第五話 引きこもり
思わず足を止め見上げる。見慣れたはずなのに、いつ見てもここが僕の家なのかと思わされる。白亜の城。大通りにあってはならないような巨大な城、それが【帝王】のクランハウス、【王城】だ。異世界なので当たり前なのだが、西洋モチーフの城で現代人から見たら古臭さを感じるかもしれない。
………なのに、監視カメラがあるのはなに?機関銃が備わっているのはなに?なんで扉が自動ドアなの?まぁ、原因はわかっているんだけど。
【秀才】ドルラス・ラドンク、【才女】リン・ジェスティ。ウチのクランに所属する天才コンビが、僕の持ってきた現代知識を基に作ってしまった………僕、こういうのがあるんだよーって言っただけなのに、どうしてつくれるのだろうか?あの二人のせいで、この王国には現代の物が多数普及している。現代人からしたら助かるんだけどね?ただなんかこう………あんまファンタジー感なくなってテンション下がるって言うか。後、例に漏れずこの二人もボスキャラです。
「えーっと………最上階まで行かないとか」
お目当てを連れ出すために、五階にまでエレベーターを使って………うん。城にエレベーターとかミスマッチにも程があるけど、便利だからしょうがない。それに僕貧弱だし、体力とかないし。冒険者やってれば、僕もボスキャラ達みたく化け物レベルになれるかなーって思ってたけど、対して伸びなかった。というより、皆についていくのを諦めた。
人間は、高すぎる壁を見ると諦めてしまうという。宇宙の彼方にある星を掴もうと、子供が夢見たものを、大人になって現実を知るにつれ、諦めるかのように。名前すらゲームに登場しないモブになった僕は、まさにその大人だ。強すぎる皆と肩を並べて戦う事なんて、とっくの昔に諦めたのだ。そんな雑魚で精神も弱い僕のことを、どうしてまだクランマスターとして扱ってくれるのか、甚だ不思議だ。
そんなことを考えていると、最上階までついた。通路の一番奥、敢えて太陽の光が入りにくい構造にされた部屋、その扉をノックする………が、中に居るであろう人物からの反応はやはりなし。予想通りの展開ではあるけど、一応は礼儀を通さなくては不誠実だからね。
「入るよ」
中にも聞こえるように伝え、黄金の装飾が施された取っ手を掴み、両扉を開ける。部屋の中は暗く、一寸先は闇という言葉を文字通り体現していた。壁に付けられた電気のスイッチを探して………アレ、何処だっけ、ここらへんだった筈………あっ、あった。ピカッと部屋の中が眩しく照らされ、思わず目を細める。
部屋の中は、とても一個人が使うには広く、寝室ではなくリビングかと思わされるが、ここはとある者の部屋だ。その証拠に、部屋の奥にキングベッドで寝ている少女がいた………クイーンベッドじゃないんかい。傍に近づき、肩に金髪が乗った肩を優しく揺する。
「ルナ、起きて」
名前を呼び、肩を揺らし続ける。反応がこれっぽちもなく、死んでいるかのように感じるが、コレが彼女のデフォルトだ。だから一切気にせずに揺らしていると、彼女の体が震えだす。この動きを見せたら起きる合図だ。そっと手を離し、ベットの近くにある椅子に座ると、ムクリと上体を起こし、寝ぼけ眼を擦りながら、深紅の瞳を開ける。
「………何?」
ずっと眠っていたせいか、地声よりも低く不機嫌な声色で話す。暫く会っていなかったからか、久しぶりに声を聴いた。
「おはよう、ルナ」
「………おやすみ」
「いや、寝るなよ!」
なるべく明るく挨拶をすると、彼女は僕の顔をじっと見つめてベットの中にモゾモゾと戻っていってしまったので、思わずツッコんでしまった。
「………寒いギャグ、聞く暇ない」
「ギャグ?そんなつもりは………あっ、『ルナ』と『寝るなよ!』をかけたと思われてる!?そんなつもりないからね!?」
「………うるさい」
「そっちから突っかかってきたくせに!?」
あぁーもういい!寝起きを叩き起こされるのは誰だって嫌だろうからって、優しくしようとした僕がバカだった!向こうがその気なら僕も………。
「ギルドからの依頼、一緒に受けよ」
「………眠いからパス」
毛布の中に逃げ込もうとする彼女を止めながら、一方的に話しかけることにした。それでも尚寝ようとする彼女に、絶対に受けなくてはならない事情を説明する。
「そろそろ冒険者の仕事しないと、除名されるよ?」
「別にいい」
「なら、このクランからも出ていかないといけないよ」
「………それは困る」
冒険者は、一定の期間冒険者としての仕事をしないと冒険者の職を剥奪されてしまう。そうなると、勿論クランからも追い出されてしまい、折角お金を稼いで揃えた彼女自慢の寝具の置き場もなくなってしまう。不機嫌そうに顔を顰めながら、寝癖が付いた髪を気にすることなく、ベットの上で僕の話を聞く態勢になる。
「ほら、ルナ。僕も一緒に行くから」
「………珍しい、何で?」
「いやー………昨夜僕というより、エス達がやらかしたみたいで、その責任を取らないといけなくて」
「………その時に、私を呼べばよかった」
「いるかどうかも分からなかったし、ルナの力を借りる程でもないしね。それに、犯罪組織の討伐は冒険者の仕事じゃないから」
ルナ・ヴァイア、【闇夜姫】の二つ名を持つ稀有な冒険者。何が珍しいかというと、彼女は人間族や亜人族と呼ばれる種族のどちらでもない、魔人族と呼ばれる存在だ。
魔人族は古から、災いをもたらす存在として語り継がれており、子供の頃に読む御伽噺には悪役として出ることが常で、魔人族=悪、という考えは世界共通の常識なのだ。
ルナはその魔人族の中でも、吸血鬼という非常に高い戦闘能力を持つ種族らしい。その反面弱点も多く、致命的なのは太陽の光、要は日光だ。最も、ルナは吸血鬼の中でも高位の存在なので日光を浴びてもちょっと気怠くなるくらいだが。そんな彼女が何故冒険者なんてやってるかというと………そこら辺は長くなるからまた今度で。
まぁ兎にも角にも、ルナは魔人族でありながら、僕のクラン【帝王】に所属する正義の味方(?)だ。
「………依頼内容は?」
「北の廃墟が夜になると騒がしくなるらしい、そこの調査に夜中出向く」
「………まだ、昼じゃん」
「先に話しとかないと困るだろ?それに、少しは体を動かしたほうがいい。ずっと横になっていたんだから」
いくらルナが強いからといって、万全の状態でなければ危うい場面もあるだろう。そうなる前に、食事を採り、体を動かしておいた方がいいとルナに告げる。ルナは大きく伸びをすると、着ていたパジャマに手をかけ………。
「ちょっ!?着替えするなら言って!?」
「何で?」
どこか拗ねたように言うルナの姿を見ない様に、体をルナから反対方向に向ける。
「女の子が人前で着替えちゃいけないでしょ!?」
「別にいいじゃん………家族なんだし」
ルナ・ヴァイア、彼女もボスキャラの一人で、終盤も終盤に出てくるクソ強キャラだ。彼女の闇堕ち理由は、孤独に耐えられなかった。迫害され、討伐対象にもなる魔人族はその数をもの凄い勢いで減らし、絶滅寸前に追いやられていた。ルナは幼いながら力付き、倒れてしまい、雪に打たれながら独りぼっちで誰にも抱きしめてもらえないことに絶望、邪神の手で冷酷無比な吸血鬼として主人公の前に立ち塞がる。
僕はそんな彼女を救い、独りを寂しがる彼女に対し、「今日から僕が君の家族だ」などという、歯が浮くような台詞をルナに対し言い放った。うん、キモイ。そーいうのはイケメンがやるべきであって、パッとしない僕が言うような言葉ではない。
だが、ルナはこの言葉を気に入ってしまったらしく、いつからか僕の妹を名乗るようになった。ここ最近は言わなくなったけど………安心する自分もいれば、どこか寂しいような自分もいる、キモイ。
「親しき中にも礼儀ありって言葉があってだね………まぁいいや、準備できたら出て来てね。クランマスター室で待ってるから」
その場の雰囲気になんだか耐え切れず、そそくさとルナの部屋から出ていく。
「………着替えくらい見てもいいのに」




