↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
70/94

第07話:南区第八地区(下)

 部屋に戻って、クローゼットを開けた。

 任務バッグは、棚の下に畳んで置いてある。深緋はそれを引っ張り出して、ベッドの上に広げた。


「ツキ、着替えは四日分」

「はーい」

「靴下は厚いの多めにね」

「……うん」

「こっち、見て」


 月草が、深緋の隣に来た。深緋は、自分の引き出しを開けて、シャツ、下着、靴下を順に取り出していった。月草はそれを見て、自分のクローゼットに戻って、同じように出した。


「これで、四日分?」

「うん。一枚多めに入れてもいい」

「……うん」


 鶸は、自分のベッドに着替えを山にして、その上に座っていた。


「ヒワ、座らないで支度して」

「あ、ごめんごめん」


 鶸は立ち上がって、シャツを畳み始めた。畳み方は雑だ。深緋が横から手を伸ばして、一枚だけ畳み直した。


「ヒワ、皺になる」

「えー、入ればいいじゃーん」

「向こうで着るんだから」

「はーい」


 月草は、自分のシャツを丁寧に畳んでいた。角を合わせて、二回折って、それからバッグに入れる。月草は、こういうところがきれいだ。

 深緋は、防刃ジャケットを出した。秋口の薄手のものだ。ブーツ、制動ベルト 、そして水筒は空のまま入れる。水と食料の支給は、現地と道中で出る。


「ツキ、導線グローブはある?」

「……ある」

「入れておくんだよ」

「……うん」


 月草は、引き出しから魔法使用時に使う導線グローブを出して、バッグの隙間に入れた。


「ねえ、コキア」

「ん」

「……ヒワは、いつも、こんな感じなの?」

「任務の前?」

「……うん」

「うん。ヒワは、いつもこんな感じだけどツキは真似したらダメ」


 月草は、鶸のほうを見た。鶸は、靴下を丸めて、片方ずつバッグに放り込んでいた。投げて入っている。バッグから服ははみ出ている。


「ヒワ、靴下で遊ばないで」

「えっ、入ったよ?」

「ちゃんと畳んで」

「はーい」


 月草が、ちょっとだけ笑った。

 深緋は、それを横目で見て、自分のバッグのファスナーを半分まで閉めた。


    *


 夕食のあと、部屋の電気を少し落として、三人ともそれぞれのベッドに座っていた。

 明日は午前中に最終説明が終われば、部屋で過ごす予定だ。最後の整備と、装備の最終確認。出発は明後日の朝。


「コキア」

「ん」

「僕たちは海のそばに行く?」


 月草が首を傾げながら聞く。


「第八地区は、海の近くだよ。沿岸地区」

「海、見える?」

「どうかな? 任務中だからね」

「そっか……」


 横から鶸が茶々を入れる。


「えー! 海見れないの?」

「ヒワ、見学じゃないよ」

「わかってるってばー」


 鶸は、ごろんと転がって、毛布を顎まで引き上げて、ニヤニヤしていた。

 月草は、毛布の上に座って、両膝を抱えていた。


「……コキア」

「ん」

「ぼく、二人の迷惑にならない?」

「ならないよ」

「……ほんと?」

「ほんと。ツキの仕事は、ぼくらの隣にいることだから」

「……それだけで、いいの?」

「うん。最初はそれだけ。みんなそう」


 月草は、少し考えてから、こくりと頷いた。

 鶸が、毛布の中から声を出した。


「ツキー」

「……ん」

「ボクの隣でいいよー」

「……うん」

「ボク、迷子になるからー」

「……ヒワが?」

「うん。ツキがいないと、迷子」

「……」

「だから、ツキ、ボクの隣ね」

「……うん」


 月草は、毛布を引き寄せて、その中に潜った。声がくぐもって聞こえた。


「……うん」


 深緋は、ベッドの脇の手元灯を消した。

 部屋は暗くなったけれど、窓の外は、外の薄い灯りで少しだけ明るい。

 明後日の朝、ここを出る。

 深緋は、目を閉じた。胃の底の重さは、もうほとんど消えていた。


(了)

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。


月・木 朝7時過ぎに最新話を更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。