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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第108話:狂乱空間の合同合宿と、地上を制する『最強抑止力』の誕生

### 第108話:狂乱空間の合同合宿と、地上を制する『最強抑止力』の誕生

『悠久の大迷宮』第54階層――『位相の狂った幻影の湖と逆さ滝』。

天地が逆転し、重力が乱高下するこのデタラメな狂乱空間で、世界最強のキャンパーたちと、帝国最強の配達員たちによる【合同・三半規管破壊&適応合宿】が幕を開けてから数日が経過していた。

「(ジン殿! 上空の逆さ滝の裏、魔力波紋が来ます!)」

「(おう、見えてるぜサイラス! お前ら、重力に逆らわず『落ちながら』斬れ!)」

シュンッ!!

空中の水球からテレポートしてきた『ファントム・クリア・スクイッド(幻影の透明大烏賊)』。

その出現のコンマ一秒前、サイラスとジンは完全に逆さまの体勢のまま、重力の落下速度を利用した神速の刃を空間に置いた。

「ギチッ!?」

自ら刃に飛び込む形となった巨大イカは、一切の抵抗もできずに一瞬で神経を断たれ、ルミナとマリアの待つ結界の中へとスッと収納されていく。

「見事だ、サイラス! 第54階層の狂った重力にも、完全に体が適応してきたな!」

「ハッ! ジン殿たちのおかげです! ……とはいえ、まだ胃袋はシェイクされたように気持ち悪いですが!」

サイラスは顔面を蒼白にしながらも、その瞳にはかつてないほどの鋭い光を宿していた。

彼の後ろでは、第二、第三部隊の新人配達員たちも、ガレスやエリスの指導のもと、次元オマール海老の幻影に惑わされることなく、空間の裏側に刃を届かせる訓練を血反吐を吐きながらこなしている。

この数日間、彼ら配達部隊は地獄を見た。

上へ落ち、下へ昇り、右が左になる空間で「絶対に荷物(ダミーの水入り箱)を揺らさない」という狂気のバランストレーニング。

しかし、毎晩トウヤから振る舞われる『次元海老の極太エビフライ』や『透明烏賊の極上・海鮮ユッケ丼』という暴力的な美味さの報酬が、彼らの折れそうな心を強制的に繋ぎ止め、限界を何度も突破させていたのだ。

***

遡ること数日前。合宿が始まった直後のことである。

トウヤは通信アーティファクトを使い、地上のアルカディア王城へと連絡を入れていた。

『――なんと!? サイラスの部隊が、そちらの階層の環境に耐えきれずダウンしたと!?』

通信機から、ヴィルヘルム国王とガルド宰相の悲鳴のような声が響く。

「ああ。ここ、ちょっと空間と重力がぶっ壊れてる階層でさ。サイラスたち、乗り物酔いみたいな状態でゲロゲロになっちまってて、とても配達できる状態じゃないんだよ」

トウヤが、のんきな声で答える。

『そ、そんな……! それでは、我々が用意した世界各国の調味料が、英雄殿の食卓に届けられないではないか!』

「だからさ、しばらく配達は休業にしてもらう。その代わり、俺たちがここで新しい連携を確立するついでに、サイラスたちも一緒に特訓して鍛え直してやることにしたんだ。まあ、一種の【強化合宿】だな!」

『えっ……。ええええええっ!?』

ガルド宰相が、通信機の向こうで椅子から転げ落ちる音がした。

『と、トウヤ殿たち直々の……ご指導だと!? あの神話級のバケモ……英雄たちの修練に、我が国の部隊が参加させていただいているのか!?』

「おう! みんなすっげえ根性あるから、数日あればこの狂った空間にも適応して、もっとすげえ動きができるようになると思うぜ。……だからおっさんたち、サイラスたちが戻るまで、しばらく地上で大人しく待っててくれよな!」

プツッ。

通信が切れた後、アルカディア王城の執務室は、爆発的な歓喜に包まれていた。

「聞いたか、ガルド宰相! あのトウヤ殿たちが、直々に我が同盟の部隊を鍛え上げてくださっているのだぞ!!」

「ええ……! 地獄の深淵を生き抜く術を、神の領域の戦士たちから直に教わる……。サイラスたちが帰還した時、彼らは一体どれほどの高みへ到達しているというのか……!」

ヴィルヘルムとガルドは、震える手で固く握手を交わした。

***

そして現在。第54階層。

「(……隊長。俺たち、もう重力がどっちに向いていようが、全く気にならなくなりました)」

部下のリオンが、空中に浮遊する水球の裏側に逆さまに張り付きながら、静かに報告した。

「(ああ。視覚も、三半規管も、この階層では一切の役に立たない。頼れるのは魔力の波紋と、研ぎ澄まされた直感、そして……空間そのものを支配する体幹だけだ)」

サイラスが、自身の足元――『次元歩行の靴』を見下ろす。

彼らはこの合宿で、単に「環境に慣れた」だけではなかった。

トウヤたちの【食材の鮮度を1ミリも落とさずに狩る】という狂気的な戦闘スタイルを間近で見続けたことで、彼ら自身の暗殺術もまた、根本的な進化を遂げていたのである。

「隊長! 湖の底から『ディメンション・オマール』が次元跳躍の構えに入りました!」

幻影デコイには構うな! 本体の魔力波紋は……上空三メートルの亀裂だ! 第一小隊、空間ごと縫い付けろ!!」

「「「了解ッ!!」」」

ダンッ!!

サイラスとリオンたち数名が、次元歩行の靴で虚空を蹴る。彼らの動きは、もはや「重力を無視している」というレベルを超え、空間そのものと完全に同化していた。

「ギチッ!?」

テレポートで上空に出現した海老が、次の跳躍へ移ろうとした瞬間。

サイラスたちの放った無数の「影の刃」が、海老の周囲の空間の歪みごと物理的に縫い止め、逃げ場を完全に封殺した。

「(美味いエビフライのために……極限の無振動・急所突き!!)」

ザシュッ!!

サイラスの双短剣が、硬い甲殻の隙間を寸分の狂いもなく貫き、次元海老はピクッと痙攣しただけで事切れた。

「おおっ! すげえじゃんサイラス! 完璧なタイミングだ!」

地上で見ていたトウヤが、親指を立てて称賛する。

「これならもう、どんなデタラメな環境だろうが、絶対に荷物をこぼさずに配達できるな!」

サイラスは、静かに地面(斜めになっている岩場)に降り立ち、自身の両手を見つめた。

(……配達、か)

彼は内心で、戦慄していた。

(我々は今、空間の裏側に潜む神話級の魔物を、いとも容易く、しかも連携によって一切のダメージを与えずに一瞬で処理した。……もしこの力を、対人戦や地上の戦争で使えばどうなる?)

サイラスの脳裏に、明確なビジョンが浮かんだ。

敵国の堅牢な城塞も、何万という大軍の包囲網も、今の彼らからすれば「ただの止まっている的」に過ぎない。空間の歪みを読み取り、重力を無視して死角から神速で首を刈り取る。

(……最強だ。もはや我々三十名がいれば、地上でどんな国家間のイザコザが起きようと、どんな未知の脅威が現れようと……【トウヤ殿たちの手を煩わせるまでもなく】、我々だけで完全に制圧できる!!)

そう。この『三半規管破壊&適応合宿』は、単に優秀なウー〇ー配達員を育てただけではない。

将来、もし地上の愚かな国家が同盟に反旗を翻そうとも、トウヤたちが「飯の邪魔をされた」とキレて殲滅魔法を撃つ前に、サイラスたちが秘密裏に全てを解決できる【絶対的な最強の抑止力(戦力)】が、ここに完成したのである。

「……トウヤ殿」

サイラスが、深い感謝と畏敬の念を込めて、片膝をついた。

「この数日間、我々に神の領域の修練を積ませていただき、本当にありがとうございました。我々配達部隊は、この『狂乱の第54階層』を完全に克服いたしました!」

「おう! 見てて気持ちいいくらい完璧な動きだったぜ!」

トウヤがニカッと笑う。

「これでまた、心置きなく地上の調味料を配達してもらえるな!」

「ハッ! これより我々は一度地上へ戻り、停滞していたデリバリー任務を再開いたします! どんな極限環境だろうと、必ずや世界最高の食材スパイスを熱々のままお届けすることをお約束いたします!!」

サイラスの言葉に、第二、第三部隊の新人たちも「ウオォォォォォッ!!」と雄叫びを上げた。

彼らの顔には、三半規管の破壊によるゲッソリとした疲労感など微塵もなく、ただ「次のおこぼれ飯(逆配達)をもぎ取ってやる」という獰猛な食欲だけが輝いていた。

「よし! じゃあ合宿の打ち上げだ!!」

トウヤが、特大の鍋と炊飯器をドンッと用意する。

「今夜は、お前らが獲れるようになった『次元オマール海老』を丸ごと使った【極上・濃厚ビスクスープ】と、『透明烏賊のバター醤油・鉄板焼き』だァァァッ!!」

「「「いただきますッッ!!!!」」」

ジュワァァァァァァッ!!

バターと醤油が焦げる暴力的な匂いが、逆さ滝の湖畔に広がる。

濃厚な海老の旨味が限界まで溶け出したビスクスープを一口飲んだ瞬間、サイラスたちは「生きててよかった……!」と全員で肩を抱き合って号泣した。

デタラメな空間を完全に攻略し、大迷宮の後半戦を生き抜くための「予測と環境適応」の連携を確固たるものにした『悠久の踏破者』たち。

そして、彼らの飯テロによって、地上を裏から支配できるほどの異常な戦闘力を手に入れてしまった『深淵の配達部隊』。

極上の海鮮ディナーの香りに包まれながら、大迷宮の第54階層での地獄の合宿は、これ以上ないほどの大成功と大満足の笑顔で幕を閉じるのであった。


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