第四話 門番
「こ、ここまでくれば平気かな?」
フードを被ってなるべくばれないように歩くこと数分、【帝王】のクランハウス、【王の城】略して【王城】へと到達を果たした。ただ家に帰るだけなのに、ドット疲れた………肉体的な疲労ではなく、精神的な疲労が凄い。トボトボと歩いていると、見慣れた門の前に一人の老人が立っていた。
「おや、お帰りですかな?御屋形様」
「カネサダ」
和装をした紳士な爺、カネサダ・イズノカミ、二つ名は【刃葉】。極東と呼ばれる島国から来た老剣士。各地を放浪する剣豪にして、このゲームのボスキャラの一人だった。
元々とある貴族に仕えていた剣士だが、馬車での移動中に数多の魔獣に襲われ、守るべき主を守れずして一人だけ生き残ってしまった。そのことが原因で邪神に目を付けられ闇堕ち。
この世界ではそんなことさせるかと、仲間を率いて襲われている馬車に援軍として救助した。だが、助けたはずの貴族からは罵倒された。「冒険者風情がしゃしゃり出るな!」「カネサダ!何のために大金を払ったのだと思っているのだ!ここで活躍しなければ、お前のいる意味などない!!今日でクビだ!」なんて言われた。
あの時は普通にムカついたが、当初は仲間も少なく後ろ盾のようなものもなかった。貴族相手に真正面から喧嘩を向けるのはマズいので、矛を収めることにした………他の皆は殺そうとしてたけど。というか、カネサダの主は仁君と呼ばれてたってNPCとの会話で知ったのに、アレはどういう事だったのだろうか。多分『バタフライエフェクト』、歴史改変の影響なのだろうが、正直この展開は予想できていなかった。
主に捨てられ、今にも自害しそうなカネサダに何と声をかけたらいいか分からずに、困ったように隣に目を向けたら偶々そこにいた、昨夜の『レイブン』との戦いでアジトを壊滅させろと指示したはずなのに、関係ない建物まで斬りやがった女剣士、【剣姫】エス・レイドルと目が合った。
彼女は僕の目を見て何を思ったのか、「分かった」とカネサダへに向かって行った。もしかして、僕の代わりになにか良い事を話してくれるのだろうか。期待して待っていると、エスが口を開いて言い放つ。
「私と戦って」
………いや、なんでそうなる??
宇宙猫状態になっている僕に反して、カネサダとエスの戦いが勃発していた。ヤバい、動きが速すぎて見えない。なんか風がビュンビュンしてるし、金属同士がぶつかり合う音が反響してる。下手したら巻き込まれるんだけどさ、誰か僕のこと守ってくれない?
どうしたらいいのか分からずに、ボーっとして待つこと十分くらい、漸く剣と刀を鞘に納めた二人がこっちに向かって歩いて来る。びっくりするくらい付き物の落ちた顔をしているカネサダ、いったいエスとあの激しい攻防の中でなにがあったのだろうか。
「エス嬢から話は聞きました、オーマ殿。いや御屋形様」
「へっ?」
「貴方様こそ、我が生涯を懸けて仕えるに相応しい御方です」
………いや、本当になんでそうなる??
後にカネサダから聞いた話によると、戦いの最中エスが僕のことを話したらしい。曰く、「弱者を決して見捨てない真の仁君」「数多の者に救いの手を差し伸べる救世主」「剣を授けるのに相応しい王」とか。褒められてむず痒いとかより先に、エスの中での僕はどんな評価なのだろうか?その期待に答えられそうなきがしない。
弱者を見捨てないのはね、そこら辺のモブキャラ(通算五桁以上殺されたと堂々と言える)でも殺される可能性があったからなんだよ?助けとけば(僕は指示しただけ)少なくとも殺される可能性はないと踏んだからやっただけで、救いの手とかそんなんじゃないんだよ?あと最後のは本当に何?王になった覚えなんてないですやめてください、重圧に押しつぶされそう(胃ナデナデ)。
まぁそんなことがあって仲間になったんだけど、問題児しかいないウチでは珍しい常識人枠だ………戦いのことになると化け物に早変わりするけど。
「ギルドから無事に帰参されたようで何より………フェルス殿は妹と?」
「あれ、なんで知ってるの?」
「フェリス嬢がフェルス殿を探していたので、教えたのですよ」
フェリスが言っていたクランの人はカネサダだったか、若干そんな気はしてたけど。フェリスが話せる相手なんて限られてるし、優男風なカネサダとは話しやすいしね。
「悪いね、仕事の邪魔になっただでしょ」
「あれくらい元気な方が子供には合っています。サダ爺と慕われるのも嬉しい限りですし」
「………そっか」
フェルス以外の家族がいない反動か、カネサダのことを本当の祖父のように接してるが、本人も乗り気なようで良かった。
「というか、今日祭りだよ?遊びに行かなくていいの?」
「老いぼれには少し荷が重いですわい、それに儂にはここを守るという使命がありますので」
カネサダはウチの幹部なのに、門番という言ってしまえば悪いが、下っ端がこなすような仕事を自ら志願している。門の前に仁王立ちし、刀を地面に突き刺す姿には圧を覚える。
「御屋形様や仲間の下に、下賤な輩を通すわけにはいきませんから」
「祭りの期間くらいいいのに………」
「だからこそですよ、この期間を狙ってくる卑怯者を徹底的に斬り伏せることが重要なので」
「あっ、うん」
殺意と思想が高すぎる、怖いよ。まともだと思ったのは勘違いだったかもしれない………。
「御屋形様こそ、お祭りを楽しまれては?」
「いやー、ギルドから面倒な依頼押し付けられて………これが終わらない限り無理かな」
「良ければ儂がしましょうか?」
フェルスといいカネサダといい、皆僕に甘いよ。いや本音を言えば直ぐにでも押し付け………任せたいけど。
「気持ちはありがたいけど、コレは僕案件だから」
「………成程、ならば仕方がないですな。手が足りなければいつでもお呼びください」
「ありがとう、助かるよ」
門を開けてもらい、中に入って目的地もとい目的の人の拐取に出向く。心苦しいことこのうえないが、こっちにも話せない事情が………未来(ゲームの展開)知ってるとかいえないから。何言ってんだコイツ、みたいな反応されるかもしれないし、そのせいで『バタフライエフェクト』が、原作改変が今以上に起こっても嫌だし。
(あぁー………本当に嫌だ)
依頼受けたくないよー、ベットでゴロゴロしたいよー………ミスしたら、死ぬ世界とか終わってるよー。もう全部みんなに任せたいけど、原作知ってる僕じゃないと無理な所とかもあるし………しんどい。
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「僕案件ですか」
敬愛する主を見送り、一人ポツリと呟く。【帝王】のクランマスター、【英傑】と名高き御仁は秘密が多い方でもあった。どこから仕入れたのか分からない情報を持ってきて、惨禍を未然に防ぐ、まるで未来でも見えているかのような動き。誰もが称賛する功績を上げながら、謙遜するどころか申し訳なさそうに立ち振る舞う、おかしな人でもある。
そんな彼は、基本的に動こうとしない。なるべく部屋に引きこもり、死んだように机の上で突っ伏していることばっかりだ。だからこそ、彼が動く時は大きな陰謀があるということ。「僕にしかできない」「僕案件」というのは、そういうことだ。
それゆえに、【帝王】のクランメンバーも他のクランも、王国さえ、彼の一挙一動には注目する。だから、変に介入してはならない。緻密な計算の上で行われる策を、自分達の独断で崩してはならないのだ。まぁ彼のことだから、自分達が動くことも織り込み済みでありそうだが。
「とは言え、ついて来るなと言われれば聞くほかありますまい」
もし、無いと断言できるが、彼がミスしてしまった時は自分達が全力でその後始末をする。その為の準備くらいはしておくべきか。救われたこの身、この命、彼の為に使う事に躊躇いがあるものなど、このクランには誰一人としていないのだから。




