崇拝者正義
「正義公、万歳!!」
袈裟斬りにした一人の背後から、六人の内、三人が一斉に斬りかかって来た。
アオハルは斬った背後から襲ってきた一人を蹴りついて、吹っ飛ばし、左右から襲って来た二人を脇構えから、瞬くまに、横薙ぎで斬り払った。
あっと言う間に、倒したものだから、残りの三人が前に出て来ない。
呆然としてるようだ。
「きさんら、鬼和番ならワシの事を知っとーやろ」
「ぬうう、いや、貴様など、いや、まさか!!」
「そうタイ、気づくなら話は、早か、正義に伝えろタイ、黒鬼が再び、斬りに来たと…」
「そうもいかん、正義公の忠臣、鬼和番として敵前逃亡は恥」
そう言いながら、鬼和番達の足は震えていた。
斬りかかれば、確実に死あるのみだと、本能が告げている。
どうすれば、いいのか分からず、鬼和番達はその場で刀を構えたまま、硬直した。
アオハルは溜息をつき
「しょうがなかねぇ」
と、目に止まらぬ速さで三人を斬った。
様に、見えたが一人は柄頭で顎を打ち抜き、返す刀で体を一回転し、二人目を背後に峰打ちで殴打し、残った三人目を、腰の帯から外した鞘で肋骨を突き抜いた。
鬼和番、全滅なり。
「塚原君、君は…あの伝説の黒鬼だったのかい?」
「黙ってて、悪かぁね、二年前、城から出て来た、正義を仕留め損なってね、あれ以来、警備が厚くあったばってんくさ、今度は静かに城内に入ろうと思ったんけれど、上手くいかんネ」
「そんな事ない、でも、君の実力なら正面から乗り込んでもいけそうだけど…無理なのかい?確かに正義公の懐刀の十二の角もいるし…」
「それなんよ、十二人いるとの噂アイツらを相手しながら襲うのは、正直、無理、実際、前の時は五人相手だったばってん、しんどかネ」
「俺も存在は知っているが、実際見たことあるのは、七人だ、鷹の侍、その兄、鷲の槍兵、鯰の拳士、虎の弓兵、山羊の大槌使い、その妻、山羊の薙刀兵、そして…毒蛇の二刀流使いだな」
「ワシも本命の正義を斬りたいけど、鷹、鷲、毒蛇、虎、山羊の夫の方は、戦ってしんどかネ、それにしても、自分の部下に異国の言葉をあてがうのは、正義もけったいな奴ばい」
「正義公は、あれで頭はキレると思われたいと節があるとかないとか噂になっていた」
「そうかい…しょうもなかネ」
「あの…」
東雲が部屋の隅でガタガタ震えていた。
無理もない、いきなり部屋で血生臭い斬りあいに立ち会ったのだ、本来なら、恐怖のあまり失神してもおかしくない。
そうならなかったのは、彼女なりの肝の据わっているからだろう。
「貴方は正義公を斬りに行かれるのですか?」
東雲がアオハルをジッと見てそう言うと
「ああ、斬る」
「でしたら、貴方はこの国を敵に回す事も承知でありんすか」
アオハルを値踏みするかのように、見るその目には何か訴えたいことがあるようだ。
「どうか、妹を…あの子を…取り戻して下さいませ」
「妹は金でどうにかならなかったんネ」
「はい…結局の所、金が足りぬと門前払いで…黒木様、貴方を不幸にした罪過は消えませんが、図々しいと思われるでしょうが…どうか妹を…」
「……責めぬよ、もとから身から出た錆だ、それに」
それに?っと東雲が相槌を打つと、黒木は懐から金を…それも東雲を買った、金額よりも高い金一両一分だった。
「受け取れ、俺もただでは転ばん、くすねて来たのさ、元勘定所の意地よ」
「そんな…呼び出しと同じ料金を頂いても…」
「金は幾らあっても、困らん、それに俺はまだ金がある」
懐から小判を取り出すと、合計で三十両もの大金を出して見せた(お前の懐はド◯えもんかよ)
「よくもまあ、こんな大金を…黒木さん…あんた、例え死んで地獄でも、閻魔様を出し抜きそうタイ」
アオハルは心底驚いた。
「ハハハ、褒め言葉と受け取ろう、失くすもん失くし、屑以下の俺だが、塚原君、君の力になれそうだ」
「そうばってん、この東雲さんも城内の情報は期待出来きんし、かっーどうしたもんタイ」
「実は…黒木様、塚原様、城内の見取り図なら妹から、密かに渡して貰ったのです」
東雲の言葉に喜ぶ、アオハルだったが、見取り図を貰い、見ると一転、気を落とす。
「これは、嘘の見取り図バイ」
「いや、これは本物だと思うぞ、塚原君、勘定所の間取りも俺の知ってるものと一致している」
「正義は意地が相当悪い奴バイ、本物と嘘を混ぜてる、やっぱり霞姫様を助け出すには正面しか…うーん」
アオハルを黒木は何故、そんな事が理解るんだと聞いた、するとアオハルは懐から取り出したのは、間取り図だった。
それは、霞姫のいる大奥の間の図が異なっている。
「本当に違いますね…申し訳ありません、お力になれず…」
「いや、正義の意地の悪さが改めて分かって良かバイ、アイツに吠え面をかかすにはやはり困難なんだ」
店を出る黒木とアオハルに申し訳なさそうに東雲は言った。
「聞きそびれたが、妹さんの名は?特徴は?」
黒木は別れ際に東雲に聞く。
「名は菊と、髪が真っ白の子で三尺六寸四分ぐらいの子です、あと…笑うと凄く可愛いんです」
「そうか、聞いたな、塚原君、君の霞姫様共々、助けようではないか」
「今は夜です、鬼和番にも勘付かれてます、ワシは少々疲れたバイ、黒木さん、安全な場所があれば教えてほしい」
アオハルの様子を見て、黒木はドンっと胸を叩いた。
「バクフや地元の人間にも知られとらん穴場がある、そこに泊まろう」
黒木の案内の元、アオハルはついて言った。
そして、場面は変わり、エドバクフの大奥にいる霞姫が、燭台に照らされた部屋で何かを書いていた。




