋、完全に視えました。……配達ルート、クリアです)」

サイラスが空中で双短剣を抜く。

「第二段階……【神速・次元配達ゼロ・グラビティ・デリバリー】!!」

シュンッッ!!

三十名の影が、空中で一斉にブレた。

彼らは落下速度と次元歩行の踏み込みを掛け合わせ、魔導師たちが放った「魔法の軌道」そのものを物理的に斬り裂き、踏み台にし、一切の風切り音を立てずに闘技場を縦横無尽に乱舞した。

そして数秒後。

三十名は、まるで最初からそこにいたかのように、貴賓席のヴィルヘルムたちの目の前に、音もなく着地していた。

「……お届けに上がりました。トウヤ殿たちからの逆デリバリー、『次元オマール海老の極上・濃厚ビスクスープ』であります」

サイラスが、背負っていた保温ボックスから、熱々のスープが入った美しい陶器の器を取り出し、首脳陣のテーブルへコトリと置く。

スープの表面は、ただの一波すら立っていなかった。

あれだけの魔法の飽和攻撃の中を、重力を無視して飛び回りながら、彼らは【スープを一滴もこぼすことなく】、完璧な状態で運んでみせたのである。

「「「――――ッッ!!!!」」」

闘技場は、水を打ったような静寂に包まれ……直後、畏怖と歓喜が入り交じった爆発的な歓声とどよめきが沸き起こった。

「ば、バケモノだァァァッ!! 帝国最強のスパイが、完全に次元を超越したバケモノに進化しておるぞォォォッ!!」

「魔法の軌道を先読みし、空中を逆さまに走り抜けただと!? なんだあのデタラメな空間認識能力は!!」

ヴィルヘルム国王とガルド宰相は、震える手で熱々のビスクスープをすすりながら、滂沱の涙を流していた。

「う、う、うめぇぇぇぇぇっ! 濃厚な海老の旨味が五臓六腑に染み渡るゥゥゥッ!!」

「そして、何よりも素晴らしいのは……この三十名がいれば、我々絶対同盟は【地上のいかなる武力脅威も、完全に無傷で制圧できる】という絶対的な事実だ!!」

ガルド宰相の言う通りであった。

トウヤたちに「美味い飯の邪魔だ」と殲滅魔法を撃たれるまでもない。もし他国が侵略してこようとも、サイラスたちが夜の間に敵陣の空間の死角から潜入し、スープをこぼさないほどの隠密性で敵将の首だけを刈り取ってしまえば、戦争は一瞬で終わる。

「万歳! トウヤ殿たちの強化合宿万歳!! 我らがウー〇ー配達部隊は、世界最強の軍事抑止力となったのだ!!」

王城は、海老スープの暴力的な美味さと、他国の追随を絶対に許さない「圧倒的武力の完成」に酔いしれ、狂喜の宴に包まれていた。

***

しかし、光あるところに影あり。

このアルカディアで起きた「配達部隊の異常進化」という情報は、同盟に与していない【中立国】の諜報機関にも、断片的にではあるが伝わっていた。

大陸の北方、険しい氷雪の山脈に隔てられた巨大国家――『北方軍事連盟ガルミア』。

かつては戦闘国家ザガン帝国と共に、大陸の覇権を狙って水面下で侵略の爪を研いでいた野心溢れる国家である。

彼らは、ザガン帝国が「謎の光の柱(トウヤたちの冷凍魔法)」によって一夜にして消し飛んだという報告を受け、恐怖のあまり完全に沈黙し、これまで『絶対中立』の姿勢を装って息を潜めていた。

ガルミアの首都、重厚な軍事会議室。

総統であるバルバロスは、諜報員から上がってきた報告書を読み、鼻で笑って床に投げ捨てた。

「……くだらん。アルカディアと同盟国どもが、大迷宮の底にいる『謎の英雄』とやらに『飯の配達』をしているだと? しかも、その配達員たちが空間を跳躍し、神速の隠密術を手に入れた、だと?」

「ハッ。諜報員からの報告によれば、アルカディア王城は大宴会騒ぎで、『我らは世界最強の軍事力(デリバリー業者)を手に入れた』と豪語しているとのことです」

参謀が、報告書を拾い上げながら苦笑する。

バルバロス総統は、葉巻を燻らせながら嘲笑した。

「ザガンが滅びたのは事実だが、あの光の柱は『古代の防衛兵器』の暴発によるものだと結論づけられている。……迷宮の底の英雄? デリバリー? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。それはアルカディアどもが、我々中立国を牽制するために流した【過大評価のプロパガンダ(誇大広告)】に過ぎん!」

彼らは、トウヤたちの規格外の力も、サイラスたちの異常な修練の成果も、【実際の目で見ていなかった】。

「文字だけの報告」では、どうしても「配達員が空間を跳躍する」などという狂った事実は、滑稽な作り話にしか思えなかったのである。

「しかし、総統。一つだけ見過ごせない情報があります」

参謀が、報告書の別のページを開く。

「同盟国が、その『配達員』を使って迷宮の深層から【神の奇跡のような極上の食糧や、アーティファクト】を大量に運び出しているという点です。実際に、オロス連盟の商人たちの間で『アルカディアの王城からは、嗅いだこともない神話級の肉の匂いがする』と噂が絶えません」

その言葉に、バルバロスの目がギラリと強欲な光を帯びた。

「……なるほど。アルカディアどもは、迷宮の深層にある『未知の資源(神話級の宝)』を、一部の特権階級だけで独占しているというわけか」

バルバロスは葉巻を灰皿に押し付け、立ち上がった。

「ならば話は早い! 所詮はただの『配達員(運び屋)』が到達できる程度の階層なのだ。我らガルミアが誇る『極北の氷狼騎士団』を送り込めば、大迷宮の宝など容易く全て奪い取れるはずだ!」

「おおっ! では、ついに軍を動かしますか!?」

「ああ! だが、表立って同盟国を刺激する必要はない。我々の精鋭部隊を極秘裏に大迷宮へ侵入させ、アルカディアの【配達ルート】を襲撃・ハイジャックするのだ! そして、迷宮の奥でキャンプをしているという謎の連中も捕縛し、我々ガルミアのために永遠に宝(食糧)を貢ぐ奴隷にしてやろう!!」

「「「総統閣下、万歳!! ガルミアに栄光あれ!!」」」

恐怖で身を縮めていたはずの野心家たちは、「見えざる脅威」を過小評価し、あろうことか【最強の配達員(元特級暗殺者)】と【最強のキャンパー(神話級の美食家)】たちの聖域デリバリー・ルートを襲撃するという、全宇宙で最も愚かな計画を立案してしまった。

彼らは知らない。

自分たちが狙おうとしている「配達員」が、空間の裏側に潜む神話級の魔物を一瞬で解体するバケモノであるということを。

そして、その奥で待つ「キャンパー」が、飯の邪魔をされることを何よりも嫌う、理不尽の化身であるということを。

圧倒的な武力と美味なる晩餐に沸くアルカディアの裏で。

自らの破滅(あるいは極上食材のダシ引き)へ向かって意気揚々と行軍を開始する、哀れな愚者たちの影が静かに動き出していた。


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