第57話 特別魔術師
「はぁ……なんて始まり方だ……」
さっきの騒ぎを聞きつけた教師達に取り囲まれ、事情を話し、なんとか事態はおさまった。
僕は一応転校生という名目で学校へ入学する。
アイデン魔法学校は中央帝国にあると言うこともあり、生徒の大多数は貴族で、派閥のようなものがあるのだとか。貴族出身の生徒の中でも家柄によって階級分けされていて、カースト絶対主義だとか……。
僕のような帝国の外部から来た生徒は特に酷く差別されると聞く…。本当にやっていけるのか不安になってきた……。
入学にあたり諸々の説明を受ける為、早く校長室へ向かわなければならないのに……。今日から始まる学校生活は前途多難な始まり方をした。
入学にあたって先日、手紙が送られてきた。
そこには、校長室への行き方も書いてあった。
最初は校長室くらいすぐにわかりそうなものだと思っていたけど、実際に学校の中へ入るとそんな考えは打ち砕かれた。
この学校はとてつもなく広い。それこそお城のように。
教室、図書室、中庭、校庭はもちろん、剣術や体術を学ぶ道場、食堂に実験室、寮に、自然を学ぶための魔法で作られた人工の森林まで。
校舎の中も教室がびっしり並んでおり、地図なしではとても校長室へたどり着くことはできないだろう。
校長室は校舎の最上階にある。長い階段を登り、左に曲がって、次は右の廊下へ進む。その後は長い廊下を進む。
しかし、幾ら進めど校長室は見えない。
それどころか、先程から同じ廊下をずっと歩いている。
同じ花瓶、同じ絵画、同じ蝋燭の明かり。
地図をもう一度見るが、左に曲がり、右の廊下へと書かれている。
これは……。
「……魔法?」
魔力も感じない、周囲に人の気配もない。でも、魔法によって同じ空間を行き来している。
いや、ここは別空間?それとも進んでいると錯覚しているだけで、実際は一歩も動いていないとか…。
とにかく、これが魔法だとすれば破る方法があるはず。
と言っても、魔力も感じないのだから破る方法を見つけようがない。
でも、僕の魔眼なら…。魔眼「再眼」なら何度も受けている魔法を見破れるかもしれない。
僕の再眼は、「一度目の攻撃は適応できない」という弱点と「攻撃に対してのみ適応する」という二つの弱点がある。羅刹に使った際も、羅刹の魔法は適応出来たけど、瓦礫などは回避出来ていなかった。
となれば、このずっと続く廊下の魔法も攻撃とは認識されないかもしれない…。
いや、解釈次第なのかもしれない。
ループの中で我妻さんが言っていた。魔法は解釈の仕方で変わることがあると。
例えば、抜け出せないこの魔法は僕にかけられている。殺傷能力は無いにしても、僕を拘束していると捉えられるのでは?
そのイメージを元に魔眼を発動させる。
景色は変わらない。長い廊下をただ進む。
あるところで、絵画に違和感を感じた。
さっきから何度も見た絵画だ。しかし、魔眼を発動させて見ると、微かに魔力を感じる。
僕は手を伸ばし、絵画に触れる。
すると、空間が歪み、やがて崩壊する。
パリン!と音を立てて空間が砕けると、目の前には真っ直ぐに伸びた廊下があった。
「よし!成功だ!」
これまで僕の魔眼は攻撃にだけ反応するものだったけど、こういう使い方も出来るのかもしれない!
新たな発見をして興奮していると、扉の奥から「早く入ったらどうだい?」という声が聞こえてくる。
そうだった。早く校長室へ行かなきゃなんだ。
本来の目的を思い出し、僕はようやく校長室の扉をノックする。
○ ○ ○
「どうぞ、中へ」
その声に従い、僕は扉を開ける。
壁には一面の本棚。正面の壁は一面硝子窓になっていて、学校が一望できた。
部屋の中央。ソファに座る二人の男。更にその奥、書斎に座る一人の女性が口を開く。
「まずは謝罪を。君を試すようなことをしてしまったね」
女性は立ち上がり、僕の方はゆっくり歩み寄る。
腰まで流れる美しい銀髪。黒い蝶の髪留め、全身を纏う黒いドレス。見た目は若く見える。耳が尖った形をしている。恐らくエルフ族なのだろう。
「君の実力を測りたかったんだ。まぁ、君専用の入学試験か何かだと思ってくれ」
女性はそう言い終えると、右手を差し出す。
「アイデン魔法学校の校長をしている。エナドナ・ヴィオラ・ヒストリアだ。改めてようこそ、アイデン魔法学校へ」
「ノア・ファトリィブです。よろしくお願いします!」
「そしてこちらが…」
エナドナさんが手を刺す方向には身に覚えのある人が座っている。
「こうして話すのは初めてかな。宮廷魔術師をしているユリウス・アルバート・クロノスだ。よろしくね」
「は、はい!よろしくお願いします!」
帝国最強の魔法使いの称号を持つ、クミさんと同じ元メシア騎士団。
食事会の時はゆっくり話す時間もなかった。
まさか、学校で会えるとは思っておらず声が若干上擦ってしまう。
僕はもう一人の男性に目を向ける。
透き通るような肌、髪も、まつ毛まで白い。整った顔に、サングラスの奥で輝く宝石のような青い瞳。高身長で黒い軍服を身に纏っている。
「君が100代目勇者くん……だね?」
サングラスから目をチラリと覗かせ、僕のことを見つめる。
「僕は特別魔術師の艇・界冥。累冥から話は聞いてるよ」
「累冥さん…あっ!」
僕は累冥さんとの会話を思い出す。帝国には従兄弟が居るから、困ったら頼れと言われていた。
「あなたが累冥さんの言っていた?」
「そうそう!これから宜しくね、ノア君」
○ ○ ○
挨拶を済ませ、そこから1時間近くエナドナさんに学校の事について詳しく説明を受けた。
僕は特別魔術クラスというクラスになるらしい。
そこは、一般生徒とは違い魔法について自由に研究することが出来る特別な場所なのだとか。
そこの生徒はそんな所に属するくらいだから、天才ばかりなのだとか。
友達は作れるかどうか。そんことを考えていると、学校の説明が終わり、ようやくかと言わんばかりに界冥さんが大きく欠伸をした。
「じゃあ、ここからは僕達の話だね」
ユリウスさんは僕にもう一つの話をしだす。
○ ○ ○
エナドナさんは校長室全体に結界魔法をかける。
音を遮断する結界。この行為が意味する事は、ここから先の会話はこの場の人間だけが知る秘密の話だと言う事。
「さ、君も気づいている通りここから先は極秘事項だ。その意味がわかるね?」
「はい…」
アイデン魔法学校の校長と宮廷魔術師と艇一族。この三者が揃っている時点でかなり重要な事は明白だ。
僕はぐっと唾を飲み込む。
「じゃっ、僕が詳しく話すよ」
先程までソファに深く腰掛け、くつろいでいた界冥さんは、座り直して姿勢を正す。
「見てわかるように僕は中央帝国の軍人だ。ただし、騎士団員でも魔術師団の一員でもないし、どの部隊にも所属していない」
中央帝国の軍勢は騎士団と魔術師団の二つに分けられる。
5つの団隊からなる騎士団と、階級制の魔術師団。更にメシア騎士団などの少数制の部隊が存在する。
この何処にも属さないとなると…導き出される答えは一つ!
「無職ですか!」
「違ぇよ!!」
「くくくっ……」
頓珍漢な返答に界冥さんは怒り、エナドナさんは必死に笑いを堪えていた。
「…はぁ……。僕は存在を隠しているんだよ。僕は特別魔術師、帝国直属の魔術師さ。騎士団や魔術師団じゃ手に負えない任務を請け負う言わば帝国の隠し玉さ」
「つまり…無職なんじゃなくて、いざという時のための戦力って事ですか?」
「こんっの勇者腹立つなぁ…。まぁそう言う事だ。僕は表立って任務をこなさない。影で強すぎる反乱軍や魔物を討伐したり、帝国軍事力の最終兵器としての役割だったりね」
特別魔術師。
自分が思っているより、界冥さんは強いのかもしれない。
「まぁ、界冥くんの説明の通りさ。そこで、なんとなく想像はついてるかと思うが、君にも特別魔術師になってもらいたい」
「ぼ、僕ですか?」
ユリウスさんの提案に驚いていると、ユリウスさんは一枚の紙を取り出した。
そこには僕の情報と、実力が記されていた。
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ノア・ファトリィブ
年齢11歳。エデル島出身。
永久のエルダにて「銀世界のシルヴァト」討伐。
都市セティヌスにて最悪の囚人「ドロ・ディレティロ」の捕縛。
仙船 大千郷にて「羅刹」の討伐。「時帝龍」討伐戦に参加。
魔法 国級
剣術 水仙流、刀神流を使用 軍級
魔眼 「再眼」の所持及び使用可能
総合階級 彼らの実力、魔眼、功績から帝級に指定する。
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僕の実力が丸裸にされている。
階級はその地方の騎士団や元騎士団員2名以上の評価によって決まる。
(ノアは永久のエルダ攻略時、都市セティヌス、仙船で評価を受けている)
「齢11でここまでの実力と経験を兼ね合わせた人物はいない。それに、君に勇者としての任務はまだ来ない。然るべき教育を経てからって言う約束だしね。だから、学校生活を送りながら密かに任務をこなしてもらいたい」
「……僕なんかでいいんですか?」
「君だからだよ」
僕が決めあぐねていると、界冥さんが口を開く。
「君は都合がいい。勇者に任命されているが、公的に任務をこなすのはまだ先。実際の実力が測れないし、これからは僕が魔法を教える。子供の成長期ほど恐ろしいものはないよ」
さらに付け加えるように界冥さんは体を乗り出す。
「今、アイデン魔法学校は帝国の政治に反発する反乱軍の標的になってる。勿論、騎士団を動かせれば良いんだけど、騎士団の大半は今大半が居ないんだ」
「な、なんでなんですか?」
「帝国から西に進んだ所で反乱軍とうちの総騎士団長率いる兵が戦争中だからさ。軍の半分以上が駆り出されてね。その隙をつくように精鋭部隊が狙ってるってわけさ」
界冥さんは突然ビッ!と僕に指を刺す。
「そこで君だよ!顔も実力も知れ渡ってない上に、生徒として学校にいれば疑われることも少ない。それに、君は今日から寮生活だろ?常に対処出来るしね。僕も勿論うごくけど、君にも協力して欲しい」
「成程…」
界冥さんの説明に僕は納得する。
確かに学生なら任務はしやすいだろうし、敵からしたら情報が少ないのは攻めづらいか。
「…わかりました!僕なんかでよければ!」
「よし!と言うか、もっと君は自信を持つべきだよ」
「わ、わかりました…」
「まぁ!僕が君の上司として、これから鍛えていく。着いてこいよ?後輩勇者!」
差し出された手を握り返す。
こうして僕は勇者で、生徒で、特別魔術師になった。




