第三話 兄妹
「ハァ………」
この世界に来てから溜息しか出ない。死にゲー『Salvation of God』、想像を絶するほどの超高難易度のゲームに何故か僕は転生?されていた。
全クリしたから余裕じゃんなんて思われるかもしれないが、そんなことない。だって死にゲーだよ?無理じゃん、死ぬじゃん。しかもさ、この世界に来たのは本編開始の七年前、もう一度言おう七年前だ。七年前に起きる出来事とか知らねぇよボケ、ふざけんな。
それでも、死にたくないから頑張ったのよ。ゲーム内にあった過去話とか覚えてたからさ、この時間帯にこれが起きるなーって、この襲撃事件潰さないと死ぬなーって必死に記憶を辿って思い出してたのよ。エライね、僕。そのおかげもあって、ボスキャラが闇堕ちする前に救えたし、恩を売って仲間になってくれた。そこまではよかったのよ、ただねクランを作るのは予想外。
主人公の職業でもある冒険者は、魔獣討伐、採取、ダンジョン攻略、冒険者を管理する冒険者ギルドからの依頼を受ける、とかが主な仕事内容のこの世界の中心ともいえる職業。
そして冒険者はクランという、冒険者ギルドとは違った、冒険者同士の組合を条件はあるけど作ることができるのだが、どういうことか気づいたら俺がクランを作るという話になっていた。おまけに俺がクランの長、クランマスターになるということに。そんな気なんてこれっぽちもなかったのだが、流されるがまま、【皇帝の王】とかいう意味が分からない名前のクランマスターになっていた。
誰か助けてください、重圧が大きくてしんどいです。今まで原作知識でズルしたり、仲間になったボスキャラに頼ってゴリ押ししてただけです。俺に戦闘能力なんて微塵もありません、精々中の下くらいの力しかないです。だからやめてください、僕に期待しないでください。それに唯一の取柄だった原作知識も、最近意味がなくなってきました。
このゲームにも度々出てくる言葉、『バタフライエフェクト』。ほんの小さな出来事でも未来に大きな影響を与えるというもので、主人公の取った行動一つで先の展開が大きく変わっていくというものだ。その時は「人生そんなもんだろ」って対して重要視してなかったけど、今はめっちゃ実感してます。
僕、『オーマ・グライアンド』という人物が物語に関わったせいで、本来の原作内容と違った部分が出てきている。例えば、ボスキャラの闇堕ちが早まったり、犯罪組織のアジトの位置が少し違ったりと、小さな差異だが僕からしたら致命的で………。
だけど、どうにかボスキャラの皆が上手いことやってくれるお陰で助かってます。そのせいで僕への期待とか責任が増してくるけど、胃が痛くてしょうがないけど!死なないためだから!しょうがないよね!?
「ボス、本当に平気か?今日は気分が良くなさそうだが………その依頼書の内容が原因か。任せろ、俺がぶっ殺してやる」
「物騒なこと言わなくていいよ………後、その殺気出すのも止めていいから」
冒険者ギルドの本部、そこにあるロビーに出た瞬間ガラの悪そうなのが僕の姿を見て舐めた視線を送ってきていたが、フェルスが即座に気づき、公で出してはいけないオーラを解き放ってる。止めたげて、あの人達死にそうな顔してるから。
「ボスが言うならいいが………」
フェルス・モバルト。
中盤の後半辺りに出てくるボスキャラの一人。原作設定では、口や態度が乱暴な狼の獣人だが、闇堕ちを回避したことで面倒見のいい(僕と数名限定)の兄貴分になっている。因みに彼が闇堕ちちしたのは―――。
「あっ!お兄ちゃーん!オーマお兄ちゃーん!!」
「フェリス!?」
あっ、来た来た。兄とお揃いの灰色の髪の獣人、フェリス・モバルト。言うまでもないがフェルスの妹だ。
フェルスが闇堕ちしたのは、フェリスが原因だ。親に捨てられ、貧民街で生きていたフェルスは妹のフェリスを守る為、ありとあらゆる手段に手を出してお金を稼いでいた。そんなことをしていたら、犯罪組織『餓狼』に目を付けられた。フェルスが
盗みをした相手がたまたま『餓狼』の人間だったのだ。二桁も生きていない子供に出し抜かれたとなっては組織に泥を塗られたも当然。フェルスを散々に痛めつけ、彼が持っていたなけなしの金品を盗むなどと報復を繰り返して来た。
そんな中、日に日に増える兄の傷に耐えられず、フェリスは単身『餓狼』のアジトに話をしに行く。自分はどうなってもいいから、兄をこれ以上痛めつけないでほしいと。『餓狼』はその申し出を受け入れるが、攫われたフェリスを助ける為、フェルスが『餓狼』にカチコミをする。恐るべき執念と戦闘力で構成員を打ち倒すが、あと一歩のところで力尽きる。
牢獄に囚われたフェルスの前で、『餓狼』のボスはフェリスを拷問にかけ、無残に殺す。泣き叫ぶ妹を助けれず、自身の無力さに絶望したところを邪神に狙われ闇堕ち。倍増された戦闘力を持って『餓狼』を壊滅、それ以降は邪神の手先として主人公の前に立ち塞がり死亡する。
だが、そうなることを知っていた僕は、事前に仲間にしていた他のボスキャラ達と共にアジトに侵入。フェリスが殺される前に『餓狼』を倒し、その恩に報いる為フェルスは僕の仲間になった。
「なんでここに………」
「クランの人に聞いたらここにいるって聞いて!」
戸惑いながらも妹を抱きとめる。本来軸なら死んでいたのに、この二人の絡みがこうして見られるなんて………普通に嬉しい、モバルト兄妹てぇてぇ。フェリスちゃんの尻尾ブンブン動いてる、テンション上がってるなー。普段冒険者の仕事であんまり会えないし、その反動もあるか。
「お兄ちゃん、オーマお兄ちゃん!今日はお祭りだよっ!?遊ぼっ」
「………そうしてやりたいのは山々だが」
困ったように眉を下げるフェルス、最速の冒険者【灰狼】も妹には弱いか。あっ、この【灰狼】っていうのは二つ名ね。
二つ名は大きな功績を残した冒険者に送られる通り名、ある種のアイドルみたいなもんだ。フェルスはその特徴的な灰色の髪から【灰狼】と冒険者ギルドに名付けられた。フェルスに関わらずウチのクラン幹部は全員二つ名を持っている………非常に度し難いけど僕にもね。どこか悩んだ顔で、僕とフェリスの顔を交互に見ているフェルスになるべく明るく話す。
「行ってきなよ、フェルス」
「ボスッ!?」
「たまには兄妹水入らず、楽しんでいいと思うよ。家族は大切にしなくちゃ」
フェルスが冒険者になった理由は、僕への恩返しと話していたが、実際には少し違うことを知っている。本当は妹を守る力を手に入れること。『餓狼』との戦いで己の無力さを知ったフェルスは、力への渇望が強い。まぁ【帝王】全員に言えることだけど………。
とはいえ、強くなることばっかり考え、肝心の妹と疎遠になってしまっては本末転倒だ。息抜きも含めて遊ばせた方がいい。僕の言葉の真意が伝わったのか、戸惑っていたフェルスはフェリスと向き合い、彼女の手を取る。
「………分かった、遊ぼうフェリス」
「ホントっ!?わーい」
可愛い。フェリスもいい意味で変わった。『餓狼』から救った当初の彼女は、引っ込み事案で感情を表に出すのが苦手そうだったが、今では歳に見合った女の子になった。本来死ぬべきだった彼女が今も生きている、それだけでこの救った価値があると思わされる。
「オーマお兄ちゃんも、一緒に!」
「ごめんよ、僕はまだお仕事があって直ぐには遊べないんだ」
「えぇーっ!なんでー」
「祭りの最後辺りには遊べるから、それでね」
「フェリス、我儘言うな。ボスは多忙の中お前との時間を作ろうとしてくれてるんだ」
「………はーいっ、約束だよオーマお兄ちゃん?」
「うん、約束」
お兄ちゃん呼びで助かる人が、ここにはいます。前世?では妹とかいなかったから、新鮮だ。嬉しそうに笑う彼女に笑みを返して、フェルスに後を託す。
「じゃあ、僕はこれで」
「………ボス、なんかあったら呼んでくれ!直ぐに駆けつける」
「冒険者最速の君なら本当に直ぐに来そうだね、分かった。困ったことがあったら頼むよ」
二人に別れを告げ、僕の家兼クランハウス、【王の城】へと向かう………あっ。ここからクランハウスまで一人で行くの?ただでさえ犯罪者潰し回っているから、頻繁に襲われたりする僕が?背後を振り返って、フェルスの姿を探すが時すでに遅し。フェルスの影さえもなく、僕は単独で帰る事を余儀なくされた。命の危機を感じ思わず心の中で叫ぶ。
(フェルースっ!助けてーっ!?)
最強クランと言われてる、【帝王】のクランマスターの姿か、コレ?




