第07話:南区第八地区(下)
部屋に戻って、クローゼットを開けた。
任務バッグは、棚の下に畳んで置いてある。深緋はそれを引っ張り出して、ベッドの上に広げた。
「ツキ、着替えは四日分」
「はーい」
「靴下は厚いの多めにね」
「……うん」
「こっち、見て」
月草が、深緋の隣に来た。深緋は、自分の引き出しを開けて、シャツ、下着、靴下を順に取り出していった。月草はそれを見て、自分のクローゼットに戻って、同じように出した。
「これで、四日分?」
「うん。一枚多めに入れてもいい」
「……うん」
鶸は、自分のベッドに着替えを山にして、その上に座っていた。
「ヒワ、座らないで支度して」
「あ、ごめんごめん」
鶸は立ち上がって、シャツを畳み始めた。畳み方は雑だ。深緋が横から手を伸ばして、一枚だけ畳み直した。
「ヒワ、皺になる」
「えー、入ればいいじゃーん」
「向こうで着るんだから」
「はーい」
月草は、自分のシャツを丁寧に畳んでいた。角を合わせて、二回折って、それからバッグに入れる。月草は、こういうところがきれいだ。
深緋は、防刃ジャケットを出した。秋口の薄手のものだ。ブーツ、制動ベルト 、そして水筒は空のまま入れる。水と食料の支給は、現地と道中で出る。
「ツキ、導線グローブはある?」
「……ある」
「入れておくんだよ」
「……うん」
月草は、引き出しから魔法使用時に使う導線グローブを出して、バッグの隙間に入れた。
「ねえ、コキア」
「ん」
「……ヒワは、いつも、こんな感じなの?」
「任務の前?」
「……うん」
「うん。ヒワは、いつもこんな感じだけどツキは真似したらダメ」
月草は、鶸のほうを見た。鶸は、靴下を丸めて、片方ずつバッグに放り込んでいた。投げて入っている。バッグから服ははみ出ている。
「ヒワ、靴下で遊ばないで」
「えっ、入ったよ?」
「ちゃんと畳んで」
「はーい」
月草が、ちょっとだけ笑った。
深緋は、それを横目で見て、自分のバッグのファスナーを半分まで閉めた。
*
夕食のあと、部屋の電気を少し落として、三人ともそれぞれのベッドに座っていた。
明日は午前中に最終説明が終われば、部屋で過ごす予定だ。最後の整備と、装備の最終確認。出発は明後日の朝。
「コキア」
「ん」
「僕たちは海のそばに行く?」
月草が首を傾げながら聞く。
「第八地区は、海の近くだよ。沿岸地区」
「海、見える?」
「どうかな? 任務中だからね」
「そっか……」
横から鶸が茶々を入れる。
「えー! 海見れないの?」
「ヒワ、見学じゃないよ」
「わかってるってばー」
鶸は、ごろんと転がって、毛布を顎まで引き上げて、ニヤニヤしていた。
月草は、毛布の上に座って、両膝を抱えていた。
「……コキア」
「ん」
「ぼく、二人の迷惑にならない?」
「ならないよ」
「……ほんと?」
「ほんと。ツキの仕事は、ぼくらの隣にいることだから」
「……それだけで、いいの?」
「うん。最初はそれだけ。みんなそう」
月草は、少し考えてから、こくりと頷いた。
鶸が、毛布の中から声を出した。
「ツキー」
「……ん」
「ボクの隣でいいよー」
「……うん」
「ボク、迷子になるからー」
「……ヒワが?」
「うん。ツキがいないと、迷子」
「……」
「だから、ツキ、ボクの隣ね」
「……うん」
月草は、毛布を引き寄せて、その中に潜った。声がくぐもって聞こえた。
「……うん」
深緋は、ベッドの脇の手元灯を消した。
部屋は暗くなったけれど、窓の外は、外の薄い灯りで少しだけ明るい。
明後日の朝、ここを出る。
深緋は、目を閉じた。胃の底の重さは、もうほとんど消えていた。
(了)
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