第七話 廃墟
「………眩しい」
大通りを歩く中、ルナが気分が悪そうに呟く。先頭を歩く僕は、後ろを振り返ってルナの体調を気にしながら進む。街は現在お祭り騒ぎ。人ごみで歩道が埋まっている中、見失わない様にする意味もある。
王侯貴族が住まう北の街には人が少ないとはいえ、まったくいないという訳ではない。いきなりの外出がこんなにも騒がしく人が多いと、精神的にも病むかもしれない。最も、真の原因はそれだけではないだろうが。
「日が沈んできたとはいえ、やっぱり苦手かい?」
「………気分は良くない、やっぱり太陽、死すべし」
「駄目だよ、太陽が消えたら僕等生きていけないんだから………」
昔見たネット記事には、太陽の寿命が減ると明るさを増していくとか書いてあったが、今の時点でこれならルナ達吸血鬼はしんどくなる一方かもしれない。だが、太陽が消えた時点で地球上の生命は死滅する………けど、吸血鬼ならワンチャンあるのかな?
「と、目的地に着いたよ」
「………遠かった、もう帰る」
「ここまで来たら依頼を達成した方が今後楽だと思うよ?」
既に疲れたアピールするルナを慰める。やめてくれ、僕一人でこの廃墟、『月光の邸』を攻略できるわけないだろう?ルナ頼みなんだからホント、お荷物の護衛お願いします。
しぶしぶといった感じで付いて来るルナと共に、いかにもお化け屋敷じみた雰囲気を醸し出す廃墟の庭へと進む。周囲はすっかり暗くなっていた。こんな怪しい場所に近づき人も少なく、お祭りの中なのに周辺は静穏が支配していた。まるでここだけ別の世界に転移したみたいだ。
「………鍵、かかってない?」
「みたいだね」
訝しげに警戒しているルナと対照に、僕はのんびりとした態度で廃墟に入る。鍵がかかっていないのは知ってるし、ここになにが出てくるのかは大方予想ついてる。予想通りの相手ならルナ一人で余裕だろう。そもそも僕が戦闘で役立つはずがないので、完全にルナに全てを押し付ける気満々だ………使えなくてゴメンナサイ。
自責の念に駆られながらも廃墟の中に入る。照明がなく窓も木の板で塞がっている暗闇の世界。如何にも何か出てきそうな雰囲気に飲み込まれそうになる。
「こうも暗いと昔のトラウマを思い出すよ」
「とらうまって?」
「幼少期、お化けとかの霊的なものが無理でね………毎夜が怖くて仕方がなかったのさ」
というか、今でも苦手だ。心霊系を信じやすい性格で想像力も豊かだったので、お化けが自分を襲う妄想なんかしてしまって夜がいつも恐ろしかった。その度母に泣きついていたなー………などと考えていると、ルナが手を差し伸ばして来た。
「どうしたんだい?」
「………怖いなら、手つなぐ」
「いや、流石にちょっと………」
いくら何でも自分より年下の女の子に慰められるほど落ちぶれたくはない。プライドなんてないに等しいが、それくらいの矜持は持っていたい。ルナの心遣いをやんわりと断ると、ふくれっ面で「ふんっ!」と先を進んでしまう。慌てて追いかけてルナと探索を続ける。
「………………」
「ルナ?」
「………前に住んでいた所に似てる」
廃墟の中を進むこと数分くらい。ことあるごとに立ち止まるルナに声をかけると、ルナは陰りのある表情で吐露する。うん、知ってるよ………この場所のことは良く知ってる。だから、僕は迷いなく敵がいる所に向かって、いや、君を案内しているんだ。
「………この感じ、吸血鬼」
ルナのその一言に呼応するかのように、廃墟が突如騒がしくなる。呻き声と翼の羽ばたく音が、徐々に近くなっているのかが分かる。僕はここに入ってから常に使用し続けている、お守代わりにいつも持ち歩いてるアイテムの内の一つ、『黒猫の夜目』で向かってくる存在を視認する。
「ゴーストにバット、か」
一見普通の雑魚敵に見えるが、実際はそんなことない。ゲームだとゴーストは物理攻撃無効に加えて近づいて来るまで見えないので確定でダメージを加わざるを得ない、バッドは騒音で一時的に音の遮断をするので背後から来る敵の足音などをかき消す。
ゲーム音が消えた状態で進んでいたら、丁度効果が消えたタイミングで背後から叫び声を上げられて脳天をかち割られたのは良い思い出………悪い思い出だわ、ふざけんな死ね。正直な話一対一なら兎も角、こうも大量だと無理というか死ぬので、速攻逃げ出さないといけないのだが………。
「………私がやる」
生憎とこっちには反則がいる。ルナが一歩前に出て手をかざすと、紅い閃光がゴーストとバットを一瞬で五体貫いた。驚いている敵に追い打ちをかけるように、手を捻ると紅い閃光―――血の斬撃が嵐のようにゴーストとバッドを切り裂いた。
「………強すぎ」
戦闘時間僅か十秒で五十体近い魔獣を倒しつくしてしまった、余りにも一方的な戦いに乾いた笑みが零れた。全くこれだからボスキャラっていうのは………なんだかアレだけ苦労したのにこうも簡単に進まれると腹立つ。そんなことを考えていると、背後から何かに口を塞がれた。
「んッ!?」
「ッオーマ!?」
正確には口だけじゃない、全身を黒い靄のようなものに抑えられてしまった。抵抗しようとしてもビクともしない。慌てた様子のルナが僕の下に駆け寄ろうとしたが、三体の影がルナを包囲した。その光景を目に焼き付けたまま、僕は深淵に取り込まれた。
「待って………行かないで」
「一人にしないで………」
最後に、今にも泣きそうなルナの声が聞こえてきた。その言葉を聞きながら僕は悟った。
(やらかした)
暗い闇に、意識が、飲み込まれていく。




