人外の生贄弐
男は引きちぎった髷を捨てた。
思い切りちぎったからか、頭部に血が滲んでいる。
「お侍様!?」
「俺はもう侍ではない…俺はただの黒木貞治だ」
「黒木さん、ワシは…救いたい人がいる、力を貸してほしい」
「そんな価値があるほど、俺にはないぞ」
「いいや、バクフ勘定所の二席の黒木貞治なら、ワシも知っとるバイ」
「!?、いや、そうか…俺の処分を瓦版なんかで知ったんだな…」
アオハルは首を横に振った。
「いいや、実はね、ワシの姉が知らせたんバイ」
「君……何者なんだ?」
アオハルが立ち上がり、胸にグッと親指を当てた。
「バクフ大奥、御部屋様、の一人、霞姫様、彼女はワシの姉…いや姉代わりの人ですタイ」
黒木は驚きを隠せない、こんな…こんなとは失礼だが、大奥と言うバクフの秘所に、目の前の青年が関わっているとは思いもしない。
「ワシは正義を斬る…っが奴の周りの情報が少ない、そこで、あんたの力を借りたい」
「改めて聞くが…俺の力が必要なのか?俺は…俺には…そんな価値は…」
「ある!!!!」
アオハルは断言する。
何者にも決して否定させない、その言葉には力がある。
だが…
「違うだ…塚原君、正義公に酷いことをされたのは、事実だが…俺は、俺は、自分に負けたんだ…誘惑に…」
「知ってる、吉原の花魁にハマって、バクフの勘定所の力を使って金を使いこんだ…だろ」
「ウゥゥ、そうなんだ…悪いのは俺なんだ…悪いのは」
「いいか…黒木さん、あんたが汚職をしたのは逃れようない事実、だけど、だけど…あんたがここで、腹を掻っ捌いてしまっても、家族は帰ってこないし、それが罪の清算になるとはワシは思わん」
「……」
黒木は喋らない、アオハルの言葉を聞いていた。
「生きるんじゃ、生きて、生きて、あんたの人生を賭けて、誰かを助けるんだ、誰かに後ろから指を刺されろうが、瓦版のネタにされようが、他人に侮蔑され、嘲笑れようが、あんたの人生だ、死んだらな、もしかして、家族に会えるとか甘い幻想なんか持つな、ワシは認めない、通俗道徳なんか糞くらえだ」
「……」
黒木はなおをも喋らない。
少しは行動に移せるようになったのだろうか。
「ワシの師匠の言葉を借りれば、人間の全ての行動は自己満足に過ぎない、いいかい、黒木さん、ワシはあんたに復讐をさせる機会を与えるが、見返りは求めんし、逆もそのつもりだ、力は借りるがなんの報酬もでらん」
「君は、この吐瀉物にも劣る俺に復讐まで力を貸してくれるというのかい?」
先ほど、吐いた物を指をさし、黒木は言う。
アオハルは、やれやれっと言った様子で
「もう、最初から言うてます、そがん自分ば、卑下せんでもよかと」
アオハルは黒木を立ち上がらせ、肩を貸した。
「先ずは、城内の情報集めじゃ、ここは人が多すぎる、ワシらは目立ちすぎタイ」
周りを見ると、野次馬が集っていた。
「何処へ、行くんだい?」
「そりゃ勿論、遊郭タイ」
ええ―――――!!!!っと驚く黒木を連れ、アオハルは遊郭に向かった。
最底辺の僕です。
黒木は駄目人間ですが、それをアオハルが諭すのは、また、別の意味があります。
感想とかあれば有り難いです。
皆様よろしくお願いします。




