第21話:手元灯の光(上)
夕方に青藍が、洗濯物を出しに行くと言った。
「ランドリー、出してくる」
「うん」
「コキアの分はこれだな?」
「うん」
「ヒワの分も出しておく」
「うん」
青藍はランドリー袋を抱えて、部屋を出ていった。ドアが閉まる。
部屋の中は、鶸の寝息だけになった。
深緋は、しばらく天井を見ていたが、起き上がった。喉が渇いていた。机の上のボトルは空になっていた。織部のところまで行かないと、新しく水はもらえない。
ベッドから下りる。床がまだ少し遠かった。包帯の中の傷が引き攣った。一瞬床がぐらりと揺れて、ベッドに手をつく。深呼吸。
ドアの前で、上着の前を合わせた。それから、そっと廊下へ出た。
深緋はゆっくり歩いた。角の手前まで来て、足を止めた。
角の向こうから、声が聞こえた。
「……しましたか?」
「確認しました……はい」
織部と青藍が話す声が聞こえた。短い間があって、青藍が「失礼します」と言うのが聞こえた。それから、足音が角のもう一つ向こうへ遠ざかっていった。織部の足音はランドリー室の方向へ離れていった。
深緋は、廊下を引き返した。水はもう要らなかった。ゆっくりと部屋に戻り、自分のベッドへ横になる。もう、わかった。
しばらくして、青藍が戻ってきた。
ドアを開ける音、それから上着をかける音。いつもの順番だった。青藍は鶸のベッドの脇へ寄って、様子を確認し、それから、深緋に声をかけた。
「コキア」
「ん」
「水は?」
「いい」
「飲んでないだろ」
「あとで飲むよ」
「あれ、もうないな。もらってこようか」
「いい」
「すぐだから」
「いいって」
声が、少し強くなった。また嫌な言い方をしたと気づいたが、戻せなかった。
青藍は、それ以上は言わなかった。
深緋は毛布を握っていた指へ、力が入るのを感じた。
青藍はいつもの青藍だった。穏やかないつもの声だった。さっき廊下で「はい、確認しました」と言った声と、同じ声だった。
*
夜になっても青藍は机に向かっていた。しばらくして伸びをしながら、深緋の方を向いた青藍が立ち上がってベッドまで来てしゃがむ。
「コキア、熱上がってないか?」
「平気だよ」
「ちょっと熱っぽいな。オリベ呼んでくるよ」
「いいから」
「無理すんな」
「いいよ! もう!」
ほとんど反射だった。
言ってから自分でも一瞬遅れて、自分の声の大きさに気づいた。鶸が毛布の中で、わずかに身じろぎをした。
深緋は、ベッドから下りてふらふらとドアの方へ向かった。
「コキア?」
「……」
「どこ行く……」
深緋は黙って、ドアを開けた。廊下の照明は夜間用に落ちていて、足元のあたりだけ淡く照らされていた。体は、まだ重い。指先が冷たかった。
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