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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第102話:【閑話】深淵のウー〇ー新人研修と、空飛ぶ靴の密猟(ファーミング)部隊

### 第102話:【閑話】深淵のウー〇ー新人研修と、空飛ぶ靴の密猟ファーミング部隊

『悠久の大迷宮』の入り口に隣接する、アルカディア王国軍の特別演習場。

そこに、大陸全土から選りすぐられた「絶対同盟」各国の精鋭たち、総勢百名が集結していた。

アルカディアの近衛騎士、神聖魔導帝国の暗殺者、オロス連盟の海兵隊員など、いずれも各国で「最強」と謳われる一騎当千の猛者たちである。彼らは皆、誇り高き顔つきで整列し、これから始まる『世界最強の部隊』への入隊テストに胸を躍らせていた。

彼らの前に、漆黒の隠密装束を纏った男――帝国特級隠密部隊『影歩く者』隊長にして、世界最強の物流網(深淵のウー〇ー)の元締めであるサイラスが、静かに歩み出た。

「よく集まった、各国の精鋭たちよ」

サイラスの低く通る声に、百名の猛者たちがビシッと背筋を伸ばす。

「君たちはこれから、我が部隊の【新人研修】を受けてもらう。だが、最初に言っておく。……今まで君たちが培ってきた『騎士の誇り』や『戦士の矜持』は、今この瞬間から完全にドブに捨てろ」

「な……?」

精鋭たちが、戸惑いの声を漏らす。

「我々の任務は魔王の討伐でも、国家の防衛でもない。大迷宮の深層にいらっしゃる『キャンパー(英雄)の方々』へ、極上の調味料や食材を【一滴もこぼさず、最速で届けること】。それのみだ!」

サイラスは、厳しい視線で彼らを睨みつけた。

「君たちは今日から戦士ではない! 『究極の配達員』だ! 荷物を揺らす者は死ね! 寄り道をして配達時間を遅らせる者も死ね! 分かったか!!」

「「「は、はいッ!!」」」

何が何だか分からないまま、猛者たちは圧倒的なサイラスの覇気に気圧され、大声で返事をした。

こうして、世界で最も過酷で、最もベクトルのおかしい【地獄の配達員育成プログラム】が幕を開けたのである。

***

【第一段階:浅層での『絶対無振動』訓練】

「いいか! 背中に背負った木箱の中には、波々まで注がれた『水が入ったコップ』が敷き詰められている! これを第10階層まで運び、一滴でもこぼした者は即刻不合格クビとする!」

サイラスの無慈悲な号令とともに、新人たちは迷宮の浅層へと潜った。

第10階層までは、ゴブリンやオーク、スライムといった一般的な魔物が出現するエリアである。彼ら精鋭にとっては目をつぶっていても倒せる相手だ。

「フン、こんな雑魚ども、俺の大剣で一掃してやる!」

大柄な騎士が剣を振り被り、オークに向かって跳躍した。

ズドンッ! と着地し、見事オークを一刀両断する。

「よし! どうだ隊長!」

不合格クビだ、帰れ」

「えっ!?」

サイラスが、冷酷に言い放つ。

「大立ち回りを演じたせいで、貴様の背中の水は半分以上こぼれている。もしそれが『オロス連盟の幻のオリーブオイル』だったらどうするつもりだ! 万死に値するぞ!」

「そ、そんな……!」

「我々の武器は剣ではない、ステルスと絶対的な体幹だ! 魔物と戦うな! 気配を消し、関節のバネを極限まで使って衝撃を吸収し、水面を揺らさずに魔物の群れを『すり抜けろ』!!」

サイラスが手本を見せる。

彼は群れなすゴブリンたちの矢の雨を、まるで幽霊のように、風切り音一つ立てずに滑るように回避していく。その背中の木箱からは、チャプッという水の音すら一切聞こえない。

「(な、なんだあの狂った歩法は……!? あれが、帝国の特級暗殺術の真髄……!!)」

新人たちは震え上がった。

彼らは自らの筋肉の使い方の全てを根底から覆され、ただひたすらに「荷物を揺らさない」ための【隠密歩法・極・完全無振動ゼロ・グラビティ・ステップ】を叩き込まれていった。

剣を振るうことすら許されず、魔物から逃げながらバランスを取り続ける地獄の訓練。

この浅層の訓練だけで、誇り高き精鋭の半数以上が「水こぼし」によって脱落し、涙を飲んで国へと帰っていった。

***

【第二段階:第25階層への『単独デリバリー試験』】

数週間の苛烈な訓練を耐え抜き、無振動歩法を体に叩き込んだ生存者は、約三十名となっていた。

彼らの足捌きはもはや一流の暗殺者すら凌駕し、歩くことにおいて一切の音を立てない「完全な影」へと変貌していた。

「よくぞここまで残った。だが、ここからが本番だ」

サイラスが、三十名の前に『厳重に封印された小箱』を一つずつ置いた。

「現在のトウヤ殿たちの現在地は第50階層の深淵。……君たちには、その半分の距離である【第25階層】までの往復を命じる。それが卒業試験だ」

「第25階層……!」

新人たちがゴクリと喉を鳴らす。そこはかつて、トウヤたちが激戦(という名の極上ステーキ回収)を繰り広げた、猛炎と溶岩が煮えたぎる灼熱の階層である。

「この小箱の中には『特級のバター』が入っている。溶岩の熱からバターを守り、かつ魔物の攻撃を避けながら第25階層のボスの間まで到達し、バターを溶かさずに持ち帰ってこい。……期限は丸一日だ!」

「「「了解イエッサーッッ!!!!」」」

放たれた三十名の影たちは、もはや迷うことなく迷宮の深淵へと飛び込んでいった。

彼らは襲い来る中層の凶悪な魔物たちを前にしても、一切武器を抜かない。

「(戦えばタイムロスになる! そして熱風を浴びればバターが溶ける!!)」

彼らはただひたすらに気配を殺し、溶岩の熱波の隙間を縫うようにして、神速で迷宮を駆け抜けた。

ある者は熱波で火傷を負い、ある者は魔物の毒牙にかかりながらも、「バターを守る」という狂気的な使命感だけで足を動かし続けた。

そして翌日。

ボロボロになりながらも、バターを完璧な固形のまま持ち帰ることに成功した者は――【二十名】であった。

「……見事だ」

サイラスが、熱中症と疲労で倒れ伏す二十名の新人たちを見下ろし、深く頷いた。

「君たちのその根性と、荷物を守り抜く執念。確かに見届けた。……今日この瞬間より、君たち二十名を、深淵のデリバリー部隊【第二小隊】および【第三小隊】に任命する!!」

「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

這いつくばりながら、新人たちが歓喜の雄叫びを上げる。

「よく頑張ったお前たちに、私からささやかな『入隊祝い』をやろう。……口を開けろ」

サイラスは懐から、空間を停止させた小さなタッパーを取り出した。

それは先日、トウヤたちから「逆デリバリー」として渡され、サイラスが部下たちのためにほんの少しだけ確保しておいた『双極の災厄竜ツイン・カラミティ・ドラゴンの極厚赤身サイコロステーキ』であった。

サイラスが、爪楊枝に刺した小さな肉片を、新人たちの口に一つずつ放り込んでいく。

「……ん?」

モグッ、と噛み締めた瞬間。

「――――――――ッッッ!!!!!????」

二十名の新人たちの目玉が、文字通り飛び出さんばかりに見開かれた。

「な、ななな……なんですかこれぇぇぇぇっ!?」

「肉が! 噛んだ瞬間に俺の疲労を全部吹き飛ばすくらい濃厚な旨味が大爆発しました!! なんですかこれ!? 神様の肉ですか!?」

彼らは美味さのあまりボロボロと号泣し、地面をバンバンと叩いて発狂し始めた。

「フッ……。それが、トウヤ殿たちが日々食している大迷宮の深層の極上肉だ。我々が配達を成功させれば、彼らはその神の料理を『おこぼれ』として我々に振る舞ってくれる」

サイラスが、悪魔のように微笑む。

「どうだ? 君たちが命を懸けてバターを運ぶ理由が、骨の髄まで理解できただろう?」

「理解しましたァァァッ!!」

新人たちが、血走った目で一斉に土下座した。

「俺たちは! あの肉をもっと食えるなら、毒の沼だろうがマグマの海だろうが、絶対に荷物を届けてみせます!! 隊長! 早く俺たちに次の配達依頼をください!!」

彼らの心から「国家の誇り」が完全に消滅し、純度100%の「食欲(ウー〇ー魂)」へと塗り替えられた瞬間であった。

***

【最終段階:次元歩行の靴、密猟ファーミング作戦】

「待て。君たちの気合は十分だが、現在のトウヤ殿たちは第50階層という『空の神域』に到達している。そこへ向かうには、虚空を歩くための手段が必要不可欠だ」

サイラスは、自身の足元にある宇宙のように黒く輝くブーツを指差した。

「私と第一小隊が装備している【神話級アーティファクト:次元歩行のシャドウ・モデル】。……君たち第二、第三小隊が第50階層へ向かうためには、この靴が全員分必要になる」

「な、ならばどうすれば……!」

「決まっている」

サイラスが、双短剣を抜き放ってニヤリと笑った。

「この靴をドロップする、裏ルートの断層に潜む神話級の魔物……『深淵の次元蜘蛛アビス・ディメンション・ウィーバー』。奴がリポップ(再出現)するのを待ち構え、君たちの靴が二十人分揃うまで、無限に狩り続ける(密猟する)のだ!!」

「「「神話級の蜘蛛を、無限狩り!!?」」」

「そうだ! 奴の空間断裂を躱し、魔力核を抜く修練にもなる! 究極の肉を食いたければ、自らの足で空を飛ぶ靴をもぎ取ってこい!! 全員、裏ルートへ出撃するぞ!!」

「「「ウオォォォォォォォォォッ!!!! 全ては極上肉(報酬)のためにィィィッ!!!」」」

かくして。

『悠久の踏破者』たちが第51階層で真面目にレベ上げ合宿を行っているその裏で。

完全に食欲という名の狂気に染まり上がった新米配達員二十名と、鬼教官サイラス率いる第一小隊は、裏ルートの断層に生息する神話級の次元蜘蛛にとっての【絶対的な恐怖(終わらないリスキル地獄)】となって襲いかかった。

大迷宮の生態系の一部が、ただの「靴のドロップアイテム枠」として絶滅の危機に瀕するなど、迷宮の創造主ですら予想だにしなかった事態である。

トウヤたちに美味い飯を届けるための、世界最強の物流網(ウー〇ー)の組織力は、ここに盤石なものとして完成を見たのであった。


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