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死にゲーに転生した僕、自分だけでも助かろうとしたらボスキャラたちに好かれた………いや、何で?  作者: オク
第一章

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第九話 過去

 雪の降る日だった。空が一面の雲で覆われ寒風が吹く、なんてことのない冬の日。その中をボロイ古着を着て、裸足で貧民街を歩く。速く、速く逃げなくては。


 遥か昔、吸血鬼は最強の魔人族として君臨していた。高い身体能力、卓越した魔法、傷を負っても即座に埋まる再生能力。どれをとっても最高峰の力を有していた―――そう思っていた。


 時が経つにつれ、吸血鬼は魔人族の面汚しとまで呼ばれるようになっていた。日光、銀、流水………身近にあるものが多く、決して無視できない弱点が露呈したのだ。そして吸血鬼狩りが始まった。太陽の光が出ている中、流水を流され、銀製の矢で射抜かれ、多くの同族が殺された。吸血鬼は一瞬にして滅びの時を迎えていったのだった。


 そんな時代、とある吸血鬼の村で一人の少女が生まれた。ルナ・ヴァイア、金髪の紅い目、王族の証を持った子供だった。王と冠する相応しい力を幼少の頃から彼女は持っていた。日光の下でも少し気分が悪くなるだけ、銀を触っても蚊に刺された程度の傷、流水をその身に浴びてもどうということもない。吸血鬼の弱点が弱点となっていない、最強の吸血鬼だった。彼女の噂は瞬く間に吸血鬼の中に広がり、希望の象徴となった。


 彼女なら、この暗黒の時代を終わらせてくれるかもしれない。その話は―――人の世にも広がってしまった。


 人間達による吸血鬼狩りがより過激になった。早朝から襲撃し、吸血鬼を捕らえ、十字架に張り付けて日の光を浴びせる拷問をし、そこで得た情報をもとに他の吸血鬼の棲み処を襲う。その繰り返しが横行し、遂にルナの住む村にも魔の手が差し伸ばされた。最初は抵抗していたルナだが、まだ幼く、多勢に無勢ということもあって次第に押し返されていく。


 そして村に住む全員が、ルナを逃がす判断をした。彼女に、吸血鬼の未来を託そうと。地獄だった、誰もがルナを逃がそうと死に物狂いで人間に立ち向かっていった。


「逃げろッ!」


 あんなに明るかった近所に住むおばさんとおじさんの顔が、血で染め上げられていた。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 自分より年下の男の子が、叫び声を上げながら人間に力一杯拳を振るっていた。


「ルナ」


「生きるのよ」


 そして、優しく温かい母と父が私を逃がした後、雄たけびを上げて人間と戦っていた。最後に、二人の喚声が聞こえた気がしたのは気のせいではないだろう。そこから先のことは良く覚えていない。追手から逃げることに必死で、朝も夜も関係なく走り逃げ続ける。そうしてとある街に逃げ込んだ。


(寒い………目が見えない)


 しんしんと降る雪が肌に当たる、寒さなんて普段は感じないのに極限にまで追い詰められた影響か。寒波が襲い、身も心も凍らせる。段々と目が見えなくなり、体が重くなる。倒れこみそうになるのを気力で耐える。ここで足を止めてしまったら、犠牲になってしまった皆に申し訳が立たない。何としてでも生き延びなければならない、その思いだけで足を動かし続けていると―――。


「おい、いたぞッ!」


 背後から死神の声が聞こえた。急いで走ろうとしたが、一歩踏み出したところで膝が限界を迎えた。足がもつれ転んでしまい、硬い地面に倒れて傷を負う。常ならば一瞬で回復するはずなのに直りが遅いのを感じる。その隙に三人の人間に囲まれた。武器を持った男が剣の切っ先を向けてきた。


「手こずらせやがって………お前達の性で何人死んだと思ってるんだ」


「………先に、仕掛けたのは………そっち」


「あぁッ!?」


 怒り声を上げて蹴る。頭をお腹を腕を足を全身を蹴られる。抵抗する気も起きずにされるがままで、怒りが収まるのを待つ。


「その辺にしておけ、さっさと殺すぞ」


「………ッチ」


 リーダーのような男が止めて、銀製の槍を片手に私に狙いを定める。


(………あぁ、ここまでみたい)


 後悔はある、いや後悔しかない。生まれてからずっと悔やんできた。母に父に村の皆に結局最後まで何にもしてあげられなかった。せめて皆の分まで生きようと思ったが、無理だった。死を直前にして、ふと二年前に母に言われた言葉を思い出した。


「いつか私達のことを認めてくれる人が来てくれるわよ」


 そんな言葉だった気がする。馬鹿馬鹿しい、吸血鬼を認める人間なんているわけがない。現に今も人間が私達を殺したのだ。夢物語、絵空事でしかないのだから。そんな達観した思いで死に身を委ねようとした。


「あー、ちょっといいかい?」


「あぁ?」


 その時、どこからか声が聞こえてきた。聞いたこともない、知らない声だ。取り囲んでいる男の反応から見ても、どうやら知り合いではないようだ。ぼやけた視界の中、首だけを動かして声が聞こえてきた方向に目を向ける。二人の男と一人の女、防寒着を着た三人組が向かってきた。


「んだテメェ等、こっちは今いい所なんだ、邪魔すんじゃねぇ」


「君達に用はないよ、僕が用があるのは彼女だ」


 突っかかって来た男を無視し、私の目を見つめる青年。その目には吸血鬼に対する恐れや殺意、憎しみなどが一切込められていなかった。あるのは、好意のような、愛しむような、安堵したような目だった………そんな目で人間に見られたのは初めてだ。


「コイツは俺達が目を付けた獲物だ、そう易々と渡すわけには―――」


 男が話している途中、何かが風を切った。その瞬間男が吹き飛ばされていた。壁に叩きつけられ、血反吐を吐いて気絶していた。何が起きたのか分からず唖然としている男達に、獣人の男が舌打ち混じりに声を上げる。


「うるせぇ、クソったれ共。テメェ等の話なんざどうでもいい」


 槍を構えながら佇む獣人の姿に、吸血鬼狩り達が一歩後ろに下がるが、負けじと今まで黙っていた男が震えた声を上げる。


「な、何だよお前ッ!こんなことしていいと思っているのかッ!俺達の後ろには貴族のバックが―――」


「関係ねぇ」


「はっ?」


「貴族?犯罪組織?国?何が相手でも関係ねぇ、俺達は………ボスの望みを叶えるだけだ」


 心底どうでも良さそうに鋭い声で唾を吐き出すように、それでいてどこか誇らしげに話す獣人は最後に言った。


「【帝王】にそんなんで逃げ出すような軟弱者は、一人もいねぇんだよッ!」


「て、【帝王】ッ!?お前等まさか………」


「………退くぞ」


「リーダーッ!?」


「【帝王】相手では勝ち目はない、退くべきだ」


 何が起こっているのか。獣人が言い放った【帝王】という言葉に、男達が青ざめて気絶した男を担いで逃げるようにその場を去っていく。


「ボス、これでよかったよな?」


「あーうん………できれば穏便にしたかったけど」


 獣人が後ろを振り返りボスと呼ばれた青年に問いかけると、青年は小さく頷きながらブツブツと小声で話しながら女を引き連れてコチラに向かってくる。


「ソフィア、彼女を治してあげてくれ」


「いいんですかー?彼女、吸血鬼みたいですがー?」


「構わない、頼む」


「………分かりましたー」


 間延びした声で手を私にかざすと、温かい光に包まれた。心地良い光に身を委ねていると、傷がたちまち治り、重りが巻き付かれたような倦怠感が消えていた。神の御業だ、こんな一瞬で傷を塞ぐなど。


「終わりましたー。ご期待に添えましたか?」


「あぁ。ありがとう、ソフィア」


 圧倒的力を持った獣人、聖女と呼ぶのに相応しい回復術師ヒーラー。そんな二人が一片の陰りもなく、一人の青年に忠誠に近い眼差しを向けていた。この青年は一体―――。


「大丈夫かい?」


「………うん」


 遠慮がちに頷くと「そっか、良かった」と笑いかけてくる………初めてだ、人間に助けられたのも、微笑まれてことも。何なんだろう、この不思議な青年は。


「僕はオーマ。オーマ・グライアンド。君は?」


「………ルナ・ヴァイア」


 それが私とオーマの初めての出会いだった。

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