プロローグ:もうなくしたくない
ぼくらは一つずつ覚えていく。もう、なくさないように。
「コキア、顔見せて」
そう言われたとき、顔を見せたくなかった。
いつだって、大丈夫と言ってきたのだから。今度も大丈夫だと思ってほしかったから。
目から落ちていくものはなんなんだろう。邪魔だった。青藍が見えない。
ふっと困ったように笑う声が聞こえる。困ったなあ、という時の青藍の笑い方。よく知ってる。
行かないで、と言っても無駄なのはよく理解していた。それが施設の決まり事だから。決まり事から外れて生きていくことはできないから。
でも、目からこぼれていくものを止めることが、深緋にはできなかった。
「じゃあな」
頭をぐしゃっと撫でた手は、最初に会った時と比べたらずいぶん大きくなっていて、ゴツゴツしていた。青藍は勝手に、先に大きくなっていた。同じ背丈だったのに。同じ、班だったのに。
腹が立ってムカムカした。そして何より寂しかった。
*
朝の部屋は空気が冷たい。
泣いた後の肩の傷だけが熱い。
そう言えば、あの時もそうだったっけ。だからもうやめようと思ってたはずなのに、と思い出す。
きちんと閉めたはずの思い出が、いくつも混ざって出てきて、もう一度止まったはずの涙が出てきた。
やっぱり寂しい。ひとりぼっちは、好きじゃない。
こういう気持ちが自分の中にあるなんて知らなかった。
もう、なくしたくない。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。
毎日お昼12時過ぎに最新話を更新しています。




