第59話 高嶺の三姉妹
あの後。午後の実習は中止となり、そのまま解散となった。
教員と騎士にそのあとを任せ、僕は当時の状況を話し、寮へと帰った。
実習中の突然の国級レベルの三獄鳥の襲来。
普段この魔物は王都にはいない。巣から何らかの理由があり、逃げてきたにしても王都の中心まで飛んでくる可能性は無いに等しい。
よって表向きは魔物の特性を無視した特殊個体によるイレギュラーだとして処理され、裏では…。
「だ〜か〜ら〜!そんなものはありえないって言ってんの」
その日の夜。中央帝国の軍事部での会議室。
最高位貴族であり、中央帝国の軍事力を司る幹部達に対し、無礼とも取れる態度で説明する界冥の姿があった。
「態度を慎め。いくら貴様がこの国の力の象徴だとしても認められない」
「あ〜はいはい。そんな話をしにきてんじゃないのお爺ちゃん。こっちは今日も任務で遠征だったんだ。それで帰ったら学校に魔物襲撃?こんなわかりやすいことないだろ」
「では、やはり反乱軍が……」
「だろうね。しかも、僕の不在を狙ってるってことは、動きがバレてるってことだ。特別魔術師である事は、各騎士団長、魔術師団長クラスでも知らない。知ってるのはあんたら最高位貴族だ」
界冥は深く座っていた椅子から飛び上がり、宙へ浮遊してみせる。
「あんたら…一枚岩じゃないんじゃないか?案外敵は、反乱軍以外にも近くにいるかもな。……だから言っておく…。反乱軍だろうと誰だろうと、僕が相手してやるってな」
そう言い残し、界冥は地面へ着地してそのまま退出しようとする。
「きちんと任務は果たすのだろうな?失敗なんぞくだらん結果は許されんぞ?失敗すればどうなるか貴様が一番知っておろう…」
ある最高位貴族が界冥の背中へそう問いかける。
界冥は、足を止める。完全には振り返らず、チラリとその顔を確認し、言い放つ。
「あなた達こそ…僕を縛れないと言う事をお忘れなく」
冷徹な目で最高位貴族でさえ、冷や汗をかく。
界冥はそのまま部屋を後にする。
特別魔術師。それは力の象徴であり、最強の称号でもある。
○ ○ ○
次の日。学校生活にまだ慣れないながら教室の前へやって来た。
しかし、中々扉に手が届かない。
昨日の今日だ。あんな戦い方をして怖がられてないか。また喧嘩を売られないか。
そんなことが頭の中を駆け巡り、ノアをその場に縛る。
「なにやってるんだ?お前」
「へぇ!?あ、おはようマクベル…」
不審な動きをしていたからか、若干引き気味に挨拶してくるたのは、昨日初めて出来た、そして今のところ一人だけの友達マクベルだ。
「入らないのか?」
「は!は、入るよ!入る入る!」
僕は勇気を出して教室の扉を開ける。
中に入ると、全員の視線が集まる。その目は昨日とは違う目に感じた。
僕はそのまま静かに席に着く。
やっぱし怖いのかな…?
「…あの。少し良いかしら」
「え?は、はい」
声をかけら方へ目を向けると、そこには3人の美少女が。
テンペール三姉妹だ。
凛々しく、美しく、そして優秀。非の打ち所がない完璧姉妹。成績はわからないが、このクラスにいる時点で学校でトップクラスに優秀で、かなりのお家柄なのだろう。
口を開いたのはグラスさんだった。
「今日の放課後、お時間はございますでしょうか。もし宜しければ私達に付き合っていただきたいのですが」
「え?あ、空いてますけど……」
「そうですか。なら、放課後に学校の庭園へ来てください」
そう言い残し、三姉妹は帰ってしまった。
「………え?」
○ ○ ○
学校の広さには毎度驚かされる。森があって、お城みたいな校舎があって、美しい庭園まである。
足元には色とりどりの花が咲き乱れ、その全てに手が行き届いている。歩けば歩くほど花の良い匂いが鼻をくすぐり、心を落ち着かせる。
ああ、何で良い所なんだろう………。心が休まるようだ…。
こんな呼び出しじゃなければ!
「あ、来てくださったのですね。私達のお願いを聞いてくださり、ありがとうございます」
グラスさんが笑みを浮かべ約束通りきただけの僕に感謝の言葉をかける。
庭園の花の中にある大きなガーデンテーブルに、パラソルが穏やかな日陰を作っている。テーブルの上には高そうなティーカップが四つ並べられている。
テンペール三姉妹は既に席に着いており、ここまで来て逃げれる雰囲気ではなかった。
「さぁ、座ってください。細やかながらお茶をご用意いたしましたの。お口が合えばよろしいのですが…」
細やかなんて品じゃないお茶を僕は口をつける。
美味しいが、緊張のあまり味がよくわからない。
何で呼ばれたのか。昨日の事が原因だと思うけど…。出しゃばっちゃった?三獄鳥くらい私達で倒せた……とか!?
変な妄想が駆け巡る。
この学校では貴族と平民の差が激しい。学校内でも有数の魔法使いであるこの三人に目をつけられれば、穏やかな学校生活なんて言ってられなくなる…。
「どうでしょう?」
「お、美味しいですよ!」
「うふふ、なら良かったです」
「あの……何で僕は呼ばれたんですか?」
気が気じゃないので、早速理由を聞いてみた。
「伝えてませんでしたね。昨日の件で……」
冷や汗が止まらない。どんな戦いよりも、今の方が緊張しているかもしれない。
唾をぐっと飲み、覚悟を決める。
「あなたへ感謝と魔法をお見せして欲しいのです!」
「………へ?」
思っていた返答ではなく、変な声が出てしまう。
「昨日の戦い凄かったよ!三獄鳥に対して瞬時に対応出来るなんて!」
中々の熱量で語るのはペナペットさん。
「水魚遊軍で注意を逸らし、僕達に危害を加えないようにしながら、超高火力の魔法で一撃!あれは中々の威力だったよ!」
目を輝かせながら「超圧咆線」の火力を熱弁するジュナリムさん。
「三獄鳥の魔力弾に対して、防御魔法じゃ間に合わない事を瞬時に理解し、卓越した剣術での回避…。そして圧倒的な魔力量!あれ程の魔力は見たことがございませんの!はぁ…まさに勇者に相応しい戦いでしたわ……」
うっとりした顔で分析するグラスさん。
先程まで抱いていた完全無欠の三姉妹のイメージとは違い、今はただ楽しそうにお喋りしている女の子達のようだった。
「そこで!僕達に君の魔法を見せてくれないか?」
ペナペットさんは体を乗り出し気味に言う。
「私も見せて貰いたい!炸裂魔法を超える火力を見せてくれ!」
「私からもお願いいたしますわ。勇者様の実力を見せていただけませんか?」
ジュナリムさんとグラスさんにもお願いされる。
ここまで熱烈にお願いされるとは思っていなかったけど、僕の中での誤解も解け、親睦を深めると言う意味でもいいかもしれない。
「はい。僕なんかの魔法でよければ…」
「ありがとうございます。では、訓練場へ向かいましょう」
細やかなティータイムは終わり、僕達は訓練場へ向かった。
○ ○ ○
訓練場へやって来た僕は、早速魔法を披露することになった。
「じゃあ行きますね?」
「ええ、お願いしますわ」
僕は杖に魔力を込め、少し離れたところに立てた的に向かって魔法を放つ。
ジュナリムさんには「超圧咆線」を撃ってほしいと頼まれたが、いくら訓練場とは言え壁に穴が開きそうなので、違う魔法にした。
「第三門 源子圧海の一滴」
放たれた水の砲弾は、的を粉砕し、そのまま壁に撃ち込まれる。威力を少し落としたので、建物は傷つかずに済んだが、それでもその威力は凄まじい。
この魔法は「超圧咆線」と似ている。要領が同じなのだ。一点に集中、圧縮して放つ。
違いといえば、魔力か水か。それと、圧縮する圧力と魔力量だろうか。
「成程…原理は単純だな。圧縮して放つだけ。でも、その魔力量を圧縮する事が難しいのか…」
「難しい術式や技術を必要とせず、単純な工程だからこそなせる技なんじゃない?」
ジュナリムさんとペナペットさんはすごい勢いで分析を始める。
「やはり実績は嘘ではなかったのですね。正直に言えば、昨日の戦闘を見るまでは実力を疑っていましたの。ですが…認めますわ。あなたは勇者に相応しい素質をお持ちなのですね」
「あ、ありがとうございます」
「学校のことはなんでもお聞きくださいな。私達がなんでも教えて差し上げますわ」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」
グラスさん、ペナペットさん、ジュナリムさんと握手を交わす。マクベル以来の友達が出来た。
○ ○ ○
次の日。僕は昨日とは違う形で視線を集めることになる。
「まだ学校についてわからないことも多いでしょう?私達が案内して差し上げますわ」
「授業はぼくが教えてあげるよ!わからないところはある?」
「まずはこの国に慣れるところからじゃないか?街に出てみよう!紹介してあげるさ!」
特別魔術クラスでは決まった席は無い。ので、大体の位置は決まっているが、自由に座ることが出来る。
早速次の日から距離を詰めてきた三姉妹に、僕と周囲は驚きを隠せない。
「な、なんだ?何があったんだよ」
「あのテンペール三姉妹が…?」
教室の後ろの方からコソコソとそんな話し声が聞こえてくる。
「な、なんでこうなるの……」
また、穏やかな学校生活から一歩遠のいた気がきた。




