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塚原一刀斎

二刻(四時間)、アオハル達は眠っていた。

だが、殺気を、感じ取ったアオハルは、屋形船の表に出て、殺気の出頃を探って、どうやら、船の屋根の上にいると踏んで、上に跳躍する。

いたのは、ネズミ色の忍び装束を着た、中年の男だ。

アオハルは知っている、二年前に、戦ってはいないが、相手の服の胸の部分に鬼を模した印を縫いつけている。

それは、二年前と戦った相手と同様だ。


十二の角(ディオデシム・コルヌ)の一人だろう。

鞘から刀を抜き、青眼の構えを取り、剣先を相手の左目に向ける。

その場に緊張が走る、アオハルは相手が無手である事に、注視した。

恐らく、刀で斬っても、斬れぬ、凄まじい硬度の手甲を装備しているのだろう…後手に出るのは悪手と感じ取ったアオハルは、大きく踏み込み、一気に斬りかかる。


だが、それは、空振った。


空を斬る、切っ先にアオハルは、とてもつなく鋭い気配を腹部に感じる。

一瞬だった、腹部を撃ち抜かれていた。

気付いた時は、片膝をついている。

何という、磨かれた体術だ。

敵ながら、あっぱれと言いたいとアオハルは、思った。

だが、それは敵も一緒だ。

額に斬撃がかすったのだろう、血が滴っている。


「貴様、あの一瞬で我に掠り傷とは、流石、正義様に仇なす者だ、かなりの腕前、見事だぞ」


「きさんも、ワシにこげな重たい一撃与えるのは、認めたくないが、恐ろしかった相手バイ」


アオハルは腹を擦り、片膝から立ち上がる。


「貴様程の相手には名乗らければ、いけないな、我は…鯰(シルルス)!!、この名乗りは、正義様に貰った贈り物の一つ、開示の念よ!もう、掠り傷もつけられまいよ」


相手の気配が、大きくなっているのが分かる、ハッタリではない、恐らくもっと速くなっている事だろう。


だが、アオハルには、今まで生きていた中で、もっと強い相手を知っている。



塚原一刀斎(ツカハライットウサイ)、恐らく、正義より強いであろう、お人だ、だが、本人は、世直しどころか、強者との戦いとも、興味がない人だ。

歳も八十歳っと老人には、欲望も野心もない。

興味があるのは、弟子の育成と顎に生えた白髪に染まった髭の手入れだけだった。

だが、一度だけ、本気で怒り狂った事がある。


それは、二十年前、アオハルと霞姫を正義が連れていこうとした時だ。

それは、最早、戦争だ。

正義が大軍を引き連れて、塚原一刀斎が住む道場に乗り込んで、来たのだった。


当時、五歳のアオハルと七歳の霞姫は、一刀斎の命で同じく住んでいた道場の門下生達に隠されていた。

あの気持ち悪い作り笑いを浮かべながら、正義は霞姫を差し出すように一刀斎に要求したが、即、却下され、正義の機嫌を損ねた為、道場に大軍が襲いかかる。


塚原一刀斎はその生涯の中でも、一度にもあるか無いかの激怒の焔を燃やし、その剣の腕は、この世界でただ一人、剣神の名で通っていた。

その腕は、存分に奮われた



当然、大軍は、一瞬で血溜まりに沈んだ。




正義は、生涯で恐らく、人に恐れたのは、この時だっただろう。

大軍は、正義を守る肉盾と化した。

老人は、その歳に見合わない肉体で、大軍を駆け抜け、斬り伏せ、そして、正義に斬りかかる。

正義は、あの気持ち悪い作り笑いどころか、必死に、もう必死で、自分用に作らせた大きな金棒で、応戦したが、金棒は真っ二つに両断され、自身も夥しい刀傷を負って、その白い肌に鮮血が鮮やかに染まっていく。


最早、鬼の威厳など、無かった、大軍をけしかけ、自分は、逃亡!!逃亡!!!!逃亡!!!!!!に徹し、何とも情けないものだった。




そして、大軍は全滅した。




血溜まりの中、一刀斎は、血に染まった刀を払い、道場に戻ると、溜息つきながら、座った。


「一刀斎先生!!」


門下生達が駆け寄ると、疲れたと言い。


「お前達、羊羹と渋い熱い茶を用意してくれないか、あと、アオハルと霞を呼んでくれ」


「は、はい」


門下生達は、急いで羊羹と茶を用意し、道場の隠し部屋に匿っていた、アオハルと霞姫を呼んだ。

一刀斎の前に座った、アオハルと霞姫は、不安そうに一刀斎を見ると、一刀斎は不器用に笑った。


「お前達、いや、霞よ、わしは怖いか?」


「はい、恐ろしゅうございます」


「そうか…」


老人はふぅと、溜息をもう一度つくと、アオハルに言った。


「アオハルよ、わしはもうあまり、長く生きれんだろう、歳も八十じゃ、恐らくだが、あの鬼はそれを見越して、もう一度くるやも知れんたい」


「はい」


「お前はまだ、五歳だ、霞も七歳だ、わしが生きている限り、霞よ、アオハルよ、お主達に剣の修業をつけてやれるが、何度も言うが、寿命には勝てん」


「「はい」」


「他の門下生達にも、教えてるが、わし程の剣の領域には達しておらん、アオハルよ、霞に何かあれば、お前が守るんばい」


それに霞姫がアオハルは私の弟です、私こそがアオハルを守るんですっと言うと、一刀斎は


「それは、一年、二年先の未来なら、通る道理たい、霞よ、確かにお主は筋がいいが、十年、二十年経てば、肉体もアオハルが凌駕する、その時、お前を守れるのは、恐らくアオハルたい、守られるのは嫌か?」


「嫌です、自分ぐらいは自分で守りたいです、師範」


「それが、理想であればワシも教える、だがな…おお、来たな」


門下生が羊羹とお茶を一刀斎の前に置いた。


「違う、違う、これを食うのは、この子らじゃ、あと、お前達も食っていい…茶菓子は残ってるだろ?」


「はあ、よろしいのですか?先生は…」


「よか、そんな気分じゃなかし、これも自己満足じゃ、人間、利己主義じゃ満たされん、利他精神を持たんと、人間は鬼とは違うんじゃ」


「そうですか…」


ここから九年後、八十九歳、塚原一刀斎は、この世を去る。

そして…その一年後に、正義は霞姫を攫った。

補足ですが、塚原一刀斎はこの作品の中では、ぶっちぎりで一番強いです。

あと、塚原一刀斎は剣神と呼ばれていると書いてますが、剣神>剣聖>剣豪>剣烈>剣鬼>剣人と、ランクがあり、強さもそうですが、知名度や品格も関係してて、一概にランクが通りが強さと関係してるとは限りません剣聖より強い剣豪もいます。

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